干魃
干魃
危うく溺死しかけたところを門番河童に助けられたオニキス。空気のある門内で一息ついたオニキスを出迎えたのは床に膝をつけて最上の礼をとる龍たちであった。
しかしそこは力はあっても中身は庶民派のオニキス。全力で全員を説得しで立ち上がらせ、元の態度に戻らせた。
オ「俺はそういうのはあんまりなれてないんだ。卯月さんとかなら堂々と受けられるんだろうが…なんていうか…とりあえずそういうのは無しにしてくれ。いいか?」
龍「ふむ…お前がそういうのであればそうしよう。元々我もへりくだるのは苦手なものでな。」
オニキスの対面に座るのは龍と江。実力でも立場でもこの白河の頂点にいる二人だ。
江「渟はむか~しの弱かった頃でもこんなかんじだったんだよ~。下手したら死んでたよね~。」
苦笑いしながら言う江。そういう江は数少ないオニキスと対等に接した一人である。
江「ウチは昔から皆と仲良くできればいいって思ってたからね~。身分がどうとか立場がどうとか、全然気にしてなかったね~。」
龍「長たるもの如何なるときでも誇りを持つべきなのだ。そう気軽なものではない。」
龍が憮然として言う。と、オニキスも頷く。
オ「卯月さんも言っていたよ。『世界は皆弱者なり。こう考えて実践できる者のみが組織を治められるのだ。』って。
現に、子供の頃からああだったらしい。」
そして、卯月なは当時からそうでも許される力を持っていた。腕力ではなく強い人脈、知力、そして人を引き付ける力。歳を経るにつれ彼女の力は強まり、今ではオニキスという最強の手駒を作り出すほどになった。
龍「なんというべきか…天性の王の素質があったのだな。なんとも敵にまわしたく無い相手だ。」
冗談を感じさせない口調の龍。オニキスも同意する。
オ「そうした方がいい。あの人は底知れないからな。
もっとも、卯月さんの底なんて覗き込んだら引きずり込まれそうだ。」
と、なんとも言えない沈黙がその場に広がる。笑えない冗談である。
――――…
気を取り直して本題を切り出したオニキス。砂漠について聞くと龍はすぐに答えた。
龍「河口近くの砂漠?それなら魃の領域だ。お前の長たちには以前話したのだがな。平たく言えば神帝の娘で太陽の女神だ。昔、我が話してそこに留まらせた。あれに彷徨き回られてはどれだけ水の精がいても世界が乾ききってしまうからな。」
魃は天上に戻れなくなった黄帝の娘。地球ではそう伝えられている。ここでは違うのだろうが、どうやら性質は似通っているらしい。
オ「龍の顔見知りなのか?」
龍「うむ、向こうが忘れていなければだがな。」
オ「それなら話が早い。龍が直接行くのは無理なんだろうが、使いを遣るなりなんなりしてあの砂嵐を止められないか?どうにも厳しすぎてな、通るために卯月さんが天候破壊をしそうな勢いだ。」
と、オニキスが言うと、龍が怪訝そうな顔をする。
龍「砂嵐?この時期にそんなものは吹かないぞ?」
今度はオニキスが怪訝そうな顔をする。
オ「いや、だからその魃っていうのが吹かせてるんだろ?」
龍「いや、魃は太陽と乾きの神であって、砂や風を操る者ではない。それに、好んで人に迷惑をかけようとするような質でもない。」
話の食い違い。龍がしばらく考え込んだ後にオニキスに問う。
龍「この河の近くを魃の砂漠からの砂や風が強すぎて通りすぎることができない、ということか?」
オ「ああ、そうだが…何かおかしいのか?」
オニキスが聞くと、龍は難しい顔で頷く。
龍「うむ。もちろん、あの近くに砂嵐が起きることはある。だが、そのほとんどは春に起きる。その上、そこまで酷いものではないはずなのだ。精々が『砂風』程度だ。」
そういうとまた考え込む龍。
