圧倒
※今回、武器が出てきます。そんなのあったっけ?と思う方は『魔改造』をご覧ください。
圧倒
皮肉屋アイロニーは苦戦していた。
「あの『黒い悪魔』とやれるだと?」
「なんだと?相手は二人?」
「おもしれぇ!やってやろうじゃねぇか!」
「「「「「ぉぉおおおおおっ!!!」」」
獣士団員たちの脳筋具合に。
――――…
皮「あぁ、くそっ!あいつら、てんでこっちの話を聞きやしない!」
卯月に話を聞きに行った日の夜。アイロニーは自分の部屋で愚痴をこぼしていた。
アイロニーは皮肉屋ではあるが、不真面目ではない。事実、今回のことも、やれるだけのことはしようとしている。
皮「あいつら、アルトさんよりも弱いってのに無駄に粋がりやがって…」
アルトは弱くはない。寧ろ、この街では強い方だろう。勝るのはテナーと数人の実力者だけ。
それはオニキスの尋常ではない力を示している。
皮「そもそも、伯爵街をあの人数で潰したってのに、お前たちがバラで勝てるほど弱いわけがないだろうが。」
コンコン
皮「ん?誰ですかね…っと。なんだ、ご令嬢がこんなところになんのご用ですかね?」
と、ドアがノックされた。元々不機嫌そうな顔をさらに不機嫌にしてドアを開くと、そこにはアルトがいた。
ア「明日のことについて、打ち合わせに来ましたわ。」
オニキスを前にしたときの様子は見えない。だが、絶好調とはいかないようだ。
皮「打ち合わせもなにもないと思うんですけどね…どーぞお入りください。狭くて汚いですけどね。」
前半は呟くように、後半は芝居がかった仕草と一緒に。
ア「…あなた、ワタクシのことが嫌いですの?」
皮「コイツは素ですよ。気にしないでください。」
思わずそう問いたくなるほどの不機嫌顔と嫌味な仕草である。しかし、本人はいたって普通に振る舞っているつもりなのだ。
――――…
部屋に入って座ると、すぐにアルトが言った。
ア「何か策はありますの?」
皮「策も何も…必要無いんじゃないですかねぇ。皆一回貴女と同じ思いをすれば少しはこっちの言うことも聞くでしょうよ。」
ア「なっ!?」
アイロニーは歯に衣など着せない。彼の歯は常に全裸である。
皮「実際のところ、どうなんです?実際にアレとぶち当たったのは貴女だ、け…?」
ア「ヤダ…黒い悪魔…化け物…ヒッ…」
皮「はぁ…無駄に怖いもの知らずな分、叩き折られたら弱いってか?」
頭を抱えて震えだすアルト。そして、ため息をつくアイロニー。
実際、何も知らないアイロニーから見れば、アルトのトラウマと怯え様は異常である。
皮「こりゃ、情報も何もあったもんじゃないな…」
アイロニーは思う。『これは詰んでいるんじゃないか。』と。
地位は無い、兵士は言うことを聞かない、副官は役にたたない。わかっている情報は相手の一人は動体視力、反射神経、頑丈さとパワーが異常だということ。
皮「くそっ、無い無いづくしで異常ばかりだ!」
愚痴が出るのも仕方の無いことだろう。アルトが来たことで何か好転するかと思っていたが、こちらに不利な条件がわかっただけ。
皮「それでも策は考えないと俺が無能だったから負けたってことになるんだろうな…脳筋なら脳筋らしく熱血なことでもしていればいいのに…」
恐らく、明日の訓練は負けることになるだろうとアイロニーは予想していた。相手が獣士団の兵士級にモノを考えなければまだ勝機はあっただろうが、どうにもそうでは無いらしいことが朝の時点でわかった。その上、アイロニーが危惧しているほどの強さであれば、統率のとれていないアルト以下の実力の兵士などスタミナを削る程度にしか役にたたないだろう。
だが、獣士団の兵士は要らないことを要らないところで思い出す。負けて熱が覚めれば、これは指揮官育成の為の訓練だったことを思い出すだろう。
そして、負ける戦いだと策を考えなければそれを負けた理由にしてアイロニーを責めることだろう。
皮「『獣人の誇り』とやらを守るために、か…ふん、無意味な。」
ア「獣人の誇りは無意味などではありませんわ!」
皮「…いきなり大声を出さないでくださいよ。」
アイロニーは迂闊なことをした。目の前に誰よりも『獣人の誇り』が好きな人物がいたのだ。
ア「そうですわ!獣人の誇りのためにもあの黒い悪魔を倒さないと…!」
皮「そいつを守るためにあの英雄様とぶつかって逆に誇りなんぞ何処へやら、って目にあわされたって俺は聞いたんですけどね。」
ア「そっ、それは!」
皮「年頃の女が漏らしたり吐いたりしますかね?
