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をのこ戦記  作者: 逸亜明
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豹変4

「正人っ! 出来たのかっ?!」


 正人は俺の前で停止すると、睡眠不足なのか焦点の定まらない空ろな目でヘルメットを差し出してくる。そばに来て気づいたが、ヘルメットよりも目の下のもの凄いくま(・・)が気になって仕方が無い。


「これが噂の幻を解く装置かよっ? 正人」


「そうですよ裕也君。それじゃ、裕也君が一番に……」


 周りを見回した正人は、正面に桃の(ショルダーハート)紫天使(パープルエンジェル)がいるのにようやく気づいた。


「うわっ! びっくりした! まだ戦ってたんですかっ?! てっきりもう終わっているかと……」


 なるほど。正人は、木部に場所を聞いてきたのか。


 正人は壁の文字にも気づき、事態をすぐに察したようだ。


「法次君、まずいですよ……。もう機甲兵達は撤退しました。すぐにここにも味方の哨戒兵が見回りにきますよ」


 正人に言われて気づいたが、そう言えば他の場所から聞こえていた戦闘音が止んでいた。機甲兵は様子見に留めて、すぐに去ったのか。


「法次、場所を変えようぜ」


 裕也が俺に、ある場所の名を告げる。俺は、その場所の座標を、刀銃で再び壁に刻み込んだ。そして、俺達は浮遊装置(ホバー)を吹かし、すぐにその場から立ち去る。振り返ると、桃の(ショルダーハート)達は俺達の背中をずっと目で追っていた。


「法次、沙織達は来てくれるかな?」


 少し考えた後、俺は裕也に言う。


「慎重な沙織はともかく、花音は絶対に来る」


「……そうだな。それに、デコ部の部長だしな」


 俺達は揃って頷き、待ち合わせ場所へと向かった。



 途中にあった崩れた建物に入り、俺達は浮遊装置(ホバー)を停止させる。

 裕也に迂回路(バイパス)部活性化装置を使い、夢想システムの洗脳を解かねばならない。


 正人に差し出されたヘルメットを、裕也は恐る恐る手に取る。側頭部、後頭部が妙に膨らんだ不恰好な形だ。顔の部分は開いているが、目の部分に暗いゴーグルがかけてある。


「そんな怖がらないでください。僕は既に試しました。効果の程はまだ分かりませんが、命に別状はありません」


「かぶっている所を沙織に見せられないくらい格好悪いヘルメットだな……」


 文句を言いながら、裕也はヘルメットをかぶった。なぜか自動的に金属ベルトで顎をロックされる。


「なっ……とれねーぞ!」


 驚いてヘルメットを脱ごうとする裕也の頭を、正人が両手で押さえる。


「治療中に中断すれば危険なので、終わるまで外れません! 動かないでっ!」


「そういう事は先に……ううっ……うう……う……う……」


 正人が押さえずとも、裕也は頭を抱えたまま動かなくなった。小さな唸り声だけが微かに聞こえる。


 心配だが、先にテストした正人が大丈夫だと言うのだから、問題は無いだろう。


「うう……うそっ……まさか……」


 裕也が何か意味のある言葉をつぶやき出した。まあ、脳を刺激しているのだから、このくらいは想定内か。


 裕也の口元が、だらしく緩んだ。よだれが流れ出しそうだ。


「うわぁぁ! 沙織ぃ! どうして服を着ていないんだよぉ! やめろってぇ!」


 俺の口が、あんぐりと開く。なんだ? 何か妙な夢でも見ているのか?


 正人を見ると、両手で顔を隠し、肩を震わせている。


 身をよじっている裕也だったが、ようやく顎の金属ベルトが外れた。正人は裕也が被っているヘルメットを掴み、上にすぽんと脱がした。


「どうでした裕也君。言い忘れていましたが、装置の作動中は、日ごろ強く考えていることや、願望が、目の前に浮かんだり(フラッシュバック)する事があります」


「はぁ……はぁ……」


 裕也は荒い息を吐きながら、震える手を正人へ伸ばす。


「正人…………もう一回使わせてくれ……」


 そして、ヘルメットを奪い取ろうとする。


「二度やっても意味ないですよ! それに待ち合わせ場所に早くいかなきゃ!」


 始まったヘルメット争奪戦を俺は制し、すぐに出発した。




 遠くにそびえる鉄骨の塔。

足元は大きく、途中で折れているのに五十メートルの高さがある。軍事用だったのか民間用だったのか不明だが、正人が以前試算したところ、最大で600メートルの建築物だった可能性があるとの事だ。


