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をのこ戦記  作者: 逸亜明
30/39

過去7



基地へ入ると、壁の操作端末(コンソール)が青く点滅し、警報が鳴っていた。


青? この緊急事態は俺も初めて経験する。敵とは無関係で、基地に何かしらの混乱が生じている際の警報だ。



その辺の隊員を捕まえて聞こうとした時、廊下を慌しく走ってきた裕也とばったり出会った。


「あっ! 法次、大変だ!」


 裕也は、頭に包帯、顔に絆創膏、首や手足にも包帯をぐるぐると巻いている。だが、元気そうだ。


「中隊長が殺されたっ! 殺ったのは弘明だっ! 独房からいつの間にか脱走していて、もう訳わかんねーよ!」


「なっ……なんだとっ!」


 俺の声は通路に響いた。


 魚住中隊長が……死んだ? しかも、殺したのは俺の小隊に所属していた本田弘明だって?


「畑山達の言う通り、弘明の奴は密告者(スパイ)だったんだ! ちっくしょうっ!」


 裕也は吼えた。包帯だらけの手を、何度も壁にぶつける。


 裕也の声に気づいたのか、正人が廊下の角から姿を現した。


「法次君! ……し……指令室へ……行ってください!」


 正人は木部との戦いで怪我をしたのか、足を引きずっている。


 俺は正人の横を走り過ぎ、司令室へ全力で向かった。




 司令室の扉は、切断されてこじ開けられていた。


 中へ踏み込むと、司令官用の大型操作端末(コンソール)が刀銃によって切り裂かれ、破壊された跡がある。


 部屋の隅に集まっていた兵士の人垣を掻き分けると、そこには黒焦げでばらばらになった人間がいた。刀銃によって切断され、プラズマ砲で焼き払われている。


転がっている半分解けた金属の階級賞から、彼が中隊長なのは間違いなかった。


「弘明はどこへ行ったっ!?」


俺が辺りの兵士に聞くと、一人が答える。


「本田弘明伍長の姿は、誰にも見られておりません。ほんの数分前に、畑山隊長率いる討伐が出ており…」


 俺はその兵士が差し出した携帯型板状端末(タブレット)を奪い取ると、先ほど装備を置いたばかりの兵器へ走る。


 携帯型板状端末(タブレット)には、調査途中の記録が書き込まれている。


 基地内に警報がなったのが今から二十分ほど前。

指令室へ指示を仰ぎにいった三番隊の隊長が中隊長の死体を発見。

部屋には誰の姿も無かったのを同伴した複数の隊員が証言する。

三番隊隊長が基地内での異変を調べたところ、弘明が入っていたはずの独房の(ロック)が開いており、中に弘明の姿は無い。

さらに兵器庫から弘明の装備が一式消えており、基地から弘明が無断出撃した記録を確認する。


 ……これは、言い訳の余地がない。だが、あの弘明が? 信じられない。


 俺が武装を完了した時、兵器庫に裕也と正人が現れた。


「やっぱここだった! 法次待てよっ! 俺たちも行くぜ!」

 

そう言うが、ジャケットに腕を通すだけで二人は顔をしかめている。


「無理をするな。お前達は休んでいるんだ」


「でも法次君、同じ小隊員として責任が……」


 正人にいたっては、足が折れているのか浮遊装置(ホバー)を装着すると苦悶の表情を浮かべた。


 俺は、自分の兵器箱(ロッカー)を一発殴ってから裕也達に言う。


「隊長の俺が、……(かた)をつける」


 力を込めて告げると、二人は頷き、刀銃を置いた。



 基地から出た弘明の足取りは不明だ。畑山達は、おそらく機甲兵の拠点がある北方へ進路をとっただろう。


 だが……弘明は本当に占領軍側の密告者(スパイ)なのだろうか?


 俺は、夢想システムによって男女を戦わせている第三の勢力があることを知っている。


 弘明がしたことは、俺達の位置を機甲兵側に漏らし、不利にしたことだ。

 となると、占領軍、、第三の勢力、どちら側とも考えられる。


 ……どうも、ここ最近の事があったからか、第三の勢力が気になって仕方が無い。


 弘明がそちら側だったとしたら、どこに逃げたんだ?


 南及び、南東は海だ。外洋の可能性は低いだろうし、そちらに出られては俺には追えない。なら、西の山岳地帯か、北東の高地地帯か……。


 俺は、花音からもらった記憶媒体(メモリーチップ)を左腕の操作端末(コンソール)に差し込んだ。進軍中の機甲兵部隊とばったり遭遇しては、弘明どころでは無くなってしまう。


 表示された情報(データ)に寄ると、占領軍はここ数日と中部地方へ攻勢をかけているようだ。関東への攻撃は、二週間先まで予定が無い。これはもしかすると、花音達特殊部隊や、正気に戻った機甲兵達が、何か進言をして止めてくれているのかもしれない。


 ……ん?


