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をのこ戦記  作者: 逸亜明
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過去4


 

 しばらく花音とふれ合っていたが、いつまでもこうしてはいられない。俺……いや、俺達の前には謎が山積みなのだ。


 俺は花音と並んで座り、花音の目を見ながらゆっくりと口を開く。


「葉助について、教えてくれないか?」


 花音は小さく頷くと、落ち着いた口調で話し出す。

「私と葉助は、海の向こうの大陸で育ったの。NH31って施設を覚えてる?」


「いや、記憶に無い」


 だが、魚住中隊長は、俺を日本列島の西にある中国大陸で拾ったと言っていた。やはり、俺が藤原葉助だと言うのは動かない事実のようだ。


「NH31はね、優良な人間を作る施設なの。過去の偉人やスポーツ選手の遺伝子を掛け合わせて、能力の高い子供を作り、育てるの」


「男も、女も、どちらも作っているのか?」


「うん」


 なるほど。これは特殊な施設だ。

 

人間の遺伝子をある程度選別し、優秀な子供を作ると言うのは俺達解放軍もやっているので珍しい事ではない。だが、もちろん作るのは男ばかりだ。実は男の遺伝子、XY染色体からは女も作れるのだが、女は遺伝子異常が出ると信じられているので、作られることは今まで無かった。


 かたや機甲兵の占領軍は、女の遺伝子だけを保管しており、XX染色体からは女しか作ることが出来ないので、否応なしに女だけが作られる。そう、沙織や美樹が教えてくれた。


 つまり、NH31とは、解放軍にも、占領軍にも属さない、第三の勢力と考えられる。


「そこでね、葉助は兵士として断トツの成績を修めていたの。皆が怖がっちゃうくらい、強かった」


「花音もか?」


 すると、花音は思いっきり首を横に振る。


「私は……ビリ。何も出来ない子だったの。でも……、あの研究所の子達が変なだけなんだよ! だって……」


「機甲兵の中では、ピカいちだもんな?」


「まあねっ!」


 花音はえっへんとばかりに胸を張った。


 機甲兵が纏う機動装甲は、乗り物では無く、あくまでも運動補助装置だ。花音の機動装甲も、肩を桃色(ピンク)に塗ってあるだけで、一般兵士のと性能は変わらない。つまり、乗り手の運動能力で差が出る。今、花音が着ているぴたっと体に密着しているスーツも、生地の中に感知器(センサー)を織り込み、体の動きを即座に機動装甲に伝えるためだけの物のはずだ。


 花音が軍において特殊部隊の小隊長を任されると言うのは、その生来の運動神経による戦闘能力がずば抜けている事を意味する。


 しかし……、その花音がNH31と呼ばれる施設では劣等生になるとは……。


「それでね……あんまり成績が悪いから、立場が危うくなっちゃって……」


 花音は表情を曇らせた。


 ……まさか?


「それで……殺されると言うのか?」


「そう……なの。今から考えると、怖い所だよね。そこで育ったから、当時は良く分からなかったけど……」


 にわかには信じ難いが、こんなに細かく覚えている花音の記憶違いでは無いだろう。


「私を育ててくれたお父さんはね、……私のためを思ってね、……一緒に施設から逃げ出してくれたの」


 そんな施設が、簡単に脱走を許すはずが無い。間違いなく追っ手が……、となると、


「施設から送り込まれた追跡者が、……藤原葉助か?」


 花音は、俺の顔を見ないようにして頷いた。


「葉助だけだったのか? 他には?」


「お父さんが言うにはね、占領軍がすぐそこまで進軍して来ているから、追ってくるのは小数だろうって。たぶん、葉助一人だろうって言ってた」


「…………?」


 何か違和感があるな。まるで花音の父親は、逃げる前から俺を計画に組み込んでいたかのようだ。


 そこで花音は大きく息を吸うと、口を閉じてしばらく目を閉じ、ふーっと吐き出してから俺を見る。


「私達は崖に追い詰められた。でもそこで、お父さんが身を犠牲にして葉助に体当たりし、二人で崖から落ちていったの。……私が知る葉助は、それで終わり」


 ……不思議な話だ。葉助は、一人で追っ手を任される程の使い手だったはずだ。そんな男が、獲物の逆襲を受けて任務をしくじった? 窮鼠猫をかむと言うが、花音の父親がよほど葉助の虚を突いたのだろうか?


「……花音、父親が言ったという『彼の事を忘れるな』との言葉は、いつ?」


「あ、うん。その落ちて行く時に、私に向かって……」


『彼の事を忘れるな』


花音は『葉助の非道を忘れるな』との意味だと解釈しているが、果たして本当にそうなのか? 


いくら葉助が悪かろうが、自分と一緒に崖から落ちて死ぬだろう男の悪事を、『忘れるな』なんて最後の言葉にするのは論理的で無い気がする。むしろ、恩を受けた場合に使いそうな言葉だ。


「あのね、法次は記憶を無くしてるみたいだけど、一つ聞いて良い?」


「葉助にか?」


 花音は、頷く。


「崖から落ちるとき、どうして私をじっと見てたの? あの目が、いつまでも忘れられないの……」


 花音を……見ていた?


 そうか……それで分かった。やはり葉助は、間違いなく俺だったんだ。


「さぁ? 多分、好みだったんじゃないか?」


 俺がそう答えると、花音は顔を真っ赤にした。


「そんなそぶり、無かったよっ!」 


 口を尖らしてそっぽを向いた花音は、その後に「……あっ!」と小さく言った。


 それで、ふと俺は前に花音が教室で話していた言葉を思い出した。


「……そう言えば、花音は初恋の人がいたんじゃなかったか?」


「いやっ、そのっ、あのっ……そんな……話をしたっけ? 忘れたなぁ。あはは……」


 俺がじっと花音の顔を見ていると、急に怒り出した。


「私ばっかり法次が好きだったみたいでずるいよっ!」


 花音の頬を膨らました顔を見て、俺は笑った。



 俺は……藤原葉助は、花音が好きだったんだ。だから、殺さず、あえて父親の体当たりを食らって崖から落ちたんだ。それを悟った父親は、生かされた花音へ『彼の事を忘れるな』と言い残した。おそらく、これが真相だろう。


 しかし、謎が残る。


 花音の父親は、最初から全てを見通していた節がある。施設最強の俺が刺客として差し向けられるのを予想するのは簡単だが、俺が花音を助ける事をどうして確信出来たのだろうか?


 それに、NH31だ。劣るからと言って人間を廃棄するとは、とても普通の施設じゃない。しかも、生産している人間が強力過ぎる事から、かなりの技術レベルだ。是非調べたい所だが、その研究所があった中国大陸は昔と違って激戦地域となっている。海を渡る途中に撃墜される危険性も非常に高く、現実的では無いだろう。



 寝息が聞こえてきたので見ると、花音は俺の肩を枕にすやすやと眠っていた。

 そっと花音を横にし、俺も隣で寝転ぶ。



 花音と仲直りをし、やっと足元が固まった。

 

敵は分かっている。夢想システムを利用して戦争をけしかけている奴らだ。


しかし……これからどこへ向かえばいいのか? 


夢想システムの呪いを解いた所で、黒幕を捕らえなければまた同じことが起こるだろう。


だが、敵は影も踏ませてくれない……。


次話、2015/07/26 12時に追加されます。

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