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をのこ戦記  作者: 逸亜明
17/39

疑惑5





「…………」


 目を覚ました時、俺は白い天井を見ていた。体の周囲は水で覆われている。声が出ないのも、この高酸素水が肺を満たしているからか。


 俺は、透明のカプセルを内側から叩いた。音に気づいた白衣の男は驚いた顔で振り返り、すぐに操作端末(コンソール)に手を触れる。あっという間に水が引き、カプセルの蓋が開いた。


「ゴボッ……ごはっ……はっ……は……。ふう」


 水を全て吐き出した俺は、脇腹に触れてみる。桃の(ショルダーハート)にえぐられた左の脇腹は、綺麗に再生を終えて元通りになっていた。


 白衣の男も俺の傷を確認し、興奮した口調で言う。


「運び込まれて、まだ一週間だよ! 記録に無いほど早い回復力だな!」


一週間……か。骨折を三日で治した時も皆に驚かれたが、再生治療にも俺の治癒力は奮闘してくれるようだな。


俺は医療隊員に礼を言い、そばに折りたたまれてあった軍服を身につけた。


部屋の中を見回すと、高度治療カプセルに入っている一番隊の面々もあった。失った手足の修復度は、まだ三割程度のようだ。


次に操作端末(コンソール)で前回の作戦を確認する。第七番基地は遺棄され、生存者は四割弱のようだ。位置的に、次に狙われるのは、この第八番基地の可能性が高いな。



 俺が治療室を出ると、連絡を受けたのだろう正人が廊下の先から走ってきた。


「もう治ったんですか! 相変わらず早いですね! 久しぶりの治療室はいかがでしたか?」


 そう言えば、お前に手首を折られた時以来だな……との言葉は飲み込み、俺はこんな時には一番に駆けつける裕也の姿が無いのを不思議に思った。その視線に正人は気がつく。


「ああ……。裕也君ですか……。彼は今、体調が優れなくて……」


「ん? あの後、負傷したのか?」


「いえ……。そうじゃなくて……」


 正人は言葉を濁す。その時、俺の頭にある女子の顔が浮かんだ。


「……沙織か?」


「ええっ!! ど……どうして分かったんですかっ?!」

 

聞くと、沙織はここ最近、学校へ来ていないそうだ。だが、美樹が言うには、近々登校してくる予定で、心配ないらしい。


「そうか……。怪我は大した事無かったか。良かった」


「沙織さんは怪我を……しているんですか? でも、どうして今まで眠っていた法次君がそれを知っているんです??」


 狐につままれた顔をする正人に、俺は言う。


「正人、俺の刀銃はどうした?」


「えっ? えっと、もちろん兵器庫に戻しました。ジャケットとかは血で汚れていたので、廃棄しましたが」


「少し付き合ってくれ」


 俺は正人を連れ、兵器庫へ向かう。装備品が入れられているロッカーを開けると、俺の刀銃が納められていた。


 俺はそれを手に取り、刃を眺める。正人も横から、何事かと刀銃を見ている。


「故障……ですか? そう言えばあの時、法次君の調子が悪かったのはそれが理由です?」


「正人、この刀銃の刃についてどう思う」


 俺は、刃を正人の眼前にかざす。じっと見ていた正人は、首を傾げた。


 ……やはり見えていないか。


 実は、俺にはうっすら見えている。


 この刀銃の刃には、あの時切り落とした紫の天使(パープルエンジェル)の腕の血、沙織(・・)の血がこびりついている。刀銃を熱剣(ヒートソード)モードにしていなくて良かった。


「次ぎ行くぞ」


「えっ? どっ…どこに?」


 俺は刀銃の刃から固まった血痕を削り取ると、それを手のひらに乗せて生体(バイオ)研究室(ラボ)へ向かう。


 中に入ると試験管に血の欠片を入れ、分析器に突っ込む。


「見ろ、正人」


 表示画面に、遺伝子情報が表示された。人間はだませても、やはり機械には通じないようだ。


「こっ……これは……そんな……ありえない……」


 正人は、画面を食い入るように見ている。


 画面には、XX型の染色体(DNA)が表示されていた。つまり女の遺伝子。この世界では絶滅したと考えられていた物だ。


 正人は振り返ると、顔を突き出して俺に聞いていくる。


「この遺伝子をどこでっ?」


「刀銃の刃に付着していた」


「自然界にっ?」


 しばらく下唇を噛んで考えていた正人だが、何かを思い出したかのように顔を上げる。


「この刀銃で最後に切ったのは……確か……紫の天使(パープルエンジェル)じゃなかったですか?」


「奴らの中には、……女が入っているのかもしれない」


 俺の言葉に息を飲み、正人は後ろの椅子に足をぶつけると、それにへなへなと座った。



 俺達男は、女のXX染色体に対し、XY染色体だ。つまりXとYの二つの染色体があるので、実はXを二つ重ねて女も作り出せる。だが、数十年前に使用された化学兵器により女性は生きられないと信じられているので、人工培養によって作り出される子供はいつも男子だ。俺も、正人も、裕也もそうして作られている。そんな世界に、女の遺伝子が、しかも自然界にあると言うのは常識を根底から覆す。



