滅亡の朝
約4世紀前。
突如として現れた妖魔という名の怪物達に、人類は襲われた。増殖を繰り返す妖魔に対して成す術もなかった人類だったが、遂に妖魔の力を自ら操る人間が現れる。
ザキバシリ・アーナ卿である。アーナ卿が開いた術は、火水地雷風の5元素を操る「魔法」であり、アーナ卿の頭文字をとって「A式魔法」と呼ばれた。
アーナ卿は、5人の弟子にそれぞれの元素の術を教え、以降A式魔法を操る人間は急激に増えていった。
なす術なかった人類はこうして反撃の狼煙を上げ、次々に妖魔を退治していった。さらに、A式魔法に続いて、結界術、浮遊術、波動術、封印術など、妖魔の力を使った様々な魔術が生み出され、現在その数は数百とも数千とも言われる。
と同時に起こるのは、魔術者同士の対立である。どちらの能力が優れているかなどを巡って、あちこちで争いが起こるようになった。
そして決定的な事件が起こる。アーナ卿の真の弟子は誰か、ということについて揉めたA式魔法使いのうちの一人が、アーナ卿のひ孫にあたる人間を暗殺したのである。
これにより、A式魔法使い同士の対立は激化。ここに他の魔法使いが加担して様々な思惑と憎しみが入り混じり、遂に血で血を洗う大戦争へと発展した。俗に言う「魔界大戦」である。
結局この大戦は当時最強と謳われていたA式魔法使いの戦死以降、急速にその勢いは弱まり、いつの間にか平和な日々が取り戻されていった。
とは言っても妖魔が絶えることはない。
妖魔と魔術師の戦いは、まだまだ始まったばかりなのである。
※
緊急地震速報の音で目が覚めた。
だが地震は起こるはずもない。これは目覚ましなのだから。
と思っていたら下から揺れが突き上げてきた。
「まじかよ!!」
揺れとともに俺は跳び上がってベッドから転げ落ちる。と同時にガンッとベッドの縁に足の小指を強打した。
「いってぇ…」
俺は仰向けになりながら足の小指をさすった。似たような怪我人が出ないことを祈る。
幸いにもすぐに揺れは収まった。大きな被害は出なさそうだ。
俺はのそのそと起き上がり、玄関から外に出た。きらきらとした朝日が、中卒童貞17歳の目に突き刺さる。俺は大きく欠伸をした。
新聞をとって来て部屋に戻ろうとドアノブを捻るが、ちんけなアパートのドアは簡単には開かない。
ミシ、ミシ、バキャアッという三拍子の勢いでこじ開ける。いいんだ、別に使えなくはない。
部屋に戻って新聞を広げると、昨日の夜にもニュースでも速報されていたあの話題が一面を飾っていた。
「妖魔襲撃 研修中の魔学生ら2名死亡」
これだから学校は嫌いだ。
持ち合わせてるのは机上でかいつまんだ知識だけで、アーナ式魔術もろくに使えない連中を連れて妖魔ひしめく外部エリアに研修に行き、怪我をするか殺されて帰ってくる。バカか。
確かに、国の能力者人口は昨年ようやっと1%に上り詰めた程度だ。
若い人材を育成させたいのも分かる。だが無駄死にさせては意味がないんじゃないか。
そんな感想を抱きながら、妖魔出現情報欄へと頁をめくる。
えーと、
雑魚が2匹か。
え?それだけ?嘘だろ、人が死んでんだぞ。
いや、問題の妖魔はその場で即討伐されたらしいが…それにしても最近平和すぎる。
このままでは明日の俺の飯も危ういぞ。
俺はちょっと焦って、そそくさと外出用のジャージに着替えると、ベッド脇に立て掛けておいた刀を手に外へと飛び出した。