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黒い紳士と幼女(+α)たち  作者: 名無アキラ
命灯不滅
42/72

難点



卯「そもそもの問題は、だ。」


絶句するブラッディを余所に、卯月の言葉は続けられる。


卯「私たちにお前を帰らせる理由が無い、ということだ。」


血『なっ…!それってどういうっ…』


卯「どういうもこういうも無いだろう。そもそも私はオニキスから伝え聞いた程度しかお前を知らない。そんな程度の、知り合いであるかどうかすらあやしいお前のために、わざわざ貴重な技術を消費してやる義理が無い、と言っているんだ。」


卯月も情が無い訳ではない。しかし、彼女は決して感情的に物事を考えない。

ブラッディの話は、一見同情を誘うエピソードに聞こえる。しかし、実際はそうではない。

車にかれて死んだはずの彼女が今現在もこうして彼女として生きている。実際のところこれは尋常ではない幸運である。

人間、死んでしまえばそこまでのもの。生まれ変わりがあるとしても、それは自分ではないまったくの別人だ。地獄や天国もまたしかり。例えそのようなものがあっても、家族や友人に会うことは無いだろう。


簡潔に言えば、卯月はブラッディの『元の世界に戻りたい』という願いを非常に贅沢で甘えたものだと考えているのだ。


卯「当然だろう?お前は赤の他人から頼み事をされてホイホイ叶えるほどお人好しなのか?

