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黒い紳士と幼女(+α)たち  作者: 名無アキラ
落神砂漠
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決着

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精霊たちが暴走した精霊を封じこめるために作ったドーム。エメラルドはその前に立っていた。


「エメラルド様、本当によろしいのですか?もし御身になにかありましたら…」


エ「大丈夫よぉ。アタシ、どうにも死ににくいみたいだからぁ。運が良いのかしらねぇ。」


不安げに尋ねる水の精に笑って答えるエメラルド。そのやり取りの背景にはこんなことがあったのだ。


――――…


少し前のこと。エメラルドは水の精にある提案をした。


エ「できるかどうかは不確かだけどぉ、その暴走した精霊を誅するってやつ、アタシがやってみてもいいかしらぁ?」


「は、はい?エメラルド様がですか?」


水の精が面食らったように言う。

水の精から見てエメラルドはただの人間。龍のように神の力をもっているわけでも精霊を連れているわけでもない、ただの人間に見えた。

この世界で人間はかなり生物的な格の低い生き物である。いくら身体を鍛え《きたえ》ようと獣人の身体的なポテンシャルには到底及ばない。どんなに努力しようと一人で使える魔法などたかが知れており、精霊などに敵うわけもない。

そんな人間の一人であるエメラルドが、暴走して力の増している精霊を倒すと言う。無謀と言う他無いだろう。


エ「そうよぉ。()()で閉じ込められるなら何とかなると思うのよねぇ。」


エメラルドが指差すのはコンクリートで出来ているかのように繋ぎ目や割れ目が無い、岩で出来たドーム。


「ですが、これは我らの中でも屈指の実力を持つ土の精が他の者と協力して作り出したモノで…」


エ「そうねぇ、中になんかの根っこが張ってるしねぇ。」


「っ!?」


水の精は驚愕した。実のところ、この岩のドームは見かけ以上に堅牢な造りをしている。外見はそれなりに大きいが、中の空間は人がギリギリ二人入れる程度の広さしかない。そして、暴走している精霊の力を弱めるために精霊の力の元となる『魔力』を外に弾き出すようになっている。故に魔法で中をさぐることもできない。

