意表
荷造りって大変ですね!
意表
オニキスの手を掴んで進んでいた美和が突然止まった。ちなみに、センはオニキスの背中に乗っている。
オ「どうしたの?」
美「どこ?」
オ「ん?」
美「ここ、どこ?」
幼女に道案内を任せてはいけない。そう確信したオニキスであった。
――――…
卯「それで…む?オニキスか。」
睡蓮と世間話に花を咲かせていた卯月だったが、突然のオニキスからの通信に話を止める。
オ『これ、凄いですね。こんな場所からも通じるのか…』
卯「しばらくぶりだな、オニキス。今どこだ?」
卯月が聞くと、オニキスが口ごもった。
オ『いやぁ、何て言うか…それを聞きたいんですよねぇ…。』
卯「どういうことだ?」
そう言いながらも卯月はオニキスの位置を確認し始める。オニキスの位置を常時把握できるようにしているのは菜真理だけではない。卯月ももちろんオニキスに位置確認のための機器を組み込んでいる。
そうしてオニキスの現在位置を確認した卯月は疑問の声をあげた。
卯「…何をしたらこんなところに行けるんだ?」
示されたオニキスの現在位置は白河から大きく離れた土地をさしていた。
それを伝えると、オニキスは苦笑して言った。
オ『あはは…日の光が届かなくなったなぁ、とは思ってたんですけどね…』
卯「はぁ…とりあえず事情を話せ。河の中のことなら龍たちに助けてもらえるだろう。」
ため息をつきつつ、解決策を考え始める卯月だった。
――――…
オ「やれやれ…卯月さんに連絡したら迎えを寄越すように龍に伝えてくれるって。」
卯月との通信を終えたオニキスはホッと息をついた。
美「おとうさん?」
オ「そ。お父さんがお迎えをよこしてくれるって。」
そんなオニキスたちがいるのは小さな洞窟の中。
どこにいるかもわからない状態で、止まっていてもどうしようと無いと判断したオニキスは少し周りを観察して回った。
すると、周りを囲む岩壁に穴が開いているのを発見した。入り口から中へは登りになっていて、中へは水が入り込んでいなかった。調べれば何処からか空気も入っているようだった。
水に使っているよりは、とその中に入り、ベルーガを使って暖をとった。こんな使い方をして良いのだろうか、と少し悩んだが他に方法もない。
オ「だけど…こんな状況で良く寝られるなぁ。」
美「ん。」
オニキスと美和、二人の視線の先には体を丸くして眠るセンの姿があった。水の精なのだから風邪をひくことも無いのかもしれないが、オニキスの気持ち的に放置もしていられなかったので、オニキスが着ていた服がセンの体にかかっている。
久しぶりの黒戦隊スーツだけのオニキスだった。
美「ん!」
そんなオニキスを見て、美和は満足げに頷いた。
美和が存在するようになって初めて感じたのはオニキスの存在。そして、彼女が初めて見たオニキスは今と同じ黒戦隊スーツ姿だった。
故に、美和にとって一番安心できる光景はその姿のオニキスなのだ。
久しぶりに見たオニキスは洋服でスーツを隠してしまっていた。それに少し落ち着かない気持ちを覚えていた美和だったが、こうして美和の考える本来のオニキスを見ることができて安心したのであった。
感情は行動に表れる。美和は思いを隠すことなくオニキスに抱き付いた。
オ「お?どうした?」
美「ん!」
グリグリとオニキスの脇腹に頭を押し付ける美和。
オ「なんだ?」
一見クールに対応しているように見えるオニキスだが、内心では違う。
オ「(えー!なんですか、この可愛い生き物!いや、幼女ですけど!幼女だから可愛いのは当たり前なんですけど!やっぱり幼女は、最高だ!)」
タラリ…
流れ出る一筋の赤い液体。どうやら隠しきれなかった感情が鼻から溢れ出たようだ。
セ「おっ!?なんか来るぞー!!」
突然、寝ていたセンがオニキスの服を弾き飛ばして立ち上がった。そして、オニキスにしがみついた。
オ「ど、どうしたの?」
常日頃から何物にも動じることなく、マイペースを貫くセンが異常に怯える様子は、オニキスを狼狽させるには十分だった。
セ「なんか、怖いのが来るぞー!」
?「怖いのじゃ無いんだけどね~、あはは~…」
困ったように頭を掻きながら表れる人影、それは…
オ「なんだ、江さんか。」
江「そうだよ~、江さんだよ~。怖い人じゃないよ~。」
セ「うー…」
江が体を屈めてセンに視線を合わせるが、センはオニキスの体の影に隠れたままでいる。
オ「そういえばセンは江さんを怖がってたな。」
江「長く生きると悪いこともあるもんだね~、あはは~…はぁ。」
困ったように笑った後、ため息をつく江。水の精としての実力差がセンを威圧し、怯えさせてしまうのだ。
その威圧感を隠すのが下手な江はセンに懐かれることは無いのだろう。
美「おばちゃん。」
江「おばちゃんじゃないよ~、江お姉さんだよ~!」
オニキスに抱き付いたまま、江を見上げる美和。
年齢的にはおばあさんと言われてもまだ足りないほどの江だが、心は未だ若々しいのだろう。…若々しいのか?
