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をのこ戦記  作者: 逸亜明
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豹変3



 畑山達が浮遊装置(ホバー)を止めて足音を消したので、どこにいるのか見失ってしまった。だが、必ず近くに身を潜めているはずだ。何とか理由をつけて桃の(ショルダーハート)から遠ざけたいのだが……。


「法次! 思ったよりも先だ!」


「しまった!」


 一ブロック先の角から現れたのは、やはり桃の(ショルダーハート)だった。しかも、隣には裕也が健太郎の仇と狙う紫の天使(パープルエンジェル)もいる。そして、その手前の路地には、真っ赤な刀銃を持つ畑山達がいた。


 俺達は、広い通りに出て全速力で向かう。


ヒュゥゥゥゥ……


 僅かにだが空気を切り裂く音が聞こる。ガトリング砲の弾や、鋼鉄線(ワイヤー)射出装置(アンカー)では無い。もっと速度が遅い物だ。 


ドォーン!!


畑山達のすぐ前方で、爆発が起きた。二人は吹っ飛び、地面をこちらへ転がってくる。


榴弾、擲弾発射器(グレネードランチャー)かっ!


信じられない。爆弾を放物線上に飛ばす武器である擲弾発射器(グレネードランチャー)をあらかじめ上空に向けて発射し、畑山達が角から飛び出してくる瞬間に着弾させた。


やったのはやはり紫の天使(パープルエンジェル)か。左手の砲からうっすらと白い煙を出している。今日はコンクリート壁が多い市街戦と言う事で、武器を火炎放射から擲弾発射器(グレネードランチャー)に換装してきたようだ。



 畑山達の救助へ向かうと、俺達に気づいた畑山はすぐに立ち上がった。だが、木部は倒れたまま苦しそうに体を揺らしている。


「木部! 大丈夫か!」


 畑山が声をかけると、木部はよろよろと体を起こし、ふらつく足で立ち上がって見せた。


「大丈夫です……。頑丈が……取り得ですので……。そもそも、私の体は鍛えに鍛え…」


「黙って安静にしてろ!」


 畑山は怒鳴ると、刀銃を桃の(ショルダーハート)に向けた。


 だが……桃の(ショルダーハート)が何か目配せをした動きをすると、頷いたように見えた紫の天使(パープルエンジェル)が前に出た。そして、桃の(ショルダーハート)は横に数歩歩くと、こちらを向き、明らかに俺に視線を向けて手招きをする。


 畑山は、肩を震わせながらぎりぎりと刀銃を握りこむ。


「なるほど……桃の(ショルダーハート)は、神志名(こうしな)小隊長がお目当てかよ。あの時も、戦ってみて神志那じゃないから、途中でやめたんだな……」


 畑山は、自分をよく覚えておけとばかりに、フェイスマスクを外し、投げ捨てた。


「待て畑山、木部が……」 


 俺が木部を見ると、木部は刀銃を杖のように地面に突き、焦点の定まらない目をしている。おまけに、だらりと下げた左腕には酷い裂傷がある。


「よくも木部をっ! 余裕綽(しゃく)ってんじゃねーぞ、お前らっ!」 


 畑山は躊躇無く機械兵に向かった。普段飄々としている男だが、付き合いの長い木部が怪我をした事に逆上してしまったようだ。


「死ね!」


 畑山は青く光る刀銃を両手で握り、紫の天使(パープルエンジェル)に向かって切りかかる。紫の天使(パープルエンジェル)は、左足を一歩後ろに動かす事で、軽々とかわした。


そんな大振りが通じる相手じゃ……? ――っ!?


「バカがっ! 引っかかりやがった!」


 畑山は体勢(バランス)を崩した振りをしながら、刀銃を抱えてその切っ先を正面左の紫の天使(パープルエンジェル)へ向けていた。


 そうか! 最初から刀銃は青く(・・)光っていた。つまり、熱剣(ヒートソード)モードで無く狙撃(ライフル)モードで、畑山の狙いは至近距離からのプラズマ砲か!


 しかし……。


バシュッ!


 放たれた青いプラズマは、少し離れた地面を削り取るだけで消えた。


紫の天使(パープルエンジェル)は次の一歩で距離を詰め、畑山の刀銃を側面から手で押し、狙いを外させている。


「畑山、逃げろっ!」


 俺の声で視線を動かした畑山は、すぐそばで腕を振り上げている紫の天使(パープルエンジェル)をようやく見つけた。


ベキッ!


 弾かれるように畑山は転がって避けた。だが、左肩を完全に砕かれている。


「下がれ畑山! 木部、畑山を連れて撤退! こいつらは、俺と裕也で止める!」


「バカを…ぶはっ……」


 畑山の口から大量の血が吹き出した。恐らく、肩どころか肋骨まで砕け、その破片が散弾となって内臓に突き刺さっているはずだ。


「木部!」


 俺がもう一度名前を呼ぶと、木部は右腕で畑山を担ぎ上げて浮遊装置(ホバー)を吹かした。


 畑山はそんな木部に何か叫んでいるが、口が血で一杯のため声になっていない。そして木部は、敵の様子を探りながら後ろに下がり、背を向けると基地の方向へ一直線に走った。


 ……なんとか誰の命も失わずにすんでいる。だが、これからだ!


