不死
新編開始です。
不死
卯「こちらでも冬はあるんだな。景色が寒々しくなってきた。」
オ「季節があるってことは緯度とか地軸の傾きとかもあるんですかね。」
卯「ふむ、その規模になるとしっかりした施設がないとどうしようもないな。」
暦の上では既に12月、師走に入っている。オニキスたちは未だ白河をたどる旅を続けている。
卯月が打ち上げていた衛生が送ってくるデータによれば、オニキスが全力で走れば一週間と経たずに目的地につけるはずなのだが、
卯『別に急ぐ旅でも無し、ゆっくりでいいだろう。』
との一言で一行の旅は常人ペースで進んでいる。
――――…
川沿いの道を歩く一行。
本来なら防寒具を着ていても寒いほどの気温なのだが、一行はさほど寒そうではない。
オニキスとエメラルドは改造人間、ウルフは元野性動物、センは水の精、卯月と菜真理はブリキに取り付けた暖房器具のお陰で快適な移動時間を過ごしている。ちなみに、ライとフーも寒さに弱くは無いのだが、それでもわざわざ寒い中外に出るのは好きではないらしく、魔法次元に引きこもっている。
と、四足歩行形態で一行についてきていたウルフが河を見て唸った。
ウ「なにか、いる。強い、すごく。」
しかし、オニキスはさほど危機感を感じなかった。実際のところ、卯月と菜真理を除けば一行の中で一番弱いのはウルフなのだ。野性動物としてのカンは馬鹿にできないが、危機感の基準が違うのだ。ウルフにとっては強くても、オニキスにとっては危機にすらなり得ない場合が多いのだ。
そんなオニキスは突然、不思議な感覚を感じた。
心臓を締め付けられるような、愛おしい何かを見つけたようなそんな感情に駆られて、ウルフが警戒している水面に近づいた。
瞬間、河の中から何かが飛び出てきた。そして、そのままオニキスに絡み付く。
?「おにきす!」
オ「え!?美和ちゃん?」
美「ん!」
飛び出して来たのは、白河の主であり、龍神でもある渟龍の一人娘、美和だった。
美「おにきす、あそぼ!」
オ「えっ?うわっ…」
そして、あっという間にオニキスは河の中に引きずりこまれていった。
卯「…は?」
一行、唖然である。
?「あらあら、美和ったら…」
そして、一行の目の前でもう一人、河から出てきた。
――――…
水の底へと問答無用で連れていかれるオニキス。
オ「ごぼっ?!ごぼごぼ…」
流石の人外でも、基本は人間。息をしなければいずれは死ぬ。現在、オニキスは現在進行形で窒息状態だった。
美「ん?おにきす?」
オ「ごぼっ…ごぼごぼっ…」
身体能力は異常に高い。もちろん、息をしなくても大丈夫な時間は常人よりもはるかに長い。それは窒息までの苦しみが長引くことを表している。
オニキスはどうにかして自分の状態を美和に伝えようとするが、美和には伝わらない。
というよりも、言葉にできていない。
龍や睡蓮ならば人間は息ができないということを知っているが、美和は生まれてからさほど時間が経っていないので、そんなことは当然知らない。
それに、美和は『溺れる』という現象を理解できない。彼女は水の中でも陸上でも問題なく息をすることができるからだ。
美「どうしたの?おにきす?」
オ「…ゴボッ……」
故にオニキスは耐えることにした。美和がオニキスをどこに連れていこうとしているかなど知ることもできないが、そこがオニキスが息を止めていられる時間の内につくことができる場所だと信じて。
――――…
一方、卯月たちは。
卯「睡蓮、娘の教育はしっかりしておいてくれ…」
蓮「本当に申し訳ございません。」
美和を追って河から出てきた睡蓮に話を聞いていた。
卯「子供ゆえの先走りと考えれば許せないこともないが…オニキスでなかったら死んでいるぞ?」
蓮「なんと申し上げれば良いのか…お恥ずかしい限りでごさいます。」
卯月が苦笑混じりに言うと、睡蓮が深々と頭を下げる。睡蓮は深刻な雰囲気だが、他の面々はさほど心配していない。ウルフと菜真理が多少不安げにしている程度だ。
エ「まぁ、いいじゃない。ただの人間なら死んでるけどぉ、オニキスなら死なないんだしぃ。」
卯「それも道理だな。」
卯月が頷く。
卯「だが、移動のたびに息を止めるのも難だろう。セン、オニキスを追いかけて助けてやってくれ。」
セ「仕方ないなー、やってやるぞー。」
卯月がセンに言うと、やる気の無さそうな言葉とは裏腹に、センは勢い良く河に飛び込んでいった。
卯「さて、問題は解決した。睡蓮、ついてこい。
オニキスの代役としてしばらく私たちの話し相手になれ。」
蓮「で、ですが…」
躊躇う睡蓮。それを見て卯月がニヤリと笑う。
卯「ならば、『罰』と言った方がついてきやすいか?よもやこの面子で龍への不義理もないだろう。」
蓮「それよりも、オニキス様を置いていってしまってもよろしいのでしょうか?私が迎えに上がろうと思ったのですが…」