「し……しかし……、でもっ! 鎧の中は空じゃないですかっ! 対話もしてこないしっ! 世界のどこにも、女性の姿は無いですっ!」


 立ち上がって力説する正人に俺は言う。


「俺達が見えないのと同様に、相手にも遮断壁(フィルター)がかかっているのかもしれない。それに、本当に世界のどこにも(・・・・・・・)、女の姿は無いのか?」


「僕は見たことなんて……あっ!」


 息を飲んだ後、正人は震える唇で言う。


「ま……まさか、夢想世界……。美樹は実在し、て…敵の中に……?」


 深く考えるより先に、まだ調べたい事がある。


 呆ける正人を引きずり、今度は医療研究室(メディカルラボ)へ入る。



 ベッドで俺が仰向けで寝ていると、足元から半円状の銀の輪がせり出してくる。その輪は、俺の体の上をゆっくりと通過し、顔の正面で止まった。そして、何度も首から上を往復し、俺の脳を解析(スキャン)する。これが五分程続いた時、正人の慌てる声が聞こえてきた。

 

「ちょ……ちょっと見てください法次君!」


 機器が停止し次第、俺は急いで操作端末(コンソール)前に座っている正人の下へ行く。


「ここです! ここと、ここっ! 法次君の側頭葉、および後頭葉の一部に、微細な損傷があります。周囲組織の細胞年齢からコンピューターが割り出した数値は、どちらも二年前。確率は97%です」


「やはり、俺が記憶を失うきっかけになった頭部強打の時に、脳に異常が生じていたのか」


「ほ……法次君の言う通りかもしれない。夢想システムは……まさか……」

 

正人は指で額の汗を拭うと、操作端末(コンソール)を操作する。すると俺の脳が分割され、側頭葉と後頭葉が部位ごとに拡大表示された。


「知っての通り、側頭葉は記憶の部分です。それ以外にも、聴覚に関係があります。そして後頭葉は、視覚を制御しています」


「という事は、夢想システムが、記憶、聴覚、視覚に干渉しようとしても、壊れた箇所がある俺には操りきれない部分が出るってことだな」


「その通り。まさに、洗脳失敗(エラー)です」


やはり、この異常な世界は、夢想システムが関係している可能性が濃厚だ。システムは俺達の脳を刺激して夢を見せながら、同時に特定部分に攻撃をしている。


例えば後頭葉を操られれば、目に映っているのに頭では認識出来ないと言う現象が起こる。側頭葉なら、耳は聞こえているのに何を言われているのか理解不能となる。 


俺は少し考えた後、画面を指差しながら言う。


「なら、お前たちの脳に、俺と同じような傷をつけてみたらどうだ?」


「だっ……駄目ですよ! 記憶を失うかもしれないし、下手したら失明、最悪は廃人です」


「しかし、夢想システムの裏をかかなければ……」


「そこでですね……ここを見てください」


 正人の操作で、脳が更に拡大された。そして、その上に温度フィルターをかける。すると、俺の脳の損傷部分は温度が低いが、その周辺に特に熱を持っている部分があるのが分かった。


「これは……損傷した部分を補っているのか?」


「当たり(ビンゴ)です。壊れた部分のそばに迂回路(バイパス)が作られているようです。僕が思うに、この『道』の存在が、夢想システムが知らない抜け穴になっているんだと思います」


「……つまり、損傷が無くても、脳のこの部分を活性化すれば?」


「システムにかけられた呪いを解くことが出来るかもしれません」


 正人は、自信に満ちた声と共に、拳を突き出してきた。俺は、拳を合わせながら聞く。


「方法は?」


「ナノパルスを多方向から照射すれば、おそらく可能です」


「なら、携帯可能な大きさで作ってくれ」


「ちょっ……そんなっ! 無理ですよ!」


 正人は操作端末(コンソール)を両手で叩いて立ち上がり、首を何度も横に振る。俺はそんな正人の肩を両手で押し、また椅子に座らせた。


「外に持ち出して、機甲兵相手に使えないと意味が無い。美樹を救えるのはお前だけだ。七日で頼む」


「その名前を出されちゃぁ……。もうっ! やりますよっ! ……ええっ?! 七日っ??」


 頭を抱えた正人だったが、顔を一度ぱちんと叩くと、すぐに作業に取り掛かった。


 この戦争中の世界は、夢想世界の高校のように、広く浅く勉強などはしない。


 正人は生体分子工学の専門家(スペシャリスト)で、俺は遺伝子工学を深く学んでいる。逆に言うと、多分野はからっきしだ。そう言えば意外に思う奴が多いのだが、裕也は高度機械(ハイコンピューター)学の達人だったりする。




 後は正人に任せ、俺は一人で部屋へ戻る。そして、机の上にあったスマホを手に取りベッドに座る。


 『葉助』


 桃の(ショルダーハート)の必殺の一撃を食らう瞬間、その名前が聞こえた。日記の中にあった名と同じだ。そうなると、度々俺に何かを訴えてくるあの声は、このスマホの持ち主の声なのだろうか?


 しかし……どうしてあのタイミングで、彼氏の名前を呼んだんだ?


 スマホの持ち主……お前は一体、何者なんだ?


そして……スマホの主の声は、おそらく桃の(ショルダーハート)にも届いて…………


俺はいつの間にか、ベッドで寝息を立てていた。





次話、『豹変1』は、2015/07/17(金) 22時に追加されます。

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