決闘
決闘
オニキスとセンを残して、卯月たちは別の部屋へと移動する。
卯「テナーとやら、身内の躾こそしっかりするべきだ。お前の格が問われるぞ。」
テ「はい、お恥ずかしい限りです。」
外見的には幼女な卯月に説教をされる壮年の男。実にシュールな光景である。
――――…
別の部屋、卯月と菜真理、テナーが対面に座っている。エメラルドは後ろに立っている。
ちなみにだが、ブリキは今回留守番である。
テ「そちらのお嬢さんもどうぞ。」
エ「ん?あぁ、良いのよぉ。今回は卯月さんのお付きってことになるからぁ。形だけでもそれっぽくしたほうが良いでしょ?」
テナーが椅子を指して促すが、エメラルドは手を振って断った。
下手に出ているが、テナーは一組織の長である。卯月、菜真理ならともかく、その部下であるエメラルドも対等に接してしまえば、自然、どこかで軋轢が生まれる。エメラルドはそれを考慮して形だけでも長同士の会談という形にしたのだ。
卯「本人もこう言っているのだ。そうしておけ。」
テ「お心遣い感謝します。」
エ「良いのよぉ、別に。」
ヒラヒラと手を振ると、エメラルドは近くの壁に寄りかかって立った。
卯「さて、と。私からも言いたいことはあるのだが…まずはお前が私たちを呼び出した用件を聞こうか。」
卯月がクイッと顎をしゃくると、テナーは一つ頷いて話し始めた。
テ「はい。まず第一にこの街を救って頂いたお礼を申し上げたいと思ったのです。もし、皆様がいらっしゃらなかったらと思うと…恐ろしい限りです。本当にありがとうございました。」
テナーがまたも頭を深く下げる。
卯「私が言いたかったのはそのことだ。なぜ、街を完全に空けた?守護者のお前たちが居なくなれば街が窮地に追い込まれるのは必然だろう。」
それを聞くと、テナーは苦い顔をした。
テ「仰る通りです。言い訳もございません…」
卯「お前はある程度長として考えられると思うのだが…何か理由があるのか?」
テ「私の判断が間違っていたというのが一番なのですが…あえて言わせて頂くなら、人材不足です。」
卯「人材不足?」
テ「はい、お恥ずかしいことですが…」
――――…
一方、オニキスとセン。
オ「今から卯月さんたちのところに行ってもな…どうする、センちゃん?」
セ「むー?アイツも難しい話するからなー。行かなくても良いのかー?」
オ「まぁ、エメラルドがいるしな…生身のただの人間になら絶対負けないからね。」
セ「じゃあ、行かないぞー!」
おー!と、センが手を振り上げる。
二人はそのまま外に向かって廊下を歩いていく。
オ「じゃあ、どうする?」
セ「センはお腹空いたぞー!」
オ「そういえば朝御飯も食べて無いからな…」
卯月と菜真理が起きたあと、二人の着替えをブリキとエメラルドにさせて、直ぐに宿を出てきたのだ。何もする暇が無かったのだ。
セ「センは甘いモノが食べたいぞー!」
オ「爺から金は貰ってるけどな…どのくらいが相場なんだろうな?」
オニキスたちは当面の生活費と、報酬としていくらかの金を爺から受け取っていた。
オニキスはこちらの金銭を持っていなかったのでそれが全財産である。一応、卯月からもしもの時のために金銀などの貴金属をいくらか貰っているが、一般の店では使えないだろう。
オ「む?よいしょ。」
セ「ふぉ?どうしたのだー?」
と、急にオニキスがセンを抱えあげて少し横にズレた。
そして、オニキスたちがいた場所に落ちてくる片方だけの手袋。
ア「なんで避けるんですの!」
その手袋は投げられたモノ、そして投げたのは獣士団団長テナーの娘、アルトである。
オ「俺たちのいた所だと手袋を投げつけるのは決闘の申し込みなんだけどな。」
ア「知ってるんなら、なんで避けたんですの!」
オ「知ってるから避けたんだ。」
