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をのこ戦記  作者: 逸亜明
24/39

過去1


 あれから三日経ったが、花音は一度も夢想世界へ来ていない。

 美樹や沙織に聞いても、業務連絡以外には花音は一言も口を聞かないので、何も分からないとのことだ。


 

そんな時、哨戒任務についていた第六番小隊が、一体の機甲兵と遭遇し、壊滅する事件があった。だが、自力で帰還した彼らは、重症だが誰も命を失っていなかった。



 その日の午後三時、俺は一人で武器庫へ入る。


 すると、正面から声をかけられた。


「おっせぇなぁ。おやつでも食ってたのかよ?」


 俺が顔を上げると、すでに完全武装した裕也と正人が立っていた。


「お前ら……? なぜ……?」


 すると、正人が眼鏡を押し上げながら俺に答える。


「僕は医療研究室(メディカルラボ)でずっと寝泊りをしているんですよ? 同系である治療室に運ばれた兵士達の噂は耳に届きますよ」


 刀銃を両手で持って柔軟体操をする裕也は、体を捻るのを止めて俺に言う。


「行くんだろ? 花音ちゃんのところへよぅ?」


 俺は、ジャケットを羽織り、浮遊装置(ホバー)を履く。


「これは、俺と花音の問題だ。それに、正人は装置の開発を急いでくれ」


「部屋に何日篭らせる気ですかっ! たまには外に出してくださいよっ!」


 正人は強く叫んだ後、口元を緩めた。


 俺が刀銃を握ったところで、裕也は昇降機(リフト)を眺めながら言う。


「法次と花音ちゃんの問題は、デコ部全員の問題だ。だから、当然俺達も行く」


「言っても聞かない奴らばかりだな。デコ部の面々は……」


 俺が昇降機(リフト)に乗ると、その後ろに裕也と正人が立つ。


「法次が一番ひどいけどな」

「断トツですよね」


 格納庫出口で操作端末(コンソール)を操作すると、正面隔壁が開いた。先には迷宮のような地下鉄跡が延びる。


「――っん?」


 俺は出口から身を出した所で足を止め、戻ってもう一度、操作端末(コンソール)を見る。


 そこには、俺達より前に基地を出撃した奴等の記録が残っていた。


「しまった……先を越された……」


 十五分前にここを通ったのは、畑山と木部だ。


「法次ぃ! やべーぞ!」


「急ぐぞっ!」


 俺達は全速力で基地を出た。



 哨戒中の六番隊を襲ったのは、もちろん花音だ。


 彼らの命を奪わなかったのは、肩が桃色(ピンク)の兵士に襲われたと証言させるためだろう。


 つまり、俺を誘っている訳だが、危険すぎる。我が基地の全員を相手にするつもりか。


 だから俺は、今日の内に中隊長へ無理やり出撃指令を取り付け、すぐさま出発したのだが……、そうだった、畑山達は小隊員三名の命を奪うきっかけを作った桃の(ショルダーハート)の事を恨んでいるのを忘れてしまっていた。


 俺達は、六番隊が花音と戦ったと言う、北西の山へ向けて荒野を飛ばした。



 

二時間程走り、辺りは随分暗くなってきた。だが、日が暮れるよりも先に、雨が降り出しそうだ。


 なんとか今日中に捕まえたい。明日になれば、数部隊が花音討伐に動くかもしれない。なんせ、花音の小隊は目立つので、やたらめったら刀銃兵達の恨みをかっている。


ドォーン……


 遠くで、擲弾発射器(グレネードランチャー)と思われる破裂音がこだましている。


俺達は西に進路を向けすぎていたらしく、若干北へと修正をする。


 裕也は、俺の心配を紛らわせようとして明るく話しかけてくる。


「でもよぉ、畑山って沙織にぼこぼこにされた奴だろ? 噂ほど強く無いから、今頃、花音ちゃんにやられて泣いてんじゃねーの?」


「裕也、実は……畑山はあの時、最初の砲撃で利き腕をやられて、満足に刀銃が振れない状態だったんだ……」


「……えぇっ?!」


 裕也は、口をあんぐりと開けた。


 だからこそ、畑山は刀銃を熱剣(ヒートソード)形態で使わなかった。狙撃(ライフル)形態で一発を狙うしか無かったんだ。奴の力量は、間違いなく一番隊隊長の大原を凌いでいる。

 


 戦闘音が響く山の中腹付近に到着した時、戦いはすでに終盤だった。


 砕け、倒された大木の間で、装甲に多数の傷を負った機甲兵が戦っている。相手は細身の刀銃兵と、大柄の刀銃兵だ。


ガガガガガガ、………………カラカラカラ……


花音の左腕から、乾いた音が聞こえた。それに気づいた畑山は、左右の動きから一転して、花音へと進路を変える。すぐ後ろには、巨体に似つかわしく無いスピードで木部が続く。


「ガトリング砲も(・)弾切れかぁ? 木部っ! 行け!」


(おう)っ!」


 畑山が花音の寸前で右に折れると、それを花音は目で追ってしまった。そこへ、木部が刀銃を振り上げて襲い掛かる。


ガキーン!


 俺達の前で、花音の剣が宙を舞った。


 ……セラミックの剣を折るとは、木部も化け物か。


 木部が持っているのは俺達のより一回り大きな刀銃兵だ。恐らく40kgはあるだろう。


 花音は山頂へ追い詰められて行く。それを追う畑山に俺は叫ぶ。


「待てっ! 畑山っ!」


 振り返った奴は、俺達の顔を見て笑う。


「俺の獲物だ。指をくわえて見ていろ」


 その畑山の顔めがけ、鋼鉄線(ワイヤー)射出装置(アンカー)の矢が飛んでくる。だが、畑山は視線を向けずに(ノールックで)それを刀銃で弾いた。


「さて、もう丸腰じゃねぇ? 終わりだな、桃の(ショルダーハート)さんよ」


 畑山は刃を返すと、伸びていた鋼鉄線(ワイヤー)を切断した。


 もう花音には後が無い。後ろは、切り立った崖だ。


 畑山達は堪えてくれそうにない。花音は大事だが、仲間も裏切れない。どうする……。


 だが、そんな俺の葛藤を打ち払うかのように、裕也と正人が畑山達と花音の間に割り込んだ。そして、刀銃を畑山達に向ける。


「神志那、どういう了見だ? ……お前ら全員が密告者(スパイ)だったのか?」

 

当然、小隊を率いる俺に聞いてきた。


 畑山は強すぎる。出来るだけ説得で済ませたい。


「畑山、夢想世界にいる女が、現実に存在する人間だと考えた事は無いか?」


「はぁ? ないね」


 畑山は即答する。確かに、俺も以前までは考えもしなかった。


 しかし、畑山はすぐに何かを悟ったのか、視線を俺と花音の間で往復させて言う。


「こいつって言うんじゃないだろうな?」


「それが分かるようになる装置がある」


「……持ってきているのか?」


 そこで、木部と対峙している正人が叫ぶように言う。


「あとは調整だけです! 一晩……いや、二時間くださいっ!」


 畑山は鼻で笑うと、刀銃を上段に構える。


「間に合えば良いけどな?」


 桃の(ショルダーハート)へ一歩踏み出す畑山の前で、裕也が刀銃を握りなおした。畑山の視線が裕也へ向く。



次話、本日15時に追加されます。

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