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黒い紳士と幼女(+α)たち  作者: 名無アキラ
命灯不滅
40/72

希望



オ「俺はお前の世界、もしくはよく似た世界の未来から来た。」


血「へ…それっ…どういう…っ!」


オニキスがそう言った瞬間、ブラッディの表情は目まぐるしく変化し始めた。先程よりも激しい感情が、安堵が、打算が、希望が、絶望が彼女の内部を駆け巡る。

そして、一瞬の空白。


オ「おい、どうし…」


血「…戻…るの?」


余りに小さく、もはや口に出したかも分からない程に小さな声。オニキスでもハッキリと聞き取れないほどに小さな声。しかし、そこに彼女の感情の全てが込められる。

そして、オニキスが聞き返した瞬間、それは爆発した。


オ「なん…」


血「戻れるのって…聞いてるんだよぉっ!!」


彼女がこちらの世界に来て不死となってからの数えきれない年月。ブラッディばその全てを拳に込め、オニキスに降り下ろした。


オ「…悪いな、効かなくて。」


しかし、オニキスは微動だにしない。哀しいかな。


――――…


オ「…とりあえず落ち着けよ。」


血「ふぅー…ふぅー……くっ…」


しばらくの間、オニキスに連続攻撃を仕掛けていたブラッディだったが、当然のごとくオニキスには全く効果が無かった。

それでも暴れ続けようとするブラッディを江がなんとか抑え、オニキスの対面に座らせる。


オ「あー、ここで『お前の気持ちは分かる』とか言ってやれたら良いんだけどな、生憎あいにくと俺にはお前の気持ちは分からない。」


血「んぐっ…そうだよね…」


半泣きになりながらも席に座るブラッディ。オニキスの言葉に八つ当たりしようにも、相手は最強の肉体と精神(メンタル)を持っている。


オ「カウンセリングは専門分野じゃないからな。俺は何とも言えないけど…何とか言えるかも知れない人は知ってる。少し待ってろ。」


と、言うとオニキスは何かを呟き始めた。


――――…


卯「それで…ん?またオニキスか。まあ、私たち以外この通信を使う者もいないんだがな。

すまない、睡蓮。少しいいか?」


蓮「はい、勿論もちろんです。」


所変わって地上の卯月たち。

前回の通信からそれほど間も空けずに入ったオニキスからの通信に、少し驚いたような様子をしつつ、卯月は通信に応えた。


オ『あ、卯月さん。実は…』


しかし、そこからオニキスが語った話の内容は、それほど卯月を驚かせる様なものでは無かった。


オ『と、言うわけです。』


卯「ふむ…前の世界に戻れるかへの答え、とついでのカウンセリングを私に頼みたいということか?」


オ『そういうことです。どうにも俺の専門外なんで…もう少し小さい子だったらどうにかできるんですけど…すいません。』


卯「ふぅ…まあ、良い。そのブラッディとかいうのと代わってくれ。」


オ『はい、了解です。…ほら。』


しばしの沈黙、聞こえてくる声。そして、向こうの雰囲気で卯月は相手が代わったことを察した。


血『あの…』


卯「ふむ、お前がブラッディか。」


卯月のカウンセリング、もとい説教が始まる。


――――…


オ「はい、了解です…ほら。」


オニキスが『待ってろ。』といって、通信を始めてからしばらく。オニキスが『ブル』をブラッディに差し出す。


血「あの…」


使っている通信機器がブルだけのオニキスは、それを誰かに渡してしまうと、もう向こう側の様子を知ることができない。卯月と菜真理はオニキスに盗聴器を仕掛けているため、こちらの様子を知ることができるのだが。