 妙な事に気づいた。


 二週間後の占領軍の進軍進路(ルート)だが、なぜか東北地方が含まれていない。いや、過去の進路(ルート)を調べてみても、東北地方を避けるようにして作戦が立てられている。


 まさか……?


 俺は北東へ進路を取り、高地地帯へ浮遊装置(ホバー)全開(フルスロットル)にする。




 三十分ほど走ると、平野部が終わって高地へと入った。それほど高く無い山や丘が見える。


 ……ん?


 左の丘から狼煙のような黒煙が上がっている。俺はそちらへ進路を向けた。



 狼煙のあった場所では、一人の刀銃兵が死んでいた。黒い煙は、その焦げた遺体から立ち上っている。殺されてから、さほど時間は経っていないようだ。


 どこかの基地の哨戒兵が、偵察任務中の機甲兵と遭遇し、火炎放射で焼かれたのか?


 近づくと、焼け残った左腕が見えた。


「――っ! まさかっ!」


 左腕に……あざがある。腕の外側、肘の横だ。大きさは十センチ程で……形にも見覚えがある。間違いない。この腕は弘明の物だ……。


 すぐに落ちていた刀銃の刻印(シリアルナンバー)を確認する。……弘明の番号だ。


 魚住中隊長を殺した弘明も死んだのか……。まさか、口を封じられた?


 一体、どこの勢力がこんな事を…………ん……?



 ……誰か……見ているな。


 俺は、辺りに何者かが潜んでいるのを感じ、立ち上がった。


気配の消し方は完璧だった。だが、俺が弘明の遺体を確認する時になって、奴らは僅かに意識を尖らした。おそらく、弘明を殺った奴等だ。


俺は刀銃を抜き、浮遊装置(ホバー)を起動させる。


「出て来い。隠れていても、こちらから行かせてもらうぞ」


 俺の刀銃が熱剣(ヒートソード)モードになった所で、そいつらは木や茂みの向こうから出てきた。姿は俺と同じく、刀銃兵だ。数は三人。


「俺は第八基地、二十番部隊、隊長神志那だ。お前達はどこの誰だ?」


 奴らは何も答えない。こいつらも解放軍に入り込んでいた密告者(スパイ)なのだろうか?


 俺と同じく浮遊装置(ホバー)を起動させた三人は、ゆっくり広がると俺を三方向から取り囲んだ。

動けば切られる予感がする。かなりの力量だな。


ブォォォッ


浮遊装置(ホバー)の圧縮空気で土埃を舞い上げながら、正面の一人が突っ込んできた。


 速いっ!


ガキンッ!


 喉元寸前で敵の刃を受ける。焦がされた前髪の匂いが漂う中、後ろの二人が斬りかかって来る。すかさず正面の敵と体を入れ替えた俺は、敵の刃で後方二人の斬撃を受け止める。そのまま距離をとると、また三人は俺を取り囲むように三角形を作る。


 動きに関しては、経験した事の無いスピードだ。恐らく第八基地でトップクラスである畑山よりも速い。


 ……だが、残念ながら経験が足りない。

 

例えば、一人の強者を相手にする際に使用される三角陣(トライアングルフォーメーション)だが、教科書そのままでなんの捻りも無い。裕也や正人なら、必ずわざと隙を作り、そこに誘い込んで仕留めるはずだ。それに、攻撃が直線的過ぎて、三手先まで俺なら予測出来る。


 こいつらは姿こそ刀銃兵だが、機甲兵との戦いを潜り抜けた熟練者(ベテラン)では無い。


 膠着状態は一瞬だった。先ほどと同じく、正面の奴が斬りかかって来る。俺は、そいつに向けて浮遊装置(ホバー)を吹かし、土ぼこりを巻き上げた。奴は視界を塞がれ急停止する。


ザザンッ!


 その隙に、順番を待っていた後ろの二人を斬った。事態を察し、正面の奴は慌てて斬りかかって来る。


ズシャッ


 袈裟型に斬られた男は倒れる。


 勝敗こそあっけなくついたが、恐るべき身体能力を有している奴等だった。数が揃っていれば、力押しで俺が敗北していただろう。


フォンッ


「――っ!」


 浮遊装置(ホバー)の音が遠ざかっていく。


 ……しまった。まだいたのか。


 姿は見えなかったが、そいつは森に入ったようだった。


 これ以上は追えない。森で待ち伏せに会えば、俺一人では殺されてしまうだろう。それに、弘明の死亡は確認出来たので、取りあえずは追う必要が無い。




 あまりにも忙しい一日半だった。


 昨晩は花音と和解し、翌朝にGym Smith の研究所を発見し、夕方には弘明を追跡する。


 さすがに……少し疲れた。



 基地へ戻った俺は一番隊隊長の大原に報告を済ませ、そのまま泥のようにベッドで眠った。

 



次話、2015/07/18 21時に追加されます。

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