絶対にこの国を象徴するような物だったと裕也は言い張るので、俺もこれの近くを通るたびに、使用目的を想像していた。


現在の世界は距離によってしか座標を割り出せないので、今回はあまりにも目立つここを桃の(ショルダーハート)達との集合場所にした。


 到着すると、鉄骨の塔の下には隠れる様子も無く立つ二人の機甲兵がいた。裕也と正人が遊んでいたので、先を越されたらしい。


「沙織ぃ、待ったぁ?」


 裕也は紫の天使(パープルエンジェル)に声をかける。当然相手は無言を返す。


「法次、どういうことだよ? 沙織は緊張して声が出ねーのか?」


 正人のため息が聞こえる中、俺が裕也に言う。


「お前はさっきの正人の話を聞いていなかったのか? 相手にも装置を使わないことには、俺達の声は聞こえないんだ」


「あ! そうだっけ? んじゃ、裸になるのはそれから?」


 沙織を自由に操れると勘違いしている裕也を押しのけ、俺は桃の(ショルダーハート)の前へと進む。すると、俺達の周囲に気配が現れた。


「法次っ!」「法次君っ!」


「抜くな!」


 裕也と正人は、背の刀銃に手をかけたまま右後方と左後方へ睨みを利かせる。


 俺は、ゆっくりと首を動かし、辺りを見回す。


 右に一列の宝石(ジュエルライン)、左に赤い(レッドヒール)、後方に蜜柑の(オレンジポイント)か……。まあ小隊員五人をそろえてくるのは想定内だ。これだけなら、すぐに攻撃はしてこないだろう。もし桃の(ショルダーハート)がまったく俺達の事を信じていなければ、数部隊に囲まれて俺達三人など瞬殺されている。



 俺は、ヘルメット型の迂回路(バイパス)部活性化装置を高くかかげると、その姿勢のまま十歩進み、ゆっくりと地面に置いた。そして、桃の(ショルダーハート)の目を見ながら後ろへ十歩戻った。


「何あれ? あのダサいヘルメットをかぶれって言っているのかな?」


「罠……にしては、違和感があり過ぎますね……」


 桃の(ショルダーハート)と紫の天使(パープルエンジェル)から、花音と沙織の話し声が聞こえてきた。裕也と正人の顔を見ると、二人は目を見張っている。


 花音達はかなり疑っている。当然だ。ヘルメットが急に爆発する敵の作戦かもしれない。だが、そんな事をして一人を葬ったとしても、次の瞬間には俺達はガトリング砲の蜂の巣になるんだ。有り得ないと考えてくれ。


『デコ部』、その一点で信じて貰うしかない。だが、見合うだけの、独創性(オリジナリティ)のある俺達だけの言葉だ。どうだ? 信用してくれ……頼む……。


「――っ!」


 右にいた一列の宝石(ジュエルライン)が、左手のガトリング砲をヘルメットに向けた。そのまま花音の下へと歩いていく。


「怪しいよ。壊しちゃおうよ」


 声が聞こえた。この声は……


「美樹っ! 僕だよっ! 美樹っ!!」


 正人が駆け寄ると、一列の宝石(ジュエルライン)は狙いを正人に定めた。足を止めた正人だが、手を振り体を振り、一列の宝石(ジュエルライン)に訴えている。


「なにあいつぅ~。キモいんですけどぉ~」


 冷たい美樹の言葉が胸に突き刺さったようだが、正人は涙目のまま訴え続ける。


 その正人へ、裕也が声を張る。


「正人っ! お前だと分かる、何かないのかよっ! 美樹ちゃんだけに見せた、裸踊りとかよおっ!」


「ありませんよっ! 裕也君こそ、沙織さんにだけ見せた、腹芸とか無いんですかっ?」


「ねーよ! 法次っ! 花音ちゃんだけに見せた、尻文字とか…」


「静かにっ!」


 俺が叫ぶと、裕也と正人は黙った。その横を、足音が通り過ぎる。


 ……蜜柑の(オレンジポイント)


 蜜柑の(イラスト)を胸につけた彼女は、俺達の横を無言で通り過ぎた。そして、地面に置いてあったヘルメットを拾い上げる。


「……私が被ってみる。もしこの刀銃兵達が、夢想世界から来た人間だったとしたなら……健太郎の事を知っているかもしれないし……」


 それを聞いた正人と裕也は息を飲み、俺に視線を向けた。俺は、黙って頷く。


 健太郎の仇である蜜柑の(オレンジポイント)は、健太郎の彼女であり、いなくなった健太郎をずっと探している……。もしかしたら、蜜柑の(オレンジポイント)には夢想世界の秘密を知らせない方が良いかも知れない。だが…………。

