魔改造
魔改造
オニキスが屋敷の物置で旅に必要そうなものを物色していると
卯「できたぞ!」
ドアを盛大に開いて卯月が入ってきた。
オ「なにがです?」
卯「お前のスーツに決まっているじゃないか!いやぁ、なーちゃんに手伝って貰ったら随分と良い出来になってな。期待してもいいぞ。」
どうやら魔改造が終わったようだ。
――――…
オ「なんで角がついてるんです?」
卯「そう焦るな。1つずつ説明してやる。」
新しく作られたスーツには2本1対の角がついていた。
――――…
基本機能①…衝撃吸収(攻撃が通りづらくなる)
基本機能②…能力補助(能力が使いやすくなる)
――――…
オ「まあ、ここまでは今までのにも普通についてましたよね?」
卯「あぁ、そうだ。だが、性能が3倍ほど上がっている。少し試してみろ。」
オ「はぁ…分かりました。」
軽く体を動かした後に、思いきりジャンプをする。と、オニキスの体は天高く飛び上がっていく。
オ「ぅわああぁぁぁ…ぁぁ…ぁ…」
卯「む?おかしいな。3倍で留めた筈なのだが…」
しばらくすると、オニキスが落ちてきた。
オ「……ぁ…ぁぁ…ぁぁぁあああっ!っ!」
なんとか着地したオニキス。恨みがましい目で卯月を見ると
卯「…てへっ♪」
オ「(プシッ)グッ…ギャップ…ふぅ、仕方ないですね。今回は許します。」
卯「すまないな。どうにも開発者魂が限界を求めてしまったのだ。」
まったく悪びれずに卯月が答えた。
――――…
新機能①…切り離し可能鉄杭『ヘッジホッグ』
スーツ表面の任意の場所から合金製の杭を出す。使い回しも可能。
――――…
オ「これは…パージ可能な暗器ってことでいいんですか?」
卯「うむ、その通りだ。なーちゃんやエメラルドと話し合い、お前のスーツは高速接近戦に向かないタイプだった、という結果をだした。
お前の能力的にそんなシチュエーションになるとも思えないが、如何せん私たちにとってここは未知の場所だ。供えあれば憂いなし、ということだ。ほら、試してみろ。」
と、卯月が取り出したのは金属製の人形だった。
オ「いや、流石に無理じゃありません?せめて木製にしましょうよ。」
卯「いや、問題ない。何はともあれ、さぁ!」
卯月に促され、渋々金属人形に向き直るオニキス。
やるならば全力で、と金属人形を平手で思いきり叩くと
(ガスッ)オ「…はぁ?」
オニキスの掌から直径5cmほどの鉄杭が飛び出し、金属人形を貫いた。
オ「…この人形、中は空ですよね?」
卯「いや、完璧に詰まっているぞ。」
オ「…生き物に使ったら完全に殺しちゃいますよね?」
卯「それはお前の手加減次第だ。」
オ「…」
実に良い笑顔の卯月であった。
卯「ちなみに先端には私が作った人工ダイヤモンドを使用している。殺傷力は抜群だぞ!」
オ「…俺のスーツがどんどん物騒になってく…」
――――…
新機能②…高速振動熱切断斧『ベルーガ』
高速で振動し、かつ鉄を溶かすほどの高温の刃がついた斧。2本1対。白い。
任意で収納、出現させることが可能。
――――…
オ「卯月さんは俺を何にしたいんですかね?」
卯「これも課題であった近接戦闘用の武器だ。何らかの理由で能力が使えなくなっても、スーツの強化と先の『ヘッジホッグ』、そしてこの『ベルーガ』があれば負けることはないだろう。」
オ「いや、オーバーキルになりますって。」
卯「さあ、試してみろ!さぁさぁ!」
そして取り出したのは『ヘッジホッグ』の時より大きな金属人形。
オ「そもそも、俺って黒なのに主武装が白ってどういう…そいやっ!…ふぅ。」
ボヤきながらもベルーガを振るオニキス。そして浮かぶ表情は、諦め。
オ「これって対生物用じゃないですよね?」
卯「いや、そのつもりなのだが…」
オ「この人形って鉄製ですよね?バターの様に切れるって表現の意味が分かりましたよ…はぁ」
