続・観光
係員に言われた真ん中広場には立て看板が一つ。
『ベヒちゃんのチビッ子ショー』
セ「ベヒちゃんって誰だー?」
美「おんなのこ?」
看板は色鮮やかに装飾されているが、『ベヒちゃん』に関するイラスト等は見当たらない。
オ「随時開催だから、セットも有り合わせとかだったりするのかな…ん?」
少し離れたところに大きな園内地図。その下に何枚かのパンフレットを見つけた。
オ「えっと…あ、これかな?」
オニキスが取ったのは『カワイイベヒちゃん!』と書かれているもの。表紙にはベヒちゃんとおぼしき動物の写真がついていたが…
オ「これは…カバか?」
そこに写っていたのはカバによく似た動物。しかし、その口元からは肉食獣のように尖った牙が覗いていた。
そして、そのパンフレットにはベヒちゃんがどんな動物なのかも書いてあった。
『スモールベヒモス(暴食小河馬)
:ベヒモス(暴食河馬)と生態が非常に似ており、小型種とされる。名前に偽りは無く、有機物はもちろん、無機物でも何でも食べることができる。
水中でじっとしていることが多いが、陸上でも活動する。
糞を撒き散らしてマーキングをする習性がある。
周囲に食べ物の匂いをさせることでそれを防ぐことができる。』
オ「まあ、河馬とほとんど変わらないな。何でも食べるってことは歯は人間に似てたりするのかな?」
と、周囲をキョロキョロと見回しながら探検していたセンがオニキスの手元を覗いてきた。
セ「ベヒちゃんが誰か分かったかー?」
オ「そうだな…ん?」
どう説明しようか考えるオニキスだったが、向こう側から係員が歩いてくるのが見えた。
オ「動物のことは俺よりもあのお姉さんに聞いた方が良いと思うよ。専門家だからね。」
余談だが、係員は女性である。
――――…
「良い子の皆、元気ですかー!?」
セ「センは元気だぞー!」
美「うん、げんき。」
たった二人が相手でも全力、全開で手を抜かない。ある意味、係員の鑑である。
「今日は皆の友達、ベヒちゃんに来てもらっていまーす!大きな声で呼んでみよー!」
そう言い、口元に手をやると、
「ベーヒちゃーーんっ!!」
セ「ベヒちゃーん!」
美「べひちゃーん。」
センと美和もそれに合わせて元気良くベヒちゃんを呼ぶ。
と、セットの壁の向こう側から足音が聞こえてきた。
「ぶふー、ぶふー…」
現れたのは、オニキスが先程パンフレットで見たままの動物。スモールベヒモスのベヒちゃんである。
「はーい、ベヒちゃんが来てくれました!ベヒちゃん、お友だちにあいさつできるかな?」
係員がベヒちゃんの頭を軽く叩くと、ベヒちゃんは頭を上下に振りながら鳴いた。
「ぶふー、ぶふー」
どうやらこれが鳴き声らしい。
元の世界でアシカショーやイルカショーを見たことのあるオニキスにとっては少し感心する程度のものだったが、こちらの世界ではほとんど見ることの無い動物の芸。
セ「オニキス!ベヒちゃんがあいさつしてるぞ!」
美「べひちゃん、すごい。」
幼女'sは目を煌めかせてオニキスに報告する。
「ベヒちゃん、お友だちが誉めてくれたよ!」
「ぶふー、ぶふふー。」
頭をグリングリンと動かすベヒちゃん。
「あらあら、ベヒちゃん照れちゃってる見たいです。」
芸の細かいベヒちゃんであった。
と、係員が後ろにおいてあったバケツを手にとった。
「ベヒちゃんともっと仲良くなりたいお友だちはいるかなー?」
セ「ハイだぞ!」
美「ん!」
巧みな話術と言うべきか、ベヒちゃんと連携がとれていると言うべきか、とにかく幼女'sは釣られてしまった。
「はーい、じゃあお友だちは前に来てくださーい!」
一瞬戸惑い、オニキスを見るセンと美和。
オ「行って良いよ。俺はここで見てるから。」
何かあっても、その何かが幼女'sに影響を及ぼす前に防ぐことができる。オニキスの実力の上に成り立つ許可だった。そうでもなければ、スモールベヒモスなどという未知の動物のところに二人を送ったりしない。
許可を得たセンと美和は、顔を輝かせて係員の前に駆けていった。
「はい!それじゃあ、お友だちにはベヒちゃんにオヤツをあげて貰いまーす!」
美「おやつ?」
セ「あげるぞー!」
二人の反応を見て係員は
「二人はニンジン好きかなー?」
セ「あんまり好きじゃないぞー。」
美「ん、きらい。」
「それじゃあ、ベヒちゃんは二人よりもお利口さんかもしれないねー!」
そう言いながら、バケツの中からニンジンを丸ごと二本取り出した。
「ベヒちゃんはニンジンも大好き!お顔の前に投げてあげてください!」
オ「ゆっくり投げてあげるんだよー。」
一見ただの幼女に見えるけれど、二人は特別な幼女。センは水の精だし、美和は龍神の娘で、その身体能力は未知数。もし、おもいきり投げつけるようなことがあればどうなるかわからないのだ。
セ「わかってるぞー!」
美「ん。」
オニキスに返事をすると、二人は顔を見合わせてタイミングを合わせ、
セ・美「「せーのっ!!」」
同時にニンジンを投げる。
放物線を描いてベヒちゃんの目の前に飛んでいったニンジンは
「ぶふっ!ぶふっ!」
パクッ、パクッ!モグモグモグ、ゴクン!