 

「危ないよっ!」


 花音が言うが、蜜柑の(オレンジポイント)は首を横に振る。


「健太郎がいなければ、どちらの世界も私には意味が無いし……」


「わかったわよ! 私が先にやるっ!」


 蜜柑の(オレンジポイント)の手からヘルメットを取ったのは、一列の宝石(ジュエルライン)だった。


「優子は十分苦しんでいるんだから、これ以上は苦しまなくて良いんだよ!」


「でも、美樹には正人君って人が……」


「大丈夫! それに……」


 そう言うと、一列の宝石(ジュエルライン)は正人へ視線を向けた。


「さっきはあんな事言ったけど……、実はあそこにいる奴、不思議と正人っぽいのよね。顔はまったく違うけど……」


 正人は慌てて手鏡を出し、マスクを外して顔と髪型をチェックする。そこを裕也に肩を叩かれ、「だから、見えていない顔を、見えるようにする装置だろ?」と、今度は逆に諭されている。

 

 一列の宝石(ジュエルライン)がヘルメットを顔の前に掲げると、装甲鎧の頭部が真っ二つに割れた。そこから現れたのは美樹の顔だ。兜が背中側へせり下がると、美樹のパーマがかかった茶色い髪がふわりと肩にかかる。


 美樹がヘルメットを被ると、すぐにロックがかかった。裕也の時のように少し苦しむような様子を見せた後、口を開いた。


「ダメ! 正人、裕也君と一緒にいたら、下品になっちゃうよ!」


「あぁっ?!」


 反応したのは当然裕也だ。裕也はぴくぴくと頬を震わせながら、正人に視線を向ける。


「なんだよ……。いつも二人でそんな話しているのかよ……?」


「ちっ……違いますよ! ほんの一度……二度、……三度?くらいですよ……。あっ! それより、見てくださいっ!」


 正人が美樹を指差すと、丁度金属ベルトのロックが外れる所だった。


「なんか……裕也君の腹踊りを見て気分が……」


 顔をしかめてヘルメットを外した美樹は、俺達を見る。すると、ゆっくりと驚く表情に変わった美樹は、正人に向かって笑顔で叫ぶ。


「正人っ!? ま……正人っ!! まさとぉ~!」


 美樹は両手を広げ、正人へ向かって走る。正人も、同じように両手を広げて美樹へ向かう。


ドカーン!


 跳ね飛ばされた正人は、五メートル吹っ飛んだ。車両に跳ねられたようだった……。


「ご…ごめん正人……」


「いい……んだよ、美樹……」


 美樹は、鼻血を出した正人を拾い上げ、両手で抱え上げる。正人の足は地面から離れてぷらんぷらんしており、まるで大人が子供に遊んであげているようだが……とりあえず一安心だ。


 その様子を見ていた花音は、美樹に言う。


「え~、どこが正人君なの? 顔が全然違うじゃんかぁ?」


「正人だよ! さっきまで見えてた顔は何だったんだろ? ほら、花音も良く見てよ!」


 美樹は、正人の顔を何度も指差すが、花音は首を捻る。


「美樹、花音達にもヘルメットを被るように言ってくれ」


 美樹は俺に頷くと、迂回路(バイパス)部活性化装置のヘルメットを花音へ持って行きながら言う。


「花音、あのバカみたいに強かったのって、法次君だったみたい」


「えっ?! ウソッ! ご……ごめん……。ボス人造ロボット(アンドロイド)だと思って追い回してた……」


 苦笑いをする花音の横で、沙織が眉をひそめて深刻な表情をしている。


「皆さん、簡単に受け入れられる事ではありませんよ。つまり、私達が戦っていた相手は、殺人アンドロイドなんかじゃなく……同じ人間だったということですよ」


 ようやく、花音、美樹、赤い(レッドヒール)と橙の(オレンジポイント)が凍りついた。


 そうなんだ。俺達は男女に分かれて、人間同士で殺しあっていたんだ……。


「貸して下さい!」


 沙織は美樹からヘルメットを奪い、被った。すぐに叫ぶ。


「裕也さん、胸をじろじろ見ないでくださいっ!」


 ヘルメットを外した沙織は、裕也を見て笑顔になった。だが……裕也は、ばつが悪そうにしている……。


「え~。なにぃ? 一言ネタコンテストやってるの? 私は何を言って笑わそうかなぁ」


 興味津々な表情で、花音はヘルメットを被った。



次話、2015/07/19 12時に追加されます。

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