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をのこ戦記  作者: 逸亜明
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スマートフォン5




健太郎の埋葬を終えた俺達は、基地へと帰還する。

 

どうやら包囲された別働隊も、こちらからの援軍によって活路を見出して、今は帰還の途についているとの事だ。詳細は基地についてからだが、恐らく何も戦果が無かった上に、被害は甚大だろう。



関東平野へ戻ってきた俺達は、地下鉄跡へと潜る。これで追跡者がいたとしても、まず基地を見つけられる事は無い。


「法次、さっきは俺が悪かった。すまん」

 

ずっと何かを考えているようだった裕也は、基地手前で頭を下げてきた。それに対し、俺は首を横に振る。


「……俺も隊長じゃなかったら、仇を討ちに行こうとしたさ」


 俺がそう答えると、裕也はマスクを外してふーっとため息をついた。そして、にやりと笑みを浮かべる。


「俺が死んでたら、沙織が法次に取られちゃうかもしんないしな!」


 裕也は、地下空洞に響く大声で笑った。そのから元気に、俺達も釣られて笑う。


 一緒に笑っていた正人だが、ふと一つ首を傾げた。


「実際のところ、僕や裕也君がいなくなったら、美樹ちゃんや沙織さんはどうなるんですかね? 消えちゃうのかな?」


すると、裕也も首を傾げながら答える。


「別に俺や正人のための登場人物じゃないだろうから、……何事も無く存在するんじゃないかぁ?」


「それじゃあ……当然……」


 正人が元気なく言うと、裕也もため息をついてから言う。


「悲しんでもくれないだろうなぁ……」


 裕也と正人は、揃ってうなだれた。


 その二人を見ながら、弘明がなだめるように言う。


「一応、健太郎の彼女の様子を報告するよ。もしかすると、寂しそうにするかもしれないし」


「何も変化無かったら、絶対に教えないでくれぇ!」


 そう声を揃えて言った裕也と正人は、二人とも両手で耳を塞いだ。


 弘明は健太郎と同じサーバーの高校へ通っているので、健太郎の彼女の事も良く知っていると思われる。俺が沙織や美樹を知っているように。



 話題が女の事になったので、俺は健太郎の悲劇で忘れていた、戦闘中に聞こえた女の声を思い出した。


「はぁ? 女の声? 花音ちゃんの声か? 現実世界にまで聞こえてきたのか? 未練だよなぁ……」


 裕也は、俺に哀れんだ視線を向けてくる。正人や弘明も聞いてないと答えた。やはり、俺だけにしか聞こえてなかったようだ。どうも最近、幻覚や幻聴が多い。関係あるはず無いが、あのスマホを拾ってからだ……。一度、脳の精密検査を受けたほうが良いかもしれない。



基地の入り口が見えたとき、脇道から刀銃兵達が現れた。もちろん見覚えのある顔で、別働隊の奴らだ。彼らは傷だらけであり、俺達は立ち止まって道を譲る。


腕が無い奴、足を引きずる奴、瀕死で息も絶え絶えで背負われている奴もいる。山頂付近に押し込まれ、包囲攻撃を受けたのだから当然だ。


別働隊の面々が無言で基地へ入る中、最後尾と思われる兵士達が姿を現した。


前を歩く男は、別働隊先鋒、四番隊、隊長畑山だ。長髪が奴にしてはありえないくらい乱れており、戦闘の激しさを物語る。


その後ろは、恐ろしく大柄な男だった。畑山が身長180センチ程だが、こいつは2メートル近くあるな。長身だと噂で聞いていたが、まさかこれほどとは……。しかも、機甲兵かと見まがうほど、筋肉質でごつい。こいつが、四番隊副隊長、木部(きべ)(じん)か。


畑山は俺を一瞥すると、無言で前を通り過ぎた。だが、木部は俺の前で足を止める。


「我が隊長は疲労が激しいので、自分が代わって礼を申し上げます。援軍を送っていただき、感謝しております。もしそちら側にも大量の兵が現れていたなら全滅は必死だったと言うのに、足止め兵だけで少数だと即座に判断し、全ての余力を窮地に至っている味方に送る判断の迅速さ、まことに感服をいたしました。そもそも…」


