誰かの人生観
※この作品はフィクション。イイネ?
人生観とは、人それぞれの人生の見方・人生への理解・人生に抱く観念である。生きている間、時代・家庭・環境など様々なものから影響を受けて各々が形成していくものだ。正直言ってまだ自身も形成の途中でありまだまだ未熟な人生観であるが、それでも自身らしく生きるために、自身らしい物語を紡ぐために形成してきたそれだ。だが―――
……。
今、打ちのめされていた。自身の人生観がまるで間違っているのではないか、そっちの方が正しいのではないかと思える人生観を叩きつけられた。
『物語は、人と出会わなければ始まらない』……?
自身らしく生きたいと思っていた。その言葉に自身の弱点を突かれたような気がした。その言葉には説得力が、少なくとも自身が納得してしまう力があった。
人と、出会う事……。
あまり人と話すのは得意ではない。だからこそ、人に会うのは億劫で、それ故友達はかなり少ない。
だが……。
人と話すことが苦手なのは理由がある。
嫌われたくない……。
『嫌われたくない』のだ。そう考えるに至ったエピソードがあったわけではないが、いつの間にか自身の中に根付いてしまった恐怖心の一つだった。
人と会う・話すというのは人に嫌われるリスクを高めてしまう。自身はできるだけそのリスクを回避したかった。それが自身の人生観だと、それが自身の物語だと思い続けてきたのだ。
間違っている……?違う、違うと言いたい。でも、それは……。
真実味を帯びている言葉なのだ。あらゆる小説・漫画はどれもこれも人との出会いで物語が始まる。物語が動き出す。自身を打ちのめすその言葉が出てきたアニメは、まさにそれを象徴するような作品の一つだった。
…………。
深い深い思考の海に溺れ、もはや思考が言葉にすらならない。
不意に携帯電話の着信音が鳴った。連絡主は……。
《おう、盟友。元気にしているだろうか》
腐れ縁と自身は思っている友人だった。
「元気じゃない……」
《なんだ、元気じゃないのか。じゃあまた後で連絡しよう》
……。
久々に連絡を寄越したと思ったが相変わらずだ。自身の知人には癖の強い人しかいないことを改めて思い知らされる。
《冗談だ冗談。そう殺意を向けるんじゃない》
「向けてない」
半分くらいは向けていた。
《君が元気な時は珍しいが、元気じゃない時はもっと珍しいな。何があったんだ?》
言い得て妙だが当たっている気がする。自身はあまりテンションを上げて騒いだりはしない。かといって何もするほどやる気が湧かない・滅入っていたりもそそうない。
「人と出会わないと物語が始まらない……」
《……終○語の最新話を見たのか。丁度良かった、今回はその作品を勧めようと思って連絡したんだ。○語シリーズはどれも名作だ。シリーズ全巻、は数が多すぎるとして。アニメ化している分だけでも見ることをお勧めしよう》
……。
励ましの言葉もかけず、自身の都合を先に述べるのは相変わらずだ。正直直すべきだと思うが。この友人は大体ないか面白い作品を見つけた時に連絡してくる。好む傾向が近しいため頼りにはしているが、今求めているのはそれじゃない。
《励ましてほしいなら、何で落ち込んでいるのか具体的に述べてほしいところだな》
察しはいいが、どうも一言多い気がする。あくまで腐れ縁という認識なのはここら辺が嫌味だからだ。
「自身の物語は、何も始まっていない。自身は、間違っていたのかもしれない……」
とりあえず、少しくらいは励ましの言葉が欲しいので少しだけ具体的にした。
《あのキャラのあのセリフに感化されたというわけだな、なるほど。すっぱりと言ってやろう。今のお前は間違っている》
「……ッ」
追い打ちは予想していなかった。思わぬダメージを負って泣きそうだ。
《だが、正しい》
「……どういうこと?」
まるで意味が分からない。間違っているのに正しいとはどういうことなのだろうか。
《簡単な話だ。『世の中に真実はない。あるのは解釈だけだ。』全ての考え方は正しくて間違っていて、間違っていなくて正しくない。つまり、人の考え方は人それぞれってことだ》
「あ……」
目から鱗が落ちた。その言葉は、今自身が欲しい言葉だったのだろう。
《『物語は人と出会わないと始まらない』という考えは確かに正しいが、それがすべてということではない。孤独○グルメは知っているか?》
「知ってる」
孤独○グルメ。主人公がたった一人で適当な定食屋に入って食事をし、感想を述べるというグルメ漫画の一つだ。
《あれは人と人とが出会って物語が生まれるような話ではないだろう?時々店主・店員との話があるが、メインではない。あの話は、人と人とが出会うところで物語は始まっていない。あの漫画のスタイルも間違ってはいないだろう?》
そう、確かにあれはそのタイトルに恥じることなく、人物同士の出会いなんてほとんどない。だけど話は出来上がっている。あれは人との出会いで始まる物語ではなかった。
「あの考え方は間違ってないけど、私の考え方も、間違ってない?」
《そういう事だ。くだらない悩みだったろう?そういうモノだ。昔から君はどうでもいいことで頭を抱える。いつも言っているが、考え過ぎなんだ》
「う……」
また痛いところを突かれる。自身でもどうにかした方がいいとは思っているのだが。
《だがそれがいい。それこそ君らしくて良い。そうやって色々と悩んで生きろ。それが多分、君の生き方だ》
「……」
本当に、どこか達観した知識人のような奴だ。いつも冷静だが、冷たくない。時にその言葉に暖かさを感じてしまう。
《ところで、そろそろクリスマスだ。どうせ君は予定なんて入ってないだろう。一緒に集まろうじゃないか》
また一言余計だった。予定が入っていないなんて決めつけないでほしい。入ってないけど。
《プレゼント交換会でもしようか》
「諭吉さん9枚でいい」
《強欲だな~憧れちゃうな~……》
微妙に仕返しをしておく。でないと気が晴れない。
《幼馴染と、他にも誘えそうなら誘っておくといい。さすがに俺たち二人で集まると勘違いされて、俺が殺される》
……。誰に殺されるのだろうか。
《ではな》
「またね」
そこで通話は終わった。本当に、色々と頼りになる奴だった。嫌味や一言多かったりするが、それのせいでどうも縁を切ることが出来ない。無駄に頼りになる奴だ。
人それぞれでいいんだ。
好きな作品の、好きなキャラが呟いているからと言ってそれに感化される必要も受け入れる必要もない。あれも考え方の一つで、自身のも考え方の一つ。
スッキリしていた。落ち込んでいた気持ちが嘘の様だった。
スッキリしたところでもう一つ。もう一つだけ、考え込んでおこう。
誰かはどんな人生観を持っているだろうか。