湖
湖
卯月が屋敷の玄関前広間に菜真理、オニキス、エメラルドを呼んだ。
エ「あれぇ?ライちゃんとフーちゃんはぁ?」
オ「一旦戻ってもらった。戻ると次呼ぶときはまた血を使うらしいけど…俺なら大丈夫だし。」
エ「…その時は鼻血だして気絶しないと良いわねぇ…」
そう、ここまでオニキスは鼻血と切腹でしか意識を失っていないのだ。今のところ、オニキスにとって一番の脅威は鼻血である。
エ「10リットル血液抜かれても大丈夫なのに、なんで鼻血だと倒れるのかしらぁ?」
ファンタジーである。
――――…
オ「ところで、卯月さんとなーちゃんは長時間歩けますか?改造のやり直しとか…」
卯「いや、私たちの体だと十分な機材が揃っていないと危険なのだ。」
卯月が首を振る。
卯「だが!」
オ「だが?」
卯「なにも私たちが自分の足で歩かなくても良いのだ!」
オ「つまり?」
卯「言うよりも見た方が分かりやすいだろう。着いてこい。」
オ「はぁ…」
卯月が庭へと出ていき、オニキスもその後ろに着いていく。
卯「これだ!」
そして卯月がその場に出したものはかなり大きかった。
オ「…金属人形ですか?」
卯「ベースはそうだ。移動能力とその他機能を追加した。」
――――…
乗用移動金属人形『ブリキ』
機能①…道の凹凸、ぬかるみや水を気にせずに移動するため、ホバークラフト式。
――――…
オ「…ホバーで浮くんだったら金属じゃない方がいいんじゃないですか?」
卯「少しは学習しろ。小型の重力軽減装置で重量を少なくした。装置のスイッチが入った状態ならブリキは羽毛布団程度の重さだ。私たちがのっても同じようなモノだ。」
オ「…ウチの組織ってそんなにえげつない技術持ってたんですか?」
卯「その結晶のようなお前が何をいう。」
――――…
機能②…自律式AI搭載
――――…
オ「こんなのいつ開発したんです?」
卯「地球にいた頃にはできていたぞ?人間の脳の情報を残らず機械に入力したらできていた。」
オ「ウチって意外と非人道的なことしてますよね?」
卯「なに、正義のための少ない犠牲だ。対象も選んでいる。」
オ「…正義と悪は紙一重、か…」
ブリキ(以下ブ)『そう深く考えることではないよ。人にはそれぞれの正義の価値観というものがあるのだから。』
と、ブリキから声がした。
卯「当然、自主思考、会話も可能だ。」
オ「…以後よろしくお願いします…?」
ブ『はは、そう畏まらないでくれたまえよ。一応吾輩は君の後輩ということになるのだから。』
オ「は、はぁ…」
とかく真性の変態というものは真性の常識人に弱いものだ。
~…
エ「はっ!?常識人の気配ぃ!」
~…
――――…
卯「さて、準備は完璧か?」
全員が揃ったところで卯月が言う。
エ「基本的に皆身一つで大丈夫だしぃ、食料も卯月さんが持ってるでしょぉ?」
卯「まぁ、それもそうか。それでは出発しようか。」
オ「まずは湖を目指しましょうか。」
卯「よし。こい、ブリキ!」
ブ『やぁ、どうも。オニキス君には先程お目にかかったね。他のお二人は始めましてだね。これからよろしく頼むよ。』
この中の誰よりも丁寧に挨拶をするブリキ。
エ「…常識人…ここまで長かったわぁ…ホントならアタシもイロモノのはずなのに周りのキャラが濃すぎて…」
ブ『はは、君もだいぶ苦労をしていたようだね。これからも吾輩と一緒に頑張っていこうじゃないか。』
エメラルドとブリキ。何か通じあうものがあったようだ。
卯「では、行こうか!」
一行は屋敷の裏手、湖があると言う場所を目指して進み始めた。
――――…
卯「やれやれ、やっと着いたか。」
オ「『やっと』って、5分ぐらいしかたってませんよ?」
菜「うむ、思っていたよりこの人形、性能が高いな。」
卯「なに、私となーちゃんが協力すればこんなものだろう。」
一行の目の前には大きな湖が広がっていた。
屋敷から湖までは綺麗に整備された道があった。ある程度距離があったが、改造人間と機械にとってはそれほどのモノではなかった。
卯「しかし…どの川を辿ればいいんだ?ざっと5本以上はあるようなんだが。」
オ「こう言う時は水の精とかに聞けばいいんですよ。」
卯「そんなに都合よくいくか?」
オ「モノは試しです。呼んでみます。」
と、大きく息を吸い、叫んだ。
オ「水の精さーん!」
