説得
説得
街中を巨大な狼が闊歩する。その側には少女が二人。もちろん、卯月、菜真理、ウルフの三人だ。
菜「狼を連れ歩いても誰も異常だと思わないとはな。」
卯「なに、こちらにもペットや家畜という概念はあるらしい。我らの世界でも酔狂な者は猛獣を侍らせていただろう?」
卯月は事前に爺にその事について確認をとっていた。強いモノを従えるのは強いモノ、という考え方があるらしく、猛獣を従える者は少なくないと言う。
そして、機械が発展していないここでは、家畜も貴重な動力源である。
菜「ふむ…」
と、菜真理が町並みを見渡していった。
菜「良い町並みじゃないか。ヨーロッパ風で小綺麗だ。」
卯「そうだな。だが…」
卯月もまた辺りを見渡して言う。
卯「ここに住んでいる人々はあまり良い暮らしをしていないようだな。活気がない。
家も建築物としては悪くないが、住まいとしては少々汚いようだ。」
よく見れば、外にあまり人の姿は無く、本来賑やかであるはずの商店街らしき区画も静まりかえっている。
卯「理不尽と間違いを正すためだけにここに来たが…これはもっと手を入れても民草の反感は買わなそうだ。」
そういって、卯月は目の前に見える伯爵家の館を睨み付けた。
――――…
エ「卯月さんたち、大丈夫かしらぁ?」
ところ変わって城門の前。オニキスとエメラルドは門兵に見つからない程度の場所で都市を観察していた。
エ「オニキスは随分落ち着いてるけどぉ、心配じゃないのぉ?」
オニキスは微妙な顔をして答える。
オ「よく考えて見ろ。あの人がたかが少し訓練したぐらいの一般人類に負けると思うか?」
オニキスに言われ、エメラルドも微妙な顔になった。
エ「そういえばそうねぇ。あの人は改造に頼らなくても馬鹿みたいに強いからねぇ。」
オ「それに、あの人の今の改造は収納能力だからな。それを生かさない筈も無いだろ?
現にそうだったしな…」
やけに遠い目をしたオニキスが語るのは昨日の夜のこと…
――――…
オニキスも卯月のこととはいえ、生身で敵地の中心に乗り込むのは危険ではないかと卯月に進言しに行ったのだ。
すると、オニキスが口を開くよりも早く、卯月は作戦に持参する武器…いや、兵器について語りだしたのだ。
卯「見てみろ、オニキス!新装備だ!いやぁ、こちらに来てからどうにもインスピレーションが沸きやすい。」
嬉々として卯月が手に持っているのは見た目はただの護身用のスタンガンに見える。
卯「一瞬で相手を再起不能にできる『サンダースタンガン』だ。
あちらでこれを開発していればな。有用な暗器にできたのだが…」
そして、更に取り出す。今度は小さな箱のようなモノだ。
卯「これは正式には名前を付けていないが…『爆音砲』とでも名付けるとしよう。
これはただ大きな音を出すためのモノだ…ただし鼓膜が破れる程のものだがな。」
まだ出てくる。小ぶりなスプレー缶だ。
卯「これは『幻覚霧』。昔、偶然強い幻覚作用がある薬品の組合せを見つけてしまってな。使い道も無いと思っていたが…こんな形になるとはな。
難点は下手に使えば自分にも作用してしまうところだが…マスクを使えば問題ないだろう。」
これ以上はオニキスが耐えきれなかった。
卯月との会話もそこそこに逃げ戻ったのであった。
――――…
オ「と、まあ…心配する必要は無いだろうな。」
エ「想像以上にエゲツなかったわぁ…」
苦笑いするオニキスに渋い顔のエメラルド。卯月はよくも悪くも想像の上をいくのだ。
――――…
卯「ふふ、上々じゃないか。ウルフちゃん、良いぞ!」
卯月が上機嫌でウルフの頭を撫でる。
彼女の名誉のために言うならば、卯月は侵略行為の成功に機嫌を良くしているわけではない。ただただ自分の実験の成功とその成果を喜んでいるのだ。
菜「洗脳と催眠術、か…悪どいことをするな。」
菜真理は呆れていた。彼女はかつては『悪の大総督』として活動していた。悪どいこともやってきた。ゆえに、卯月の行為に呆れていたわけではない。
彼女は卯月がそれをしていることに驚き、呆れていたのだ。
卯月は菜真理の敵役とも言える正義の味方。その彼女が菜真理と同じことをしているのだから。
卯「あまり人道的な行為ではないが…これも正義のためだ。仕方ないだろう。」
菜「う、うむ…」
菜真理は気圧されていた。どこまでも歪みない卯月の目に。