「裕也、お前は紫天使(パープルエンジェル)への牽制に徹し…」


「法次っ! 横っ! 横っ!」


 気がつくと、桃の(ショルダーハート)が次は私の番だと言いたげに、右側から旋回して俺に向かってきていた。


ガキンッ


 俺は桃の(ショルダーハート)の剣を受け流し、背後に回りこむ。だが、そのまま距離をとった。


「健太郎の仇ぃぃぃ、うわっ、うぉぉぉぅ!」


 裕也の叫び声がしたのでそちらを見ると、紫天使(パープルエンジェル)の剣を裕也がエビ反ってかわすところだった。そしてそのまま裕也は背を紫天使(パープルエンジェル)に向けると、更に回転して裏拳のように右手で持った刀銃を水平に振る。


バシュッ!


 裕也へガトリング砲を向けようとしていたs紫天使(パープルエンジェル)だったが、その砲身を切り落とされた。


 裕也の技量は、比べるまでも無く畑山より下だ。だが、戦いには相性と言う物がある。


 紫天使(パープルエンジェル)は、超防御型であり、その卓越した勘の良さで敵の攻撃を避ける。つまり、敵の攻撃が読める訳でもあり、ならば己の攻撃も出せば当たると言う事になる。


 だが、裕也の戦闘スタイルは、独学の変則的(トリッキー)であり、達人であるほど動きを予測し辛いだろう。簡単に言うと、その場の思いつきとノリで動く。桃の(ショルダーハート)のような鋭い反射神経を持つ本能型じゃないと、裕也を捕まえられないだろう。


「おらぁ! さっきの勢いはどうしたぁ!」


 裕也が垂直に振った刃は、紫天使(パープルエンジェル)の兜に縦の傷をつけた。


……まずい! 駄目だ裕也!


「健太郎の仇ぃ!」


 裕也は、ここに来て突きを使った。突き出された刃は、真っ直ぐに紫天使(パープルエンジェル)の胸へ向かう。


ガキンッ!


「……えっ? 法次……なんで?」


 桃の(ショルダーハート)を置いて裕也へと走った俺は、裕也の刀銃の側面に刀先を当てた。裕也の刃は逸れ、紫天使(パープルエンジェル)の脇の下を抜けた。


紫天使(パープルエンジェル)の反撃を用心し、俺達は一旦距離を取り下がる。


「何すんだよ法次! あとちょっとで紫天使(パープルエンジェル)を倒せたのによぉ!」


 口を尖らせる裕也に俺は告げる。


「裕也、紫天使(パープルエンジェル)は沙織だ」


「だからぁ、あとちょっとで沙織を倒せ……? はい? ……沙織?」


 裕也は目をぱちくりさせ首を傾げた。


 俺達と向かい合う桃の(ショルダーハート)達も、俺の行動をいぶかしんで様子を伺っているようだ。


 一瞬固まっていた裕也だったが、当然のように信じてくれない。


「沙織と何処が似てるって言うんだよっ! あんなごつくねーし、目ももっと大きいぞっ!」


 どうやって裕也に分かって貰えば良いんだ。正人でさえ、女の遺伝子と俺の脳の内部を見せなければ納得しなかった。それに、桃の(ショルダーハート)達もいつまでも待っていてくれないし……。


 何か手は無いか?


 言葉は、桃の(ショルダーハート)ら機甲兵には通じない。


 畑山のようにフェイスマスクを取って顔を見せたとしても、桃の(ショルダーハート)達には別人に見えているだろう。


 筆談はどうだ? いや、脳に細工されている訳だから、『法次』や『花音』のように、夢想世界につながる語句を書けば違う名前に変換されて見えてしまうだろう。


 夢想世界で使いつつ、脳に仕掛けられた禁止語句に引っかからない言葉は無いか?


 お互いが理解しているのに、夢想システムの裏をかけそうな独創性のある言葉は?


〈葉助、あれよ〉


「――っ!」


 例の声が聞こえた。その瞬間、彼女の日記を思い出し、スマホを思い出す。


 ……そうだっ!


 俺は、通りを横に歩き、灰色の瓦礫の前に立った。

 そして刀銃を握ると、瓦礫の壁に文字を刻む。



『デコ部』



 マスクの下で口をあんぐりと開けただろう裕也は、俺に言う。


「法次、何を急に……?」


 だが、効果はすぐに現れた。桃の(ショルダーハート)紫天使(パープルエンジェル)は後ずさり、二体で顔を見合わせては壁の文字を指差している。

 

よしっ! 見えている! 


 それに、この件で僅かな疑いも消えた。やはり、桃の(ショルダーハート)紫天使(パープルエンジェル)には、デコ部の部員、花音と沙織が入っている。


 裕也も、『紫天使(パープルエンジェル)が沙織』、『デコ部』、『二体の様子』、この三要素を目の当たりにして、急速に事実を受け入れ始めているようだ。


「でもよ……法次、沙織が仮想世界の住人じゃなくて、実在していた……って、言いたいんだろうが、どうして俺達を見ても反応が無かったんだ? 実は俺の事、嫌いだったのかな?」


 がっくりと刀銃を下ろす裕也に、俺は言う。


「夢想世界と、現実世界。実は、幻が掛けられていたのは……現実世界の方だ。その幻を解く装置を、今、正人は開発している」


「幻を解く? つまり、それがあればどうなるんだ?」


「沙織と、現実世界で心行くまでデートが可能だ」


「……マジ?」


 裕也の手に力が戻ってきた。


 しかし……これからどうする?


 ほぼ裕也は信じただろうが、花音達は半信半疑だろう。いや、三信七疑くらいか。戦闘する意思は感じられないが、ここで一旦解散となれば、次に会った時はまた襲ってくるに違いない。


 そんな時、俺達の後方から救世主が現れた。そいつは浮遊装置(ホバー)を吹かし、一直線にやってくる。手には、なにやら大型ヘルメットのような物を持っている。


「法次く~ん! 法次く~ん!」



次話、2015/07/18 20時に追加されます。

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