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をのこ戦記  作者: 逸亜明
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スマートフォン3



 拾った端末は、驚くほど低容量の電源系(バッテリー)が入れられていたとの事だ。だが、技術部が軽く中を開いて検査したところ、通信機能を含む様々な機能が内蔵されているようだった。


しかしながら、現在の技術段階(レベル)からすれば所詮稚拙な玩具だ。忙しい技術部をこれ以上に使う訳にはいかないので、電源が入るようになった時点で返却してもらった。電源系(バッテリー)は二、三日しか持たない当時の物では使い物にならないため、一年間は充電の必要が無い物に交換してある。


 夢想世界に入った俺は、教室に着くやいなや、自分の机の中を覗き込む。すると、教科書の下敷きになっていた物を見つけ、それを取り出した。


 やはり同じだ。


 高校入学時に確認してから、二ヶ月間ずっと放ったらかしでいたのは携帯電話、別名スマートフォンだ。これが、例の墓で拾った端末に非常に良く似ているのをつい先ほど思い出したのだ。


夢想世界が二十一世紀初頭の世界を模しているのは、夢想システム自体がその時代に製作されたからだ。しかもその後、戦争に突入して文化は地球上から消失したため、夢想システム内の文化に新規追加を加えられず、ずっと二十一世紀初頭のままとなっている。


つまり、あの墓の主が生きた時代と、俺達が夢の中で楽しんでいる世界はほぼ同一で、同じ機器があっても不思議は無い。

 

だが、現実世界で拾った端末と、このスマホとでは、中身に大きな違いがある。

 

このスマホは、通信以外は何も出来ないのだ。だからこそ、毎日出会い遊んでいる裕也や正人と連絡を取る必要が皆無なので、スマホは机に入れっぱなしになっていた。

 

拾った端末に組み込まれている他の機能はどのような物だろうか?

 

当然あちらが本物のスマホであり、俺たちの世界にあるこのスマホは、不必要な機能が削除されて簡略化された物なのだろう。

 

中身を分析するより触ったほうが早そうだ。現実世界に戻ってから、あの端末を操作して調べてみよう。


「あ~れぇ~? 法次もデコに興味出てきたの?」


 背後から、裕也が俺の手元を覗き込んできた。俺はスマホを机の上に置き、振り返る。


「デコ?」


「デコレーションだよ。スマホを自分好みの見た目にするんだよ」


「どうやって?」


「こうやって!」


 裕也は、自分のスマホを俺の前にかざした。


 中央にひし形のホログラムシールが貼ってあり、その両サイドには、稲妻を模したような安っぽいシールが貼ってある。なんと言うか……胸が悪くなる程の奇妙さだ。


 俺が眉をひそめてじっと見ていると、裕也は窓際を指差した。


「最近、クラスで流行ってるんだよ! 正人もやってるぜ!」


 そこでは、美樹の机を借りて熱心に工作中の正人がいた。プラスチックの宝石を、スマホに丁寧に貼り付けている。材料は美樹が提供しているようだ。


「しかし、何故そんな意味のない事を?」


 俺が、机の上の自分の携帯を軽く指でノックしながら裕也に言うと、奴は鼻を膨らましてドヤ顔をする。


「だって、全員同じなんて、個性がないぜっ! ……って、実は花音ちゃんや沙織の受け売りなんだけどなっ!」


先日から、裕也や正人が女子と何やら盛り上がっているのは知っていた。彼女とやらを作ろうと努力しているんだと特に注視していなかったが、あのような事を共同作業していたのか。


 

俺は、正人が出来上がったスマホを手に美樹とはしゃいでいる姿を横目に、自分のスマホを机の中に放り込んだ。するとその時、俺の首に細い腕が巻きついた。


「法次もデコデコしようよぉ~。デコ部に入部、ようこそぉ~」


 後ろから抱きついてきたのは花音だった。長い髪が俺の頬に触れ、良い香りがした。


「くっ……苦しいぞ花音……。お前もデコをやっているのか?」


 すると手を解いた花音は、ポケットから自分のスマホを取り出す。


「はいっ! デコ部の部長は、シンプルイズベストでござるぅ~!」


 これ見よがしに突き出されたスマホが、俺の瞳に映る。


「――――っ!」


 俺は、唾をごくりと飲み込んだ。


 桃色(ピンク)だ。ラメ入りの……桃色(ピンク)だ。桃色(ピンク)一色の携帯……


「す…好きなのか? ……桃色(ピンク)


 俺が震える声で尋ねると、花音は携帯に頬ずりする。


「もう、大好きっ!」


 花音はスマホを握り締めながら、ぴょんぴょんと嬉しそうに教室を跳ねて歩く。


偶然……なのか? 

 

花音の顔が桃の(ショルダーハート)に重なり、花音の好きな色が桃の(ショルダーハート)の右肩に塗られている。


 逆なら……この現象は理解できる。


 花音が桃色(ピンク)を好きだと知った後、肩が桃色(ピンク)の桃の(ショルダーハート)に花音が重なってしまう……と、言う事ならあるかもしれない。だが、俺は、今まで花音が桃色(ピンク)を好きだとは知らなかった。なのに、桃の(ショルダーハート)に花音を一度重ねて見てしまっているのだ。こんな確率は、もはや奇跡のレベルだ……。


「なあ法次、花音ちゃんって、今日は異様にテンション高くないか?」


「えっ? あ…ああ。そうだな……」


 裕也に指摘されて気がついたが、そう言えば今日のあいつは元気だ。今まで腕を抱かれた事は何度かあったが、後ろから思いっきり抱きつかれたのは初めてな気がする。


 裕也と俺のやりとりが聞こえた沙織は、にっこりと微笑みながら俺達に言う。


「花音さんは、本日に良い事があるかもしれないので、ずっと嬉しそうですね」


その答えに首を傾げた裕也は、俺に代わって聞く。


「良いことって何さ?」


「後で、素敵な人と、出会えるかもしれないのですよ」


「マジっ?! あっ!」


 まずい事を聞いたとでも思ったのか、裕也は自分の口を両手で塞いだ。そして、横目で俺を恐るおそる見ている。


 その裕也の気まずそうな様子をいつのもようにアンテナでキャッチした花音は、ぴょこぴょこ跳ねて戻って来た。


「あっ! 放課後の話ぃ~? そうなのぉ~! ショッピング中に、愛しのあの人と会えるかもしれないんだよ~! 今日は絶対に告白するんだ!」


「告っ……」


 花音の言葉に裕也は息を飲んだが、俺には今ひとつ理解出来ない。


花音の説明には、『何を告白するのか』が抜け落ちていると思う。自分の好きな色が桃色(ピンク)だとでも教えるのか?

 

裕也は、俺の肩に手を置き、窓の外を見ながら言う。


「法次……今夜は中隊長の秘蔵の酒を盗んで……一緒に飲もうぜ……」


「……ばれたら独房に放り込まれるぞ」


 そう告げると、裕也は、「お前の痛みよりずっとましさ……」と、遠い目をして答えた。





次話、2015/07/05 0時に追加されます。

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