後継者1
照明の少ない作戦会議室に、隊長が二十人そろった。
本日は、中隊長を失った事を機会に、滞っていた隊の再編成をすると言う事だ。それに、新たな脅威も迫っている。
静かな室内で、一人の隊長が立ち上がる。
「めんどくさいけど、現在のこの基地で最高階級なのは俺だ。よろしく」
そいつは、もう一度「はぁめんどくせぇ」と呟いた。
驚くことに、四番隊の隊長、畑山だ。てっきり、一番隊の大原だと思っていた。
「知っての通り、今までとは別の機甲兵部隊が接近している。最初に戦場となるのは、最西の基地、つまり俺達の基地だ。小隊の再編成については、めんどくさいから基本、前へ詰めて行け。五人になった所から、すぐに連携訓練だ。ただし……」
畑山は俺の顔を見た。
「神志那は、二十番隊の隊長を解任。そして、その隊員達も、他の小隊へ編成されるのを禁ずる」
皆がざわつく。
確かに、密告者を出した俺は解任どころか降格も止む無しだ。だが、例え出撃禁止命令を受けたとしても、明日は東北地方へ行かねばならない。
一緒に付いて行ってくれるメンバーは、裕也と正人しか決まっていない。なぜなら、畑山が言った様に、花音達とは別の機甲兵部隊が関東に進軍を開始したからだ。この基地を留守には出来ない。
花音が言うには、自分達の第三中隊がなんだかんだと理由を付けて一向に戦闘を始めないので、中部地方を担当していた第二中隊が業を煮やして動き出したとのことだ。例のヘルメット型の迂回路部活性化装置は一個しかないために、やっと花音が所属する中隊全員に使用出来た程度だ。
「そして新たに……」
畑山が、俺の顔を見てにやりと笑った。
「神志那法次を隊長とし、特殊部隊を新設する! 以下、隊員は、笹柿裕也、吉岡正人、木部仁、そして……俺、畑山輝彦だ。俺は隊長を降り、平の小隊員として組み込まれるため、この基地の指揮官を、元一番隊隊長、大原信吾に移譲する。後はよろしく」
なにっ? 畑山の奴……。
代わって立ち上がった大原は、皆に向けて檄を飛ばす。
「特殊班には、ある重要な任務についてもらう。我々の使命は、それまで時間を稼ぐ事だ。援軍として、今まで強敵として戦っていた北方に拠点を構える第三機甲兵中隊が来てくれる。数はこちらが勝る。だから、出来るだけ敵を殺すなよっ!」
皆が歓声をあげる。すでにこの基地の兵士は、正人が作った迂回路部活性化装置・二号型によって洗脳は解かれている。
「畑山……俺の下について良いのか?」
俺が畑山に聞くと、奴は振り向きもせずに言う。
「人の手柄を奪ったら、カッコ悪いだろ?」
俺は、覚悟を決めた。
俺の基地の兵士達がすぐに迂回路部活性化装置を受け入れたのは、木部の功績が大きかった。副隊長であった木部から熱心に説得を受けた畑山は、とりあえず全員に装置を使うように通達を出したからだ。
ところで、どうして木部がすぐに信じてくれたかと言うと……。
「あっ! 木部のおっさん、香水付けてねぇ?」
東北へ出撃する日の早朝、鼻をくすぐる香りに気づいた裕也が兵器庫で声を出した。
「そ…そんな物、自分は付けてない! ただ、もし偶然に何かの理由で体に付着してしまったとしても、香水というものは精神をリラックスさせてくれる利点があり、決していかがわしい事に直結させては…」
畑山が腹を抱えて笑いながら木部の背中を叩くと、木部はロッカーに顔をぶつけた。
「なぁ~にお洒落してんだよ? そう言えば、昨日も新しい靴を買ってたろ?」
畑山に言われると、木部は顔を真っ赤にして口をへの字にする。
「ちっ…違います! あれは万が一、靴が破損した場合を考えて……」
「お前の万が一は、五十回も続くのかよっ!? もう一生分はあるだろうよ?」
「ね…念には念を……。自分は石橋を叩いて……叩き割るくらい叩いてから渡る性格であり…」
しどろもどろの木部は、中々に可笑しい。
実は、花音の小隊員である赤い靴こと大塚和美は、夢想世界で木部が以前から足しげく通う靴屋の店員だったのだ。もちろん、進められるまま五十足も買っていることから、木部がご執心なのはここにいる全員が分かっている。
そんな木部が、大塚和美に「現実世界で会いましょう」と言われれば、即座に信じるのは当然だろう。
「しかし、木部の話があったとしても、へそ曲がりな畑山が良く信じたな」
俺が聞くと、畑山は「……別に」と言ってから、フェイスマスクを装着した。
ジャケットを羽織り、浮遊装置を履き、刀銃を背負う。
全員がほぼ装備を終えた時、畑山が自分の刀銃を眺めながら言う。
「俺は……夢想世界では大学生だ。そりゃ、不真面目な生徒だ。遊び呆けて、授業にも顔をださない。そんな俺が気まぐれで授業に出たとき、見覚えのある女がいた」
皆が黙って聞く中、畑山は続ける。
「知り合いじゃない。ただ、見覚えがあったんだ。理由はしばらくして分かった。その女は、可能な限り全ての授業を受講してたんだ。だから、たまにしか授業に出ない俺でも何度か会ってたって訳さ」
畑山は、刀銃を一度振った。
「ある時、女は見なくなった。悪い遊びでも覚えたのかと思って誰かに聞けば、大学を辞めて田舎へ帰ったんだと。……んで、女が消えたその日は、現実世界で二拠点を同時索敵し、味方の為とは言え、俺が機甲兵を殺しまくって撤退に成功した日だった」
畑山は、静かに刀銃を背負った。そして、出撃口へ歩きながら俺に聞く。
「なあ……神志那。こんな俺が……あのくそ真面目な女より、長生きをする理由なんてどこにあるのかねぇ……」
俺は、壁の操作端末に手をふれ、隔壁を開ける。
「畑山、俺は……同じ不幸を……二度起こさせない。そのために、生きている」
畑山が口元を緩ませるのを確認した俺は、大きな声を張り上げる。
「極東大隊、第八基地、特殊遊撃隊! 行くぞっ!」
俺達は地下迷宮から地上へ飛び出し、北東へ全力で疾走する。
俺は、例の拾ったスマホを左腕の操作端末下に入れ、持ってきていた。
スマホの日記にある藤原葉助は、今の俺のように組織に挑み、敗れたのかもしれない。なら、このスマホの主は、俺が組織に再び(・・)挑む姿を、必ず見たいだろう。
だが、最近はスマホの主と思われる例の声は聞こえない。もしかして、力が尽きて別世界へ旅立ってしまったのだろうか?
もし……まだそこにいるのなら、俺と花音が力を合わせ、お前達の運命を断ち切る瞬間をその瞳に焼き付けておいてくれ。
次話、2015/08/01 10時に追加されます。




