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黒い紳士と幼女(+α)たち  作者: 名無アキラ
獣人邂逅
26/72

才能

遅くなりました…


才能


菜「ふむ、オニキスに決闘を挑みたい、と。」


ア「ええ!あのような醜態をワタクシに晒させたのです、このまま泣き寝入りするわけにはいきませんわ!」


オニキスを探していた菜真理は、同じくオニキスを探していたアルトと、一緒にオニキスを探していた。


菜「しかし…私が言うのも何だが、オニキスは人間の域を半分はみ出しているようなものだ。気にしない方が良いと思うぞ?」


オニキスの力を人外の域まで至らせた片割れである菜真理は、アルトのことを思ってそう言った。

とは言え、一番始めに会ったときや、テナーとの会話で垣間見たアルトの性格では、絶対に諦めないだろうと思っていたが。


ア「気にしますわ!乙女にあんな恥をかかせるなんて…男の風上にも置けませんわ!」


菜「ふむ…お前は、獣士団の中では腕のたつ方なのか?」


菜真理がふと、アルトに聞く。


ア「ええ!獣士団武術大会では毎年上位5人に入っていますわ!」


なるほど、と菜真理は納得した。

菜真理が予想するアルトの実力は平凡以上、達人以下。みがかれていない原石だと予想した。

凡人から叩き上げた武闘派ならば、嘔吐や失禁に準じる屈辱はイヤと言うほど味わうだろう。だが、元々才能を持つものは違う。

その行く先は二つ。満足せずに上を目指すか、慢心するか。

上を目指せば、達人の域に達するだろう。しかし、慢心すれば『普通以上』で終わる。

恐らくは、アルトも『人並みに』は修行を積んだ。そして、才能のあったアルトは簡単にそれをこなしてしまったのだろう。そして、それで満足してしまった。

才能ゆえの停滞、才能ゆえの慢心。恐らくは、自分への自信が性格にも現れているのだろう。


才能のある人物。そして、それを元に他を下に見る人物。それは菜真理の嫌う人物と同義である。


菜「…よし、オニキスを探そうか。なに、居場所はすぐにわかる。」


ア「本当ですの!?」


菜「あぁ、なにせ私とオニキスとは以心伝心だからな。」


アルトはこの時点では菜真理のことを大人びた少女としか思っていない。ここまで菜真理が喋っていることは、口調こそ違うものの、子供でも言えることだけなのだから。

しかし、アルトは知らない。自分がすでに八つ当たりとも言える菜真理の『悪』の対象になっていることを。


ちなみ、菜真理がオニキスの居場所を知っているのは、オニキスにGPSや盗聴器などを仕掛けてあるからである。


――――…


一方のオニキスたちは…


セ「オニキス!次はアイスが食べたいぞー!バニラだぞ!」


ラ「アタシはプリンがいい!」


フ「ロールケーキが食べたいです!」


幼女組が増えていた。


甘味に誘われたのか、ライとフーが出現、オニキスにおやつを要求したのだ。

ちなみにこれで注文はセンが4回目、ライとフーは3回目である。


オ「店員さーん、バニラアイスクリームと新鮮卵のなめらかプリンとマーブルロールケーキ1つずつお願いします。」


「かしこまりましたー!」


しかし、オニキスには余裕があった。なぜなら、爺から受け取った報酬が予想以上の高額だったから。


セ「オニキス、太っ腹だなー!」


ラ「カッコいいぜ!」


フ「ステキです!」


オ「お、おぅふ(タラッ)…」


幼女のおだて。

しかし、オニキスはスイーツに鼻血を噴出して幼女'sの顰蹙ひんしゅくを買わないよう、全力を尽くして鼻血を垂らすに留めた。

ある意味成長である。


「お待たせしましたー!」


スイーツに飛び付くハンターこと幼女's。

実際のところ、オニキスたちはどこかに定住するわけでは無いので、税金や維持費が必要ない。食料は卯月のストックがまだ大量にあり、いざとなれば自足することもできる。

なので、現在オニキスたちの金の使い道は、嗜好品以外特に無いのだ。

そして、オニキスにとって何よりの楽しみは幼女を愛でること。ゆえにこの場において、オニキスは幼女'sが満足するまでスイーツを提供するつもりである。


――――…


菜真理は、オニキスについているGPSを元にオニキスの居場所を探していた。手元にはタブレット。


菜「ふむ…この辺りか?」


ア「あの…その板はなんですの?見たところ地図みたいですけど。動いてますわよね?」


なるほど、現地人であるアルトにはタブレットは珍しいのだろう。ここでアクションモノの映画でも映せば、驚かれるのだろうが。


ちなみに、菜真理がタブレットを使っているのは完全に趣味である。彼女たちの技術力を使えば、それ以上のモノも簡単に作れるのだが、菜真理は手に持った現実味と限られた画面を好んでタブレットを使っている。欠点として、物質ゆえにいずれは壊れてしまうのだが、重要なデータはバックアップ及びセキュリティを完全にして保管してある。


