強行
強行
カエサルたちと別れ、璃楽亭に戻ったオニキスたち。
江「お帰り~。どうだった~?」
留守番をしていた江がオニキスたちを出迎える。
オ「ああ、楽しめたよ。センちゃんと美和もたくさん友達ができたみたいだし。」
そのセンと美和は真っ先に女将のところへ報告に行っている。
と、オニキスが店内を見回して江に聞く。
オ「それで、ブラッディは来たか?」
江「いや~、まだだよ~。お金と土地って選択肢が無くなると、価値のある報酬なんてそうそう考えつかないだろうからね~。ギリギリまで考えてダメだったら…ってところじゃないかな~?」
江が首を横に振り、意見を述べる。
現在時刻は夜7時。日付変更まであと五時間である。
――――…
菜『期間延長?ダメに決まっているだろう。』
オ「だよね。」
一応、菜真理にお伺いをたててみるオニキス。だが、彼女の返事はNOだった。当然のごとく。
菜『あの女が私の気に入る答えを出せるはずがないと、私はふんでいる。しかし、やつの元の世界への執着はかなりのものだ。それで諦める、という選択肢は無いだろう。十分に用心しろ。お前に万一のことなどそれこそ万に一、いや億に一の確率でも起きないと思うが…』
オ「江さんとセンちゃん、それに美和ですね。特に美和はまだ実力もない子供だから…」
菜真理の言葉をオニキスが続ける。将を射んとせばまず馬から。オニキスや菜真理に手を出せないならその周辺から、ということだ。
江は言わずもがな、センも水の精という高いポテンシャルを持っている。故に彼女らについては心配は無いだろう。
だが、美和は違う。龍神の娘である彼女は高い才覚を秘めているものの、まだまだ生まれて間もない。外見年齢的には高性能な方だろうが、オニキスや彼女の父である龍のように高い制圧能力を持っているわけではない。
龍の娘などという地雷を好きこのんで踏み抜くなど愚劣の極みではあるが、ブラッディが、ましてや進退極まった状態の彼女がマトモな思考をするはずがないと菜真理はよんだのだ。
菜『お前がいれば不足の事態も難なく回避できるだろうが、美和とセンは人様からの預かりものだ。安全を第一に優先しろ。
0時になれば交渉は不成立、即刻帰還しろ。』
オ「了解。」
そんなこともあろうかと、カエサルの孤児院からの帰り道でかかわり合いになった人物全てに出立の旨を伝え、別れを言ってきた。
場合によってはこのまま出入り禁止になる可能性もあるだろうから。
――――…
そろそろ深夜0時になろうという頃、オニキスたちが帰り支度をしていると…
血「ちょっ、待ってよ!」
音高く扉を開いて、ブラッディが璃楽亭に入ってきた。と、顔をしかめて女将が注意する。
「ちょっと!扉は静かに閉めておくれよ!もう寝ているお客さんもいるんだよ?」
血「うっさい!今はそれどころじゃないってーの!」
ブラッディの返答に更に顔をしかめる女将。だがブラッディはそんなことも気にせずにオニキスに捲し立てる。
血「ねぇ、もうちょっとだけ待ってよ!そんなピッタで出なくても良いじゃん!」
オ「悪いけど、これが上からの指令なんだ。そもそもこれでもある程度譲歩したほうだ。」
オニキスにとっては幼女こそが絶対なのである。
顔を何度か見た程度のブラッディに味方する道理もない。
血「どうせあのウザい女に言われたんでしょ!?そんなの聞かなくてもいいって!」
オニキスの前で幼女をけなすのは、ロードローラーで地雷原を駆け回るようなものだ。
と、
「(ボーン…ボーン…ボーン…ボーン…ボーン…ボーン…ボーン…ボーン…ボーン…ボーン…ボーン…ボーン…)」
柱時計が12時、0時を知らせた。
オニキスは江に目配せをし、センと美和が自分の後ろにいることを確認して立ち上がった。
血「ちょっ、」
オ「時間だ。今回は縁が無かった、ということで諦めろ。」
ブラッディの制止には目もくれず、出口に向かって進んでいく。ちなみに宿泊代は江のツケである。
血「ちょっ、待ってよ!待ってって…言ってんだろーが!」
ブラッディが形相を変えて叫ぶ。
と、外から土が掘られるような音が聞こえると共に、璃楽亭を囲むように気配が現れる。
血「アタシもゾンビぐらい使えんだよ!大人しく帰る方法教えろ…」
「超安心!」
ブラッディの言葉を遮って高らかに言ったのは
「あんたのお陰でこの町は楽しくなったけど、これはちょっとばかりルール違反だよ。
あたしは汚い腐肉をこの宿に入れる気もなければ、お客さんを傷つけさせる気もない。これはそういう魔法さ。」
璃楽亭の女将だった。
彼女の言葉と共に、宿を暖かな光が包み込む。
と、窓からチラチラと見えていたゾンビがサラサラと砂のようになって崩れ落ちていく。光の範囲外にいたゾンビは砂のようになることも無いが、近づくことができないようだ。
血「ふ、ふん!アンタみたいな雑魚が魔力でアタシに耐久レース挑もうなんて、馬鹿じゃないの?
アタシのゾンビは近づかなきゃ消えないんだし!」
『お嬢ちゃんたちのお見送りだぜェ!派手にやれよ、野郎共ォ!』
『『『オオオォォォオオオッ!!』』』
またもブラッディを邪魔するように外から響く人々の声。
その間にオニキスたちが外に出ると、オニキスたちが今日までに訪れた店の店主や店員がゾンビを蹴散らしていた。
彼らに叩き潰されたゾンビは再生することなくグズグズと土になっていく。
「俺たち不死者は下位の不死は無効化できるんだ!ヴァンパイアとかリッチは無理だけどな、ゾンビ程度ならボッコボコだぜ!ヒャッハァッ!」
言葉通り、被害が出ているのはゾンビ側のみ。町の不死者たちは噛まれるのも気にせずにゾンビを無効化している。そして、噛まれたところと何秒か後には回復している。
「あんたらは楽しい客だったからな!餞別代わりだぜ!とっとと行っちまいな!」
ゾンビは無効化され、ブラッディは女将が生み出す光に阻まれて宿の外に出られない。
確実に損害を出さずに脱出するまたとない機会である。
オニキスはセンと美和を肩に乗せて走り出し、江もそれに続く。
センと美和はオニキスの肩の上から後方に手をふる。
セ「またなー!」
美「ん、またくる。」
――――…
オ「といった経緯で死者の都からの脱出、完了しました。」
ここは死者の都に通じている水底を通りすぎた水の中。オニキスは通信で卯月に報告をしている。
現在オニキスはセンに引っ張られて美和と江についていっている状態である。見た目は情けないが、これが一番早いのである。
卯『ああ、ご苦労だったな。合流地点はお前たちの位置を見ながら追って連絡する。くれぐれも最後まで抜かるなよ?』
オ「了解です。」
卯月からの通信が切れ、またただ引っ張られるだけの移動に戻る。情けなくはあるが幼女に引っ張られるというのもなかなか乙である、などと訳のわからないことを考えつつ、オニキスは退屈を紛らすのであった。
――――…
卯月たちと合流するオニキスたち。だが、最後の最後まで気は抜けない。
次回、『命灯不滅』編最終話!
卯「やれやれ、やっとか…」
ありがとうございました。
ふと見てみると投稿話数が50を越えていました。改めてお礼申し上げます。




