表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何処かの誰かの何か  作者: 霖霧 露
7/23

誰かのヒトリカラオケ

※この作品がフィクションだって?そんな実在のモノとは一切関係ないなんて普通じゃ考えられない!

 カラオケとは、一切周りを気にせず大声で騒ぐことが出来る場であり、主な目的は歌唱だがその他の用途に使われることも少なくない。本来ならば大人数で歌を歌って盛り上がる友好の場だろうが、決してそれだけでもなく最近では一人で使用するというのもなくはない。それ専門の店があるくらいの需要はあり、普通のカラオケ店でも料金がそれ用のものになるがなんら躊躇いなく使える。

 それでも、最初は緊張したけど。

 前述したとおり本来なら大人数で盛り上がる場だ。自身もその認識が強く、どうしても気が引けていた。しかし、そういう事は最初の一歩さえ踏み出せてしまえば後は成り行き流されるまま、躊躇いは嘘のように霧散する。

 一人様料金があるのは少し驚いたけど。

 店によってはお一人様料金というのが設定されている。店側としてはやはり大人数で使ってもらった方が儲かる。が、空き部屋を作るよりは一人での使用でも埋めてしまった方がいいのだろう。

 それにしても……。

 自身も現在ヒトリカラオケと洒落込もうとしているところなのだが、一つ問題があった。

 ヒトリカラオケでステージルームは、寂しさでストレスがマッハ……。

 自身がよくヒトリカラオケで使用するカラオケ店のステージルーム。それは8人以上は入れそうな広い部屋だった。おまけにそこで熱唱してくれと言わんばかりの小さなステージが設けられている。自身が選んだ機種がもうここの部屋しか対応してないという話だったが、さすがにこんな寂しさを覚えるのであるならば今日は止めておくべきだったと今更後悔している。

 くそぅ、くそぅ……。ボッチに対するいじめか!二人組作ってー以上に涙腺が緩みやがる……。

 今にも溢れてしまいそうな悲しみの涙をぐっとこらえる。

 これは、試練だ……。寂しさに打ち勝てという試練と、自身は受け取った……。

 覚悟を完了させる。ここに客も歌い手もワンマンなライブが開演するのだ。



「立ち上がれ気高く舞え定めを受けた戦士よ♪」

「せか~~いで~いちばんお姫さま~~♪」

「つ~ば~めよ~♪たか~いそ~らか~ら~♪」

「お~となになれない僕らの、自由の目を摘み取らないで♪」

「き~み~が~あ~よ~お~は~♪」



 熱唱した。たった一人だがステージで熱唱してやった!

 そこには何かよく分からない達成感があった。無言の詩があった。正直ほぼ自暴自棄のように無駄なパフォーマンスを加え、一人で、そう一人で夢中に歌い続けた。時間にすると約2時間半。終了時間は3時間後にしてあったからまだ30分残っているが、終了時間間際を伝えるコールの応対をしたくないので自身はたいてい20分近く早く退室してしまう。

 それに、今回は無駄に熱くなったせいか無駄に疲れた……。

 最後の一曲歌って終わりにする算段を立て、その一曲を何にするか思案する。

 これ、この曲……。

 アニメジャンル検索で流し見しているところ、その視線は一つの曲に集中した。

 なんだか、懐かしい曲だな……。

 その曲は、かつて友人たちと見ていたアニメの挿入歌である。死後の世界での話でとても面白かったのを覚えている。

 死後のとある世界、その世界には生前に多くの無念を残し、止む無く死んだ高校生たちが集う世界だった。誰もが生前の理不尽を嘆き、神がいるならそいつに仕返しをしようと人々を募る。残念ながら登場人物の誰もが神を見つけられなかったが、人々と接し心残りを晴らして成仏していく話だった。この曲はその物語のネタバレと言っていいような歌詞が連なっていた。

 よし……。



「ひ~とり~でもゆく~よ~♪し~にた~くなって~も~♪」

 歌詞に共感してしまう。自身の身の上を重ねてしまう。

 

「……」

 歌い終わって気付く。涙が頬を一筋伝っていた。

 うん、一人でも生きていくよ。友人たちと別れても、まだ声が聞こえるから。

 かつての友人たちとは同じ道を歩んでいない。目指す道は全員違った。だが、全員が励まし合って、別れを言い合ったのを覚えている。

 今生の別れじゃないのに、大げさな奴もいたっけ。

 今でもその声を思い出して、少し笑ってしまう。

 さて、頑張って生きていこう。

 ヒトリカラオケだったが、なんだか一人で歌った気がしなかった。自身は来店時の寂しさを晴らし、清々しい気持ちをもって店を後にする。

 あ、と。そうだ、ひとつ考え忘れてた。



 誰かにはそういう、自分を支えてくれる声が聞こえているだろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