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をのこ戦記  作者: 逸亜明
22/39

豹変5


 …………長い。


 花音は、苦しそうに歯を食いしばり続けている。


 まさか……何か脳に障害が出ているのか? ヘルメットを壊してでも外させるべきか……?


ザッ


 ついに、花音は膝を突いた。うなり声が、大きくなる。


「う……ううう……。止めて! お父さんを殺さないでっ!」


 皆は顔を見合わせた。一体……何の話だ?


 だが、ヘルメットを外した花音はけろっとしていた。誰も笑っていないので、がっかりしている程だ……。


 父親……?


 研究所で、任意の細胞同時を掛け合わせて作られる俺達だが、確かに育ての親はいる。だが、一人に一人と言う訳じゃなく、大人一人で複数の子供の面倒を見る。「お父さん」と呼びこそすれ、役割は先生のような物だ。


 待てよ……、それは俺達『男』の話だ。


 俺達にお母さんがいないように、花音にもお父さんはいないはずだが……?



 花音の次には赤い(レッドヒール)、最後に……蜜柑の(オレンジポイント)が装置を使った。


 蜜柑の(オレンジポイント)はヘルメットを取ると、俺達ににっこりと笑う。健太郎が選ぶだけあって、大人しく、そして良い子のようだ。


「法次さん、上原健太郎と言う人を知りませんか? 歳は私と同じ十六歳で、髪は短くて、少し気弱なんですけど、すごく優しいんです」


「い……いや……」


 俺達三人は首を横に振る。


 いつかは言わなければならないが、まだ早い気がする……。


「と…ところで花音、そのヘルメット、迂回路(バイパス)部活性化装置なんだが、それをお前達の仲間に使って、夢想世界の影響を受けないようにして欲しいんだが……」


 そう花音に俺は言いながらも、ちらりと蜜柑の(オレンジポイント)を見る。彼女は、なぜだかじっと俺達を見続けている。表情はにっこりと笑顔のままだが……何かに気づいたのか……?


「え~、夢想世界へもう行っちゃダメなの?」


「いや、機器を使った後なら、俺のように影響を受けずに夢想世界を行き来できる」


「分かった!」


 ヘルメットを抱きかかえる花音の前で、正人が俺のジャケットを引っ張った。


「あの……法次君? 渡しちゃったら……基地の仲間に使えなくなるんですけど……? あれを作るのに、六日間一睡もせずに徹夜して……」


 俺は労を労うように大きく一度頷くと、正人の肩に手を乗せて言う。


「悪いが、もう一個作ってくれ。……また六日で頼む」


バタンッ!


「きゃぁ! 正人!」


 美樹の前で、正人は白目を剥いて倒れた。



 ここにいる全員に処置を施した今は、夢想世界でも現実世界と同様に、禁止語句など関係なく話せるはずだ。なら、目立つこんな場所より、夢想世界でこれからの作戦を練ろうと、話がまとまってきた。


 そんな時、不意に花音が俺の顔をじっと見て言う。


「そう言えばさあ、法次。……なんか目が違うくない?」


「ん? そうか?」


 ……花音は、以前も同じような事を夢想世界で言っていたような気がする。


 美樹は、またかと言う様にくすりと笑い、沙織に話を振る。


「私は一緒だと思うけど。沙織はどう思う?」


「長身ですし、顔も端正なままです。見た目は、まったく同じだと思いますけど?」


 美樹と沙織は、顔を見合わせて頷き合う。


 ……待てよ。


 俺は、胸の奥から嫌な予感が噴き出した。


見落としていた……。夢想世界で俺の顔に遮断壁(フィルター)が掛かっていたという事は、現実世界で花音は俺の顔を知っていると言う事だ……。

 

一体……どこで?


 まさか、二年以上前の、俺の記憶が無い部分で……俺は花音と会っているのか?


「法次、そのマスク……とってくれない?」


 指差す花音の前で、俺はとっさに自分のフェイスマスクを押さえた。


「……空気が……悪くてな。ここでは外せないんだ」


「風邪? じゃあ、また今度ね!」


 花音は、いやに簡単に納得してくれた。いつもなら、「見せて見せて」と意味なく食い下がってくるのだが……。まあ、現実世界での敵が敵で無かったと判明した今、考える事がたくさんあるのあろう。 


 とりあえず俺の顔を晒す前に、沙織か美樹に花音の過去について聞く必要があるな……。



「じゃあ、そろそろ帰りましょうかぁ!」


 花音が腕を突き上げる。


花音は、最近何か気分が晴れないでいたようだったが、これで元気を取り戻してくれたかもしれないな。



 俺達は背を向けて北と南に分かれる。


 

……だが、動こうとしない者が一人いた。それは、健太郎の彼女であった蜜柑の(オレンジポイント)・優子だ。


 俺が彼女に視線を向けると、さっきまで微笑んでいたはずなのに、いつの間にかまったくの無表情に変わっていた。背中にひやりと冷たい物が流れる。


「法次さん……。確か私達って、一度戦っていますよね。盆地そばの渓谷付近で」


「……そうだったかな? 悪いが、覚えていない」


 俺は、優子にそう答えた。


「あの時、沙織さんと私が、二人で足止めを引き受けました。その間に、花音さん達は山岳地帯へ移動した。だけれど、花音さんのお目当ては、敵軍のしんがり小隊にいたんです。私と沙織さんは、彼と戦った。噂通り、とても強い刀銃兵達でした。私は結局負傷したのですが、運よくその前に……一人の刀銃兵を倒す事が出来ました」


「……そうか」


 俺は、優子の顔から目が逸らせなくなっていた。気を抜けば、膝が震えだしてしまいそうだ。


「健太郎は、私に良く言っていました。とてもお世話になっている友人が三人いると。一人は、長身で頼りがいがある人。もう一人は、いつも明るくて友達思いの人。もう一人は、生真面目で芯の強い人。……それって、法次さん達じゃありませんか? 健太郎は、あなた方の小隊に所属していたんじゃないですか?」


「…………」


 俺が黙っていると、裕也がおどけたように言う。


「ほ…法次ってさあ、確かに背は高いけど、頼りがいがあるってより、ただ単に暗い奴だと思うけどなぁ。べ…別人じゃねーの?」


 すると、正人も手をぱちんと叩いて思い出した振りをする。


「そ…そう言えば、同じ基地に畑山って隊長がいるんですよ! あの人は長身で、とても強いんです! その人の事じゃないですかねぇ?」


 優子が何を言おうとしているか、俺達が何を隠しているのか、それを全て察した沙織は、青ざめた顔で優子へ走り寄って腕を掴んだ。


「一緒に戦った私には分かります。あの時の相手は、法次さん達ではありま…」


「さわらないでっ!」


 沙織は、バランスを崩すほど強く振り払われた。


「刀銃兵を思いっきり殴った時、私は思ったわ。人造ロボット(アンドロイド)って聞いているけど、意外に柔らかい体をしているんだなって……。その日の晩から、健太郎は姿を消した……」


 優子は、涙を溢れさせながら機甲兵である自分の両手を見ている。


「健太郎を殺したのは私……。この手で、彼を殴り殺した……。不幸なんて気取っちゃってさ、自分の手が彼氏の血で真っ赤なのにも気が付かないんだよ……。その手で泣いて、ご飯を食べて……私は生きていた……。すごく無神経でしょ……」


 優子は、左手を自分の頭部へ持って行く。ガトリング砲がこめかみに向けられた。



次話、2015/07/19 20時に追加されます。

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