と、センが鼻をピクピクと動かして言った。
セ「おー、臭いが取れたなー。」
ア「なっ…!?あ、当たり前ですわー!」
叫ぶアルト。その隙を見逃さずに、オニキスは素早く離れる。
オ「それじゃあ、俺たちはこれで。」
内装を壊さない程度にセンを抱えて本気で走るオニキス。あまりに早いので、さながら瞬間移動の様に見える。
ア「なっ!?どこに行きましたのー!?」
少し廊下を走って、キョロキョロと辺りを見るアルト。
廊下の角を二つ曲がったところでセンを地面に降ろして息をつくオニキス。
オ「ふぅ…なんとかなったなぁ。」
セ「どうして逃げたんだー?」
そのまま外に向かうオニキスとセン。
オ「まぁ、面倒事の気配がしたからかな?だいたい、立場のある人と絡むと良いこと無いんだ。」
セ「そうなのかー。オニキスはビビりなんだなー。」
オ「…なっ…」
幼女からの悪意のない酷評。それはロリコンであるオニキスの心を切り裂いた。オニキスは落ち込んだ。
セ「ん?どうしたんだー?」
オ「い、いや…。」
心なしかオニキスの背中が煤けているような気がする。
――――…
テ「獣士団の者は皆実力者揃いです。ですが、一軍を率いるのには適任ではありません。
私もいい加減歳なので、引退を考えているんですが…皆まだまだ私を裏舞台に下げてくれるつもりは無いようです。」
テナーが深くため息をつく。
卯「あのお前の娘は…無理だろうな。」
テ「お恥ずかしながら…」
テナーが肩を落とす。始めの壮年の精悍な騎士というイメージは完全に無くなっている。
テ「今回のこともそうです。我々獣士団には副団長と言える者が居ません。私が不在だと、軍として機能しないのです。
即戦力を求めて腕のたつ者ばかりを集めたのが仇になったんです。武才はあるけれど、将才が無いのです。」
卯「ふむ…それは致命的だな。お前を落とせば軍が落ちる。」
テ「その通りです…」
テナーの表情には気苦労が滲んでいる。
菜「…オニキスはどうしたんだ…」
菜真理の耳には全く話が入ってきていない。
菜「卯月、少し席を外しても大丈夫か?」
卯「ん?あぁ、問題ないぞ。エメラルドはつけてやれないが…大丈夫か?」
菜「あぁ、オニキスを探してくる。」
卯「そうか。なるべく一人でいるなよ。」
――――…
ア「どこに行きましたのー!」
菜「おい、テナーの娘。」
ア「なんですのっ…?」
菜「ウチのオニキス、黒いのを見なかったか?」
ア「あなたはさっきの…
ちょうどワタクシも探しているところですのよ。」
オニキスを探していた菜真理は、玄関で同じくオニキスを探していたアルトと会った。
――――…
その頃、オニキスは宿の近くまで戻り、センと一緒に喫茶店に入っていた。
セ「おー、これ、美味しいぞー!」
センは要望通り、店イチオシだというモンブランのようなケーキを食べていた。
オ「こっちには栗もモンブランもないから、名前は違うだろうけど…」
しかし、どう見てもモンブランなのである。よって、オニキスはこれをモンブランと呼ぶことにした。
セ「オニキスは食べないのかー?貰っても良いのかー?」
オニキスが取り合えず頼んだモーニングセットをロックオンしているセン。
オ「食べたいの?」
セ「食べたいぞー!」
目線をそらさずに答えるセン。
オ「そんなに美味しそうかな?まあ、いいよ。」
セ「やったぞー!オニキス、大好きだぞー!」
オ「大好き…(プシッ)…っ!」
鼻血を出すオニキス。
ちなみに、センの狙いはモーニングセットに付いていた小さなプリンだった。
――――…
ひょんな事からアルトの悩み相談に乗ることになった菜真理。そして、オニキスは…!?
次回、『才能』。
テ「獣人の街に平和を。」
ありがとうございました。