「俺は疲れてねーよ! いつも話が長げーぞ、木部!」


 振り返った畑山に一喝されると、木部は口をつぐんだ。そして、二人で基地への通路へ入って行く。


 二人だけ? ……まさか。


「畑山……」


 言いながら俺は、畑山達が現れたわき道を覗き込んだ。やはりもう誰も現れない。


ガシッ


 畑山は、右の拳で通路の壁を殴っていた。そして、睨み付けるように俺を見て、口を開く。


「あの桃色(ピンク)の野郎……」


桃色(ピンク)? 桃の(ショルダーハート)か?」


 俺が口にすると、畑山の目が一層と鋭くなった。


桃色(ピンク)だけじゃねぇ! 色付き(・・・)の三体だ! 赤い靴履いた奴とか、頭に一列の宝石を付けている奴もだ! あいつらのせいで……俺の隊は分断され、混乱の中で……真樹夫、和志、大吾は死んだ!」


「色付きが三体? まだ他にもいたのか……」


 これで、俺の知る限り敵の特殊兵は、桃の(ショルダーハート)・紫の天使(パープルエンジェル)・橙の(オレンジポイント)・赤い(レッドヒール)・一列の宝石(ジュエルライン)の、五体になった。


「おまけに……」


 畑山はそう言うと、壁を打ったままの拳を握り込む。拳からは血が滴り落ちた。


桃色(ピンク)の野郎は、俺との一騎打ちを途中で止めやがった。……まるで飽きたかのようになっ!」


 畑山は吐き捨てるように言うと、背を向けて木部と共に通路へ消えた。


 ……特殊兵が五体。まさか……特殊兵だけで構成された小隊があるのか? しかし、桃の(ショルダーハート)はどうして畑山との戦いを途中で止めたんだ? ただの気まぐれか? だが、俺との時はそんな事は一度も無かったのに……。



 謎はますます増えていく。だからと言って、敵は待ってくれない。

 俺達は、重い足取りを基地へと向けた。




 時間は午後六時となった。


 あの後、すぐに夕食を済ませ、シャワーを浴びて、今はベッドの上だ。まだ夢想世界へ行くには二時間早いが、さすがに今日は食堂に残って喋る気力が無い。あそこでは、つい健太郎の顔を思い出してしまう。他の小隊も俺達と同様に仲間を失った気落ちからか、食堂に人は少なかった。


 俺は、ベッド脇の夢想システムのスイッチを確認した。夢想世界へ行くのは強制では無いのだが、今日はどうしても花音の笑顔に癒してもらいたい。


 まだ寝るわけじゃないが、俺は横になった。


 ……そう言えば、裕也が似たような事を言っていたが、俺が死ねば花音はどんな顔をするのだろうか? 泣くかもしれないが、感情すらもプログラムされている仮想世界の住人なので、次の瞬間には笑っているかもしれないな。


 逆に、花音が死ねば、俺はどうするだろうか?


「まあ……仇は討ってやるけど」


 天井を仰いで呟いた瞬間、俺の頭に女の声が響いた。


〈無理しないで。あなただけでも、生きて……〉


「はっ!?」


 跳ね起きた俺は、部屋を見回す。誰もいないし、この狭い部屋には隠れる場所なんて無い。


 ……またあの声だ。それに、今気がついたが、花音の声にどこか似ている気がする。粛々とした話し方なので、確信は出来ないが。


 花音が、俺の身を案じて仮想世界から話しかけているのか?


「ふっ……。馬鹿な」


 そんな事はありえない。まだ幽霊の声だと言った方が真実味があるな。

 

 ベッドの上で伸びをすると、手が何かに触れた。見ると、墓で拾った例の端末だ。今日あった出来事が余りにも大きすぎたので、すっかり忘れていた。


 こいつも気になっていたんだ。

 俺は、すぐに端末のスイッチを入れた。画面が発光する。液晶の鮮明さは、現在の技術と遜色は無いようだ。


 タッチパネル式で、やはりこれはスマホのようだ。


 だが、画面に番号しか表示されない夢想世界のスマホと違い、こちらには電話をかける事以外にも様々な機能があるようだった。


 しかし、どうやらそれらは殆どが全て、インターネットと呼ばれるネットワークに繋いでいないと役に立たない機能のようだ。それで納得だ。夢想世界ではそのようなネットワークシステムが無いために使えない機能を全て切り落とすと、電話だけ残ったという話だったんだな。


