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をのこ戦記  作者: 逸亜明
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後継者5



 その部屋は、二十メートル四方で、学校で言うと音楽室の二倍くらいの広さだった。そこらかしこに置いてある自動計算機(コンピューター)はもう見慣れたものだが、モニターが全て宙に浮く投射型モニターだ。その最新自動計算機(コンピューター)を操作していた約二十人の手が止まる。


 すると、部屋を見渡せる位置に置かれていた(デスク)から一人が立ち上がり、俺に向かって歩いてくる。


「久しぶりだな葉助。マスクを取って顔を見せてくれよ。ところで……六道はどうした?」


 歳は三十歳前後か。髪が長く、髭を無造作に生やして、一見してものぐさな研究者風の男だ。だが、前髪に隠れた目は鋭く、殺気を帯びている。間違いなくこいつもGM人間だ。もしかすると、Gym Smith の元で働く人間は全てGM人間なのかもしれない。


「死んだそいつにも言ったが、俺は記憶をなくしている。あんたは誰だ?」


「記憶が無い? ちっ……それでか……」


 男は、そばに浮かんでいたモニターに片手を当て、指を動かす。すると、スタジアム外壁に取り付けられていたのであろう監視カメラからの映像が映し出される。花音達の姿はボロボロだが、まだ生きている。それに引き換え、敵兵の数は残り20人ほどか。


「GM人間が敵に一人いただけで、この事態か。さすが我らが同胞……と言った所だな」


 男は、施設の防衛を完全に六道に任せていたようで、今やっと追い詰められている状況を理解したようだ。確かに、俺も藤原葉助の映像を見ていなければ六道には到底勝てなかった。そうしたなら、今頃は花音達と共に全滅していただろう。


「……俺が敵の中にいるのはどうして知ったんだ?」


「まあそりゃ父親だから……と言いたいところだが、色々と情報は入手出来ていてな」


 花音に父親がいたように、こいつが中国支部にいたときの俺の父親だったのか。

 それに、やはり密告者(スパイ)を使役していたのはこの組織に間違いなさそうだ。


 俺は、刀銃をゆっくりと構えた。すぐにプラズマ機関の放熱で刀身が真っ赤に染まる。


さすがに人を簡単に殺める武器を前にして、室内のGM人間達はざわついた。


 誰かが男の事を『新田(にった)室長』と呼んだ。新田はそいつへ小さく頷くと、俺に言う。


「葉助、崇高なGM人間が、下等な旧人類側に付くのは不自然な事だ。六道の代わりにこちらへ戻れ。お前は記憶さえ失っていなければ、我々と行動を共にしていたはずだ」


 新田のその言葉に、俺は首を横に振る。


「……いいや、俺は、前世でも、今世でも、来世でも、お前達に必ず弓を引く」


恋人の仇討ちに命を燃やした藤原葉助、そして、花音のために命を捨てた藤原葉助、この二人の思いを神志那法次は受け継ぐ。


「一つだけ聞きたい、新田、お前が……Gym Smith の後継者か?」


「ジム・スミス ……の、後継者? ……そうだと言ったら?」


 新田は表情に淀みなく答えた……が、俺の勘が違うと告げる。


 それに……新田の語調からすると、『Gym Smithの後継者』ではなく、『後継者』だけに疑問符が付いていた。後継者などは存在しないと言う事だろうか?


 俺は、顔を新田に向けたまま、目だけでもう一度室内を見回す。

 

 こいつらは全て遺伝子強化をされたGM人間のはずだ。外の兵士達のように、頭がいなくても個々の判断で組織を継続させられる言う事か?


 いや……待てよ。


 俺は、花音から昨晩に告げられた話を思い出した。


どうしてここに()がいないんだ?


花音の推理が外れているのか? もしくは、奴こそが……。


ガーン!


 ……しまった!


 ズボンのポケットに突っ込んでいた新田の手は、いつの間にか俺に向けられていた。その手には手のひらサイズの拳銃(ハンドガン)が握られている。


「……く……はっ」


 俺は、崩れそうになる膝に力を込め、後ろの壁に背中を付く。


「そうか、防弾ジャケットだったな。正確な狙いが仇になったか」


 新田は、硝煙立ち上る拳銃(ハンドガン)の向こうで笑っている。


 拳銃(ハンドガン)の弾は俺の左胸に突き刺さったが、銃が小さかったために貫通せずに留まった。だが、衝撃で息が出来ない。


 新田は、ゆっくりと俺の頭に照準を付ける。


「油断したな? 確かに俺は文系だが、GM人間なんだぞ? 運動能力は一般的人間を凌駕する」


 新田の引き金に力が篭る。 


 ここで死ぬわけにはいかない。奴を……奴を追わないと……。



ドガーン!


「法次っ!」

 

部屋の左の壁が崩れ、姿を現したのは肩が桃色(ピンク)の機甲兵、花音だ。


 驚いた新田が先ほどのモニターを目で確認すると、外での戦闘は終わって動く物は何も映っていない。


 花音は新田の顔に見覚えがあったようで、頭部鎧を開いて顔を出す。


「新田支部長じゃん! 今はここで働いているんだ?」


「お前は……二年前に桜井と共に消えた子か?」


「当ったりぃ! 美女だから覚えてたか!」


「確か、58世代型の劣等生だったな」


 花音は、べぇっと舌を出して鎧を閉じた。


 花音の顔が消えた後もその頭部を見つめていた新田だったが、急にはっと表情を変えた。


「……なら、桜井久志も生きているのかっ?! まさか……これが奴の狙い? 複製(クローン)型のGM人間を二体(・・)作った理由は……ここにあったのか?!」


 二体? 俺以外に、まだ複製(クローン)型が?

