表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い紳士と幼女(+α)たち  作者: 名無アキラ
落神砂漠
65/72

冥府

冥府


混濁からの覚醒。一気に意識が戻っていく。


オ「…ぅん…?どこだ、ここ。」


注意深く辺りを観察する。オニキスの最後の記憶は蠍に動力源を破壊されたところまで。その状況から目覚めたのなら、現状危険な場所にいることになる。


オ「でも、明らかに砂漠じゃないな。洞窟か?」


空が見えない、砂もない。ついでに言えば辺りは薄暗く視界も悪い。

壁は奇妙な赤色をしていてじっとりと濡れている。壁に触れた手を見てみると、赤色の液体で濡れている。


オ「なんだこれ…鉄臭い?」


微妙に粘度があり、鉄錆の臭いがする。近いものといえば血に似ている。


オ「薄気味悪いところだな。実害は無いが…とりあえず動こう。」


一先ずは何かがあるまで走ってみようと足に力を込める。が、


オ「ん?んん?」


足に力が入らない。いや、そう言うと語弊がある。人並みの力しか入らないのだ。例えるならアスリート程度。人間の範疇はんちゅうをでないパワーしか入らない。


オ「そうか、やっぱり俺は死んだのか。」


自分の手を見つめて何とはなしに呟く。久しく忘れていた生身の体の感覚。そういえばスーツも着ていない。今は黒い死装束(しょうぞく)のようなものだけを着ている。


オ「でもまあ、動かないことには始まらないからな。最悪何かあったら諦めるさ。」


所詮は死んだ身、と肩をすくめて歩き始める。幾度も視線を潜り抜け、挙げ句の果てに一度死んだオニキス。多少のことでは揺るがない精神強度を持っていた。


――――…


エ「んん…あらぁ?んげっ!」


地面から体を起こしたエメラルド。だが自分のおかれている環境を見て急いで立ち上がった。


エ「何よぉ、これぇ!汚いわぁ…」


それもそのはず、地面が赤い液体で湿っていたのだ。地面につけていた部分の服は赤く汚れている。手や髪にも少なからず液体は付着していた。


エ「もぉ、髪は乙女の命なのよぉ!」


どうやら服よりも髪の方が大切らしく、汚れていない部分で髪の汚れを拭き取る。結果、服は更に汚れてしまったのだが。


エ「あらぁ?こんな服、着たかしらぁ?デザインは悪くないけどぉ、色が地味ねぇ。」


エメラルドが着ているのは普通の白装束(しょうぞく)。色はもちろん白…だったが、血擬きに染まって半分以上赤黒く染まっている。しばらくそれを見ていたエメラルドだったが、しばらく考えて顔をしかめる。


エ「そうだった、アタシ死んだんだったわぁ。これって死装束(しょうぞく)でしょお…アタシが着るんだったらもっと綺麗な衣装にしてくれないとぉ。十二単じゅうにひとえとか着てみたいわぁ。」