画面に表示されているアイコンは『アプリ』と呼んでいたようだ。今は、端末には全てのプログラムがあらかじめ入力されているので、プログラム自体に個別の名称は無い。


 アイコンには平和な時代ならではの遊び感覚の図形が採用されていて、いちいち開いてみないと何のプログラムか分かり辛い。俺は取り敢えず端から手当たり次第に実行してみる。


二十分経過したが、特に目ぼしいプログラムは無いようだ。個人の所有物なので、戦争に役に立つものがあると期待する方が変だよな。


これで最後にしようと、次に俺は書物の形をしたアプリを動作させた。すると、日時と文章が表示された。


2021/04/24

『あの人に、視聴覚室はどこかって話しかけられた。私はテンパっちゃって、違う校舎を伝えて後で怒られてしまった。でも、おかげで二度も話せた。次はわざと間違えてやろうかな』


 文章の間あいだに、ハートマークを始めとする妙な図形が挟んである。当時の流行なのか?


だが、これが日記のアプリなのは理解出来た。


「今から……五十六年前の……学生か……」


 二十一世紀初頭の、俺達が過ごす夢想世界とほぼ同じような世界で実際に生きていた女子学生の日常……なのか。では、裕也達と同じく、日記に書かれている好きな男と言うのも、クラスメートなのかもしれないな。


 次の日も、次の日も、取るに足らない些細な男との出来事に付いて述べられている。


俺は笑みがこぼれてしまった。本当に裕也達と同じだ。奴らも、「沙織の趣味」だとか、「美樹の癖」だとか、何か小さな発見をするたびに、目を輝かせて俺に伝えてくる。そう言えば死んだ健太郎も「彼女は蜜柑が好きなんです」と、嬉しそうに話していたな……。


 悪いと思いながらもつい日記を読み進めると、どうやらこの女子は俺達と同い年の高校一年生で、やはり好きな男は同じクラスの『葉助』と言う名の男子だった。そして、夏を前にして二人は俗に言う恋人同士になった。

 

恋人とは、好き合った二人がお互いの気持ちを確認した状態、って事がようやく理解出来た。

 

さすがに毎日付けられている日記を全て読むのは時間的に無理なので、飛ばし飛ばし読んでいたのだが、それでも日記に度々深刻な事が書かれているのに気づいた。

 

二人の気持ちに変化は無い。そうじゃなく、問題は時折書かれている世界情勢についてだ。

 

特に目を引いたのが、2022年に可決された、男女区分就業法だ。

 

これにより、男女は性別で区分された場所に住み、男女で分けられた学校や会社へと通うことになったようだ。これは日本だけでなく、世界中の国々全てで同時に施行されたと言う。

 

……なぜそんな事に? 同じ人間なのに、まるで男女で別種のようじゃないか。

 

仰向けに寝転んで更に読み進めていると、驚きの余りにスマホを顔の上に落としそうになった。

 

翌年、2023年に……全ての国家が再編成され、男と女が真っ二つに割れた。つまり、男国、女国の誕生って事になる……。

 

なら、この二人はどうなったんだ?

 

少し日記を戻すと、葉助とこの女の子は、一年ほど前から、『夢想世界』の中で示し合わせて会っている事が分かった。このころすでに夢想システムが存在したのか。一体、いつから夢想システムはあるんだ?


 そう言えば、先ほどアプリの中で『辞書』と言うのがあった。それで調べてみると、夢想システムが開発されたのは2018年で、開発者はGm Smith と言う名のアメリカ人との事だ。


「数年前に、タイミングよく夢想システムが発明されたんだな。これで二人は別々の場所にいながらもデートを重ねられたのか……」


ピピピピピピ……


 アラームが鳴った。午後七時五十五分、夢想世界へ行く時間だ。もう二時間経ったのか。

 俺はスマホを枕元に置き、目をつぶる。


 日記を書いている女の子の一人称は『私』なので、どんな名前の子だったのか未だに分からない。この子は、葉助とこの後どうなってしまうのだろうか? スマホが納められていた墓の古さから考えると、あまり長生き出来ずに若くして亡くなったようだが……。


 俺は、泥の中へ沈み込むように夢想世界へと落ちていく。





次話、2015/07/05 20時に追加されます。

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