卯月の中には彼女だけの絶対的な正義がある。それを遂行するためならばどんなことでもする。
菜真理は卯月を恐れながらも、どこかで納得した。これが自分と姉との違いなのだと。
そうこうする内に、早くも卯月、菜真理、ウルフは領主である伯爵がいる仕事部屋のすぐ近くの角まで来ていた。
卯「ふむ。何かアクシデントでもあるかと思っていたが…なにも無かったな。」
菜「それならそれで良いじゃないか。」
卯「それもそうだな。よし、ウルフちゃん。もう一仕事頼む!」
卯月がウルフの頭を軽くポン、と叩くと、ウルフの目から紫の怪光が溢れた。
そのまま、廊下を進んで仕事部屋の正面まで歩いて行く。当然のように警護兵に見つかるが…
兵「?お前たち、何者…アナタでしたか。どうぞ、お通りください。」
訝しげに声をかける警護兵だったが、ウルフの眼光をみた瞬間、目が虚ろになり、卯月たちを通してしまった。
彼の目には、卯月たちがこの部屋に無条件で入れる人物に見えているのだ。
卯「ご苦労、ご苦労。」
そのまま扉を大きく開き、部屋の中に入っていった。
――――…
エ「どうしたのぉ?アンタの番よぉ?」
オ「いや、ここまでだ。仕事の時間だぞ、エメラルド。」
エ「やっとねぇ。待ちくたびれたわぁ。」
地面に座り込んで、オセロをしていた二人だったが、オニキスが卯月からの合図を受け取り、立ち上がった。
交渉が決裂した場合はオニキスに合図を送るように取り決めてあったのだ。
城門が良く見える位置まで移動したところで、エメラルドが手を振り上げ、振り下ろした。
エ「それじゃあ…ヘビィメテオ!」
空から家ほどもある巨大な岩が一つ。いとも容易く城門を砕いた。
オ「やっぱり一撃の威力はエメラルドのほうが上だな。」
エ「タメは長いけどねぇ。」
困ったように言うエメラルド。実際、彼女の攻撃は発動から効果が現れるまである程度の時間がかかる。
前衛がいてこその後衛である。
オニキスは領主の館を見据え、言う。
オ「おイタが過ぎる子にはちょっとばかしお仕置きが必要だな。」
エ「アンタ、子供にお仕置きなんてできないでしょ?」
オ「どうしても必要なときにはするさ。子供を人道に導くのは大人の仕事だ。」
首をグリグリと回し、手足首の柔軟をする。
オ「さて、『お仕置き』の時間だ。」
エ「腕がなるわぁ。」
オニキスとエメラルドは蹂躙を開始した、
――――…
伯「我らが病気とは、無礼千万!衛兵、衛兵!この気狂い共を捕らえろ!」
伯爵と話し合いはしたが、勿論交渉は決裂した。
獣人への対応で、この伯爵の自己中心主義はわかる。そんな人物が自分の欠落を認める訳がないのだ。
伯爵の館に控えている兵は警護兵だけではない。卯月たちと接触していない兵はまだまだいるのだ。
伯爵の呼び掛けに応じ、何人かの兵が卯月たちを捕らえようと出てきた。
卯「ふむ、やはりか。
兵たちには気の毒だが、私の実験台になって貰おうか。まずはどれを試すか…」
と、道具を選ぶ卯月を止めるものがいた。
卯「む?どうした、ウルフちゃん。」
それは二足歩行に変化したウルフだった。
ウ「それ、ダメ。命、無くなる。」
卯「何を言う。これも正義のためだ。なに、手加減はする。」
だが、ウルフは引かない。
ウ「命、大切。無くす、ダメ。」
卯「む…」
予想外の事態だった。卯月が集めた情報では、狗頭は善悪の区別がつくほど賢い生物ではないのだ。能力は開発したが、知能面は手を加えていない。
それ故に、卯月はペットに接するようにウルフを扱っていた。
だが、どうだ。ウルフは現に知性を持って行動している。卯月にとっては誤算である。
ウ「それ、危ない。任せる、ワタシ。」
そう言って、ウルフは周囲の兵を睨み付けた。卯月の物騒な武器を使わせないためにも、自分が戦うと言っているのだ。
こうして、内と外からの同時侵略戦がはじまった。
――――…
エ「それにしても…」
城門に向かって歩きながら、エメラルドが言った。
エ「卯月さんの『説得』って最初から第二段階がメインよねぇ。」
オ「肉体言語で説得するってことなんだろ。」
――――…
ついに始まった戦闘。圧倒的な戦闘力を見せつけるオニキスとエメラルド。しかし、その前に予想外の伏兵が!?一方、卯月たちは…
次回、『侵略』。
ウ「命、大切。」
ありがとうございました。