自分の意思で動いた結果こうなった。そう考えるエメラルドはさほど後悔していなかった。


エ「それじゃあ、閻魔様にでも会いに行ってみようかしらぁ。」


エメラルドは目の前に広がる薄暗く、先の見えない一本道を先に進んでいくのであった。


――――…


オ「これぞ亡者、か。何となく不気味だな。」


オニキスがたどり着いた先にあったのは何とも異様な光景だった。


オ「これが三途の川で、あれが懸衣翁と奪衣婆か。…爺と婆には見えないが。」


目の前に広がる大きな川。そこに並ぶなにやら影の薄い人々。そして、そのそばにいる一組の男女。


「ほら、六文出しな!なに?無い?ならその服寄越せ!ほら、ケンちゃん!」


恐らくは奪衣婆と呼ばれている存在であろう若い女が川のほとりに並んだ人々から金か衣服をとっている。


「はいはい。あーあー、罪まみれ。ここに干しておこうね。」


そして、奪った服を受け取ったのはこれまた若い男。恐らくは懸衣翁だろう。側にある良い具合に真っ直ぐな木の枝にその服を引っかけている。


オ「ん!?」


と、オニキスが目をみはる。その先にあるのは…


「………」


「よいしょぉ!」


「っ!………」


河原で小石を積む子供たちと、積んだ石を崩す大きな鬼。崩された子供は一瞬ビクリと体を震わせるが何も言わずにまた石を積み始める。

そしてまた一人、鬼に積んだ石を崩されようとしている少女がいた。


「よいぐぼぁあっ!?」


石を崩すべく金棒を振り上げた鬼が、真横に吹き飛んだ。


オ「小さな子供を苛めるな!」


もちろん、吹き飛ばしたのはオニキスである。

と、振り抜いた腕を驚いた顔で見る。


オ「ん?」


死んだことでオニキスのパワーは失われたはず。だが、今オニキスは身の丈3mはある鬼を軽々と殴り飛ばした。


「な、な、なんだテメェはっ!?」


鬼が地面に倒れ込んで殴り飛ばされた頬を押さえながらオニキスに叫ぶ。

と、オニキスが答えるよりも早く誰かが答える。


?「ただのロリコンよぉ。ただ、ちょっとばかり強いけどねぇ。」


オニキスが後ろを振り返り、驚愕の表情を浮かべる。そこにいたのは、


エ「何よぉ、人の顔ジッと見て。まさかアタシに惚れたのぉ?」


エメラルドだった。


オ「…お前、なんでここにいるんだ?」


エ「なんでってぇ…それはアタシの台詞よぉ。アンタも死んだのぉ?」


オ「そのはずだけど…お前もか?」


オニキスが聞くが、エメラルドが聞き返し、それにまたオニキスが聞き返す。

そう、ここは冥府。生を終えた者たちが集う場所。二人ともお互いが死んだことを今始めて知ったのだ。


エ「まさかアンタが死ぬとはねぇ…どんな人外が出てきたのよぉ?」


オ「隙を突かれてな。結局、ばつにも会えなかったし。」


そんな二人を目に鬼は驚愕していた。

亡者の身でありながら自意識を持ち、自分を殴り飛ばすほどの力を持っている。そんな亡者はこれまで見たことがなかった。三途の川の手前まで迷い混んでくる生者はいるが、こんな力は持っていないし、そもそもこの男は確実に亡者なのだ。


と、エメラルドが石を積む子供たちに目をやる。


エ「賽の河原、ってとこかしらぁ?子供たちに罪なんて無いのにねぇ。」


オ「それは同意見だな。全部積んでやれないか?」


エ「えぇ?アタシ、ちょっと前に試したら、全然使えなかったんだけどぉ。」


賽の河原の石を全て積み上げる。生前のエメラルドなら可能な事だ。だが、エメラルドもオニキス同様力は失っている。


オ「いや、もう一回やってみれば案外できるかも知れないぞ?」


だが、先程オニキスは鬼を殴り飛ばすほどの力を出すことができた。ならばエメラルドも、とオニキスは考えたのだ。


エ「えぇー。それじゃあ…えいっ!」


エメラルドが手を前に出して力を込める。


(ゴゴ、ゴゴゴ、ゴゴゴゴゴ…)


