軍団
ラ「あけまして!」
フ「おめでとうございます、です!」
セ「今年もよろしくなー!」
「動物たちが騒いでます。なにか良くないものが近づいてきているんです。
早く避難してください!ここにいたら…」
係員が焦ったようにオニキスたちを出口へ急かす。
と、後ろから聞き覚えのある足音が…
「ぶふーっ!ぶふーっ!」
そこにいたのはスモールベヒモスのベヒちゃん。
良く見れば愛嬌のある河馬顔を心なしか引き締めているような気がする。
「ベヒちゃんは良い子ですけど、他の動物の中には凶暴なのも…っ!」
「ガァァアアアアッッ!」
一際大きな咆哮。発生源を見てみれば…
オ「牛?」
「マンイーターホーンです!普段はおとなしい子なのに、肉の匂いを嗅ぐと凶暴になるんです!」
「ゴルグガァァアアアアッッ!!」
オ「もうちょっと外見に合った鳴き声にすればいいのに。」
見た目は牛、声は猛獣。それがマンイーターホーンという動物であった。
と、ベヒちゃんがその場にいる全員をマンイーターホーンの視界に入らないようにする位置に立ちふさがり、鳴く。
「ぶふー、ぶぶふふーっ!」
「グッ…グルグゴァ…」
「ぶふふふ、ぶふ。」
「グルゥ…」
鳴き声だけでは完全にマンイーターホーンが格上に聞こえるが、ベヒちゃんにはそれを遥かに凌ぐ威厳がある。全身から滲み出るオーラは生まれついての支配者の証だ。
「ウチの動物たちは基本的に『居てもらっている』、お客さんなんです。だから非常事態になると暴れだして脱走する子もいるんです。
一対一だったらベヒちゃんがこうやって防げますけど、たくさん来たら止めきれません!その前に逃げ…」
と、背後から聞こえてくる地響き。
嫌な予感に駈られて係員が振り向くと…
オ「これが暴れだして脱走した状態か?」
「ぅわぁぁあおえういおああぁぁっ!?」
係員は必死で頭を回転させる。
自分はいくら蹴られ、噛まれ、潰されようと不死ゆえに最終的には助かることができる。ベヒちゃんもなんだかんだ助かるだろう。
だが、この客は別。久方ぶりに生身の客が来たと喜んでみればこの始末。何とかして逃がさないと…
と、係員に声がかかる。
オ「多分、君が心配しているようなコトにはならないと思うぞ。」
「何を呑気な…っ!」
既に猛獣たちはすぐ目の前。
「早く避難を!」
と、センが動く。
セ「こんなにいるとちょっと怖いぞー!」
美「ん、こわい。おにきす、たすけて。」
センはオニキスの背後にまわり、美和もそれに合わせてオニキスに後ろから抱きつく。
オ「お、ぉぉぉおおおっ!!野蛮な獣たちめ!この幼女たちには牙一本、爪一本触れさせない!」
元々防げるモノに、幼女に頼られるというブーストが加わった今、オニキスが失敗する可能性はゼロ。だが、係員はオニキスの実力を知らない。
「ダメです!この子たちは地上では最上の部類に入る動物や魔物を集めた…」
オ「止まれッ!!」
係員の言葉を遮って響くオニキスの裂帛の気合。係員は周囲の空気がガラリと変わるのを感じた。
「これは…龍の気っ!?」
オニキスを中心に立ち上る思わずひれ伏したくなるほどの威圧感。体も重く、自由に動かない。
もっとも、体が重く感じられるのはオニキスが無声で発動した軽い『過重力領域』のせいなのだが。
野生動物の感覚は人間のそれより遥かに鋭い。不死者であるとはいえ、係員は元人間。それが感じ取れたものを感じないはずがない。
「グッ…グルルルゥ…」
「ガルル…ルル…」
動物たちの大波は一瞬にして凪に変わった。勢いのまま前に突き進む後続たちも、しばらくして進行方向に存在する強大な威圧感に気づき沈黙する。
と、オニキスの隣にベヒちゃんが並び立つ。そしてゆっくりと動物たちを見る。
「ぶふー、ぶふふー。」
決して激しい鳴き声でもなければ、恐ろしいものでもない。だが、格というものの違いを感じさせるものだった。
オニキスとベヒちゃん、そしてオニキスに隠れているものの生物的格は並みではない龍神の娘である美和とそもそもが生物の上を行く存在であるセン。おまけで係員。そのメンバーが並び立てばいくら強い動物でも立ち止まらずにはいられない。
セ「おおー、止まったぞー!オニキス、やったなー!」
美「ん、おにきす、すごい。」
オ「そ、そうだろう!二人は俺が何としても守るからね!」
幼女二人からの称賛をうけ、口調さえもあやうくなりだすオニキス。それに合わせて上がっていく『過重力領域』をうける動物たちは良い迷惑だろうが。
――――…
しばらく、というほど時間もたっていないが。暴走し、オニキスらの威圧によって押しとどめられた動物たちはベヒちゃんの『ぶふー』言語による説得で檻のあった場所に戻っていった。
