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をのこ戦記  作者: 逸亜明
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豹変6


「美樹っ! 和美さんっ! 優子を押さえてっ!」


 花音から鋭い声で指示が飛んだ。次の瞬間には、優子は左手を美樹に、右手を赤い(レッドヒール)に抱えられた。二人が腕を捻ると、優子の機動装甲の肘から先が外され、人の手首が見えた。


 自殺を恐れ、武装解除をさせられた優子は、空に向かって健太郎の名を叫んでいる。そして腕を抱えられたまま、美樹と赤い(レッドヒール)に彼女達の拠点方向へ連れられて行った。


「法次、じゃ……後でね」


花音は、そう言うと、美樹達の後を追う。沙織も、俺達に会釈をすると花音に続いた。


「……たまんねーなぁ」


 人一倍に健太郎の仇討ちに燃えていた裕也は、そうぽつりと呟いた。




 基地へ戻った俺は、拘束されている弘明を解放する件で、その足で魚住中隊長の下へ行く。扉横の操作端末(コンソール)で訪問を知らせると、すぐに司令官質の扉が両側に開いた。


「本多弘明伍長の件か……。法次には悪いが、技術部の用意した証拠は十分だ」


 中隊長は、赤毛の髭を触りながら、携帯型板状端末(タブレット)を差し出してきた。それには、作戦中に行っていた弘明による不審な通信記録が記載されている。 


 確かに……今考えれば、弘明が無線の調子が悪いと通信機をしつこく触った後に、必ず機甲兵が現れていた。盆地の時もそうだし、七番基地を助けに行った時もそうだった。しかし、弘明がそんな事をして何になるんだ? 盆地での戦いの時は、俺が援護に回らなければ、弘明は確実に沙織に殺されていたし……。その時の複雑骨折も、とても狙って出来る怪我だとは思えない。


 弘明が白なら、誰が嵌めたんだ? 通信機自体が残っている訳だから、記録が改ざんされた可能性は低いだろう。なら、その通信機に細工がされたのか? 


 作戦を失敗させるために、誰かが敵側に位置情報を流しているのか?



 俺は司令官室を後にした。


 弘明には、本物の密告者(スパイ)が捕らえられるまで独房で暇してもらおう。


そして、密告者(スパイ)が存在するのが確実視される今、中隊長に報告する予定だった夢想システムの隠された目的についても、正人がもう一台の迂回路(バイパス)部活性化装置を作り上げるまで黙っておくことにした。 




     ◆     ◆     ◆




 夢想世界へ来た俺は、廊下から教室の中を伺う。どうやら、花音はまだ来ていないようだ。


 何度か合図を送り、ようやく俺に気がついた美樹を廊下に呼び寄せて花音の事を聞くと、花音は優子のそばに付いているので今日は夢想世界に来ないんじゃないかと言う事だった。

 

俺はやっと教室へ入った。



「二年前って……法次と同じじゃん!」


 美樹の話に、裕也は驚いた。まさか花音も、今の機甲兵部隊に中途加入だったとは……。だが、俺と違い、正規の手順を踏んでいれば、過去の記憶を失っている訳では無い。


「それ以前はどこにいたんだ?」


 俺が聞くと、美樹は首を横に振ってから言う。


「あの子、過去の事は話したがらないから……」


 ……という事は、やはり良くない事があったのだろうか? 問題は、その時に俺が敵だったか、味方だったかって事だ。


「そういやぁ、法次は記憶が無いくせに、最初っから花音ちゃんを見覚えあるって言ってたよな? ってぇことは、……昔に付き合っていて、別れたんじゃないかぁ?」


 裕也が言うと、美樹も沙織も納得して頷いた。気を良くした裕也は続ける。


「んで、花音ちゃんは法次って気がつかないまま、また好きになった。これって、やり直す機会(チャンス)じゃねぇ?」


 美樹と沙織は「おー!」と言って、笑顔で手を叩く。


 ……本当にそうだろうか? 花音の闇は、もっと根が深い気がするのだが。


 その時、俺の背後で、教室の扉が強く開かれる音がした。


「法次ぃぃ!! おっはよぉ~!!」


 花音だ。しかもなぜか、過去最高の緊張(テンション)で登校してきた。


「とぉっ!!」


 そして、いつものように俺の腰にタックルを決める。後ろから押された俺は、今日は顔面を窓にぶつけた。


「か……花音……。優子は……?」


 後ろの花音へ顔を見せないように聞くと、明瞭な声で返してくる。


「うん、私の過去(・・)を話したら、少し落ち着いた」


 過去? そう俺は聞き返したかった。だが、後ろを向くのが怖い。顔が見られる事ではなく、花音の声のトーンがいつもと違うような気がして怖かった。言葉の一つ一つに力が込められていると言うか……。


「法次ぃ、ちゅーしてよぅ」


「はぁ?」


 後ろをちらりとだけ見ると、花音は目をつぶって唇を突き出している。何を考えているんだ?


「はやくぅ~」


 花音は首をわずかに横に振り、せがんでくる。教室中はしんとなり、裕也も沙織も、美樹も期待の眼差しをしている。


 俺がいろんな要素に戸惑っていると、花音は薄目を開けながら、ゆっくりとした口調で言う。


「はやくしないと……じかん…ぎれに…なっちゃう…よ……」


 花音の目が徐々に開いていく。俺は慌てて後ろを向こうとしたが、花音は俺の両肩を掴み、正面を向かせた。そして、目を大きく見開いた。


ドンッ!! 


 俺は胸を強く突き飛ばされた。机を何個も弾き飛ばし、背から床に転ぶ。


藤原(ふじわら)葉助(ようすけ)……やっぱり(・・・・)お前だったのか……」


 見上げると、まんまるかった花音の目がつり上がり、この世の全ての憎しみを込めた視線で俺を見下ろしている。


 ……藤原葉助だって?


「葉助ぇぇ!!」


 花音はそばにあった机を両手で持ち上げると、それを全力で投げつけてきた。だが、ここは夢想世界なので、俺には大した痛みは走らない。


 それに気づいた花音は、手に持っていた椅子を捨てた。


「葉助……あのことは……忘れていないからね……。次会った時には……殺す!」


 花音は最後の言葉を吐き捨てるように言うと、教室から出て行った。


 裕也は俺に手を貸し、起こして言う。


「ほ……法次……。天国から地獄だな……。何したんだよ……?」


 分からないが、それよりも驚いた事がある。


 葉助? どうして花音は俺をその名で呼んだんだ?


 確かに、俺の『神志那(こうしな)法次(ほうじ)』と言う名は、記憶を全て失っていた俺に魚住中隊長が与えた名前だ。本当は、『藤原(ふじわら)葉助(ようすけ)』なのか?


 だが、あのスマホに出てきた五十六年前の男子高校生の藤原(ふじわら)葉助(ようすけ)と同姓同名なのはどうしてなんだ? 偶然なのか? 花音は、あのスマホの持ち主と何か関係があるのだろうか……?



 俺達以外の一般生徒は、何事も無かったかのようにいつものように喋りだした。恐らく、遮断壁(フィルター)が働き、喧嘩では無く別の事が行われたように見えたのだろう。





次話、『過去1』は、2015/07/24(金) 22時に追加されます。

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