帰路《そして事態は停滞しない》
帰路《そして事態は停滞しない》
閻魔はオニキスの同類であった。なんとも奇妙な巡り合わせだが、オニキスたちはそのお陰で生き返る方法を教えてもらえることになった。
「さあ、こっちだ、友よ!」
オ「ああ!こんなところでこんな出会いがあるなんてな!」
まるで長年の付き合いがある友人同士のように肩を組み、横に並んで歩く二人を見てエメラルドはため息をつくのであった。
エ「戻れるのはスゴい嬉しいけどぉ…それがオニキスのお陰で、ってのが嫌だわぁ。」
決してエメラルドはオニキスによって道が切り開かれたのを嫌がっている訳ではない。ただ、それがオニキスの力でもオニキスの精神でもなく性癖によってなされたのを嘆いているのだ。
エ「せめてこんな場面くらいカッコ良く決め欲しかったわぁ。途中までは良い感じだったのにねぇ…」
――――…
「さて、友よ。これから現世に戻る方法を教えよう。」
ふいに閻魔が立ち止まり、真面目な顔と口調で言った。それまでは談笑していたオニキスだったが、それを聞いて表情を引き締める。
「始めに言っておこう。朕が知っている黄泉返りの方法は一つだけ、途方もない時間がかかり尚且つ確実に戻れるとも限らない。それでも良いか?」
閻魔の問いかけにフンッと鼻を鳴らして答えるオニキス。その表情はどこまでも余裕であり不敵。
オ「もちろんだ。元からそれくらいの覚悟はしている。なんとしても現世に戻る。少しでも可能性があるならそれをするさ。」
エ「そうねぇ。オニキスがいれば大体のことは何とかなるだろうしぃ、案外すぐにもどれるんじゃなぁい?あ、アタシ置いて先に行くのは無しだからねぇ?」
と、それを聞いた閻魔が苦笑する。
「多少規格外な程度の人間が頑張ってすぐにつく程度のモノならば、死ぬ人間はいなくなる。
大体の者が精神が磨り減って何を何のためにしているのかもわからなくなる程だ。
神も死ねばよほどのことがない限り戻らない。かくいう朕もここに来たばかりの頃は挑戦したが、気力が消え去ろうとする寸前で我に返ってここに戻ってきた。それほどだ。」
閻魔も生前から予想するに尋常ではない精神力の持ち主。それがそれほどまでに言う方法とはどのようなものなのか。知らず知らずのうちにエメラルドはゴクリとツバを飲み込んでいた。
閻魔が立ち止まったのは断崖絶壁の端。そのからはどうやら地獄をある程度の広さ見渡せるようだ。
オ「本当に血の池地獄ってのはあるんだな。」
エ「あれは針山地獄かしらぁ?」
所々に見えるメジャーな風景の地獄。それに感心する二人に閻魔は笑って教えた。
「こういうものは人々の思考から生まれるものだ。古くからいる者に聞けば、始めはここは鬼も亡者も種々の地獄も無いただの地下空間だったそうだ。」
オ「ちょっと良いか?」
閻魔の言うことに疑問を覚えたオニキスが質問する。
オ「鬼も亡者もってことは、始めからいたヤツってのはどんな存在なんだ?」
「ふむ…妖精、妖魔、精霊、英霊、神。呼び方は種々あれど、そういった類いの不可思議な存在たちだ。
精霊の力を使っておいてそんなことも知らなかったのか?不可思議な場所は大抵がそういった存在たちが創ったものだ。」
オ「精霊の力?そんなもの、俺は使ったこと…」
と、そこまで言っておいてオニキスはふと考えた。
そういえばこちらに来てから少し勝手が違う。オニキスの能力には黒いオーラなんてものはついていないし、色とりどりの光を出すことなどできない。
そもそも仕組みがわからない。オニキスの元々の能力は卯月が理解していたが、今回の力の変質については流石の卯月も理解して説明することはできないだろう。
説明のつかない不思議な力=精霊の力、と考えてしまって良いのだろうとオニキスは一人で勝手に納得して言葉を引っ込めた。
「よし、それでは手順を説明する。朕が案内してやれるのもここまでだ。良く覚えておけ。」
そういうと閻魔はたくさんある各種地獄を順番に指差し、
「まずは地獄巡りだ。ここから見える地獄は数多ある地獄の極々一部に過ぎない。早く帰りたいなら全て巡ってから次の段階へ進め。」
エ「次の段階があるならぁ、地獄巡りなんてすっ飛ばしちゃっていいんじゃなぁい?その方が早く帰れると思うんだけどぉ。」
エメラルドがそういうが、閻魔はそれを一笑にふす。
「少しばかり焦りすぎだ。途方もない時間がかかる、と言ったであろう?急がば回れ、というのがここの真理なのだ。
全て巡る理由は後から説明しよう。とにかく、鬼を殴っても亡者をからかっても地獄を壊しても構わないが、何はともあれ全てに立ち寄るだけはしておけ。」
エ「はぁい。」
エメラルドの拗ねたような返事を聞くと、閻魔は唐突に二人に聞いた。
「お前たちは死んだときには何歳だった?それによってかかる時間が変わってくる。」
何も関係がないような質問に戸惑いつつも二人は正直に答える。オニキスはこんなところで嘘をついても始まらないと考え、エメラルドは年齢を教えることに躊躇するほど自らを惨めだとは思っていない。
オ「28歳だな。もしかすると何かの影響で何年か記憶が飛んでいるかもしれないが。」
エ「たぶん問題ないわよぉ?アタシ、26だしぃ。まぁ、アタシとあう前になんかあったんなら知りようもないんだけどねぇ。」