目にも止まらぬ早さでベヒちゃんに咀嚼され、飲み込まれた。
セ「おー!スゴいぞー!」
美「おー。」
パチパチと拍手をして喜ぶ幼女's。その反応は係員の望んだものだったらしく、ニッコリと笑った。
そして、次にバケツから取り出したのは…
オ「角材、か。」
10cm×10cm×20cmほどの四角く形を整えられた木材。
「ベヒちゃんはこんなものも食べられちゃうんです!」
それを見たセンと美和が不安そうな顔をする。
セ「ベヒちゃん大丈夫なのかー?」
美「ん。」
しかし、係員の顔は自信に溢れている。
「大丈夫なんです!ベヒちゃんはスゴい子なんですよー!それじゃあ…」
セットの影から長めのマジックハンドのようなものを取り出してきて二人に渡す。
「これでこの木を掴んで、顔の前に出してあげてください。」
セ「わかったぞ!」
美「ん。」
掴むものがそう重くなくても、長さがあれば重くなる。二人で協力して木材を掴んだマジックハンドを持ち上げ、ベヒちゃんの目の前に差し出す。
バクッ!バリッ、メリッ、ゴクッ!
ベヒちゃんは木材も簡単に噛み砕いてしまった。
セ「お、おー!!スゴいぞー!ベヒちゃん!」
美「ん!ん!」
大興奮の幼女's。
しかし、オニキスはそう驚かない。元の世界のカバも、ボートや他の動物を噛み折ってしまう顎の力を持っている。係員はまだ何か隠し球を持っているだろうとふんでいた。
「でも!ベヒちゃんはもっとスゴいこともできるんです!ほら、これ!」
自信満々に係員が取り出したのは
オ「鉄球…!これは地球の動物じゃ無理だな…」
赤ん坊の頭ぐらいはある鉄球だった。
オ「それに、あのサイズの鉄球を片手で持ってる係員さんもどうかと思うけどな。」
そう、係員はその鉄球を片手で掲げていたのだ。
流石は死者の都の住人、彼女も不死者の一員なのだろう。
「これはお友だちには重いよねー。…そうだ、お兄さん!」
係員はセンと美和を見て、しばらく考えた後にオニキスを手招く。
オ「俺か?」
「そう、お兄さん!ちょっと手伝って貰えますか?」
元の世界でのショーでも係員が適当に客を呼び寄せることは良くある。オニキスもそれを理解しているので、渋ることもなく進み出る。
オ「何をすればいい?」
「これをこれで…」
係員が鉄球とマジックハンドを差し出すが…
オ「あ、これは要らない。」
「へ?」
オニキスは鉄球だけを受け取り、ベヒちゃんの顔の前に差し出す。
バクッ!…?
「ああ!お兄さ…ん?」
マジックハンドは客の安全のために使っている。ベヒちゃんが齧ってしまえば、止める間もなく齧られた部分が無くなってしまうだろう。
オ「あ、大丈夫大丈夫。」
しかし、オニキスは特別製だ。何でも食べられる程度の動物に齧られたくらいでは怪我などしない。
係員もベヒちゃんも呆気にとられている。
オ「ほら、パフォーマンスの時間だぞ?」
そう言って自分の手をベヒちゃんの口から抜き取る。
メキャッ、コキャッ、ングッ!
いとも容易く鉄球を噛み砕き、飲み込むベヒちゃん。
オ「おぉ、スゴいな。」
セ「スゴいぞー!ベヒちゃん、スゴいぞー!」
美「ん!すごい!」
大喜びのセンと美和。
が、係員だけが微妙な表情をしていた。
「人間じゃないわ…。」
その通り、改造人間である。
――――…
ショーが終わってベヒちゃんが檻に戻った(檻も下手をすれば食べられてしまうが、中の居心地を良くすることでそれを防いでいる。)後、しばらく園内を回っていると…
オ「ん?」
急に動物たちが騒ぎ始めたのだ。
セ「なんだー?」
美「みんな、ないてる。」
と、係員が走ってオニキスたちに近づいてきた。
「皆さん!早く避難してください!」
どうやら、オニキスたちの休日は平和には終わらないようだ。
――――…
動物園に迫る暗雲。その正体とは…!?
次回、『軍団』。
ベヒちゃん「ぶふー、ぶふー。」
ありがとうございました。
以前も言いましたが、明日(29日)から帰省するのでこれが年内最後の更新になるかと思います。
皆様、良い年越しを!




