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をのこ戦記  作者: 逸亜明
35/39

後継者4

    ◆     ◆     ◆




 スタジアムの外では、鎧に無数の斬り傷をつけられた五人の機甲兵が、ボロボロになりながら戦っていた。


「法次の元へ……これ以上行かせるかぁ!」


 門に開いた穴をくぐろうとする兵士を、花音は左の拳で吹き飛ばした。


「沙織っ! 何人通った?!」


「十人……くらいだと思いまし……つっ!」


 斬りかかってきた刀銃を、沙織は右手のセラミック剣で受け止めた。そのまま右の手のひらで敵の胸倉を掴み、地面に叩き付ける。


「美樹っ! 生きてるっ?」


 花音は、門の左手で足をふらつかせて転びそうになった一列の宝石(ジュエルライン)へ声を掛ける。


「なんとかねっ!」


 こちらを向いた美樹の頭部鎧には深い裂け目が入っており、素顔の目が覗いている。その目が、花音に向かって大きく開かれる。


「花音っ! 後ろっ!」


「あいさっ!」


パキンッ!


 花音の白いセラミック剣が折れた。そのまま敵の刀銃が振り下ろされる。


「うにゃぁ!」


 右手の甲で敵の顔を殴りつけ、払った。しかし、左側からも敵が迫る。花音は左腕のガトリング砲を突きつけ、ほぼ零距離で引き金を引く。


カラララララ……


 軽い回転音が響いた。


「しまっ……弾切れ……」


 花音の前に、刃が迫る。


「ほ……法次……」


ドガッ!


 花音の前を黒い塊が横切った。


跳ね飛ばされ仰向けに倒れた敵に、機甲兵の右手が外して投げ落とされる。三十キロもの鉄の塊が胸に直撃し、敵は血を吐いた。


「しつこい客は嫌われるよっ! 食らえっ! ツインガトリング!」


 赤い(レッドヒール)こと大塚和美は、右もガトリング砲内臓の腕を装着した。そして、左腕と合わせてガトリング砲を放つ。


ガガガガガガ……


 周囲の敵が赤い霧となった。


「か……和美さん……」


「花音ちゃんは早く補給!」


 花音は、兵器箱から弾を補充しつつ、時間を稼いでくれる和美を横目で見る。


 和美の左のわき腹には、刀銃の刃が深く差し込まれていた。


 和美の弾が尽きると、代わって花音が前に出てガトリング砲を放つ。敵の数は半分以下の50を切っている。


「……花音ちゃん」


「はいっ!」


 花音は敵を向いたまま返事を返すが、先ほどまでと違って和美の声は弱弱しかった。


「木部君に伝えて欲しいの。例のおそろいのスニーカーだけど、入荷日に私は……お休みを頂いてお店にいないかもしれないって……」


「――っ!」


 花音が振り返ると、和美は弾薬補給をする事無く、門の穴に立ちふさがっているだけだった。胴に刺さっていた刀銃は落ちていたが、その傷跡から血が流れ出し、足元に血溜りを作っている。


「こ……ここは……私が……通さ……ない……よ……」


「和美さんっ!」


 門を塞いだ和美は、そこから一歩も動くことは無かった。




     ◆     ◆     ◆




「……俺が突っ込むから、畑山と木部は援護。裕也と正人は後方の敵に圧力(プレッシャー)


 コンテナの陰から出ようとした俺の肩を、大きな手が覆って止めた。


「神志那隊長、あなたはここで死ぬべきでは無い。おそらくGym Smithの後継者を倒せるのは、あなただけです。ここで捨てるべき命は、一介の兵士である私です」 


「待て木部。お前には待っている人が……」


 木部はそばにあったコンテナの一つに両手を回す。そして、一辺が1メートル以上ある鉄製のそれを、体から湯気を放ちつつ持ち上げた。 


「それに、この膠着状態を打破できるのは、神志那隊長でも、畑山殿でも無く、私だけです! おぉぉぉ!」


 木部は吼えた。走る彼の大きな背中は輝き、その中にどこまでも続く回廊が見えた気がした。


グワッシャッ!!


 銃弾の雨の中、コンテナを盾にして突き進んだ木部は、それを30メートル先の突き当たりの壁に叩き付けた。すぐに刀銃を抜き、木部は両手で握った赤い刃を垂直に振る。


 一刀両断。


 鉄のコンテナごと敵を斬り分けた雄雄しき姿の彼を、俺は生涯忘れないだろう。


ダダダダダダ……


 通路右から短機関銃(サブマシンガン)を木部はその体に受けた。右腕が真っ赤に染まり、だらりと腕を下げる。


「ふんっ!」 


 右を向いた木部は、左腕一本で水平に刀銃を振った。斬られた敵は倒れる。


ダダダダダダ……


 無防備なその背中に、逆側の通路から弾が撃ちこまれた。しかし、まるでダメージが無いかのように木部は振り返り、投げた刀銃は敵の胴体を串刺した。


 俺と畑山は木部の元まで走り、畑山は左の通路、俺は右の通路を制圧する。共に敵の姿は無かった。 


 木部は、その時になってようやく膝を突き、腰を地面に付けると壁に背をもたれさせて休んだ。


「畑山殿……」


「どうした木部っ?!」 


 彼は痙攣する口で言葉を発する。まぶたは開けたままだが、血がにじむ彼の目には何も映っていなかっただろう。


「和美……殿に……言伝(ことづて)を……。き……黄色のスニーカー……を……受け取りに……行けそうには……ありま………………」


 その後の言葉は聞けなかった。木部は、長い休暇を取る事となった。


 畑山は木部の肩を揺すり、彼の耳元で叫ぶ。


「木部っ! 性懲りも無くまた靴を買ってたのかっ!? それで何だ?! いつもの無駄に長い話はどうしたっ?! 木部っ! 続きを話せっ!」


 俺は刀銃を構え、通路の先を見る。


 進まなければならない。木部が作った道を。


「畑山、四人で後ろの敵を牽制しつつ、まとまって前進する。もう前に敵は少ないはずだ」


 しかし、畑山は立ち上がると、俺に背を向けて左の道を向く。


「神志那、後ろは笹柿と吉岡にこのまま任せる。お前は右を行け。俺は左の道を塞ぐ。また挟み撃ちはごめんだ」


「しかし! 後ろの敵は十人近くいるぞ! 複数の短機関銃(サブマシンガン)相手にここで踏みとどまるのは危険だ!」


「神志那!」


畑山は大声で叫ぶと、離れたコンテナの陰にいる裕也と正人を見ながら言う。


「……木部が言ってた事を思い出せ。俺達はどうなっても良い。首領(トップ)だけは……確実に仕留めるんだ」


 コンテナの陰からは、親指を立てた拳が二つ見えている。


「行けぇ!」


 躊躇する俺の背を、畑山の怒声が後押しした。


俺の浮遊装置(ホバー)が唸る。先の角を曲がり、横壁を滑る。

 

 

……一人にはなったが、あの(・・・)とは違う。俺の後ろには、何人もの仲間がいる。



 人の気配が現れた。だが、殺気のような物は無い。そして、扉同士の間隔からするとこの辺りは今までにないほど大きな部屋がある区画だ。


俺は、今回の目的であるかもしれない突き当たりの部屋へ飛び込む。




次話、2015/08 /1 06時に追加されます。

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