後継者3
その時、裕也がいつもの調子でおどけたように言った。
「おいおい、GMなんとかのおっさん、その捕まえた奴は俺達の中でも最強の男だぞ! 腕力なんて、車両を片手で引きずり回す程だ! 気をつけろよ! ほら、今にでもおっさんの腕をもごうとしているぞ!」
げらげらと腹を抱えて笑う裕也に、六道は眉をひそめる。そして、正人の体をじっと見る。
「この細腕で車両を? 嘘をつけ、この女男みたいな奴にそんな力などあるはずが…」
裕也が「しめた!」とばかりに指を鳴らした。同時に、六道に捕らえられている正人の目がカッと開かれる。
ドゴッ!
正人の肘が、六道のわき腹の傷をえぐった。腕が緩んだ隙に首を抜くと、もう一度左ひざで六道の傷を蹴り上げる。
「だ…誰が…ゴホッ…女だ! 傷口から手を突っ込んで、奥歯ガタガタ言わすぞコラッ!」
だが、正人は足元をふらつかせる。
その正人へ、六道は脇腹を押さえながら、空いた手で刀銃を振り上げる。
ガッ!
六道の太い腕は、それに勝る機甲兵の腕によって掴まれた。怒りに燃えるのは、頭部に一列の宝石をつけた美樹だ。
「人の彼氏に何してんのよっ!」
美樹は腰を落とし、右手を腰の横に構えた。そしてその拳を、六道の胸へ向かって最短の距離で突き出す。
ドゴッ!
六道は、うめき声も無く吹っ飛んだ。地面と平行に三十メートル飛び、それから転がる。そして、うつぶせのまま、ピクリともしなかった。
……そう言えば、美樹が戦う所を初めて見た。戦闘に関しては、花音が忍者漫画、沙織が合気道漫画、美樹が空手漫画に影響を受けていると聞いているが、あれが空手と呼ばれる格闘術なのだろうか? 隙が大きい動きだったが、狙いは一撃必殺の技だ。
六道と言う指揮官を失った兵士は混乱すると思われたが、微塵もそんな様子は見せなかった。奴らは表情を変える事無く、陣形を横に伸ばし、俺達を包んで包囲しようとしてくる。さすがGM人間だ。判断力に揺らぎが無い。
「法次さん、作戦があります」
沙織が、俺に耳打ちをしようと顔を寄せてきた。焼きもちなのか知らないが、花音と裕也も同じようにしてくる。
「強行突破を図り、小回りが利く法次さん達の刀銃兵が建物内部に潜入すべきです。これだけの敵兵士が外にいるなら、中は手薄のはず。出入り口は私達が塞ぎ、背後は守ります」
「しかし、それなら沙織達は150人の敵に集中砲火を受ける事になる。いくらなんでも危険だ。やはり、全員で外を殲滅した方が良くないか?」
「法次さん! ……私達にとって有難いお話ですが、全員でかかっても150相手に全滅するかもしれません。それになんとか倒せたとしても、内部に入る頃には敵の首領は逃げているでしょう。大事なのは、首領を倒す事です。そうすれば、例え私達全員が力尽きようと、残っている刀銃兵や機甲兵達が後を継いでくれます」
聞いていた裕也は、「うぉー」と叫びながら俺から離れ、沙織に言う。
「沙織、ぱーっと行って、悪い奴を倒して、とぉーっと助けに戻ってくるからなっ!」
それを聞き、沙織は頷いた。兜の中では、いつものように微笑んでいるに違いない。
「だが……」
俺は、花音の顔を見る。すると、花音は空を見上げて言う。
「私達を誰だと思っているの? 泣く子も黙る極東侵攻部隊、第三中隊、特殊遊撃隊! 通称、……」
花音が空へ向かって両手を広げた。すぐに沙織と美樹が左右に並び、それぞれ外へ向かって両手を斜めに上げる。
……沙織と美樹も乗りのりだな。
ゥゥゥン
空気を切り裂く音が聞こえるので見上げると、機甲兵が二人空を飛んでくる。そして重い音をさせて着地すると、沙織と美樹の更に外側に立ち、外側斜め下に両腕を構えた。
「デコ部っ!」
右肩が桃色の桃の肩を中心に、紫の天使と一列の宝石がその両脇、最外側に赤い靴と 蜜柑の印が立つ。これが……機甲兵の異端児部隊、花音が率いる小隊だ。泣く子も黙るらしいが、泣いていたのは所属していた中隊長では無かろうか……。
「和美さんっ! 思っていたより早かったね!」
赤い靴は花音に頷き、持って来ていた大型の兵器箱を開いた。中には予備弾薬や、擲弾発射器などの両腕の換装パーツが大量に入っている。
「中隊長がガタガタ渋るから、一発叩いて黙らして持ってきたよっ!」
すると、蜜柑の印がボソッと言う。
「中隊長……泣いてましたけど……」
……やっぱりな。
そして、赤い靴や蜜柑の印が今取り外した羽根付きの飛行装置を見て納得だ。これを使って、花音達は俺達よりずっと早くこの地へ来たんだな。機甲兵が装備次第で空を飛べるという噂は本当だったのか。
敵は、完全に俺達をぐるりと一周して包囲した。
俺達も、刀銃を抜いて臨戦状態に入る。まさに、一触即発だ。
「第八番基地、特殊小隊、目標はゲート突破、用意は良いなっ?」
返事代わりに、裕也、正人、畑山、木部の浮遊装置が激しく唸る。
「蹴散らすぞっ!」
俺達刀銃兵は、お互いに螺旋を描くように浮遊装置で疾走する。その間を縫うように、花音達の機甲兵は背中から火を吹き地面を跳躍して進む。
「法次っ! 下がって!」
花音と沙織は、刀銃兵の前に出て両手を広げる。