いっぱしの武人をきどってたのに睨み一つで腰を抜かしたりしますかね?」
ア「…っ!」
アイロニーの辛辣な言葉に、何も言い返せないアルト。それもその筈、遠慮は無いけれどもアイロニーの言っていることは何一つ間違っていない。
アルトには赤面しながら顔をふせることしかできない。
皮「…そう辛気くさい顔をしないでくださいよ。こっちもいじめるつもりじゃないんですから。
ただ一つ、覚えといてください。」
アルトの様子を見てガシガシと頭を掻いた後、アイロニーが言う。
皮「多分、コイツは俺のためと言うよりは、貴女をもっとマシな将の器にすることが目的だ。勝利の鍵は貴女が変わることだと俺は考えている。」
アルトの目をまっすぐに見ながらアイロニーが言う。そして、視線をそらして席を立ち上がる。
皮「さて、と。負け試合だとわかっていても策を考えなきゃいけない。英雄様の情報は良いですから、それぐらいは手伝ってくださいよ。」
俺は茶でもいれてきます、と言って台所に行くアイロニーの背中を見送りながら、アルトが呟く。
ア「もしかして…照れていますの?」
男版ツンデレに需要はあるのだろうか。
――――…
翌日、午前10時くらい。
街の外にある平原に獣士団とオニキスたちは集まっていた。
卯「ふむ、逃げずに来たようだな。」
皮「逃げるも何も…兵士もテナーさんも乗り気なんでね。俺として止めたいんですけどね。」
「なんだぁ、この可愛らしいお嬢ちゃんは。」
と、兵士の一人が卯月を見て言う。
「ここはチビッ子の遊び場じゃ無いんだぜ?帰ってままごと遊びでもしてな!」
ある意味、正しい意見ともとれる。
卯「ふむ、心配してくれるのはありがたいが、私には優秀な護衛がいるのでな。安心しろ。」
「お、おう…」
実にからかいがいの無い。毒気を抜かれたように引き下がる。
卯「さて、お前たち。一通りのことはこのアイロニーに説明したが、大丈夫か?」
?「英雄様と戦えばいいんだろ?」
と、一際体の大きい兵士が前に出てくる。
?「俺はエッジ。『切り込み隊長のエッジ』で通ってる。隊長は別にいるんだが、今回は俺が兵士を任されてる。」
卯「ふむ、丁寧な自己紹介痛み入るぞ。」
エッジは、まだマトモに話せるとアイロニーが選び出した兵士だ。
切「しかし…そっちが二人しか出さねぇってのはどうかと思うぜ?」
卯「そういうことは後で言え。私はこれで充分だと思うぞ?」
自信たっぷりに卯月が言う。
切「な、なんだと?随分と舐めてくれるじゃねぇか…そんだけ言って、お友だちがボッコボコにされて泣いても知らねぇからな!」
卯「そちらこそな。」
どこまでも自信に満ち溢れている。相手が子供なので、怒鳴ることも掴みかかることもできないエッジは、感情をもて余したまま持ち場に戻った。
――――…
しばらくして、獣士団が全員初期配置についた。
あとはオニキスとブリキが配置につくだけ。と、卯月がオニキスを呼び寄せた。
オ「なんです?」
卯「今回は制限をつけるぞ。まずは誰一人殺すな。それと、武器を使え。」
オ「武器、ですか?」