「な、なんだぁっ!?」


突然の地鳴り。鬼が慌てて立ち上がり、キョロキョロと辺りを見る。


オ「な、使えただろ?」


エ「ほんとねぇ。なんでかしらぁ?」


「お、お前ら何を、うわぁぁああっ!」


オニキスたちに近づこうとする鬼だったが、衝撃の光景が目に入り、絶叫する。

三途の川の上流、下流の両側から押し寄せる灰色の津波。河原中の小石が宙に浮かんで押し寄せてきていたのだ。


エ「むしろ今の方が調子が良いかもぉ。」


そう呟くエメラルドに答えるように小石がオニキスたちの目の前でタワーを作るように集まり始めた。


「な、なんじゃこりゃ…」


口をポッカリとあけて積み上がっていく石の塔を見上げる鬼。みるみる内にその高さは増していきしばらくすると先が見えないほどになってしまった。


エ「ふぅ…こんなもんかしらねぇ。」


エメラルドが手を下ろし、一仕事終えたというように額をぬぐう仕草をした。


オ「こっちも終わりだ。全員集めてきた。」


そしてオニキスはエメラルドが塔を作っている最中に子供たちを集めてきていた。その数は数えきれないほどだったが、オニキスは苦にする様子もなかった。


と、塔の上空から一条の光が差し込んだ。そしてそこから一人の男が雲にのって降りてきた。細目で頭は剃りあげられている。


エ「どっかで見たことある顔ねぇ…」


オ「たぶん、地蔵菩薩だろうな。賽の河原の子供たちは最終的には地蔵に救われるらしい。」


エ「あぁ、そう言われればお地蔵さまだわぁ。」


そう言っている間にも雲は地面に辿り着いた。そして、そこから地蔵と思われる男が降りてきた。


「え?マジどういう状況系?俺っち混乱ナウ系なんですけど。なにこれ、塔?ちょっとデカ過ぎ系じゃない?俺っち、急に呼び出されたから何系かと思ったんだけど…これは呼ばれる系だわ。」


エ「えぇー…」


一気に地蔵じゃない感が強まった。顔はそのままで口からはウザい言葉が飛び出してくる。


「マジ、どこの神系よ?ちょっとこういうの困る系なんですけど…え?マジ?亡者?亡者がこれやった系なわけ?あり得ない系じゃん!」


オ「おい。誰だが知らないが、さっさと子供たちをもっと良い場所に連れていってやれ。」


イラついたオニキスが男の襟首をつかんで締め上げる。


「ちょっ、マジギブ系だから!苦しい、苦しいって!」


男がオニキスの手をタップする。オニキスが手を離すと


「え?俺っちに暴力とかマジ不敬系なんですけど。マジ神罰系だから。はい、神罰~!」


声にだけ怒気を浮かばせ、オニキスに向かって手を降り下ろす。が、


オ「何をしている?さっさと子供たちを連れていってやれ!」


オニキスには何も起きない。


「え?え?何?何系?なにこれ、意味不系なんですけど!」


いや、起きている。オニキスの体から真っ黒なオーラのようなものが出ている。


オ「おい、どうした?」


「ひっ…!」


オニキスが問いかけると、男は雲にのって逃げようとした。だが、それはできなかった。


「ぐべっ!?」


オ「行くなら子供たちを連れて、だろう?」


オニキスからほとばしるオーラが男と雲を地面に縫い付ける。雲は浮き上がらず、男は雲から落ちて地面にグリグリと押し付けられている。


「な、なにこれ!?マジ、どうなってる系!?」


オ「チッ…使えないな。」


男を地面に押し付ける力が強まっていく。と、


「お止めください、力ある人よ。」


上から声がかかった。

見上げたオニキスたちが見たのは、男が乗ってきたよりも遥かに大きい雲に乗り、後光を背負った一人の僧侶。


エ「あ、こっちがホンモノねぇ。」


「弟子が失礼なことをいたしました。この者は謹慎をさせていたのですが…申し訳ございません。」


オ「お前は?」


オニキスが問うと、笑みと共に僧侶が答える。


「拙僧は地蔵と呼ばれている者でございます。子供たちを連れに参りました。」


と、地蔵の後ろに控えていたこれも僧体の男たちが子供たちを雲の上に乗せていく。ついでにオニキスに地面に押し付けられていた男も雲の上に乗せられる。


「子供たちはお預かりいたします。この者も、しかるべき処罰を与えますゆえ、どうぞお許しください。」


オニキスに向かって頭を下げる地蔵。


オ「わかった。子供たちは大事に扱ってやれよ。」


「もちろんでございます。それでは、これで失礼いたします。」


そう言うと、地蔵と子供たちが乗った雲は天に向かって昇っていった。と、雲の上から子供たちがオニキスたちに手を振る。石を積んでいた時とはうってかわって皆笑顔である。

オニキスとエメラルドも手を振り返した。


――――…


子供たちが見えなくなり、オニキスたちも手を振るのを止めた。そして、互いの顔を見合わせた。


オ「どうする?このまま閻魔の沙汰を受けて地獄に行くか?」


エ「冗談言わないでぇ。まだ生きたいに決まってるじゃなぁい。」


そして、ニヤリと笑う。閻魔、逃げてくれ。



もうすぐエンディングの予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