美「ししゃのみやこ、わからない。」
江「あー…あそこに行こうとしてたのか~。そりゃ迷うわな~。」
江は美和が目的地としていた死者の都について何か知っているのか、うんうんと頷いた。
江「あそこはね~、河を辿るだけじゃ着けないんだよね~。」
美「おとうさん、かわをたどれば、って。」
江「渟め、適当なことを~…というか、そもそもここって地下水脈だからね~、白河そのものじゃないんだよね~。」
美「え?」
美和が驚きを顔に表す。彼女としては白河を辿ってきたつもりだったのだろうが、最初に深く潜りすぎたせいで地下水脈に入ってしまっていたのだ。
江「ま、死者の都に行きたいんだったらある意味正解だけどね~。」
オ「ちょっと良いか?死者の都ってどんなところなんだ?」
オニキスが江に聞く。
美和にも聞いてみたのだが、彼女も詳しいことは知らないらしく情報は手に入らなかったのだ。
江「ん~?名前の通り、一回死んだ人たちが集まるところなんだよ~。」
オ「一回死んだ?それってどういう…」
江「着いてくればわかるよ~。」
そういうと江は洞窟から出ていった。無論、オニキスたちに着いていく以外の選択肢はない。
――――…
死者の都への道はオニキスが想像していたよりもずっと簡単なモノだった。
江はずっと深くへ潜って行き、川底を『突き抜けた』のだ。川底はそこに何も無いかのようにオニキスたちをくぐり抜けさせたのだ。
そして、その先には…
オ「随分と賑やかなところだな。」
セ「楽しそうだぞー!」
小さな町があったのだ。中央部には巨大な城が見え、町は祭りの日のように賑わっている。
美「ここが、ししゃのみやこ…?」
江「そ、死者の都、アンデッドタウン。魔法で死さえも超越した人間たちが集まる町だよ~。」
オ「魔法ってのはそんなに便利なモノだったか?」
江の説明に疑問を抱きながらも、町へ近づいていくオニキス。
と、行く先に門が見えてきた。
「ようこそ、アンデッドタウンへ!」
「ようこそ!ヴァンパイア・レディ、ブラッディ様の町へ!」
そこに立っていた門兵たちが、オニキスたちに向けてにこやかに挨拶をする。
だが、オニキスはその中におかしなことを見つけていた。
オ「ヴァンパイア・レディ?」
江「そうそう。ここを治めてるのはヴァンパイア・レディのブラッディちゃん。」
オ「吸血鬼って流水とかダメじゃなかったか?」
本来なら通り抜けられるはずのない川底の先に、本来なら水に近づかないはずの吸血鬼が治める町がある。
なんとも探しづらいところ探しづらいモノがあるものだとオニキスは内心ため息をつくのであった。
――――…
吸血鬼が治めるという死者の都、アンデッドタウン。そこでオニキスたちが目にするものは…!?
次回『誘惑』
江「怖くないよ~…あはは…。」
ありがとうございました。