菜「これは…ふむ、魔法具といったところだろうな。」


ア「ワタクシ、あまり魔法具には詳しくないんですけれど、それは普通にあるモノですの?」


菜「いや、恐らくはないだろうな。これは自作だからな。」


ア「そうですの…スゴいんですわね。」


魔法具。字のごとく、魔法を使った道具である。

この世界の一般生活は魔法具によって発展したものではあるが、オニキスたちとは無縁の代物である。


話しつつも歩を止めることはない菜真理。そして、一軒の喫茶店の前で立ち止まる。当然のことだが、それはオニキスたちがいる店である。


菜「ふむ、この店だな。」


ア「本当ですの?」


アルトが疑わしげに言う。それもそのはず、店の外装はしっかりしていて、中をのぞき見ることはできない。


菜「疑うなら、入ってみればいいだろう。」


菜真理は確信を持って言う。

GPSはオニキスの『体内』にあり、四肢欠損レベルの大ケガをしない限り、取り出されることはない。盗聴器は流石に体内にはないが、超小型化して、服の中に縫い込んである。

ゆえに現在、オニキスが幼女'sとスイーツタイムをしていることを知っている。

アルトが吐いた現場でオニキスについていれば、今ごろは私も…などと、後悔と幼女'sに対する嫉妬を覚えていたが、後の祭りである。


ア「あっ!見つけましたわ!」


と、一足先に店内に入り、オニキスの姿を探していたアルトが、声をあげる。そして、すかさず着けていた手袋を片方外し、オニキスに向かって投げつけた。


――――…


フ「良いですか、おにぃちゃん。ロールケーキはまわりのクルクルを先に食べると、最後に真ん中のクリームが残るのです!とっておきのクリームです!」


フーはオニキスに独自流ロールケーキの食べ方講座を開いていた。


フ「こうやって、くるくる~…」


モノを教える幼女。それはオニキスにとって、何より微笑ましい光景だった。

ゆえに、普段なら無い隙が生まれた。


「あっ!見つけましたわ!」


店内に響く声。そして、飛来する物体。普段のオニキスならば、簡単に避けるか、受け止めるかの判断ができたことだろう。

現状、オニキスの正面には幼女'sがいる。それを守るためには幼女'sがいる範囲に命中するモノならば受け止めることがベストである。

しかし、オニキスには隙があった。その結果、


ベチャッ!


フ「あっ…!」


飛んできたナニカはオニキスを外れ、フーの皿の上に当たった。そして、そこには、


フ「…とっておきのクリームが…うぅ…」


瞬間、オニキスの雰囲気が憤怒に包まれる。オニキスにとって、幼女を悲しませるモノとはすなわちことごとく悪。オニキスの正義にかけて、許すことができないもの。


ア「また避けましたのね!大人しく決闘を…」


オ「すいません、この子にロールケーキをもうひとつお願いします。」


「は、はい!かしこまりました!」


オニキスは何をおいても、フーを悲しませないことを先決とした。

オニキスの言葉に含まれる怒りの感情に怯える店員。しかし、生物としての本能が、それに従わなければ更に恐ろしい目にあうと警告する。店員は厨房に走っていった。


ア「ちょっと!聞いてます…」


オ「大丈夫?新しいの、頼んだからね?」


フ「はいです…おにぃちゃんにあげるとっておきのクリームだったのに…」


火に油が注がれた。オニキスの威圧感が何倍にも膨れ上がる。

幼女が自分にくれようとしたもの。『とっておき』とまで言うものを自分にくれようとした心遣い。そして、幼女の優しさ。

全てがオニキスにとって、何物にも勝る宝物である。それを壊した者をオニキスは絶対に許さない。


ア「無視するんじゃ…」


オ「少し、黙れ…!」


オニキスの威圧感と周囲の雰囲気に気づかないアルトはある意味尊敬にも値するだろう。

自らの気持ちを押さえるオニキス。ここには、幼女'sがいる。怯えさせないよう、危険が及ばないよう、全力で自らを律する。


と、アルトが投げた手袋を拾い上げた。


ア「あなたが避けるから、手袋が()()()しまったじゃないですの!」


プチッ!


オニキスの中で何かが切れる音がした。理性は怒りを止めることをやめ、逆にそれをあおり始める。沸き上がるその感情は、殺意。


ア「あなたも戦士なら正々堂々…」


オ「…あやまれ。」


オニキスがポツリとつぶやく。


ア「何を…」


オ「この子にあやまれ!」


何かが爆発した。その場に居合わせた全員がそう錯覚した。

次の瞬間、アルトの体がめり込まんばかりに床に倒れこむ。そうさせているのは、もちろんオニキス。


オ「…フーの気持ちを踏みつけた挙げ句、『汚れた』だと?

