激昂
遅くなりました
激昂
町のメインストリートにポツンと立つ二つの人影。もちろん、オニキスとエメラルドである。
オ「さて、と。これぐらいで良いんじゃないか?」
エ「そうねぇ。皆、アンタの馬鹿力にビビっちゃって出てこないしねぇ。」
オ「それを狙ってやったんだけど…なんだかな。」
エ「いいのよぉ、これでぇ。ミッションコンプリートぉ!」
――――…
菜真理は考えていた。
菜「ふむ…正義と悪は紙一重、か。」
卯月の見せた狂気ともとれる正義への執着。オニキスの正義とも言える常時発動型ロリコン。
菜「くくっ…卯月はともかく、オニキスはなんとしてもこちら側に…」
卯月が正義を忘れないように、菜真理も悪を忘れない。
彼女の悪もまた、卯月と同様揺るがない。
菜「正義の味方が悪の味方に…しかし、その正義はそのままに…くくっ、随分と狂っているじゃないか。」
悪からすれば正義は悪であり、悪は正義になる。
菜真理に味方すること、それがすなわち悪なのである。
と、夢想している菜真理の後ろから、忍び寄る一つの影が。
騎「悪の手先め!滅びよ!」
ソレは先日、オニキスに撃退された騎士だった。
そして、菜真理めがけて走り、剣を振り下ろす。
菜「なるほど、私は悪の側にいる。だが…」
騎「死ね!」
菜真理に剣の切っ先が触れようとする。
その瞬間、一陣の黒い風が吹いた。
菜「手先では無い。私こそが『悪』だ。」
オ「お前…よほど死にたいようだな。」
あぁ、愉快!正義の味方が悪を救う。
菜真理はオニキスの正義の対象であると共に、悪そのものである。すなわち、オニキスの正義はこの瞬間は『悪』に染まっている。
菜真理の脳内はそんな想像に染められ、歓喜が踊り出す。
戦うオニキスを見るだけで幸福になる。
菜「あぁ、オニキス。お前なら来てくれると思っていたぞ。」
故に菜真理は焦がれるのだ。正義に育てられながらも、悪を選び、歪んだ存在となったオニキスに。
菜「やはり私には君だけしかいない。」
オ「?」
これこそが正義への逆襲の始まり。菜真理の最終目的。
卯月に強烈なコンプレックスを抱く彼女は自らを悪と定義し、世界と正義に反逆することを存在意義とした。
菜真理の異世界での悪の第一歩は卯月からオニキスを奪うこと。既に『悪』は始まっている。
――――…
大通りを堂々と進むオニキスとエメラルド。
と、オニキスの眼がスウッと細められる。
オ「悪い。少し先に行く。」
エ「はいはぁい、いってらっしゃーい。」
言うや否や、超高速で走り、見えなくなるオニキス。
エ「どっかで幼女が危ないのねぇ。」
オニキスが行ったからには大丈夫。エメラルドはそう思いながら見送るのであった。
――――…
オ「…(あの時に叩き潰しておくべきだったか?)」
一瞬の思考の後、降り下ろされた剣を横から殴り付ける。
オ「お前…よほど死にたいようだな。」
放つ威圧は龍のごとく、その表情は般若のごとく。
オ「一度ならず二度までも…これは自殺願望があるとしか思えないな。」
騎「…ひっ!?」
蛇に睨まれた蛙、騎士は動くことすらままならない。
オ「これに懲りて…懲りるだけの脳があるなら、来世ではもう少しマシな生き方をするんだな。」
次の瞬間、オニキスの拳は騎士をただの肉の塊に変えていた。
菜「あぁ、オニキス。お前なら来てくれると思っていたぞ。」
と、菜真理がオニキスの腰に抱きついた。
オ「…(プシッ)…ど、どうしたの?」
人一人がぶちまけられた状況で、まるで楽しい絵本を読んでいるような笑顔の菜真理。
