樹海
今回、少し残酷かもしれないシーンがあります。嫌な方は●●●●から●●●●まで飛ばしてください。
樹海
卯「ふむ、異世界の森と言うにはよほど危険なのだろうと思っていたが…そういうわけでも無いようだな。」
一行は屋敷や湖のある森から出るべく前進していた。
オ「野生の動物は人間を怖がるのと同じですよ。怖がらないのが襲ってくるだけです。」
卯「ふむ、それもそうか。」
一行の旅路は平和に進む。
――――…
エ「ねぇ、この道ってホントにあってるのぉ?川なんて見えないわよぉ?」
行けども川は見えてこない。痺れをきらしたエメラルドがセンに訊ねる。
セ「川沿いに歩いてるぞ?お前、おかしなヤツだなー!」
苛立つ訳でもなく、ただ不思議そうにいうセン。
しかし、セン以外は川の存在がわからない。
しばらく考えたオニキスが口を開く。
オ「もしかして…地下水脈か?」
セ「ん?ちかすいみゃくってなんだー?」
オ「地下を流れる川…みたいなもの。」
セ「地面の下の川にはそんな難しい名前があるのかー。はじめて知ったぞ!
ちかすいみゃく?がこの下にあるんだぞ!湖から出てて海に繋がってるのはこれしかないぞ!」
卯「なるほど、これは専門家か水の精ぐらいにしかわからんな。」
オ「屋敷の置き手紙にまず湖に行けと書いてあった意味がわかりましたね。」
卯「ふむ、センは頼もしい味方となるだろうよ。」
一行はセンの言うことを信じ、道なき道を進むのであった。
――――…
しばらく歩いたあと、センが急に立ち止まった。
オ「ん?どうした?」
セ「むう?変なのが近づいてくるぞ?」
オ「変なの?」
聞き返したオニキスの耳にも、踏み折られる枝の音が聞こえてきた。
セ「ほら、あんなのだぞ。」
センの指差す先には、
鬼「グルッ、グルッ…」
赤鬼がいた。
卯「ほほう、この世界の生き物の強さを見る良い機会だ。オニキス、エメラルド!」
と、好戦的な笑みを見せる卯月を止める者がいた。
ブ『待ってくれたまえ、ダイヤ殿。この鬼に敵意はない。目を見てくれたまえ。理知的な穏やかな目だ。』
鬼「グルッ、グルグル、グルァ!」
鬼は何やら身ぶり手振りをした後、牙を剥き出しながらオニキスに手を差し出した。
セ「力強き者、歓迎、とか言ってるぞー。」
オ「俺が?とりあえず…よろしく?」
鬼「ヴグァ!グルル!」
オニキスが鬼の手を握ると、鬼は手を強く握り返し、バシバシと肩を叩いた。
鬼「ルァッ!グリルァ!オニ、ゴアッ!」
セ「鬼の里、鬼の名、歓迎、来る…とか?」
センが鬼の言葉を通訳する。
菜「おそらく、鬼の里に来い、歓迎する。とかではないか?」
卯「『鬼の名』というのが分からないな。」
エ「…あっ…『鬼』キスってことぉ?」
オ「いやいやいや、まさかそんな…」
オニキスが鬼を見ると
鬼「キス、オニ、グルグル。グルッ、ガアッ!」
セ「鬼の名、キス。心の角、鋭い。って言ってるぞ!」
オ「…嘘だろ?」
どうやら鬼のギャグにはセンスが無いらしい。
――――…
鬼の後に着いていった一行。その目の前には大河が広がっていた。
セ「ここはあんまり好きじゃないぞー!」
オ「海に繋がっていないのか?」
セ「いやー?繋がってるぞ?さっきのちかすいみゃく?もこの河に繋がってるぞ。」
オ「それじゃあ、問題ないじゃない。」
セ「年寄りトカゲがいるんだぞ!言ってることが訳わかんないのだ!」
唇を尖らせてセンがいう。それをなんとか宥め透かし、鬼に着いていく。
鬼「グルルっ、ルリラ!」
セ「ここ、目的地、って言ってるぞ!」
オ「これって…キャンプ場?」
石だらけの川辺に鬼の里はあった。大きいテントのような建物から色とりどり、何人もの鬼が現れた。