その上、エメラルドはドームに触ってすらいない。それなのに中の造りを言い当てて見せた。


エ「ついでにぃ、中でナニカが二つ暴れてるのもわかるわよぉ。アレが暴走してる精霊ってことで良いのかしらぁ?」


「なっ!?…その通りでございます。我らがここに封じている精霊は二人。風の精と砂の精です。」


精霊は人間とは全く違う存在。見た目こそ似ているが、身体機能が全く違う。

人間と違って一切の排出物を出さず、出るのは魔力のみ。出そうと思えば出るが。

つまり、匂いや音で存在を確認することはできない。特に、自意識なく暴れる精霊の場合は。

水の精はそれをことも無く言い当てたエメラルドに驚いたが、すぐに気を取り直して情報を伝える。


「しかし、それでも精霊を誅するというのは…」


いかに常人にできないことをしたとはいえ、実力はわからない。客人に無謀をさせるまいと水の精はエメラルドを説得しにかかるが…


エ「じゃあ、ちょっと見ててねぇ…これをこうしてぇ…エイッ!」


エメラルドがポケットから何かを取り出す。何かの種のように見える。それを地面に埋め気合いを入れる。すると…


「お、おおおっ!?」


水の精が驚きで声を失う。その目の前には…


「こ、これは…全く同じ、いや!更に強い力を感じる!」


既にあったドームと同じような形のドームが出来上がっていたのだ。エメラルドはそれを砂と一つの種だけで作ったのだ。


エ「どうかしらぁ?ちょっと手を抜いちゃったんだけどぉ…」


「こ、これで…」


明らかに格上。自分達など及ばない存在である。水の精はそう感じた。


「…お願いいたします。エメラルド様なら十分に可能でしょう。」


エ「そう?なら、やれるだけやってみるわぁ。」


エメラルドがにっこりと笑う。と、疑問を口にする。


エ「そういえばぁ、暴走した精霊はソコに封じてる二人だけなのぉ?」


水の精が心苦しそうに答える。


「いえ。三人いましたが、一人逃がしてしまいました。本来は炎の精でしたが、暴走するとともに元の属性を失って魔物を操る力を手に入れたものです。

ですが、ばつ様のお住まいの方へ逃げたので…今ごろは生きていないでしょう。」


エ「そう…」


――――…


エ「それじゃあ、いくわよぉ?」


「はい、お願いいたします!」


少し離れた場所にいる水の精に合図を出すエメラルド。彼女《彼》の目の前には岩のドーム。

エメラルドが少し力を使うと、それは簡単に壊れた。


「…………っつ!!!!」


「…………ぁあ!!!!」


中から飛び出してきた二つの影。それをすかさず捕らえるエメラルド。

と、同時に周囲に吹き荒れる砂嵐が更に勢いを増す。


エ「…この子たちで良いのかしらぁ?」


「ええ、そうです!その二人です!」


エメラルドがいぶかしげな声で確認をとる。それもそのはず、


エ「まだ子供じゃないの…」


そう、飛び出してきたのは二人の少女。年のほどは13、4歳に見える。それが白目をむいて口から泡を吹きながら声を出さずに吠えている。


「…………っく!!!!」


「…………ぁく!!!!」


徐々に力を強くしていくエメラルド。それに合わせて苦しげになり、なお暴れる二人。


エ「どうにも気乗りしないわねぇ…」


「いえ、そうなってしまえばもう元に戻ることはありません!止めてやるのが優しさと言うものです!」


躊躇ためらうエメラルドに水の精が言う。だが、エメラルドはそれ以上力を強くしない。


エ「…?なんでかしらねぇ、暴走っていうよりはぁ、違う感じに見えるんだけどぉ…」


エメラルドが暴走する精霊の顔を見る。そこにあったのは怒りや破壊衝動、憎しみの表情ではなかった。しかし、彼女たちには暴れるだけのナニカがあったのだ。では、それはなにか?


エ「そういえばオニキスが言ってたわねぇ…」


あのやけに精霊やら何やらにすかれやすい彼女の相棒は言っていた。『精霊は歳をとるだけ力が強くなるし、生まれてすぐの弱い子たちはそんな者たちを怖がる』と。そういえば、以前龍の城でセンが初めて江に会ったときは酷く怯えていなかっただろうか。


エ「…やめたぁ。」


と、エメラルドが力を弱める。そして、辺りに吹き荒れる風にも頓着とんちゃくせずに避風スーツを脱ぎ捨てる。


「え、エメラルド様っ!?」


そして、水の精の制止も聞かずに暴走する精霊二人を両腕で抱き締める。


「………っ!!!!」


「………ぁ!!!!」


精霊の魔力が零距離からエメラルドに直撃する。

だが、エメラルドは腕を離さない。


エ「そうよねぇ。生まれてみたら訳がわからないけどただただ怖い、なんておかしくもなるわよねぇ。

それに、皆が苛めてくるんだもんねぇ。」


エメラルドは気づいたのだ。精霊が暴走するのは、いや、これは暴走などではなかったのだ。

上位の存在で、しかもその中の上位であるばつの存在を察知し、ただ怖れて暴れていただけなのだ。そして、生まれたばかりゆえに自分が何を怖れているのかも、なぜ暴れているのかも周りに伝えることができない。例えるならば、人間の赤ん坊が泣きわめいて癇癪かんしゃくを起こし、暴れているのと同じことなのだ。