オ「いや、あの辺りまでは平凡な学生だったはずだからな。大丈夫だ。」
それを聞くと閻魔はなにやら指折り計算して考えていた。
「ふむ…それなら帰るまでには二百年ほどかかるだろう。その女もどきだけならもう少し短いやも知れないが、一人では無理だろう?」
エ「にひゃっ!?」
オ「…そうか、そこまでか。」
エメラルドは絶句し、オニキスも覚悟はあれど衝撃は隠せなかった。そんな二人を気の毒げに見ながらも閻魔は続ける。
「これまでの人生で犯してきた罪、これから生きていれば犯すはずの罪、前世の罪、来世の罪、これを見せられるのが地獄巡りの次の段階であり、黄泉返りの最大の障害だ。
これまでの人生はいいだろう?これからの罪は、人間として死ぬまでに犯す罪を数えられる。お前は何やら不思議な存在だが…もとは人間だ、人間としての罪を見せられる。
そして、一番分からないのが前世の罪と来世の罪だ。どれ程の長さを辿らされるのかもわからなければ、どんなことを見せられるのかも分からない。しかし、それを乗り越えれば現世に戻る方法が示されるということはわかっている。
だが、大体の者はこれで心を折られてしまうのだ。延々と繰り返される自らの罪。途方もない時間。気が狂うには十分な環境だ。」
だが!と閻魔は続け、オニキスの手を握る。
「お前の精神力なら乗り越えられる。朕は友としてそう信じている!」
そう言われたオニキスは感動したかのように閻魔の手を握り返す。エメラルドは白けた目で見ている。
オ「そうか…なら、友として一つだけ願いを聞いてもらえないか?」
「ん?なんだ?」
オ「残してきた者たちに…」
――――…
卯月と菜真理はテントの中で放心していた。かれこれ数日はこのままで、水をわずかに飲むのみで何も口にしていない。ブリキは現在解体されたままで、卯月たちの世話をすることもできず、ウルフはどうして良いのかウロウロするだけである。
このままではいずれ衰え、死んでしまうだろう。そう思えたが…
卯「……ッ!?」
菜「……ァ!?」
二人が急に跳ね起き、お互いの顔を見合わせる。
卯「お、おい。今…」
菜「お、お前もか?」
しばらくはそのままの状態で固まっていた二人だが、次第に顔に活力が戻ってくる。
卯「…こうしてはいられないな!」
菜「ああ!戻ると言うのならいくらでも待たなくては!」
そう言い合い、すぐに食事の支度を始めて貪るように食べ始めた。先ほどまでの無気力はどこへやら。あっという間に何時もの、いや、さらに活力を増した二人になっていた。
と、二人が実に悪い顔で言い合う。
卯「待つには拠点が必要だ。そうだろう?」
菜「ああ。それに、研究には人員と資源が必要だ。色々な意味でな。」
そういうとお互いの目を見て意思を感じとり、考えていることが同じだと悟ると同時に言った。
卯・菜「「世界の一つや二つ、手に入れてやろうじゃないか!」」
片や絶対正義、片や絶対悪。思想は違えど目標は同じ。ならば手を取り合うこともやぶさかではない。
ここ、この場で世界の命運が決まったのだ。
――――…
魔法空間、ライとフーの家。ここではオニキスの死と同時に元の次元に戻れなくなったライとフー、センが沈みこんでいた。
と、ライがポツリと言う。
ラ「俺たちが戻れないってことは…おにぃちゃんはもう…」
言い切らないうちにフーが大きな声でそれを遮る。見れば、目を真っ赤に泣き腫らしている。
フ「そんなわけないです!おにぃちゃんが…そんなわけ…ヒグッ…」
セ「そうだぞー!オニキスはサイキョーなんだからなー!」
ラ「だけどよ!…ん?」
ヒートアップしかけた口論が一瞬で静まる。
そして、しばらくすると三人に笑顔が戻っていた。
ラ「ほら、やっぱりな?」
フ「でも戻ってくるです!」
セ「やっぱりオニキスはサイキョーだぞー!」
三人はしばらくぶりにケラケラと笑い合うのであった。
――――…
龍の城では美和を除く全員が地面に跪いてオニキスに祈りを捧げ、美和は腕輪を握って微笑んだ。
蓮「嫁入り修行の時間ができたわね?」
美「ん、がんばる。」
――――…
獣人の街では、皆がオニキスの身に起きた事態を知って悲しみ、オニキスの精神力に称賛を捧げ前途の幸運を祈った。英雄に加護あれ!英雄に祝福あれ!
ただ一人を除いてだが。
ア「は、早く…あの悪魔が生き返ってくる前に死にたいですわ…」
――――…
死者の都では璃楽亭の女将と占い婆、孤児院のカエサル、そしてオニキスたちと関わった不死者たちがオニキスたちの生還を祈った。
「ひゃひゃっ!儂の占いを外させないでおくれよ!」
「あの方の連れていた子達とはウチの子供たちも仲よしですしねぇ。」
――――…
精霊たちは奮起していた。自分達のためにあえて命を差し出した恩人が、いずれは帰ってくる。
「ならば、それまでに我らはもっともっと成長してみせるのだ!」
――――…
オニキスは閻魔に言った。
『俺たちと関わった全員に、『俺たちは死んだ。でも絶対に戻る!』って伝えてくれ。』
「まこと、お前は壮士だな、友よ。」
閻魔は自分にできることをし終えると、友の前途を祈るのであった。
さあ、エンディングだ!