すると、目の前の湖の水面が泡立ち、そこから一人の女性が現れた。
水の精(以下水)「はぁーい。お呼びですかー?」
ブ『ほう、中々の美人殿だ。』
オ「…海に注ぐ川はどれかわかるか?」
ブリキの反応とは全く違い、オニキスは全く反応しない。
水「あ、あれ?見た目には自信あったんだけどな…魅力、ない?」
エ「違うわよぉ。コイツ、ロリコンなのよぉ。あなたは十分綺麗よぉ。」
オニキスの無反応ぶりに落ち込んだ様子の水の精にエメラルドがフォローをいれる。
水「そうなんだ!それじゃあ、センちゃんの方が嬉しいのかな?センちゃーん!」
水の精は元気を取り戻すと大声で誰かをよんだ。そこに来たのは
セン(以下セ)「なんだ?おねえちゃん。」
オ「…っ!?小さいのに…大きい?ロリ巨乳…だと?(プシッ)…」
小さな少女であった。
オニキスは倒れた。
センちゃんなる少女を見た目で表現するのは難しくない。小さいのに大きい。そういうことだ。
水「センちゃん。この人たちを海まで案内してあげられる?」
セ「できるぞ!セン、頑張るぞ!」
と、言うとセンは岸に上がってきた。
セ「なぁなぁ、このお兄さん怪我してるのか?」
鼻血を垂れ流しながら倒れているオニキスを指して言う。
卯「いや、これは発作みたいなモノだな。気にせずともすぐに起きる。」
セ「そっかぁ!じゃあ、そっとしといてあげるぞ!」
ツンツンとオニキスをつついていたセンが立ち上がった瞬間、
オ「幼女につつかれ…!なんだ、夢か。」
セ「おぉー!ほんとにすぐに起きたぞ!」
オニキスの周りをぐるぐるとまわるセン。と、水の精がセンに言う。
水「センちゃん、自己紹介、自己紹介!」
セ「ん?あっ、そうだった!」
一瞬首をかしげたあと、拳をポンと手のひらにうちつけるセン。
セ「センはセンだぞ!水の精だけど、皆は牛さんみたいだね!って言うんだぞ。なんでだ?牛さんは牛乳だすけど、センはだせないのにな?皆おかしいな!」
あははー、と笑うセン。鼻をおさえるオニキス。
このままではオニキスがもたないと、菜真理が助け船を出す。
菜「セン、お前が海まで案内してくれるのか?」
セ「むっ、お前はセンよりちっちゃいのに偉そうだぞー!でも、センはお姉さんだから許してあげるぞ!」
えっへん!と胸を張るセン。菜真理の額には青筋が浮かぶ。
このままではセンが危ない、とオニキスが鼻血をなんとかおさめ、センに聞く。
オ「センちゃんは海までの道、知ってるかい?」
セ「知ってるぞ!センは物知りだからお前たちを案内してやるぞ!」
オ「ホント?いやぁ、助かったよ!お兄さんたち道が全然わからないから困ってたんだ!」
セ「むっ、そうなのか?大丈夫だぞ!センはお前が気に入ったから、海までちゃんと案内してやるからな!」
センと会話を続けるオニキス。それを少しはなれた場所で見守る一行と水の精。
水「あのお兄さん、凄いねー!センちゃん、ちょっと偉そうだから仲良くなれるかな?って思ってたんだけど。」
エ「アイツはあれが一番の得意分野だからねぇ。多分幼女なら誰とでも仲良くなれると思うわよぉ。」
卯「アイツはあれでいてかなり優秀なのだよ。それより…センに『おねえちゃん』と呼ばれていたが、姉妹なのか?」
水「うぅん…難しいねー。この湖がお母さんみたいなものだから、言ってみればそんなところねー。」
卯「ふむ、ならばセンの安全は約束しよう。オニキスが命をかけて守るだろうがな。」
水「うんうん、センちゃんをお願いします。」
と、オニキスとセンが来た。オニキスがセンを肩車しながら。
セ「お前たち、なにグズグズしてるんだー?早く着いてこい!」
オ「それじゃあ出発しましょうか。」
一行の旅がまた一歩進んだのであった。
――――…
しばらく歩くとセンがオニキスの上で後ろを振り返り、大きく手をふった。
セ「皆ー!いってくるぞー!」
湖から大勢の返事が返ってくる。
水の精たち「「「いってらっしゃーい!頑張ってねー!!」」」
こうして水の精の少女、センは一行に加わった。
――――…
センを仲間に加え、旅をする一行。しかし、その前途は決して楽なものではなかった。
次回、『樹海』
ブ『鋼の心臓を抱いて!』
ありがとうございました。誤字脱字、ご意見などありましたらご指摘いただけるとありがたいです。