過去2
「裕也、畑山は強い。俺と変わろう」
そう告げて俺は刀銃を抜くが、裕也はわざとらしく腹から声を出して笑う。
「わっはっは! ついに俺の強さが法次並って証明する日が来たな! 畑山が最強と噂されていたって、こんなおっさん、若い世代の力でいちころだぜっ!」
「あ? 俺はまだ二十一歳だぞ……」
畑山の目が鋭くなると、裕也の顔は引きつる。だが、俺に向かって声を振り絞って言う。
「法次! 俺がこいつをけちょんけちょんにしている間に、花音ちゃんを説得しろっ!」
「そうですよ! 僕達が時間を稼ぎます!」
正人も俺に言った。それを聞き、山のような男が巨大な刀銃を真横にぶんと振った。
「貴様のような女とも男とも見分け付かぬ子供が、自分の相手になると思っているのか? 第一、骨格が成長仕切ってないし、顔も幼い。貴様が一人前になるには、せめて…」
「話がなげーぞ、この……ブタっ!」
正人が眼鏡を外した。丸かった目が細くなり、鬼の表情に変わる。
だが、木部の方にも言ってはいけない禁句があったらしく、大きく息を吸った木部は、口を真一文字に結んで正人を見下ろす。口からきりきりと歯の軋む音がした。
「……畑山隊長、この女男を打ち倒す許可を頂きます」
「法次君、許可が無くてもこのブタをスライスします」
次の瞬間、木部の刀銃は四メートルの高さから振り下ろされた。だが、それは地面を割っただけで、正人は木部の側面に移動している。そして後ろ回し蹴りを木部の膝の裏に入れると、巨体を揺らして膝を突いた木部の頭に狙いをつける。
「終わりだ、ブタっ!」
「ふんっ!」
木部は握っていた刀銃から右手を離し、その拳で地面を殴りつけて体勢を立て直した。同時に、左手で地面にめり込んでいた刀銃を引き抜く。
轟音と共に水平に振られる木部の剣撃の方が早いと踏んだ正人は、木部の頭に振り下ろしていた自分の刀銃の軌道を変えた。
ガキンッ!
両者の刀銃が火花を散らした。
木部は片手だったが、両手で刀銃を握っていたはずの正人は地面を二度転がる。だが、その勢いを殺さないまま跳ね上がって、立て膝で着地をした。その正人に、木部が巨体とは思えない速度で迫り、正人が顔を上げた時には、正面で木部が刀銃を振り上げている。
「終わりだ、女男!」
「はっ!」
ガガガキンッ!!
上から降ってくる重い一撃に対して、正人はその刀身に三連続の切り上げを一瞬で打ち込んだ。木部はよろめいて数歩下がり、正人は数メートル地面を後ろに滑る。
ガキンッ!
裕也を見ると、畑山相手に防戦一方だった。裕也の変則的な動きも、畑山の反応速度なら確認してから悠々とかわせるようだった。
俺は、二人が稼いでくれる時間を無駄にしないように、崖際に立つ花音の下へと走る。
「花音! 沙織達から聞いているだろうが、俺には二年前からの記憶が……っ!」
その俺に、花音は拳を振り上げて返答する。
ドォーン!
花音の鉄の拳が俺の足元にめり込んだ。
宙返りして着地した俺は、反射的に刀銃を花音に向けてしまった。
「葉助、あの時とまったく同じね。……ほら、お父さんが早く自分の仇を討ってくれって、涙を流して私にお願いしているよ」
俺の刀銃に、一滴の雨粒が落ちた。二滴……三滴……、あっという間に雨足が速くなっていく。
……お父さん? 以前もそんな事を言っていた。もしかして、花音の父親は俺が殺したのか? しかし、刀銃兵であったなら、男を殺すはずがない。俺は……二年前にどこの勢力に所属していたんだ……? 機甲兵でも、刀銃兵でも無く……別の勢力? そう言えば、花音も二年前に……
「――っ!」
俺は、花音の右の拳を避けた。続いて、左の拳を避ける。
機甲兵は、両手に強力な火器を装備しているからこそ、それをこちらは用心するあまりに機甲兵の素拳も脅威となるのだが、もう武器が残っていないと分かると、その大振りな拳など目をつぶっていても避けられる。
俺は、刀銃を背に戻して言う。
「花音っ! 撤退しろっ! とにかく夢想世界で話し合いをすべきだ! 沙織も美樹も、裕也も正人も、全員が心配している!」
「葉助を殺してから、皆に謝る!」
俺はひらりと花音と位置を入れ替える。拳をかわされた花音は体勢を崩すが、すぐにこちらを向く。
山の中腹程とは言え、崖の高さは相当だ。おそらく、五十メートルはあるだろう。岩肌がほぼ垂直に切り立っている。
「葉助……。今度は……一人で落ちてね……」
花音は俺を押し出そうと手を広げてゆっくりと歩いてくる。
……どうする? 花音は冷静な判断を欠いている。花音の攻撃を避けるのは簡単だが、それだと花音が落ちてしまうかもしれない。
「葉助っ!」
花音が強く一歩を踏み出した。その足が雨でぬかるんだ土の上で滑る。
「きゃぁっ!」
ズシンッ!
花音は尻餅を突いた。とたん、俺達の足元が傾く。
「なにっ!」
周囲が四メートルに渡って崩れた。
地表が梅雨の時期に入っていたからなのか、重さ約五百キロの機甲兵が足を踏み鳴らし続ける事に崖が耐え切れなかったようだ。
「花音っ!」
落ちながら、俺は花音の腕を掴んだ。反対の腕で岩肌に生えている木の枝を掴む。
ボキンッ!
俺の首ほどある太い枝だったが、簡単に折れた。
俺達は、暗い谷底へ向かって真っ直ぐに落ちて行った。
次話、本日18時に追加されます。