オニキスは鼻血を出しているが。それもある意味凄惨な状況とも言えるだろう。
菜「やはり私には君だけしかいない。」
オ「?」
菜真理がポツリと言った言葉の意味が分からないオニキス。だが、既にオニキスは菜真理の『悪』に組み込まれてしまっているのである。
――――…
卯「やれやれ、お前の家来は学習能力がないのか?」
伯「こ、これは…」
館のすぐ下で起きた凄惨な状況に顔面蒼白になる伯爵。
卯「その上、死んでまで雇い主に迷惑をかけるとは…使えんな。あんな家来ばかりなら、お前も苦労するだろう?」
この場での卯月の優位は揺るぎ無いものになっていた。
卯「まあ、すぐにこの都市は荒野になる。良かったな、気苦労が減って。
これからは自分の事だけを心配して生きていけ。」
伯「ま、待ってくれ!」
腰かけていたウルフに合図し、部屋を出ようとする卯月。そして、それを必死の形相で止める伯爵。
卯「なんだ?まだ何かあるのか?」
伯「あ、あれはあの騎士の独断専行だ!私の指示ではない!」
卯「上に立つものとしてこのタイミングでの尻尾切りは誉めてやりたいが…いかんせん、私は妹と部下を攻撃されて、その言い訳を通せるほど寛容では無いのでな。」
卯月がニヤリと笑う。
卯「もちろん、それなりの誠意を見せられれば私も考えざるを得ないのだがな?」
伯「…獣人街の復興資金を補助しよう。」
卯「補助?温いな。そもそもがお前たちの暴走で起きたことだ。
命と権力が惜しいのなら、しっかり考えてモノを言うんだな。」
と、ウルフを立ち上がらせる。
卯「骨も残さず食われたくはないだろう?」
伯「ひっ…」
ウ「私、食べない。」
ムッとしたようにウルフが言うが、伯爵の耳には入らない。
と、勢いよく部屋の扉が開いた。
エ「はいはぁ~い、そ・こ・ま・でぇ~!」
エメラルドが手を叩きながら入ってくる。
エ「何よぉ。なんか皆シリアスになりすぎぃ!」
ツカツカと伯爵に近づき、言う。
エ「今回のことはぁ、復興資金の負担と今後、獣人に攻撃しない、ってことでいいかしらぁ?」
伯「あ、ああ。それでいい。」
いきなりのエメラルドの登場に恐怖を忘れて戸惑う伯爵。
肯定の返事を受けると、エメラルドは大きく頷いて踵をかえした。
卯「む…もう少し厳しくするべきじゃないか?」
エ「人は間違えて育っていくのよぉ。
ん?アタシ、今イイこと言ったわぁ!」
そして、そのまま卯月を抱えあげ、再び四つ足に戻ったウルフの背中に乗せる。
エ「あ、そうだぁ。下で菜真理ちゃんが謎のラヴオーラ出してるから、止めてきてくれなぁい?」
卯「ふむ、そうするか。オニキスがどうなるかわからないからな。」
素直に出ていく卯月を見て、ホッと胸を撫で下ろす伯爵。と、エメラルドが振り向いて言う。
エ「それじゃあ、これからもイイ子でいてねぇ?じゃないと…ねぇ?」
エメラルドから発せられる威圧感。先程の卯月のものが降り下ろされる金槌だとすれば、こちらは真綿で首を絞められる感覚。
エ「じゃあねぇ~。」
ヒラヒラと手を振りながら出ていくエメラルド。
扉が閉められた後には、崩れ落ちる伯爵の姿があった。
――――…
無事(?)、伯爵家とのいさかいを解決した一行。
しかし、獣人族の問題は山積みで…!?
次回、『令嬢』。
菜「貫く悪の信念。」
ありがとうございました。
遅くなってしまい、申し訳ありません。何よりも書く時間が無く…。
できる限り早く次を上げたいです