しかし、仲間の精霊たちはそれに気づかずにその者たちを排除しようとする。


エ「そりゃ、もっと暴れるわよねぇ…」


砂が、風が、形を持たない魔力が、エメラルドに叩きつけられる。だが、エメラルドは小さな子供をあやすように二人を抱き締め続ける。


エ「よしよし…もう、怖くないのよぉ…」


「………っ!?!?」


「……ぁあ??!!」


「お離れください!お体がっ!」


爆発的に放出される魔力自体が暴走し始めていた。エメラルドの体が砂に変じ始めていたのだ。そして、変わるそばから風に吹き飛ばされていく。

エメラルドもそれを繋ぎ止めようとするのだが、あまりの風に力を集中させられない。


エ「大丈夫、大丈夫だからねぇ…」


しかし、二人を離すことはない。

その必死の思いが伝わったのだろう、精霊たちが


「あ、あぁ?」


「うっ…うぅ??」


瞳には理知の色が戻り、魔力の放出が収まっていく。


エ「よしよしぃ、良い子良い子ぉ。」


エメラルドが二人の頭を撫でる。


「そ、そんな…暴走した精霊が元に戻るなんて!今までそんなことは…!」


水の精が驚愕の声をあげる。


エ「 別に良いじゃないのぉ。結果オーライだった…え?」


だが、それも長くは続かない。精霊二人の体が光る粒子となって空中に溶けていくのだ。


エ「な、何が起きてるのぉ!?」


「魔力の使いすぎです。魔力は命そのもの。いくら量が多くても、使いすぎれば命も無くなります。」


エ「そ、そんな…」


愕然とするエメラルド。だが、消え行く精霊たちの表情は穏やかだ。口元に微笑みを浮かべ、たどたどしいながらも言葉をつむぐ。


「あり、がと。ありがと。」


「あったか、こわくない。」


エ「そんなことって…」


思わず涙を浮かべるエメラルド。そんな彼女《彼》の頭に手をやり、精霊たちは言う。


「ありがと、おかーさん。」


「また、あおう、ね?」


その言葉を最後に二人は完全に光の粒子となり、消えた。


それを掴むように何度か空を握るエメラルド。そして、ポツリと呟いた。


エ「そうねぇ、また会おうねぇ…」


と、


「エメラルド様っ!?」


彼女《彼》の体が地面に倒れ伏す。


エ「あ、あれぇ?」


見ると、腰よりも下が砂に変化して崩れてしまっていた。


「エメラルド様!やはり、砂の魔力にあてられて…すぐに手当てをっ!」


エ「別に良いわよぉ。」


急いで応援を呼ぼうとする水の精。だが、エメラルドがそれを制す。


エ「卯月さんは半分だけでも治すって言ってくれたけど…これは無理よねぇ。」


彼女《彼》は自分の命の終わりを悟ったのだ。


「ど、どうしてそこまで…あなたは、あなた様は!」


水の精が、涙を流しながら叫ぶ。


エ「どうしてってぇ…そりゃ、正義の味方だからよぉ。困ってる人は見捨てない。それが正義の味方でしょぉ?」


苦笑いしながら答える。

そして、通信のスイッチを入れて卯月に繋げる。


卯『おお、エメラルド!砂嵐が止まったぞ!やったのか?』


嬉しそうなエメラルドの声。自信を取り戻した様子のボスに、これから報告しなければならないことを考えると申し訳なくなる。


卯『早く帰投しろ。オニキスと合流してミッションコンプリートだ!』


エ「それだけどねぇ…」


卯『ん?どうした?』


エメラルドの体は既に腹の辺りまで砂に変化していた。それを見てため息をつく。


エ「帰投はできないみたいねぇ。ちょっとしくじっちゃったわぁ。」


卯『おい、どうした?エメラルド!』


卯月の声に焦りが混じる。反対に、エメラルドは落ち着いた声で伝える。


エ「オニキスが戻ったら、アタシは最後までヒーローができたって伝えてほしいわぁ。」


卯『おい、おい!おい、エメラルド!返事をしろ!』