砂嵐の原因を聞いたオニキスは卯月のところに戻ってもよかったのだが、オニキスもそこまで非常識ではない。
声をかけるべきか否か悩んでいると龍が顔を上げた。
龍「これはあくまで『頼み』なのだが、砂漠にいって魃の様子を見てきて貰えないか?」
そう言って頭を下げる。オニキスは頼まれるよりも指示される方が得意な人種である。当然、誰かに頭を下げさせていると居心地が悪い。
オ「やめてくれ。どうせ原因がわかれば潰すか何とかするために動くんだから。そのときに寄り道をするかどうかだ。
俺としては引き受けるのは問題ないが、どっちにしろ卯月さんに聞いてこないと何とも言えない。」
そこで一息つくと、オニキスは問う。
オ「そもそも、お前が心配する必要あるのか?神帝の娘とか太陽の女神とかいうなら、自分で解決するんじゃないか?」
と、龍が顔を背ける。オニキスが龍の言葉を待ち続けると、言いにくそうに言い出す。
龍「もちろん、あれ自身の力は尋常ではない。我では足元に及ばぬほどだ。だが…」
口ごもる龍。
オ「だが?」
龍「なんというか、その…ドジなのだ。天然ボケ、といってもいいかもしれないかもしれないな。」
オ「…は?」
何とも龍らしくない言葉が飛び出す。
オ「神なのにドジで天然なのか?」
龍「うむ。」
何とも言えない空気。
龍「総じて身分のある者の子供というのは大切に育てられる。あれの場合、それが過ぎたのだ。
蝶よ華よと育てられ、やりたいことは全てでき、人目も触れさすまいと世間にも出ていない。
世間知らずの常識知らず、まさに箱入り娘の典型だ。
故に人を疑うことなど知らぬ。騙されて利用されていてもその事に気づけないような娘なのだ。」
オ「それは…納得できるような納得できないような…。」
ターゲットの微妙な人物像を掴んだところで、オニキスは卯月の指示を仰ぎに戻るのであった。
――――…
オ「…と、言うわけです。どうしますか?」
卯月に龍から手に入れた情報の全てを報告する。
卯「ふむ。砂漠ができているのはその魃とかいうが原因だが、本来は何ら悪影響の無いもの。この迷惑な砂嵐は異常気象かどこぞの迷惑な輩の仕業、ということだな?」
オ「はい、そうみたいです。」
と、卯月が笑みを浮かべる。
卯「対砂嵐用の装備はほぼ完成しているから、強行突破でもいいかと思っていたが…そんな輩がいるのであれば、私たちとしては放ってはおけないな?」
卯月の笑みが真っ黒なものにかわる。
オ「いや、俺としては龍からの頼みをなんとかできればいいんですけど…」
卯「いや、気にすることはない。ついでだ、ついで。」
これはマトモなことにならない。そう思ってつい反対意見をいってしまったオニキス。だが、それは卯月に封殺される。
不退転主義の卯月が後に引かされたのは相当なフラストレーションを引き起こしたらしい。
卯「少しばかり説教をするだけだ。少しばかり、な?」
ほとんどのものに恐れを抱かないオニキスでさえ、これ以上反対しようという気をなくすほどの威圧感を卯月は放出していた。
卯「それでは、龍のところにいって了承の意を伝えて案内を連れてこい。
その間に私は必要なものを揃えておこう。」
有無を言わせない卯月の言葉に押されてオニキスは龍の城にとんぼ返りするのであった。
――――…
龍「どうしたの?心なしか顔が蒼いぞ?」
オ「…卯月さんには絶対に逆らっちゃいけないぞ?絶対に、だ。」
龍「…?うむ、心得た。」
――――…
灼熱の砂漠へと乗り込んでいくオニキスたち。その前に現れたのは…!?
次回、『太陽』。
龍「一体どうしたのだ?」
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