ダダダダダダ……
敵の短機関銃から銃弾が放たれるが、花音達の機動装甲には傷も付かない。
「裕也、木部っ、右だ! 狙撃モード!」
二人の刀銃が青く光る。次の瞬間に発射された青いプラズマは、敵が放ったプラズマと衝突し、光となって飛散した。
「正人! 畑山っ! 俺に続けぇ!」
花音達の脇を抜けて飛び出した俺達は、正面で刀銃を振り上げた敵を斬り捨てる。
やはり実戦経験が乏しいGM人間達は、経験による予測行動が必要な接近戦では特にもろい。
目の前は鋼鉄の門だ。正人と畑山が俺を先行する。
ズバッ ズバッ ……ズバッ
正人と畑山が鉄の門をⅤ字に切り裂き、俺が最後に横に一閃する。門は三角形の形に切り取られた。
刀銃兵が全員門をくぐって行く中、俺は後ろを振り返って言う。
「花音! ……死ぬなよ」
すると花音は左手のガトリング砲をばら撒きながら答える。
「法次っ! 私がいないからって、無茶しちゃダメだよっ!」
……俺は、敵施設に攻め込み、一人散った藤原葉助を思い出した。
「ああ、今回はお前がいるしな」
俺は、五人目として門をくぐった。
スタジアム内正面通路は、天井まで三メートル、幅は五メートルで、俺達の地下基地と比べると格段に余裕のあるコンクリート製だ。この逼迫感の薄さからすると、元は娯楽施設だったのかもしれない。
通路は左右へ伸び、別に正面にも扉がある。円柱状の建物なので重要な施設は中心部にあると考え、俺は正面の扉を開ける。
通路幅は二メートルと変わり、コンクリートの質も粗くなった。恐らくここから先の内部は改築した部分なのだろう。
一列縦隊になった俺達は、通路をとりあえず真っ直ぐ進む。途中扉があれば開け、鍵が掛かっていればこじ開けて進むが、人の気配は無い。あるのは、無人で動く自動計算機だけだ。
……そうか、地表の下に網の目のように広がる光ファイバーは、どこかで動き続けている大昔の自動計算機に繋がっていると言われていたが、このようにGym Smith の組織にあるサーバーにつながっているのか。
なら、夢想世界に接続している人間を使って人体実験を繰り返し、男と女が争う世界から、男と女がお互いを認識せずに殺しあう世界へと変貌させた訳か。
俺は、前方に敵の気配を捉えた。俺が刀銃を握りなおすと、背後の仲間は呼吸を整える。
角を曲がると一気に踏み込む。不意打ちの機会を伺っていた敵は、すでに目の前にいる俺に体を強張らせた。
ガッ!
敵が慌てて振った刀銃は、狭い通路の壁に刃先が当たって止まる。
ズドンッ!
俺は刀銃を横に構えたまま、刃と逆の柄の先を、敵のみぞおちに突き立てた。瞬間的な呼吸困難でうつろな目をする敵の後頭部に、更に回し肘打ちを当てて倒す。
敵の数は少ないのか? それとも、狭い場所では不利なのを認めていて、自分達に地の利がある場所で俺達を待ち伏せているのだろうか。
突き当たりの扉を両側に開くと、かなり広い直線通路に出た。幅は五メートル以上で、高さも同じくらいある。両脇には鉄製のコンテナが積み上げられており、それが奥まで連なっている。恐らく資源倉庫だろうが、身を潜ます場所が多いここは待ち伏せるのには最適だ。
「神志那……二十人はいるぞ……」
畑山の言う通り、ここは幾人もの呼吸に溢れている。
「法次君、上っ!」
正人の声で俺は見上げると、縦に無数に積まれたコンテナの最上段から敵が一人、真っ赤な刃と共に降って来る所だった。
しかし、壁を三角飛びの要領で滑り上がって飛ぶ影が、その敵と交錯した。
ズバッ!
敵を切り抜けた畑山は、浮遊装置の圧縮空気の方向を微調整して、一連の動作の中で敵の背に蹴りまで入れた。急加速して地面に激しく体を打ちつけた敵は、完全に無力となった。
ドォンッ!
反対側では、重装甲車かと思わせる突進を見せる木部がコンテナに体当たりをしていた。100キロ以上はあるだろう鉄製のコンテナが、まるで木箱だったかのように地面を滑って壁に叩きつけられ、間に挟まれた数人の敵は、骨の砕ける音と共に沈黙をする。
「行くぞっ!」
俺と共に四人は通路の終わりに向かって走る。
途中、左右から現れる敵は裕也と木部に討たれ、俺の頭上を狙う敵はコンテナの上を渡り飛ぶ畑山に討ち落とされる。距離をとってプラズマ砲を使おうとする敵は、体を見せた瞬間に正人のプラズマ砲によって撃ち抜かれた。
通路も残り30メートル程となった時、目指していた先から三人の敵が姿を現した。
俺は、二呼吸で間合いを詰めて斬り捨てようと迫ったが、敵の手には例の短機関銃があった。
ダダダダダダ……
「ちっ!」
俺は蛇行後退して、皆が身を伏せたコンテナの陰に飛び込んだ。
……あの武器を持つ兵士がまだ残っていたか。この広い一本道では、刀銃ではかなり不利だ。しかも、まだまだ交戦が続くと考えれば、足に一発でも貰えば終わりだ。
突然、正人が刀銃を脇に構えて一発の青いプラズマを後方に発射した。弾ける光の中、姿を隠す敵が見えた。俺達が来た通路から敵が追って現れたようだ。
挟撃だ。俺の判断が遅い。
次話、本日21時に追加されます。




