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黒い紳士と幼女(+α)たち  作者: 名無アキラ
落神砂漠
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前兆

前兆


卯「…風が強いな。飛ばされそうだ。」


卯月が顔をしかめる。と言っても、彼女が着けているマスクのせいでほとんど表情は読めないが。


菜「流石は中心地、といったところか。台風に突っ込んだような気分だ。いや、台風の方がいくらかマシか。」


菜真理の言う通り、台風よりも風速は早いだろう。体の小さい卯月と菜真理は立っているのさえやっと、といった様子だ。エメラルドでさえまともに前に進めない。


卯「やはりリスクをおかしてでもブリキを連れてくるべきか?といっても、ここで組み立てる訳にはいかないし…くっ!」


今回の騒動で卯月はあまり良いところが無い。幼い頃から成功し続けてきた卯月。片手で数えられるほどしか体験したことの無い不調、今がそうである。


菜「そうカリカリするな。焦れば焦るだけ物事の成功率は下がっていく。私も落ち着いているとは思えないがな…」


苦笑いをして卯月をなだめる菜真理。彼女もオニキスの行方不明という不測の事態に焦ってはいるが、卯月と違って彼女は失敗の経験が多い。落ち着くのも早かった。


エ「あの車、こんな風の中でもドア飛ばされないのねぇ。どんな造りしてるのかしらぁ?」


そしてエメラルドは全く関係の無いことを考えていた。


――――…


風によって前に進むこともままならず、クリムゾンハグの中に戻った卯月たち。


エ「このまま近づいちゃダメなのぉ?」


運転席に座るエメラルドが真っ当な意見を出す。


卯「いや、それはあまり良い策ではない。もし相手方に敵意があった場合、私たちはまともに対抗できない。オニキスがいれば即時殲滅そくじせんめつも可能なのだが…いや、無い物ねだりはやめようか。」


自嘲気味に笑う。今オニキスがこの場にいないのは卯月のミス。他人がどう思おうと卯月はそう考えている。


卯「クリムゾンハグはスピードと内部環境の快適さを重視したカスタムをしてある。よって、隠密行動には向かないのだ。消音とステルスもカスタムによってはできるのだが…ともかく、現状クリムゾンハグは静かに運転できるとはお世辞にも言えない。ここまでは風の音で打ち消されるが、これ以上近づけば気づかれる恐れがある。相手が敵対する者でなければ無用な心配になるのだが、用心に越したことはない。」


というと、卯月は座席の下にある収納スペースから服のようなものを取り出す。


卯「これは、そうだな…避風スーツとでもいっておこうか。風を受け流し、なおかつ要所要所に重り《ウエイト》を内蔵していて体を動かしやすくする。」


エ「なんだぁ、そんなのがあるんだったら万事解決じゃなぁい!」


エメラルドが言うと、卯月が苦い顔をする。


卯「いや、そう上手くもいかないのだ。

これは見た目以上に繊細な工程を必要とするもので、キチンとした施設の無い今、量産できるものではない。そして、私たちのサイズでそれを作るには時間が倍以上かかる。」


エ「つまりぃ…アタシのぶんしか無いってことぉ?」


エメラルドが聞くと卯月が頷く。


卯「そうだ。お前なら砂は障害にならないだろう。それも加味して、お前だけであそこに突入することになる。クリムゾンハグは防衛面ではそこらの要塞にも勝るとも劣らない。お前が抜かれても問題はない。」


と、そこで言葉を区切ってエメラルドを見る。


卯「だが、もしこのまま作戦を実行するならオニキスに続いてお前も単独ミッションになってしまう。

…私は今回に限っては一時撤退もやむ無しかと思っている。」


エ「…卯月さんがそんなこと言うなんてぇ、どうしちゃったのよぉ?」


不退転を信条とする卯月が、自分の備えと知能と技術に絶対的自信を持つ卯月が、一時的とはいえ撤退を提案している。エメラルドはこんな卯月を見たことが無かった。


卯「お前たちは私の最高傑作なんだ。オニキスがいない今、お前に何かあれば私は私に自信が持てなくなる。マトモな精神状態でいられるかもわからない。それほど私はお前たちに、私の技術に信頼を寄せているのだ。」


卯月が弱音を吐く。これほど珍しいこともないだろう。エメラルドはそんな卯月を放っては置けなかった。


エ「大丈夫よぉ。アタシもオニキスも卯月さんのせいで死んでも死なないような体になってるんだからぁ。もし何かあってもどうせいつか戻ってくるんだから、安心して待ってれば良いのよぉ。」


卯「…うむ、そうだな。弱気な私など私ではないな。」


エメラルドの言葉で卯月の目に強い意思の輝きが戻ってくる。


エ「そうよぉ、卯月さんが弱気だとアタシたち下っ端はやりにくくて仕方ないんだからぁ。」


卯「うむ!エメラルド、この砂嵐の原因を調査、そして解決してこい!頭脳が必要ならここにいる。そして、絶対無事で戻ってこい。上半身位なら戻してやれるからな。」


エ「あははぁ…それは絶対死なないわねぇ…」


苦笑するエメラルド。自信を取り戻した卯月に安心しつつ、スーツを着こんで車の外へと出ていくのであった。


――――…


オ「くっ…ちょっと多すぎないか、お前たち!」


大きな魔物たちを粗方力ずつでねじ伏せ、一安心かと息をつきかけたオニキス。だが、まだまだ魔物の猛攻は終わらない。

大きな魔物に押されて出てきていなかった中くらいの魔物が前線に出て来始めたのだ。

中くらいの、といってもオニキスの1.5倍の大きさはあるのだ。パワーでは互角、体が小さく軽くなったぶん動きが細かく尚且なおかつ素早くなっている。その上、これまでの魔物とは違って多数が前に出てくることが可能なのだ。むしろ脅威は増したと考えても良いだろう。


オ「くそっ、邪魔すぎる!ぐっ…!?」


種類も変わってきている。蜘蛛の魔物はそれまでの直接襲いかかってくるものから糸をはいて邪魔をしてくるように、蜥蜴はパワーは弱くなったが、再生力と素早さが段違い。犬の魔物はここからが本領発揮と言わんばかりに群れで襲いかかってくる。

それまでの大型との戦いで傷つき消耗しているオニキスの体には、自然傷が増えていく。そしてまた動きが遅くなっていく。


オ「まだ、まだ…だっ!!」


気合いを入れて拳を振るい続ける。救いはオニキスの過重力領域が効くようになってきたこと。まだ蠍型には効きにくいが、蜘蛛型には効くようになってきた。


オニキスの戦いはまだ終わらない。




ありがとうございました。

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