過去6
と書かれていた。
少し考え込んでいる俺に花音が聞いてくる。
「誰? 知り合い?」
「2018年に夢想システムを発明した男だ。しかし、アメリカ人だったはずだが、どうして日本のこんな場所で研究を続けているんだ……?」
拾ったスマホで知った情報だったが、どこかで捻じ曲がっていたのだろうか?
「えっ? 発明した人? そんな記録、占領軍にも無かったと思うよ」
恐らく、Gym Smithの組織が占領軍のネットワークに介入し、記録を消したのだろう。
だが、数十年間も優勢である占領軍は、俺達解放軍よりも過去の記録を多く保持している。そんな花音から、貴重な情報が告げられる。
「でも、確か二十世紀初頭って、アメリカと日本は仲が良かったはずだよ。日本に来ていても変じゃないかもしれないよ」
「友好国? ……に来て、研究の続きを?」
それにしても妙だ。友好国だったとしても、アメリカでやれば良い研究を、日本のこんな場所で隠れてする必要があったのか?
待てよ……『隠れて』……?
もしかすると、アメリカでは出来ない理由があったのか?
それは、脳を操る夢想システムの秘密を知られたのか?
いや……夢想システムは、その隠された危険性を誰も知らなかったからこそ、ここまで成功を治めたんだ。恐らく、アメリカを追い出された単純な理由が他にあり、それに利益を見出した日本が引き取る形で研究を続けさせた……?
所長室から出て先ほどの自動計算機を調べたが、当然のように記録を抹消されていた。俺達も基地を放棄する際には徹底的に記録を消去し、し切れないものは破壊までするので当たり前の事だ。
基地内の他の棟も回って見たが、何も情報は得られなかった。逆に考えると、それほど完全に隠蔽しなければならない施設だったという事だな。
ただ、気になったのは、あの大量の医療カプセルだ。この施設には数多くの兵士が警備していたようだが、それにしても異常な数だった。六十年前と言えば本格的に男女間の争いが起こった時期なので、怪我人が沢山出たのだろうか……?
時刻は正午となり、調べつくした俺達は帰る事にした。後は花音を出来るだけ解放軍の勢力地域に連れて行き、俺は見つからないように踵を返さなければならない。
「法次、あそこにも自動計算機があるよ」
広間を通り、出口を前にした時だった。花音が言う通り、兵士の詰め所にも一台の自動計算機がある。画面は明るく光っており、故障していないようだ。
俺達は教室二つ分ほどの詰め所に入り、一台しかない自動計算機に向かう。
「これは……監視カメラを統括する自動計算機だな」
「映像がいっぱい残ってるじゃん!」
確かに、毎日二十四時間の録画映像が、数十台のカメラ分、十年以上に渡って保管されているようだ。消し忘れたのか、それとも取るに足らない情報だったのか……。
俺は、所長のGym Smith の顔を確認しておこうと映像ファイルを漁ったが、どんなに探しても、室内の映像が見つからない。残念だが、こちらも綺麗に消去されているようだ。残っているのは、消すのも手間だったゴミファイルのみか……。
ならばと、俺は施設の入り口を広く映している監視カメラの映像を探した。監視カメラNo.55 これのようだったが、飛ばし送りで一日分見ても、それらしき人物は映っていない。……と言うより、出入りするのは兵士しかいない。街中の研究所でもあるまいし、外出する必要は薄いからか……。
十年分見ればどこかに映っているかもしれないが、全ての監視カメラの映像に目を通すとなると、半年ほどここに篭らないとならないかもしれない。時間的に不可能だ。
「法次、これって少し変じゃない? 短いのがあるよ。施設がお休みしてたのかな?」
二十四時間分を一ファイルに区切って並べてあるのだが、確かに一つだけ六時間分程度しか撮影されていない録画ファイルがある。
2023年6月×日か。今日と同じ梅雨時だな。俺はそれを再生する。
……何の変哲も無い映像だった。どこかに構えたカメラで、どこかの道を撮り続けている。一時間……二時間……三時間……誰も現れない。俺は、動画が終わる少し手前まで進めて見た。
ガシャ……
何かが割れるような音と共に、映像が途切れた。
「法次、これって故障したのかな?」
「違う。破壊だ。誰かが故意に壊した」
侵入者か? 離れた場所から、飛び道具によって撃ち抜かれたものと推測される。
俺は、別のカメラのフォルダを調べてみる。やはり壊されたのか、同じだけの録画時間しかない。
少し考えた俺は、施設の入り口を広く映していた先ほどの監視カメラNo.55 のフォルダへ戻った。これは壊されなかったようで、二十四時間分のファイルが残っている。俺は、他のカメラが壊された朝方六時へ進めてみる。
「……こっ……これはっ!!」
そこには、驚くべき人間が映っていた。
花音は、両手で口を押さえ、目を見張る。
「法……次……?」
俺だ。俺が映っている。馬鹿な、ありえない! 五十四年前だぞ?