『あった』と過去形なのは、動物たちが脱出の際にそれぞれの方法で壊したからである。
一先ずの平穏を取り戻した動物園だったが、動物たちが騒ぎだした原因は今だ排除されていない。
オ「目が良い自信はあるんだが…どこにも何も見えないぞ?強いて言うなら、お爺さんが一人いる程度だ。」
ベヒちゃんが頭をふって指し示す方向をオニキスが改造された超視力で見ると、一人の老人が仁王立ちしているのがわかった。
「お爺さん、ですか?」
オ「ああ正真正銘お爺さんだ。」
係員が何かの間違いではないかと聞き直すが、オニキスは絶対の自信をもって返す。繰り返すがオニキスの視力は超改造されているのである。猛禽類よりも遠くを見ることができる。
「また侵略ですかね…結構定期的にあるんですよ。」
何やら思案顔の係員。
オ「定期的にあるのか?」
「はい。ここは立地的に最初にそういうのに遭遇しやすくて。」
係員曰く
死者の都への入り口は世界中にいくつかあるのだが、辿り着くのは都の前後に位置する北の門前か南の門前のどちらかのみ。そこから攻め入れば迎撃されるのは当然のこと。よって、都を攻撃するならより対応されにくい場所、つまり西か東からということになる。
この動物園は都の西に位置し、なおかつ都の外側にあるためそういった攻撃に晒されることになるらしい。
ちなみに、東側の郊外には現存する最強の不死者ことエルダーリッチのトメルーが隠居と称して居を構えているため、実質難攻不落である。
「いつもなら動物たちが暴れる勢いで蹴散らすんですけど…。」
オ「今回は俺たちがいたからそうはいかなかったと。」
「い、いえ!決して皆様が悪いというわけでは無いんです。」
係員の鑑こと係員が客の機嫌を損ねまいと弁解するが、その程度のことで怒るオニキスではない。
セ「お姉さんは悪くないぞー!」
美「ん、おこらないで?」
オ「もちろん!悪いのは侵略してくる方だ。」
幼女が係員の味方をしているからだが。
オ「まあ、今回は俺が止めてくることにしようか。」
オニキスが肩を回しながら謎の老人がいるという方向を向くと、係員がそれを止めた。
「いえ、ここは町に応援を頼んだ方がいいと思います。」
セ「オニキスは強いぞー?」
美「ん、つよい。」
「いえ、実力を疑っているわけではないんです。
ただ、恐らく相手の数が多い上に生者ではありません。」
オニキスのようなロリコンであれば瞬時に納得してしまうのだろうが、係員も必死である。両手を体の前で振って否定しながらも自分の意見は言う。
オ「生者じゃないってのはわかるけど…後から援軍でも来るのか?」
「いえ、意識があるのはその老人一人だと思います。ただ…」
口ごもる係員。
「恐らくはゾンビを大量に連れてきているはずです。私たちなら格上なので噛まれても大丈夫なのですけど…お客様が噛まれてしまうとゾンビになってしまうと思うんです。」
不死者ならば自我がある時点でゾンビよりは格上であり、ゾンビになることはない。しかし、オニキスは生身の人間。いくら実力があろうと噛まれればゾンビになってしまう、と係員は考えたのである。
が、オニキスは不死者ではなくても特別製の改造人間。もしかすれば、と
オ「どうなんでしょう?」
卯『ふむ。ゾンビになる仕組みにもよるな。』
オニキスの体のことを本人よりも知る人物、卯月に聞く。
卯月に言われたオニキスは不死者の仕組みについて一番知っているだろう係員に聞く。
オ「噛まれるとどうしてゾンビに?」
卯月の声は聞こえていないため、若干怪訝な顔をする係員であったが、それでも答える。
「ゾンビの出来方はいくつか方法がありますけど…人間がゾンビに噛まれて変化するのは、魔法か呪いによって変異してしまったゾンビ細胞が噛まれた傷口から体内に入るのが原因です。…あっ!」
係員が何かに気づいた様子。卯月も当たり前かのように言う。
卯『なら、問題無いだろう。お前のスーツと表皮は並大抵のことで傷つくほど弱くは無い。私の作ったものだぞ?』
「ベヒちゃんに噛まれても大丈夫なら、ゾンビじゃ噛み破れるはずもありませんよね…」
改造に改造を重ねたオニキスはゾンビになどならないようだ。
セ「オニキスは強いんだぞー!」
美「ん。」
「そうですよね。ベヒちゃんが噛み切れないってことは、少なくとも鉄よりも硬いってことですもんね。」
――――…
ゾンビ耐性は完全であることが分かった。しかし、不死者を撃ち破るには…!?
卯『ゾンビか…面白そうだな。』
ありがとうございました。
本年もよろしくお願いします。