江「誰に連絡したの~?」


オ「卯月さんだよ。俺のボスの。」


そう聞いても江はピンとこないらしく、しばらく考る。


オ「ほら、髪の毛が白っぽい女の子だよ。ちょっと偉そうな口調の。」


江「ん~…あっ、あの黒髪の子といつも一緒にいた?」


江が半信半疑な様子でオニキスに聞く。

オニキスがうなずくと、少し驚いたように目を見開きながらも、何か納得したように手を打つ。


江「だから、いつも渟と難しい話してたのね~。

なんか、ただ者じゃ無い感じはしてたんだけどね~。そっかそっか~。」


オ「気づいてなかったのか?」


江「ん~、渟が子守りに目覚めたのかと思ってたわ~。

ほら、金髪のお姉さんいたじゃない?あの人が一番偉いのかと思ってたわ~。」


オ「まあ、端から見てたらそう考えるのが普通だよな。俺は下っ端っぽいしな。…あ、それと。」


オニキスがふと思い出して言う。


オ「エメラルド、江さんの言ってる金髪の『お姉さん』な?あいつ、男だぞ?」


江「え…またまた~!」


オ「いやいや、これ本当。アイツとは十年来の付き合いだからな。」


江「え、えっ!?だって、え、え~?」


始めは冗談だと思ったのか苦笑いをしていた江だったが、至って真面目な顔をしているオニキスを見て、驚きの声を上げた。


オ「しっ!静かに!」


人差し指を口に当てつつ、卯月と通信をするブラッディを指す。ハッ、とした顔でブラッディの方をうかがう江だったが、卯月の説教に熱中しているのか江の叫び声が耳に入った様子もない。


江「ほ~…よかったぁ…」


胸を撫で下ろす江。


オ「しかし…卯月さんに丸投げしたけど、コレでよかったみたいだな。」


江「そうだねぇ~。あんな取り乱したブラッディちゃん見たこと無かったけど。」


長年ブラッディを知ると言う江でさえも見たことの無い彼女の狼狽(うろた)え方だったと言う。それほどまでに、過去というものはブラッディにとって大きい存在だったのだろう。


――――…


卯「ふむ、お前がブラッディか。」


血『はい、そうですけど…あの、どちら様…』


オニキスから聞いた頭の軽そうな言葉遣いではない。卯月はその点に感心した。

考えてやっているのか、本能レベルなのかは分からないが、自分の過去の世界についての情報を持っているかもしれない人物、つまりは自分の得になる人物を逃さないようにしている。利にさとくあるのは何にせよ良いことである。


卯「まず初めに、お前が一番気になっているだろうことを教えてやろう。元の世界には()()ぞ。」


血『ま、マジで!?』


卯「あぁ、マジだぞ?まぁ、一応『理論上は』と言っておこうか。」


言外に敬語メッキがれていることを指摘しつつ、答える。


血『で、でも!アタシ、一回死んでるんだよ?』


卯「あぁ、そうらしいな。こちらに来たのは、恐らくは魔法次元というモノが関わってくるのだろうが。

だが、私たちは誰一人死んではいないし、神とも怪しげな老人とも出会ってはいない。」


血『え、えっ?マジで?』


どうやら、一度剥がれたメッキは戻らないらしい。まあ、気にすることでもないが。

実際、卯月が菜真理に確認したところ、一行がこちらに来る原因となった時空間爆弾というモノには殺傷能力は無いらしい。まあ、使い方によっては簡単に武器になるものなのだが。どこか体の一部だけを飛ばしてしまえば、それは十分な負傷になるだろう。


卯「お前がこちらに来たやり方、つまりは死ぬことが正しいやり方だとする。そうすると、私たちの方法は抜け道や裏道のたぐいということになる。

簡単な例え話で説明してやろう。この世界は家だとすると、お前のやり方はインターホンを鳴らしてドアから入るようなモノだ。しかし、そのドアは内開きで内側にはドアノブも何も無い。つまりは出ることができない。コレが今のお前の状況だ。

一方で、私たちはそのドアを破って入って来たようなモノだろう。内開きも何も関係は無い。もうそこにはドアは無いのだから。

もし、入ったあとでドアがより頑丈に修理され、破れなくなったとしても、今度は窓でもなんでも脆いところを壊して出ればいい。

外に出る位置は変わってしまうが、いずれは元の場所に戻れるだろう。

さて、ここまでの説明で分かることは?」


血『戻…れる?元の世界に、戻れる?』


分かって当然だろう。そのように話したのだから。


卯「そうだ。窓を破る力があればな。」


一転、通信の向こう側の雰囲気が重くなる。世界を破る力を持っている一個人などいないだろう。


血『じゃあ、結局戻れないじゃ…』


卯「そうだな。いくら長生きをしても、お前がそんな力を手に入れることは無いだろうな。」


しかし、どこにでも例外は存在する。


卯「だが、私たちは持っている。窓どころかより頑丈に修理されたドアさえも破るほどの力をな。」


菜真理はくだんの時空間爆弾をある程度量産し、現在も持っている。それは十分な力だろう。


血『じゃあ、アタシは帰れ…』


卯「いや、帰れないな。」


血『は?』


想定していた通りの受け答え。

『帰ることが可能である』というのは『帰れる』とは(イコール)ではないのだから。


――――…


現れる一条の希望の光。だが、それはそれを照らし出した当の本人の手によってかき消される。


次回、『難点』。


卯「やれやれ…」



ありがとうございました。

明日はクリスマスということで、特別編でも挟もうかと思ってます。

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