始まりの何か
※この作品はおそらくフィクションだと思われます。実在のものとは一切関係ない気がします。
朝とは酷く単純明快複雑怪奇に、拒むも拒まざるも問わず、誰でも平等に迎えるモノである。
カーテンから顔面に突き刺さるような日光が憎たらしい。太陽が起きろと囁いている、そんな意思は太陽にはないだろうが。
空気は冷たく、空気に触れる顔で感じる温度と布団に包まった身体が感じる温度には違いがある。
季節は冬だっただろうか。それとも今日がたまたま寒い日というだけか。
布団は自身の体温で暖められているために凄く暖かい。現状、布団は楽園。もしくは誰もが抜け出すことが困難と言われる迷宮となっている。
自身の体温で暖められている布団を恋しく感じていると考えると、なんというか自分で自分を抱きしめている様なものではないのかと考えることが出来る、気がする。そう考えるとまるで自身がナルシストの様で気持ちが悪い。これが美少女の体温によるものだったらまさに楽園だったろう。とりあえず、今の状況は自身で自身を暖める、自身を抱きしめているナルシスト行為だ。大いに気持ち悪い。
自身への嫌悪を力に布団からの脱出を試みる。上体を勢いよく起こすことによって布団を引きはがすことに成功する。身体にも冷たい空気が触れ、覚醒を促してくる。
布団に帰りたい。
このままではまた迷宮に囚われてしまうということを直感し、寝ていたベッドから腰を上げて布団と決別する。
人類は楽園から追放されたのだ。もう楽園には帰れない。あの時間は帰ってこない。今は現実を受け入れる時なんだ。
厳しい戒律を守るように自身を律する。また楽園に帰れる時があることを切に信じて……。
さて、何のために起きたのだったか。
学校へ行くためか、それとも仕事に行くためか。とりあえず大学に行くためと仮定しよう。朝起きる理由は人それぞれだ。私の理由はそれかもしれないが、他の人が同じ理由とは限らない。
さっさと服を着るか。ギャグマンガじゃないんだからパジャマで登校するわけにはいかない。
ファッション度外視の落ち着いた色合いの服に身を包む。ファッションなんて極めたところで元の素材が良くなければ意味がないと考えた故の選択である。後ファッションに走るとお金がかかる。服なんてしま○らで買えばいいのだ。
・・・・・・。
相変わらず毒にも薬にもならない風貌である。これでは漫画のモブキャラ、よくて事件の被害者だろう。鏡を見たついでに(本来の動機だが)寝癖で酷く乱れたセミとショートの境目を縫う髪を手串で少し整え、まだ少し乱れているがナチュラルヘアーと銘打つことにする。
鏡を見る用事は済んだので台所に向かう。独り暮らしの小さな台所は料理する人間にとって不便極まりない調整となっているが、料理をしない側の自身にとって何ら問題ない。
飯にするか、歯を磨くか。
人によって、朝食をとる前に歯を磨く。口の中の雑菌を取り除く意味は理解しているが自身にそんな習慣はない。でもうがいはする。雑菌怖い。
朝食の準備に取り掛かる。台所の棚からコーンフレークの箱を取り出す。
寒い朝に冷たい牛乳で食するコーンフレークを食べるのか?と疑問に思ったそこのあなた。コーンフレークはなんとさらに適量盛り付け、牛乳をかけるだけで食べられるという、手間をかけず、時間を取らず、必要な栄養を摂取できるという最高の食品なのだ。寒かろうが自身には関係ない。早い・うまい・簡単というのは独り暮らしの強い味方なのだ。
手早く朝食をすませる。冷たい朝食だったためか、全然温まらない。
寒い。なんて寒い朝食なんだ。こんなんじゃ、実家の飯が恋しくなっちまうよ……。
何のために独り暮らしを始めたのか完全に忘れてしまうような朝食を完食し、食器を台所で洗う。独り暮らしというと洗っていない食器が台所に積み上げられている絵を想像してしまうが残念ながら自身は食器をすぐに洗う派である。何故なら食器が最低限しかないため洗っておかないと次の食事の際使う皿がなくなってしまうためだ。
・・・・・・。
歯磨きと洗顔を済ませるためにまたもや鏡を見る羽目となったが、本当に愚にもつかない顔である。さっさと用を済まさねば人間を止めて鏡に映らなくなりたいという欲望が湧いてしまうだろう。そんなくだらない自身の欲望と戦い、見事勝利を収めた。
さて、学校に行こうか。何のために……?
玄関のドアノブを握りしめて、ふと、足が止まる。
勉強か、遊びか。理由は人それぞれだ。正直言って自身は何のためか分からない。分からないけど、学校に行く。線路の上を走っているような気がした。自身の意志で歩んでいるような気もした。
だが、なんとなく―――
何が起こるか分からなくて、楽しい気がする。
朝起きるのは何のためだろう。外に出るのは何のためだろう。人それぞれの理由がある。もしかしたら理由なんてないのかもしれない。
でも、考えてしまう。何故だろう、と