仮にお前がそうでも、私は違うがな。」


故に、卯月は全力でブラッディの心を折りにいく。気にくわないのだ。真っ先に他人に頼ろうとする甘えた精神が。

しかし、真っ先に卯月に丸投げしたのはオニキスである。


卯「(オニキスにも少し説教が必要だな。もう少し私に繋げる相手は選ぶように、な。)」


卯月がそんなことを考えていると、通信の向こう側でブラッディが叫ぶ。


血『なんだよ、お前!正義の味方じゃ無いのかよ!』


卯「…うるさいな。」


顔をしかめる卯月。彼女とオニキスが使っている通信機は相手の声だけがそのまま聞こえてくるもの。ゆえに、ブラッディが叫べばそれはそのまま卯月に伝わるのだ。

だが、ブラッディは卯月の『うるさい』という発言を別の意味にとったらしい。


血『うるさいってなんだよ!アタシにとってはな!落ち着いてられるようなことじゃないんだよ!』


卯「落ち着け、喧しいぞ。」


ブラッディの発言は卯月の苛立ちをつのらせる。


卯「お前は自分の立場がわかっているのか?」


血『どーいう意味だよ!?』


やれやれ、とため息をつきながら、小さな子供に言い聞かせるようにゆっくり、はっきりと話す。


卯「私たちは特にお前に何も求めていない。私が今、お前と話しているのはオニキスに頼まれたからであって、何か目的があるわけでもない。言ってしまえばタダの暇潰しだ。

だが、お前は私たちの助けが無ければ目的を達成することはまず不可能だろう。

お前は、私の機嫌を損ねないように下手に出つつ、丁寧に『お願い』するべきだったんだ。」


だが、と卯月は続ける。


卯「お前はそうしなかった。お前は自分で自分の首を絞めたんだ。」


血『なっ!?おい、ちょっ…』


それだけ言うと、卯月は回線を繋げたまま音声を切り、菜真理に声をかける。


卯「おい、なーちゃん。」


菜「なんだ?時空間爆弾のことか?」


菜真理はオニキスに仕掛けてある盗聴器から聞こえてくる声と、今の卯月とのやり取りで状況をしっかり把握していた。


卯「私が勝手に対応していたが、本来はなーちゃんに来るべき依頼だ。最終決定は任せようと思ってな。」


そう言って卯月は通信機を菜真理に差し出す。


菜「…そういえば、ああいうのはお前の嫌いな部類の人間だったな。」


卯「何を言う。礼節のなっていない願いなど聞く必要が無いのは、全世界共通だろう?」


菜「こういうタイプの人間は私もあまり好きじゃないんだがな…」


ぼやきながらも通信機を受けとる菜真理。音声を入れると…


血『…いてんのか、テメェッ!!』


菜「っつ!もう少し静かに話せないのか?」


血『ァン!?テメェがウゼぇことばっか言ってくるからだろうが!』


ふと、菜真理はある可能性に気づいた。今まで一緒にいた人は直接見るか、もしくはなぜか違いが分かっていたのだが、今回は通信のみで相手は凡人の域に入る人間だ。


菜「あー、言っておくがさっきのと私は別人だ。双子の姉妹なんだよ。」


血『…は?』


菜「私は元の世界に戻る方法を持っている方の片割れだよ。」


血『…!』


通信の向こうでブラッディが絶句するのが分かった。流石の彼女も、今自分がした行為が自爆行為だと分かったのだろう。


菜「私は技術者だ。報酬次第では技術を売っても良いだろう。」


血『マジでっ!?いくら、いくら払えば…』


菜「ただし!」


ブラッディの言葉を少し声を大きくしてさえぎる。


菜「私も、他の同行者たちも金には困っていないからな。報酬は別のもので払って貰おうか。」


血『別のものってなによ?』


その時、菜真理の顔には笑みが浮かんでいた。暗い愉悦をかんじさせる、凄まじい笑みが。


菜「それは自分で考えてもらおう。期限は、そうだな…三日としておこうか。それまでに考えつかなければ諦めろ。」


それだけ言うと、菜真理は問答無用で通信を切断した。


それを見ていた卯月が言う。


卯「なーちゃんにしては珍しく、随分と突き放すじゃないか。」


菜「いや、なに。」


ただ笑うだけではっきりと理由は言わない。

彼女の耳に入ってきた一言、それが原因だ。


『ちーと?とか…』


これだ。例えそれが与えられたものでも、才能は才能。菜真理の標的になるには十分だった。


菜「(くくっ…願いが見えているのに届かない。絶望だろうな。)」


暗く、悪く笑う菜真理であった。


――――…


血「なんなの、アイツら!ちょームカつくんだけど!」


通信が切れてからもしばらくは叫んでいたブラッディだったが、完全に切れているとわかると、怒りがおさまらないのか壁を殴り始めた。


少し離れてそれを見ていたオニキスと江は…


江「う~ん、ブラッディちゃんってあんな子だったかな~?」


オ「まあ、『キレやすい若者』の模範例みたいなもんだな。」


完全に傍観者になっていた。

が、ブラッディが苛立ちのままに『ブル』を地面に叩きつけようとしたのにはさすがに動いた。


オ「それは俺のだ。勝手に壊すんじゃない。」


血「ちょっと、黒兄!なんなの、あの女たち!ちょームカつくんだけど!」


オ「まあ、俺は『なんとか言える人』を紹介しただけだからな。それに、さっきのは完全にお前の態度が悪い。」


血「なに!?黒兄はアイツらの味方するの!?」


オ「まあ、元々仲間だしな。お前の味方になったつもりもなるつもりもないしな。」


ブラッディに関しては、彼女が勝手に懐いているだけでオニキスは彼女に対して特に何も感じていない。むしろ礼儀をわきまえない点はオニキス的にもマイナス評価だ。

そして、卯月と菜真理は『幼女』という武器でオニキスを掌握しているのだ。オニキスが二人に敵対することは絶対に無い。


オニキスの身も蓋もない発言にブラッディが硬直している間に、オニキスは立ち上がって扉を開けた。


オ「今日のところはとりあえず帰る。何かあったら明日以降、俺が暇なときにしてくれ。」


江「『璃楽りらく亭』に泊まってるからね~。」


オニキスが部屋を出ていくのに続いて、江も宿を教えて部屋を出ていく。


後に残されたブラッディは…


血「ムカつく、ムカつく、ちょームカつく!皆してなんなんだよー!」


これが有名な逆ギレというものだろう。


――――…


部屋を出た二人は…


江「ん~、ほんとにあんな子じゃなかったはずなんだけどな~。」


オ「まあ、問題が問題だったってのもあるし、今までは何か言ったらある程度は聞いてもらえてたんじゃないか?それなら癇癪かんしゃくなんて起こさないだろ?」


江「そうだよね~。

ほんとはいい子なんだよ~?」


江がブラッディの好感度回復に奮闘していた。


オ「とりあえずはつかず離れすぎず、程度の距離感を保つよ。」


別に完全に離れてしまってもオニキスは困らないのだが、江の顔をたてる意味でもそう言っておく。


オ「(幼女じゃないしな!)」


どうやら、ブラッディの好感度は初めからそう高くもなかったらしい。


――――…


死者の都の支配者は自己中心主義気味だった。しかし、住民は…


次回『観光』


卯・菜「やれやれ…」



ありがとうございました。少し先の話になりますが、29日から3日にかけて帰省するので、その間はお休みします。

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