太陽
太陽
一寸先が見えないどころか目も開けられないほどの砂嵐が吹き荒れている。と、そんな中を爆走する車が一台。
卯「うむ、失敗は万が一にも存在しない。順調な走りだ。」
オ「どうせなら砂嵐を取っ払うものを作った方がよかったんじゃないですかね?運転するのも結構大変だし。」
卯「なに、ヒーローには高性能なマシンが付き物なのだよ。」
そんな中を走る車を作るのも、そんな環境で事故無く走らせられるのも卯月たちぐらいなものだろう。
ちなみに運転しているのはオニキスである。どんなに視力が良かろうとこの砂嵐では意味がないが、他の超性能な五感をフル活用して運転している。
卯「もっとも、岩の一つや二つ程度ぶつかっても問題ないがな。」
オ「相変わらず卯月さんの作るものは壊れ性能ですよね…。」
オニキスもそんな壊れ性能のものの一つだが。
――――…
卯月から了承を取ったオニキスが龍にその旨を伝えると、龍は礼を述べた後に申し訳無さそうに言った。
龍「すまないが、我らから案内役を出すことはできない。
魃の砂漠では乾きが強すぎて我ら水に住まう者たちは近づくことさえ難しいのだ。行って無事でいられるのは我くらいなものだ。」
オニキスは困ってしまった。写真などあるはずもないので相手の姿はわからず、居場所さえもはっきりしない。
オ「それじゃあどうやってそこまで行けばいいんだ?」
龍「いや、それは問題ない。分かりやすい目印があるからな。」
――――…
オ「って龍が言ってたんですけど…」
卯「うむ、確かに分かりやすい。目立ちすぎるほどだ。」
オニキスたちが視線を向ける先には砂ぼこりに遮られてなお見える、異常な光量を持つ球体らしきものが見えていた。
オ「龍が言うには魃は留まっている場所の上に『太陽の欠片』とかいうものを呼び出すらしいです。」
菜「あれがその『太陽の欠片』というわけか…流石は神、といったところか?」
卯「うむ、あれが何百年、何千年とあり続ければ周り一帯が砂漠になるのも頷ける。」
実際のところ、光球に近づくにつれて外気温はすさまじい勢いで上がっていた。眩しさも尋常ではない。フロントガラスが卯月謹製の遮光ガラスでなければ車内にいる全員の目はとっくに見えなくなっていただろう。
卯「この程度のものは想定していたからな。予想通り、といったところだな。」
オ「そのせいで中からはあの太陽擬き以外ほとんど何も見えないですけど。」
卯「お前は車外搭載カメラに視界をリンクさせているだろう?コレは観光用ではないのでな。見えなくても問題ないだろう。」
つまりはオニキス他改造人間以外運転できない、欠陥車両である。
卯「名前はクリムゾンハグ号だ!」
紅の抱擁。訳がわからない。
――――…
卯「こ、これは想定外だぞ…」
しばらく進んだところで止まっているクリムゾンハグ。車内では卯月が種々機械類を手元のタブレットでチェックして唸っていた。
菜「思っていた以上に距離が遠くて温度の上がり方が早い。いずれこの車体自体がもたなくなるだろう。」
卯「くっ…!」
卯月が歯噛みして悔しがる。
卯「砂嵐といい太陽擬きといい…なんなんだ、この砂漠は!?」
菜「神とやらの力を侮った科学の敗北だな。おとなしく引き返そう。」
菜真理が冷静にコメントする。
いつの間にか砂嵐は止んでいたが、太陽の欠片はまだまだ遠くにあり、車に無理をさせても届く距離ではなかった。
だか、卯月は納得できない様子。と、ドアノブに手をかける。
卯「こうなれば外に出て…!」
大慌てでオニキスが止める。
オ「何考えてるんですか!?卯月さんの作った車が止まるほどなんですから、生身で外に出られる訳がないじゃないですか!」
卯「むむ…っ!」
悔しそうな卯月。しばらく俯いて唸っていたが、顔をあげてオニキスをキッ!と睨む。
卯「魃はお前に任せる!お前ならこの環境でも余裕だ!私たちは砂嵐の原因を探りに行く!いいな!?」
オ「いいんですか?」
そう聞いてはみるが、オニキスもそれが最善だと考えていた。戻って調整すればこの先も進むことはできるのだろうが、そうすれば自分の発明が欠陥品だと認めることになる。かといって進むこともできない。卯月的には八方塞がりである。
それならオニキスと別行動をすることで『別任務のために違う方向へと進んだ。』と自分に言い訳ができる余地が生まれる。天才であろうと人間。そんな人間臭い負けず嫌いな部分が卯月にもあるのだ。
卯「お前がたどり着ければ私の作品が勝ったということになる。いいから行け!」
オ「はあ、わかりました。」
そう言いながら車を外気温の低い方へ戻すオニキス。オニキスだけが外に出るにしても、他の一行も多少さ外気温に触れることになる。あまりに高温ではやはりダメなのだ。
しばらく進んだところでオニキスが車を止める。そしてドアのロックを解除すると卯月に言った。
オ「それじゃあ砂嵐の方は卯月さんたちに任せます。どうにも魃と原因とは直接関係はないみたいなんで、そっちが本命だと思います。
止まなくても先に進めるには進めるんでしょうけど…ないに越したことはないので。」
卯「わかっている。さっさと行け!」
卯月が不機嫌そうにオニキスを押す。
オ「それじゃあ行ってきます。集合地点はテントのある場所で。」
そう言ってドアを開け、素早く外に出ていった。それでも熱風と呼んでも差し支えないような外の空気と砂が多少入ってくるが、すぐに車内のエアコンが吐き出す快適な温度の空気に追いやられて車内には存在しなくなった。
卯「エメラルド、前に来い。運転交代だ。」
と、卯月がエメラルドを運転席に呼び寄せる。
エ「えぇー?アタシ、カメラとリンクなんてできないわよぉ?」
卯「そんなものはすぐに切り替えられる。あの太陽擬きに向かって進まなくていいなら、フロントガラスは透明なものにする。」
卯月が手元のボタンを押すと黒く不透明だったガラスが透明になり、代わりに後部のガラスが遮光ガラスになった。
エ「でもぉ、アタシここ何年か運転なんてしてないわよぉ?」
卯「問題ない。多少何かにぶつかっても気にすることはない。」
エ「えぇー…」
渋るエメラルドにイラついたように卯月が言う。
卯「この車は大人用のサイズなんだ。ウルフよりはお前の方が上手く運転できるだろう。」
卯月と菜真理は幼女ボディ。アクセル、ブレーキに足が届かない。
エメラルドは渋々ハンドルを握るのであった。
――――…
卯月たちとわかれ、一人砂漠を行くオニキス。そして見えてきたものは…!?
次回、『岩戸』。
卯月「失敗はしていないぞ!」
ありがとうございました。