鬼「グルッ!グルルルァッ!」
青鬼「ルルルァ?ルリァ。」
桃鬼「グルルルリァ。リリルル。」
鬼「ルルルァグリルァ!」
と、一番奥にあった一際大きなテントから真っ白な鬼が人垣…鬼垣を掻き分け、現れた。
白鬼「やれやれ、お客人の前で騒々しい。礼儀というものを覚えなさい。お客人、里の者が失礼をしました。お許しを。」
卯「何者だ?」
卯月がいぶかしそうな目で睨みながら白鬼に訊ねる。
白鬼「ワタクシは鬼の里、里長の博生真知と申します。ほかの鬼たちよりは幾分か賢いモノでございます。」
優美に礼をする博生。
卯「ふむ…それで、その赤鬼はなぜ私たちを呼んだ?理由が無いわけは無いだろう?」
卯月の機嫌は良くない。
博「おや、やはりお分かりですか?」
卯「あまり気分の良いものでは無いな。用件があるならさっさと言え。場合によっては聞いてやろう。」
博「はい、それでは…皆様にはこの河に住む龍を倒していただきたい。」
菜「龍?」
と、オニキスがセンに聞く。
オ「さっき言ってた年寄りトカゲってのはその龍のこと?」
セ「多分そうだぞ。でも…」
オ「でも?」
センが下を向く。
セ「トカゲは難しいことばっかり言うから好きじゃないけど、殺すほど嫌いじゃないぞ。それに、子供もいるんだぞ!」
オ「子供?」
セ「そうだぞ!センと同じくらいの女の子だぞ!年寄りトカゲは嫌いだけど!」
●●●●
と、オニキスの目から光が消える。
オ「そうか…おい、そこの白鬼。」
博「はい、なんでしょ」
オ「ひれ伏せ。」
博「グオッ!?」
オニキスの言葉と共に博生が地面に叩きつけられる。
オ「ふむ、余裕のない声だ。小気味が良い。
貴様、幼子の親を自分の手を汚さずに殺そうとするとは…万死では足りないな。」
博「な、なにグッ!?」
体を起こそうとする博生だが、それは許されない。
オ「貴様に鳴き声以外を許した覚えは無いな。肺ごと叩き潰されたくなければ他の鬼を見習え。」
博「ぐ、グッ…」
オ「多少頭が良い程度で調子に乗るな。赤鬼が悪くはなかったから、鬼は良いヤツなのかと思ったが…思い違いだったか。」
オニキスに表情はない。
オ「鬼たちならば指導者など要らないだろう。余計なお世話は身を滅ぼすぞ?」
と、河の水を触っていたセンが顔をしかめながらオニキスに言う。
セ「この河、汚れてるぞ…。前に来たときは綺麗だったのに。」
オ「大体はコイツの仕業だろうよ。」
卯「うむ。コイツが家の中にあったぞ。毒草の根だ。」
エ「幼龍ちゃんも病気になっちゃうかもねぇ。」
その瞬間、オニキスの周囲の空気が歪んだ。鬼やその他の者たちも気圧されるほどの威圧感。
オ「…来世で幼女に詫びろ!」
そして罪人は血糊と化す。
●●●●
(博生はオニキスたちを利用しようとしていた。しかし、龍に幼い女の子供がいることを知ったロリコンの怒りには勝てなかった。死。)
オ「幼きは至高にして未完成の美!それを傷つけるとは…世界が許そうと、この俺が許さない!」
その時、オニキスたちの後ろの水面が大きく盛り上がった。
?『よく言った、黒き断罪人よ。その口上、見事である。』
現れたのは河の主。
卯「これが龍か…」
エ「大きいわねぇ…」
セ「年寄りトカゲ…」
龍『さあ、来い、黒き断罪人。我が城へ案内しよう。』
龍(既婚、子持ち)だった。
――――…
エ「幼女って…ハ虫類よぉ?」
オ「小さな女の子にはかわりないだろ?」
どこまでもぶれないオニキスであった。
――――…
龍の手助けをし、龍の城へ連れられる一行。そこには想像を絶する光景が待っていた!
次回、『川底』。
鬼「ヴグァ!グルリァ!ルルルァ!」
ありがとうございました。