全身を真っ黒な服に身を包んだ俺は、建物から兵士が出てくる瞬間を狙って走りこんだ。
ガーン! ガーン!
扉内側の、電子ロックが拳銃によって撃ちぬかれた。兵士が扉を閉めようとしても、ロックがかからないようだ。
ガガガガガガ……
兵士の銃による反撃だが、接近戦では不利だと思われる妙に銃身が長い物を使っているため、俺の動きに付いていけない。次の瞬間、逆に眉間に風穴を開けられる。
「法次、つよぉ~い!」
花音は拍手をしてくれるが、……俺ならもっと効率の良い動きが出来るはずだ。
ガガガガガガ……
甘い! 判断が一瞬遅れたせいで、俺は片足を撃たれた。
ザシュッ
右手に持った戦闘ナイフで、敵兵士をすれ違いざま水平に切りつける。だが今度は、その腕が撃たれ、右手をだらりと下ろす。
「ほ…法次! 危ないっ! ……って、でも法次はここにいるんだから、これから一発大逆転しちゃうの?」
ガガガガガガ……
「えっ……嘘っ……」
俺は、鮮血を口から吹き出しながら舞った。そして、声にならない言葉を吐き出し、仰向けに倒れた。
「ほ……法次、死んでないよね? だって、今、生きているもんね? ねっ?」
花音は目を潤ませながら、俺の腕をぎゅっと抱きしめてくる。
俺は、映像を一時停止し、拡大してみる。
……背後の木や、地面の痕跡から、兵士の銃は空砲なんかじゃない。俺は、間違いなく体中に銃弾を浴びた。これで命を拾う道理は無い。俺は……いや、こいつは死んだはずだ。
助かりようが無い状況だが、もしこいつが俺なら、ここから奇跡が起こるはずだ。
俺は動画の続きを再生する。
俺の死体に銃を突きつける兵士達だったが、誰かが来たのか銃口を空へ向け、横に一列で整列をした。すると画面外から白衣の男が現れる。
こいつが……この施設の長、Gym Smith なのか? いや、若すぎるか。
白衣の男は、どう見ても俺達と変わらぬ十代だ。髪はくせっ毛で、眼鏡をかけている。
「あれっ? そんなはずは……? あれっ? お父さん?」
花音がそんな事を言う。父親の若いころに似ているのだろうか?
「法次、おかしいよ。ほら、頭を掻いた! この癖、絶対お父さんだよ!」
「……お前の父親が、Gym Smith と一緒に仕事を?」
「違うよ! だって、私のお父さんは今生きてたら、三十歳くらいのはずなの!」
「……なに?」
映っているのは幼さを残す十代の花音の父親だ。五十四年経った今、少なくとも六十五歳は越えているはずだ。
「三十歳くらいとはどういうことだ? はっきりした年齢は?」
「それが……いつもお父さんは、『そんなに若く見えるか』と言って笑ってごまかすの。本当の年齢は教えてもらったことがなかった……」
まあ、正確な歳が分からなくたって、多少の誤差程度だ。やはりこれは他人の空似としか考えられない。
だが、もし同一人物なら、この映像はもはや時空を超えた物となる。Gym Smith は、ここで夢想システム以外に何の研究をしていたんだ?
それに、花音の父親がこの施設の関係者だったとしたら、所属していたNH31は、Gym Smith の組織と何らかの関係が、もしくは同一の組織の可能性も出てくる。
Gym Smith には、夢想システム以外にもまだまだ秘密がありそうだ。
俺達は施設を後にした。
すぐに北方へ向かい、俺は花音を敵基地付近まで送り届けた。そして裕也達が心配なので、急いで自基地へ進路を取る。畑山達も、仲間相手に命を奪うことは無いと思うのだが……。
次話、2015/07/26 20時に追加されます。