卯「なに、問題ないだろう。エメラルドもウルフちゃんもブリキもいる。オニキスもすぐに追いつくことができる。たまには女だけでの旅も悪くないだろう。」
卯月は楽観的な考えを示した。実際、オニキスに関してはなにも心配することはないと彼女は考えている。オニキスが卯月の最大の手駒であることは事実だが、それは手駒がオニキスだけと言うことではない。彼女の言った通り、エメラルドもウルフもブリキもいるのだ。卯月の『正義』は妨げられない。
一方で焦っているのは菜真理だ。菜真理は彼女自身の『悪』の定義として、正義に逆らうことを掲げている。そして、その第一歩の対象を卯月からオニキスを奪うことと定めているのだ。
この状態では、卯月からオニキスを遠ざけることはできているが、菜真理からも離れてしまっている。つまり、現状は菜真理にとっていいものではないのだ。
しかし、彼女の周辺は基本的に卯月サイドのみ。単独では逆らうこともできずにやむ無く卯月たちについていくのであった。
――――…
もうどれ程の時間が経っただろう。オニキスの意識は既に朦朧としていた。初めの10分程はなんとか耐えていた。だが、それがオニキスの限界だった。美和は止まらないし、酸素の『さ』の字も見当たらない。
だが、オニキスの命運は尽きていなかった。
セ「ちょっと速すぎるぞー!」
オ「…ゲホッ、ガハッ…ギリギリだったぁ…」
センが追いついたのだ。
それに気づいた美和が、ようやく止まって振り返る。
美「ん?だれ?」
セ「センはセンだぞー!水の精で、牛さんじゃないぞー!」
オニキスたちと同じだが、全く自己紹介になっていない。どうにもならないだろうとオニキスが助け船をだす。
オ「江さんはわかる?」
美「ん。おばちゃん。」
オ「その江さんとおんなじ水の精で、俺の…あー、仲間?友達?」
セ「だぞー!」
美「ん。」
美和はそれを聞いて頷くと、すぐに進もうとした。あわててオニキスは美和を止める。
オ「ちょっ、止まって!ストップストップ。」
美「ん?」
首をかしげて止まる美和。その仕草はとても可愛らしく、オニキスのライフをガリガリと削ったが、なんとか耐えたオニキスはゆっくりと美和に言い聞かせた。
オ「友達を遊びに誘うには、何個かルールがあるんだ。」
美「ん。」
水中で器用に正座する美和。センも面白がって隣に正座している。
オ「まずは、友達が遊べるかどうか聞かなきゃいけない。」
美「おにきす、あそべる?」
オ「いや、まあ、遊べるけれども…」
美「じゃあ、だいじょうぶ。」
そう言って、にっこりと笑う美和。その笑顔はさながら春の陽射しの如し。オニキスは大いに癒されたのであった。
オ「いやいやいや、そうじゃないんだよ。」
美「ん?」
首をふって、癒しモードを振り払うオニキス。真面目な顔をつくって続ける。
オ「二つ目、友達の都合も考えること。俺は水の中だと息ができない。知ってた?」
美「そうなの?」
オ「そう。もう少しで死んじゃうところだった。」
誇張でも比喩でもない。もう少しセンの到着が遅ければオニキスは溺死していたかもしれない。
美「しんじゃう、と、どうなる?」
オ「え、えっと…」
しかし、そんな心からの言葉も美和には通じなかった。彼女はまだ『死』を理解していないのだ。
オ「うーん…誰とも遊べなくなっちゃう、かな?」
美「みわとも?」
オ「俺が死んじゃったらね。」
美「それは、いや。」
オニキスの説明を聞くと、とたんに悲しそうな顔をする。目も少し潤んでいる。
水中で目が潤むとはファンタジーである。
オ「そう、嫌でしょ?俺も死ぬのは嫌だ。だから、友達のことも考えなきゃいけない。いいね?」
美「わかった。」
素直に頷く美和。
オ「最後に、どこに遊びにいくのか教えてあげること。お誕生日とか、そういう特別なときは別だけど、どこにいくのかわからないで連れていかれるのは不安になるからね。」
美「いってなかった?」
オ「うん、聞いてない。どこにいくの?」
オニキスが聞くと、美和は顔を綻ばせて言った。
美「ふしのみやこ、ってところ。」
ふしのみやこ…不死の都だろうか。とオニキスは考えた。
オ「何て言うか…微妙な感じの名前だね。」
美「とっても、たのしい。おにきすも、きにいる。」
オ「そう?じゃあ、一緒に行こうか。」
美「うん!」
幼女が行くのならば、たとえ溶岩の中だろうが、氷の中だろうが、毒の沼だろうが、突き進むのがオニキスである。
美和、セン、オニキスは、今度はゆっくりと目的地に向かって進んでいくのであった。
――――…
美和がオニキスをつれてきたのは「不死の都」と呼ばれる場所。そこにはとある秘密が…
次回、『意表』。
美「いっしょに、あそぼ?」
ありがとうございました。
以前も言ったように、明日からしばらく出かけることになるので、一週間くらい不定期になってしまいます。
新編も始まったばかりなので、できる限り投稿したいと思いますが…