卯「うむ。お前は武器を使った方が弱くなるからな。ヘッジホッグを先を尖らせないで出せ。長さは150cmくらいでいいだろう。」
オ「え、そんなこと出来るんですか?」
新装備を貰ったけれど、オニキスは一度も使っていない。故に、始めに説明されたこと以外何も知らないのだ。
卯「お前は…まあ、いい。出来るんだ。それと、今回は迎撃だけだ。お前が突っ込めば、どんな軍でも頭をとられるだけだ。それでは訓練にならない。」
オ「了解です…あ、ほんとに出来た。」
オニキスの手のひらから金属製の棒が出てきた。
オ「でも、これってすぐ曲がっちゃいませんかね?」
卯「問題ない。私が開発した合金製だ。」
――――…
オニキスとブリキが配置につくと、卯月が全体を見まわしてから言う。
卯「全員、配置についたな。それでは…始めッ!」
合図を聞くと、アイロニーは指示を出した。
皮「半分は相手の背後に…」
切「全員、突っ込めぇぇええっ!」
「「「「ぉぉおおおおお!!!」」」
そして、そのままオニキスに向かってエッジを先頭に全員が突進していく。
皮「ちっ、思った通りだ。てんで聞きやしない。」
ア「ワタクシは…」
舌打ちをするアイロニー。と、アルトがどうすればいのか聞く。いつもならば、エッジに続いて飛び出しているのだが今回は訳が違う。
皮「アルトさんはこっちにいてください。どうせ、英雄様に面と向かったら戦えたもんじゃないでしょ?」
ア「くっ…!」
悔しげに俯くアルト。
皮「アルトさんは俺の護衛と、俺が潰れたときの代わりもしてもらわないといけませんからね。精々頑張って戦況を見定めてくださいよ。」
――――…
一方、エッジたち兵士はオニキスに当たろうとしていた。
切「英雄様を殺すわけにはいかないからな!精々上手くかわしてくれよ!」
獣士団の面々は、実戦用の装備をしている。テナーは訓練用のモノを使うと言ったのだが、卯月が『より実戦に近い状態で訓練をしたい』と言ったので、そうなった。
切「一丁お相手願うぜ、英雄様ぁ!」
そして、エッジがオニキスと衝突する。その剣は必殺の一振り。だが…
オ「らぁっ!」
オニキスの一振りはそれを上回り、剣ごとエッジの体を強か打ち抜く。
エッジは吹き飛ばされ、地面に転がる。立ち上がる気配は…ない。
そう、当たらなければ真剣も何も無いのだ。
――――…
ブ『遠慮なく叩くとはな…すまない、退いてくれたまえ。』
倒れたエッジに近づくブリキ。前線ではオニキスが猛威を振るい続けている。
「テメェ、なにする気だ!」
側にいた兵士がブリキに切りかかる。
ギィン!
ブ『何をするのだ。危ないではないか。』
しかし、ブリキの鋼鉄のボディにはなんら影響が無い。
ブ『卯月殿に治療に専念するように言われてな。さぁ、道を開けたまえ!』
赤十字系ロボットブリキである。
――――…
誰一人寄せ付けることなく獣士団を打ち倒していくオニキス。しかし、その前に強敵が…!?
次回『鬼才』。
皮「上手くいけばいいですけどねえ。」
ありがとうございました。
※『魔改造』ヘッジホッグを鉄製から合金製に改稿しました。オニキスが鉄製のモノなんて使っても折れちゃいますからね。すみませんでした。




