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をのこ戦記  作者: 逸亜明
13/39

疑惑1


 最近、俺達隊長は、ぴりぴりとしている。


 理由は……、この基地内に、機甲兵側、占領軍の密告者(スパイ)がいるという噂があるからだ。


 本当なら致命的な大問題だが、隊長達は、自分の隊に密告者(スパイ)などいるはずがないと、各々が噂を押さえつけている。なので、まだ魚住中隊長にはその噂は届いていないようだ。


 もちろん、俺の隊にも密告者(スパイ)などいるはずが無い。裕也、正人、弘明と、信用出来る三人だ。


 だが……、噂が一過性の物で無いのは、疑うべき根拠があるからだ。


 俺もあの時、不審に思った。


 それは前回の作戦、敵拠点を二箇所同時索敵した時の話だ。

 結局二箇所とも空振りだったのだが、それはままある事で、不思議は無い。


 妙だったのが、二箇所とも敵部隊の罠が張られていた事だ。


 自画自賛する訳じゃないが、俺が片方の罠を見破らなければ、我が基地の精鋭達は誰一人として基地へ戻れなかったかもしれない。山地の罠にしても、盆地のそれにしても、地形を事前に調べていなければ、あれほど適切な場所に敵部隊を配置するのは不可能だろう。


 つまり、敵は俺達があの場所を攻めることを、あらかじめ知っていた事になる。


密告者(スパイ)はいないと信じたい。だが、どこからか情報が漏れている可能性は高い。


ただ、解放軍の基地は関東だけでも一つでは無いので、俺達の基地から情報が漏れたとしても他の基地がすぐに援護に回り、防御に関しては密告者(スパイ)の一人や二人いたとしても何とかなる。問題は、この間の様な攻撃の時だ。密告者(スパイ)の件が片付くまで、攻めるのは慎重にならざるを得ない。




前回の作戦から一週間経過したが、まだ次の作戦は立てられていない。だが、戦い自体が無い訳じゃなく、他の基地では交戦があると聞く。今は本州の中部地方で激戦が行われているらしい。



今日も俺達は、訓練場にて基礎体力作りと剣撃の訓練をしていた。


そこへ、一週間ぶりに弘明が姿を現した。


「もう良いのかよ?」


 裕也が聞くと、弘明は左肩を回して見せる。


「まだ少し痛みはあるけど、刀銃は握れるよ。体がなまる前に、少しでも動かなくちゃ」


 弘明は裕也から模擬刀を受け取ると、左腕一本で水平に構えて見せた。前回の戦いで左腕を複雑骨折したのだが、ほぼ回復したようだ。


 俺は、伸ばした弘明の腕に、幅が十センチほどの茶色い染みを見つけた。傷跡が残ったのだろうか? 現在の医療技術からすると、珍しいな。


「ここが攻撃を受けた場所か?」


 指差して聞くと、弘明はぽかんとした顔をした。裕也と正人がすぐに笑いだす。


「何を言ってんだよぉ、法次ぃ。それはあざ(・・)だろ? 弘明の腕に、前からあったじゃん!」


「隊の全員が知っていると思ってましたけど、法次君は案外鈍感ですよねっ!」


 やれやれと言った笑顔を裕也と正人に向けられた。


弘明は、俺の前であざを手のひらでこすってみせてくる。


「隊長、これは生まれつきだよ」


「そ…そうか……。すまん」


 頭を下げた俺の肩を、裕也がぽんぽんと叩いてから言う。


「戦闘以外、からっきしだよなぁ。細かい所に気づいてやらなきゃ、花音ちゃんに振られちゃうぜ!」


 それを聞いた正人も、腕組みをしてうんうんと頷いている。


 ……そう言えば先日も花音に、「髪型を変えたのに、気づかない」って、怒られたばかりだった。だが、髪先を内側に向けただけと言う些細な違いに、次は気づいてやれる自信がまったく無い。




     ◆     ◆     ◆




「法次ぃ~! おっはよぉ!」


ガッシャーン


 花音から腹にタックルを食らった俺は、開けたばかりの教室の扉に背中を打ち付ける。


激しい音が聞こえたはずのクラスメート達だが、ちらりとこちらを見ただけで、何事も無かったかのようにそばの友人と会話の続きを始めた。もうこれは完全に朝の恒例行事となっている。


恋人同士と言うものは……、普通このような激しい関係なのだろうか?


例のスマホの日記では、確か朝は、挨拶をしてから、誰にも気づかれないようにそっと手を握り合った……と、書かれてあったのだが、ずいぶん俺達と様子が違う。俺は出来れば、そのような落ち着いた関係が好ましいと思うのだが、スマホの主と花音は別人なのだから、個性と割り切るしかない。


「ねえねえ、法次ぃ~、ちょっと聞いてよぉ。最近友達が元気無いんだけどさ、どう励ましたら良いかな?」


花音は、俺の腕にぶら下がらんとする程に全力で抱きつきながら聞いてくる。


 元気の無い友達? 俺が教室を見回すと、沙織や美樹の表情からは憔悴の欠片も感じない。他の女子たちも今日も元気におしゃべりをしているようだ。


 俺の視線に気づいた花音は、ぶんぶんと首を横に振る。


「違うの。別の学校の友達なの。彼氏が学校に来なくなったから、心配みたいなの」


「別の学校?」


 ふと、数時間前に弘明から聞いた話が頭をよぎった。


 弘明と同じ別サーバーの学校へ通っている健太郎の彼女だが、痛々しい程に様子が変わったらしい。毎日誰とも話さず、うな垂れてじっと机を見つめているそうだ。


 その変化を聞いた俺達は、現実感(リアリティ)のある精巧なプログラムだと感心した。


 そして、こちらのサーバーでも同じような話を花音がする。分かれているとは言え、ほぼ同じプログラミングが施された夢想世界同士だから、似たような(エピソード)があっても不思議ないか。


「そうだな。元気が無いときは……確か……」


 俺は、スマホの日記の中に手がかり(ヒント)があったような気がして、記憶を辿る。確かスマホの持ち主は、葉助と喧嘩して落ち込んだときに……美味しい物を食べて気分を変えていたはずだ。


「その子の大好物を食べさせてみたらどうだ?」


「あっ! なるほどっ!」


 俺の提案に、花音はぱちんと指を鳴らした。そして、沙織と美樹を呼んで、三人でごにょごにょと相談している。


 ……まあ、別れてしまった恋人達の話だ。参考にならないかもしれないがな。


そう。スマホの日記は、二人が出会ってから三年目の某日に、葉助と恋人関係を解消した所で終わっていた。


 沙織達と打ち合わせが終わったようで、花音が俺に笑顔を向ける。


「さすが法次っ! 頼りになるぅ~! 今日はその子と、オレンジケーキ食べに行くね!」


「ああ。元気が出ると良いのにな」


ドクンッ


 俺の心臓が大きく打った。


 今……何か……とんでもなく重要な言葉を……聞かなかったか?


 ……オレンジ……ケーキ?



次話、本日23時に追加されます。

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