オニキスの中でヘッジホッグ及びベルーガは封印対象になった。
――――…
新機能③…発勁衝撃波『ディール』
任意の場所から衝撃波を発する。クールタイムは7秒。
――――…
卯「これは副産物的なモノでな、意図して作ったモノではないのだよ。」
オ「前の2つがオーバーキルすぎてこれが一番マトモに思えますよ…」
微妙な顔の卯月に対し、オニキスの表情は晴れやかだ。
卯「このディールは先も言ったように意図したものではない。よって性能も未知数なのだよ。なにせ実験もできないからな…スーツの強化に加え、お前自身への改造も相まって…あっ。」
口を滑らせた、という風に口をおさえる卯月。しかし、オニキスにはしっかり聞こえていた。
オ「…俺自身への改造?」
卯「いや、その…これは…」
オ「改造したんですか?俺、知らないんですけど?」
卯月に詰め寄るオニキス。
卯「その…お前が寝ている間に少し…」
オ「『少し』?」
顔を背ける卯月の正面にまわり、顔を近くで覗きこむ。
卯「うっ…かなり改造した…」
オ「ふぅん?俺が寝ている間に?俺に知らせもしないで?かなり?」
卯「その……すまない!スーツを直していたら予想以上に性能が上がってな。元々のオニキスのボディ性能だとオニキスが危険だったのだ…」
オ「は?俺が危険?」
卯「あぁ…例えば、最初にお前はジャンプをしただろ?そのままだったらあのときに脚の筋繊維がズタボロになっていたはずだ。」
オ「…え?」
卯「良かれと思ってやったのだ…許してはくれないか?」
卯月がオニキスを見上げる。卯月の目は若干涙目になっていた。
オ「許します。」
そしてオニキスは即答する。
卯「うむ、お前ならそう言ってくれると思っていたぞ!」
卯月がニコッ!と笑う。
オ「グッ…!」
卯「ふふ、分かりやすいな。」
そしてオニキスは鼻をおさえた。
オ「そ、それで、この角はなんなんですか?」
若干焦りぎみにオニキスが言う。
卯「あぁ、それはアンテナだ。」
オ「アンテナ?」
卯「あぁ。初日の内に衛星を惑星軌道上に打ち上げてある。電波がつかえるのだ。」
オ「え、衛星?いつの間に?」
驚くオニキス。彼はロケットの音も何も見ていないのだ。
卯「はぁ…お前は私たちの技術力を忘れてはいないか?反重力物質動力の人工衛星だ。分かるほど煩いモノではない。」
オ「反重力物質…そんな便利なモノがあるなら改造ついでに俺に組み込んでくれても…」
オニキスがいうと、卯月がため息をつく。
卯「はぁ…お前は5mの大男になりたいのか?相当な機器を組み込む必要があるのだが…」
オ「い、いえ。結構です。超ジャンプで我慢します。」
卯「うむ、懸命だ。」
――――…
新機能④受送信兼用アンテナ『ブル』
文字通り、アンテナ。
――――…
オ「追加機能はこれだけですか?」
卯「いや、あと1つある。冷暖房機能だ。」
オ「冷暖房?スーツ内部のは今までのにもありましたけど…」
卯「あぁ、それもあるが外部にも効果があるようにした。スーツ表面の温度調整ができる。大した機能でもないので個別名称はないがな。」
オ「地味ですけどこれが一番便利じゃありませんか?」
そう思うオニキスであった。
――――…
しばらくして、エメラルドがオニキスに話しかけた。
エ「知らない間に色々弄られてたんだってぇ?」
オ「あぁ。まぁ、許したけど。」
エ「なんでぇ?」
オ「幼女に涙目で上目使いされたら許さないわけにはいかないだろ?」
キリッ、とした顔でいうオニキス。
エ「言ってることで台無しだわぁ…」
どこまでもオニキスは変わらない。
――――…
万全の準備を整えたオニキスと仲間たち。ついに旅の第一歩を踏み出すことになる。
次回、『湖』。
フ「春風の優しさを皆に、です!」
ありがとうございました。誤字脱字等ありましたらご指摘頂けると嬉しいです。