交錯《現世×地獄》
交錯《現世×地獄》
ベースキャンプであるテントへと戻っていく卯月と菜真理。クリムゾンハグはウルフの体を卯月が操って運転している。
車内にいる卯月と菜真理の雰囲気は通夜の最中のようにくらい。いや、『通夜』というのは例えには収まらない。オニキスとエメラルドの死。それを確認してしまったのだから。
――――…
エメラルドを送り出してしばらく。卯月と菜真理は所在なさげに座っている。
卯「ん?おお!」
そんな時、卯月がふと車の窓から外を見てみると砂嵐が段々と弱まってきていた。
と、狙ったかのようにエメラルドから通信が入った。卯月はエメラルドが喋りだす前に話しかけた。
卯「おお、エメラルド!砂嵐が止まったぞ!やったのか?」
が、エメラルドからの返事は無い。卯月は訝しく思ったのか更に呼びかける。
卯「早く帰投しろ。オニキスと合流してミッションコンプリートだ!」
エ『それだけどねぇ…』
エメラルドからの返答に力が無い。
卯「ん?なんだ?」
と、エメラルドがため息をつく。そして続けた。
エ『帰投はできないみたいねぇ。ちょっとしくじっちゃったわぁ。』
エメラルドからの予想外の報告。卯月の胸に一気に不安が押し寄せる。
卯「おい、どうした?エメラルド!」
卯月は焦りの混じった声でエメラルドに問いかける。が、逆にエメラルドの返答からはどこか諦めのようなものが感じられる静けさが感じられた。
エメラルドは卯月の声が耳に入らないのか、卯月の質問への返答はない。
エ『オニキスが戻ったら、アタシは最後までヒーローができたって伝えてほしいわぁ。』
遺言のような、いや、これはエメラルドの遺言そのものであった。
卯月もそのただならぬ雰囲気を感じ取った。
卯「おい、おい!おい、エメラルド!返事をしろ!」
だが、エメラルドからの返答は無い。それどころか通信自体も切れてしまった。
卯「エメラルド、エメラルド!返答しろ、エメラルド!…ッ!?」
と、卯月が表情を固めて首筋を押さえる。みるみるうちに顔色が悪くなっていく。
卯月のただならぬ様子に菜真理も疑問を覚えた。
菜「おい、卯月。エメラルドがどうしたんだ?」
卯「え、エメラルドの動力源が…と、止まッ!?」
卯月がビクンッ!と体を跳ねさせる。恐る恐る首筋に手をやり、そして顔面を蒼白に染める。
菜「お、おい!どうした!」
卯「お、オニキスが…しっ、死ん…」
卯月の言葉の中に『オニキス』という単語が混じった瞬間、菜真理の表情も一変する。
菜「おい!オニキスがどうした!?卯月!」
――――…
「そんな…エメラルド様…どうしてそこまで…」
水の精が地面に座り込んで涙を流している。その目の前の地面には綺麗な緑色の砂の山があった。
「貴女はこんなところで死ぬ方では…くっ!」
嗚咽を殺しきれなくなったのか、砂の精は目元を手で覆った。
と、そんな水の精の背後から声がかかる。
?「『こんなところで』なんて言うのは死者への侮辱だよ。その人はここを死に場所だって覚悟したんだよ。死んでも良いくらいのことをしたんだよ。それをそんな風に言っちゃいけない。」
「っ!?」
水の精が勢いよく後ろを振り返る。精霊である彼女に気取られないほどの気配の消し方。脅威となる可能性は高い。
暗「なに?そんなに殺気立って。」
そこにいたのは闇の精、暗。眉を下げて悲しそうな顔をしている。
「あ、あなたは…」
地面にひれ伏そうとする水の精。だが、暗はそれを留めて言った。
暗「そんなことしてる場合じゃないでしょ?その人のために、もっとできることがあるでしょ?」
そう言って暗はエメラルドが崩れた砂の山に魔力そのものをやさしく当てる。
暗「魔力は奇跡の力。死んじゃったはずの人をどうにかするのは奇跡じゃないの?」
「っ!?はいっ!!」
水の精は跳ね起きて魔力を砂山に当て始める。それをしばらく見守った暗は、おもむろに周囲に向かって呼びかける。
暗「他の人たちも!精霊ならやるべきこと、わかるでしょ!?」
一瞬の沈黙。そして、周囲から何人もの精霊が出てくる。そして、無言のままエメラルドの残骸に魔力を当てる。あるものは目から涙を流し、あるものは口を真一文字に結び、あらんかぎりの魔力を送り出す。
暗はそれを見て満足げに頷くと、砂山の頂点に大きな緑色の宝石を置く。
暗「入れられるだけ魔力を入れたけど…あとはあなたの頑張り次第だよ?お兄さんも、あなたも。」
――――…
白河河底、龍の城。
蓮「あら?どうしたの?」
つい先ほどまで睡蓮に読み書きを習っていた美和が、ハラハラと涙を流し始めたのだ。
美「おにきす、おにきす…」
それだけ言うと、オニキスに贈った腕輪と対になっている自分の腕輪を握りしめて祈るようなポーズを取り始めた。
蓮「あらあら…オニキス様に何かあったのかしら?」
一心不乱に祈る美和。その様子を見て何か不吉な予感がした睡蓮も、美和とともに祈るのであった。
蓮「どうかオニキス様の前途に幸運がありますように…。」
――――…
獣人たちは皆、第六感とでも言うべき感覚が優れているらしい。そして、獣人たちが一斉に白河口を向いた瞬間があった。あるものは一瞬だけ反応し、日常生活に戻った。
獣士団団長のテナーと、晴れて福団長に就任した皮肉屋アイロニーは書類処理に追われるなか、何か違和感を感じた。
テ「この書類は…ん?」
皮「全く、あの馬鹿共…ん?」
二人同時に『何となく』砂漠の方角を確認し、また仕事に戻った。
あるものはよりハッキリと、何か不吉なことを感じ取った。
ミカとルカの姉妹もそうであった。
ル「…ん、おねえちゃん…」
ミ「…なんだか嫌な感じね。なにかしら?」
そして、皮肉にも一番ハッキリとオニキスに起こった事態を理解していたのはあの人物。
ア「ッ!?…世界が、救われた…」
あれから性格が少しおとなしくなったアルトであった。
何か圧迫感が無くなったような、空気が軽くなったような、オニキスに手酷く敗北したあの日から覚えていた不安が一気に消え去ったのだ。
ア「ワタクシは、もう自由…!」
――――…
オ「ん?」
そして、地獄のオニキス。閻魔に直談判するべく大きな建物の内部を歩いていたオニキスは、ふと腕にはめている腕輪を見た。
エ「そういえばぁ、着てた服とか無くなっちゃったのにぃ、それだけはつけっぱなしよねぇ。」
オ「そういえばそうだな…美和ちゃんがくれたのだから何かあるのかも知れないな。」
そういって腕をおろし、また歩き始める。腕輪が仄かに光っていることに気づかずに。
エンディングまで、2!