ふざけるな!それでよくもまあ『戦士』やら『正々堂々』やらと綺麗なことをぬかせるな!

決闘だと?そんなもの、お前相手にする価値も無い!それよりは小鬼か狗頭とでも戦う方がまだマシだ!」


ア「何を…っ!?」


アルトが口を開いた瞬間、アルトにかかる負荷が更に強くなる。


オ「お前には謝罪以外で口を開くことを許可しない。さっさとフーに謝って俺の目の前から消え去れ!」


ア「だ、誰が…っ!?」


アルトなりの誇りがフーへの謝罪を拒んだのだろう。しかし、それはこの場において得策ではない。


更に負荷が増し、オニキスがアルトの背中を踏みつける。


オ「俺がお前を殺さないと思っているのなら、早々に考えを改めることを勧める。所詮しょせんは赤の他人。さほど心は痛まない。」


オニキスの中で、アルトは既に『面倒なヤツ』から明確な悪へと変わっている。悪を誅さずに正義は語れない。


ア「そんなこと、すれば、お父様がグッ!?」


背中を踏む力を強くすることで、強制的にアルトの言葉を止める。


オ「悪いが、それも通用しない。この街のひとつや二つ、簡単に潰せるぞ?」


そして、客も気づき始める。


「お、おい!あれって…」


「間違いない、『黒』だ!」


「伯爵の街を叩き潰したって言う、あの!?」


「あの踏まれてるのってアルト様じゃない!?」


「や、ヤバい!ホントにこの街、潰されちまうぞ!」


「団長様を!団長様を呼べ!」


騒然とする店内。

彼らは実際にオニキスの力を目の当たりにしている。ゆえに、それが有りうることだと知っている。


オ「女だから、なんてのも関係ないぞ?俺はそこまでフェミニストじゃないんでな。」


もっと言えば、幼女限定超フェミニストだが。


オ「死ぬか、謝って消えるか。さっさと選ばないと、もっと痛い目にあうぞ?」


背中を踏みにじる。これでもオニキスは加減をしているのだ。全力で踏めば、床を貫通して地面まで届くだろう。


ア「グッ…ご、ごめんなさい、ですわ…!」


表情に屈辱を浮かべながらも、謝るアルト。

オニキスは足を退け、負荷を解除した。


「お、お待たせしましたー。季節の彩りフルーツロールケーキです。」


そこに、ビクビクとしながらも、店員がロールケーキを運んでくる。先程よりも豪華である。店側ができる限りで作り上げたものであった。


フ「わぁ!スゴいです!」


瞬間、オニキスから発せられていた威圧感が霧散した。


オ「あれ?頼んだのってこれだっけ?」


「いっ、いえっ!店からのサービスですっ!」


オ「なんだか、悪いね。」


「いえっ!お客様に喜んで頂ければっ!」


店員、ビクビクものである。


フ「おにぃちゃん、イチゴひとつあげるです!はい、あーん!」


フーがイチゴをひとつフォークに刺し、オニキスに差し出す。


オ「あ、あーん…うん、おいしい!」


フ「よかったです!」


オニキスは必死で鼻血をこらえている。


セ「フーだけズルいぞー!」


ラ「そーだ、そーだ!」


ちなみにこの二人は、周りの状況に頓着とんちゃくせずに、一心不乱にスイーツを食べていた。


オ「あー…じゃあ、もう好きなだけ注文していいよ。ただし、キチンと食べられる量にしておくこと!わかった?」


セ「わかったぞー!」


ラ「やったぜ!」


フ「ありがとうです!」


メニューを見始める幼女's。と、アルトがヨロヨロとしながらも立ち上がった。


ア「お、覚えてなさ…」


オ「うるさい。」


瞬間、オニキスからまたも濃厚な威圧感が発せられた。店にいた者はオニキスの背後に龍を幻視したという。


ア「ひっ…!」


オ「ここでは止めてくれ。飲食店だぞ?」


腰を抜かしそうになるアルトに、暗に『らすなよ?』というオニキス。

アルトの完全なる敗北が決定した瞬間である。


――――…


一方、菜真理は…


菜「くくっ、才能のある人物が打ちのめされる…素晴らしい光景だな。」


『悪』の心を満足させていた。


菜「さて…オニキス!私も一緒に良いか?」


オ「あれ?来てたの?」


そして、なにくわぬ顔でオニキスにスイーツをねだりにいくのであった。


――――…


完全にアルトを叩きのめしたオニキス。

一方、卯月がテナーに提案した案とは!?


次回、『指揮官』。


フ「とっておきです!」





ありがとうございました。


※本文中にでてくる『龍』は一章ででてきた龍ではありません。一応。

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