 それが花音なのか? どういう事だ? 


桜井は、藤原葉助以外に誰の遺伝子を復活させたんだ? 花音は、誰の複製(クローン)なんだ……? 


……もしかして



 ようやく俺の呼吸が整ってきたが、どちらにしても新田の引き金よりも早く動くのは不可能だ。だが、新田が俺を殺せば、花音が新田へ向けているガトリング砲が火を噴き、新田どころか部屋にある全ての物をガラクタと化す。


 膠着状態のまま一分、二分と経って行く。


 俺が新田達の命と引き換えに死ぬのは構わない。だが、その後、花音に、ここにいないあいつ(・・・)を殺してもらわなければならないんだ。奴は一体どこに隠れている?


ドンッ! 


 俺が入ってきた扉を開け、手に刀銃を持っている兵士が三人入ってきた。だが……裕也達では無い。


「遅いぞ! そこの肩が派手な機甲兵をやれ!」


 兵士達は、刀銃を熱剣(ヒートソード)モードにして花音へ向けた。


 膠着が崩れる。どちらかが撃つしかない。


 

 俺は、刀銃を握る手に力を込めた。それに気づいた新田が、俺の目を見る。


「抵抗するな! お前が死ねば、俺も死ぬ。だが、機甲兵だけが死ねば、葉助、お前の命は助けてやる。どうだ?」


 ふっ……。破格の条件だ。……逆の意味でな。


「悪いが、俺より先に……花音を死なせる事は無い。今度こそ(・・・・)はな……」


 俺の言葉を聞いた新田の顔が歪む。


 やはり、ここは俺を犠牲に状況を打破し、花音達が奴を見つけてくれるのを期待するしかない。



 不意に、扉付近にいた兵士の一人が吹っ飛んだ。そいつは反対側の壁に頭からぶつかり、ずるずると地面に落ちて動かなくなった。扉からは黒い機甲兵の足が出ている。残った二人の兵士は身を返し、扉へ刀銃を向けながら下がる。


「こいつらが……健太郎の仇? ずいぶん弱そう……」


 扉から現れたのは、胸に可愛らしい蜜柑の(イラスト)を付けた蜜柑の(オレンジポイント)、原優子だ。


 だが……その両手に持っている長さ一メートル程の白い筒は何なんだ? 武器なのか?


 新田が俺へ向けていた銃を下ろし、青ざめた顔で優子に言う。


「待てっ! そ…それは普通の爆弾じゃないぞ! 戦争初期に作られた、高出力弾頭(ミサイル)だ!そっちの桃色(ピンク)の機甲兵も撃つなよ! 爆発すれば、この施設ごと吹き飛ぶぞっ!」


「……だと思った」


 優子は、鎧の中で笑っているようだった。


 恐らく、大部隊相手用にこの基地が隠し持っていた爆弾、もしくは、対基地殲滅用、座標識別型長距兵器か……。どこから探し出して来たのか知らないが、優子の奴、健太郎の仇である夢想システムを作った奴を逃がす気が無いようだ。


「花音ちゃん、法次君、逃げて!」


 優子は、高出力弾頭(ミサイル)を両手で抱え上げる。


 馬鹿な! 自爆するつもりかっ?! 機甲兵の厚い装甲でも、施設を吹き飛ばす威力の爆弾にはとても持たないぞ!


「やめろ優子! 花音! 説得をしろっ!」


 俺は叫んだが、花音はどこか躊躇しているように動かない。


もしかして……何か優子から聞いているのか? 健太郎が死んでからずっと部屋に篭って塞ぎ込んでいた優子が、今日戦場に出てきた理由は……この覚悟があったと言うことか……


「馬鹿め! 投げつけたくらいでは爆発はせんぞ! 殺せ! 危険な玩具を取り上げろ!」


 新田の指示で、兵士が動いた。切っ先を前にして、優子へ向かう。


ズドッ! ズドッ!


 赤く燃える刀銃は、装甲を抜いて突き刺さった。


だが、二本の刀銃を胴体に刺したまま、優子は体が焼かれても一歩前に進んだ。


「花音ちゃ……、法次…く……逃げ……」


 優子の右腕からケーブルが伸びた。それを、優子は高出力弾頭(ミサイル)の弾頭付近にある外部端子に接続する。


 ……掌握処理(ハッキング)だ! 優子はすでに対自動計算機(コンピューター)用装備に換装していたのかっ!


 機甲兵の技術力がここにある最新自動計算機(コンピューター)相手に通じるかは分からない。だが、あの高出力弾頭(ミサイル)は戦争初期、つまり五十年前の物だ。確実に起爆装置に連絡(アクセス)出来る。


「法次!」


 花音は俺を抱き、自分が空けた穴から飛び出した。後ろの部屋から、新田達の悲鳴が聞こえる。




ドガ――――ン!!







次話、本日14時に追加されます。

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