卯月が必死に呼び掛ける。だが、エメラルドはもう返事もできない。肺が砂になってしまったのだ。


エ「(小さな子二人も助けられないで、死んじゃって…最後はカッコ悪いわぁ。)」


脳裏にはこれまで経験した事が浮かんでは消えていく。走馬灯というヤツだ。

人生の後半すべての光景に共にいる人物がいる。

エメラルドが(彼も彼女も)友として認め、愛した人物。


エ「(ごめんねぇ、先に逝くわぁ…オニキス、大西先輩…)」


最期に浮かんだのは始めて会ったときの姿のオニキス。そして、エメラルドの意識は深淵に落ちていく。


エ「(最期に…顔だけでも見たかったわぁ…)」


――――…


オ「っおらぁ!!」


オニキスが渾身の力を込めて蛇の頭を殴り割る。


オ「っしゃぁああっ!」


見渡す限り魔物の死骸、死骸、死骸。動くものはオニキスとビクビクと痙攣する血赤の髪色の精霊のみ。


オ「俺は魔法なんて詳しくないが…こういうのは壊しとけば何とかなるもんだろ?」


足元に広がる紋様、魔方陣を足で踏み消していくオニキス。生命線であろうそれを壊されていても精霊はその場から動かない。

しばらくしてオニキスはある程度魔方陣を消し終わった。どうやら砂と同じくらいの細かさの粉で描かれていたようで、特に苦労なく消すことができた。


オ「無抵抗なヤツをどうにかするのはあんまり好きじゃないが…放っておいたらまた同じようなことになるんだろうな。」


自分の中で割り切ると、痙攣する精霊に向かって拳を降り下ろす。が、


オ「…全然効かないな。というか当たっている気がしない。これは…」


しばらく思案するオニキスだったが、ふと思い付いたことを口にする。


オ「物理攻撃無効、か?そういえば元々精霊ってのは不思議空間から来た謎生物らしいし、あり得ない話じゃないな。」


そこまで考えて困った顔をする。


オ「俺、魔法なんて使えないしなぁ…そういえば、血が魔法の元になるみたいなことがあの本に書いてあったな。」


オニキスはこちらの世界に来てすぐの頃にライとフーが卯月たちにしたという説明を思い出す。卯月が何やら言っていたのを小耳に挟んでいた。

と、


『オニキス、大西先輩…』


オ「ん?今、エメラルドの声が…」


なんともなしに空を見る。

連戦に次ぐ連戦、強烈な暑さ、ようやく終わったという安心感。そこに空耳が聞こえた。


「…………!」


オ「っかはっ!?」


故に油断が生まれた。

仲間の死骸の影に潜んでいたのだろう、蠍の魔物が一匹。オニキスの左胸を背中側から尾で貫き通した。


オ「っ…こ、のぉぉおおっ!」


胸に生えたようになっている蠍の尾を本体から力任せに引き抜き、蠍も頭と胴を殴り潰して息の根をとめる。


オ「ぐっ…かはっ…」


だが、オニキスが動けるのもそこまでだった。大量に血を吐いて地面に倒れ伏す。

彼の左胸に心臓は無いが、代わりに全身の機能を動かす半永久動力源が入っていた。本来ならスーツで厚く守られている箇所だが、今はスーツが破れておりそこを突き通された。

いくらオニキスとはいえ、動力源が丸ごと潰されれば動くこともできず死ぬ。


オ「くそっ…まだ、死ぬわけ、には…幼女が、待って…」


オニキスの脳裏に浮かぶのは、卯月、菜真理、セン、ライ、フー、美和、その他出会ってきた幼女たち。そして、


オ「すまんな、エメ、ラルド…」


古馴染みの友の顔。姿は変われど、エメラルドは一番長い付き合いの友達であった。その顔が走馬灯として過ぎていく。


オ「幼き…未来に…栄え、あれ…」


そして、永遠に沈黙する。一面の死骸の群れにまた一つ死骸が加わった。


まだ続きますよ!

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