再出発
美和が「ん!」としか言わないのは、まだ産まれたばかりだからです。
再出発
とある一室。龍と卯月、菜真理が向き合っている。
龍が残念そうに言う。
龍「ふむ、もう発つか。早すぎはしないか?」
卯「こちらにも目的地があるのでな。一所に留まり続ける訳にはいかないのだ。」
龍「しかし、美和が産まれてからまだ1日しか経っていないではないか。オニキス殿ともこれから絆を育むと言うのに。」
菜「それはオニキスの意見だ。下手な情を残してしまっては逆に可哀想だ、とな。」
龍「…まさか、美和にオニキス殿をとられたくない、などということは…」
菜「な、何を言っている!?そ、そんなわけが無いだろう!」
それも皆無ではないようだ。
――――…
場所は変わって子供部屋。
オニキスと、オニキスを至近距離からじっと見つめている美和がいた。
美「ん。」
オ「そういう訳にもいかないんだよ。俺だってこんなのは無責任だとは思うけど…俺は卯月さんについていくのが仕事だし。」
美「…ん。ん。」
オニキスが言っても、美和は首をふるだけ。頑として折れる気配が無い。
オ「うーん…どうして嫌なんだい?」
このままでは『いかないで』の一点張りだろうとオニキスは説得の方向性を変える。
美「…ん、ん。ん、んんん。」
オ「見守る、ねぇ。多分、祈りってのが関係してるんだろ?」
美「ん。…んん、ん、んん。」
オ「未来を、ねぇ。俺としては、何事もなく美人さんに育ってくれたら御の字だと思うんだけどね。
美和ちゃんはお母さんに似てるからもう可愛いと思うし、多分ここはよほどのことが無ければ凄く安全だと思うんだ。
もう俺の考えた最良の未来は、半分くらい実現してるんだよ。」
しかし、美和は意見を曲げない。
美「…ん、んんん、んん、ん。ん。」
オ「そうとも限らないさ。俺は一人だけど、龍の配下はたくさんいる。数は力だよ。」
美「…んん、ん。」
そして、また話が戻ってしまった。ここ暫くはずっとこの調子なのだ。
――――…
オ「…どうすれば良いかな?」
エ「どうするもこうするもぉ、アンタが黙って出てっちゃうのが一番早いんだろうけどぉ…そうはできないのよねぇ?」
オ「そうだな…。それはできない。」
エメラルドに割り当てられている部屋に力無い表情のオニキスがいた。
エ「はぁ…メンドくさい男ねぇ、アンタって。」
オ「少なくとも俺と知り合った娘たちには幸せに過ごして欲しいんだよ。」
エ「そもそも、アンタと会わなければ何も起きなかったケースもあると思うんだけどねぇ。今回はそうとも言えないしぃ。」
エメラルドは暫く考え込むと、顔を上げた。
エ「やっぱりぃ、妥協点を探すのが一番ねぇ。どっちも主張を変えなきゃずっと平行線だもの。」
オ「そうだよな…。」
オニキスの様子を見て、エメラルドは眉をひそめて言う。
エ「最悪、アンタがここに残っても、アタシがなんとかするわ。こないだも言ったでしょ?アタシもそこらのには負けないし、これでもアンタとおんなじトコで戦ってたんだから。
アンタはアンタで後悔しない選択をしなさい。決まっちゃえばなんとでもなるんだから。」
バシン!とオニキスの背中を叩き、そのまま部屋を出るエメラルド。
オ「…エメラルドに真面目なこと言われるなんて世話ないよな。」
その表情には少し力が戻ってきていた。
エ「はぁ、なんか臭いこと言っちゃったわぁ。」
部屋を出てから、エメラルドはため息をつく。
エ「まぁ、後は自分でなんとかしなさいよぉ?」
――――…
オ「…ということで、やっぱり俺はここに残るわけにはいかないんだよ。」
オニキスが言うと、美和は悲しそうな顔で首をふる。
美「…ん。んん、ん。」
一瞬、躊躇うオニキス。しかし、折れてはいけないと思い直し、言葉を続ける。
オ「でも、それ以外で俺にできることはなんでもしたいと思うんだ。
『これをしてくれれば行っても良い』っていう何かはない?」
と、そこに睡蓮が入ってきた。
蓮「失礼いたします。娘がオニキスさまを困らせてしまっているとお聞きしたものですから…。
こら、美和。オニキスさまを困らせてはいけませんよ?」
美「…んんん。」
我を通そうとする美和にため息をつき、睡蓮は続けた。
蓮「良いですか?オニキスさまはとてもお優しい方です。貴女がこのまま言い張り続ければ最後には貴女のことを考えてしまうほどに。
ですが、オニキスさまは私たちがここにひきとめ続けて良いほど小さなお方ではありません。オニキスさまにはオニキスさまの目指されているものがおありになるのです。」
美「…んん…。」
叱られて尚折れようとしない美和。
と、睡蓮が美和に囁く。
蓮「それと、これは女の先輩としての母からの助言です。
…面倒な女は殿方に嫌われますよ?」
美「…っ!?」
効果はてきめん。
美「…んん、ん。」
オ「…本当に?」
美「…ん。んん…んん、ん?」
心配そうに言う美和に、オニキスは言う。
オ「大丈夫、俺は簡単なことじゃ人を嫌いになったりしないよ。」
美「…ん。」
と、睡蓮がオニキスに言う。
蓮「オニキスさま、たまに美和に会いに来ていただけ無いでしょうか?美和もオニキスさまをお慕いしているのでございます。」
オ「それくらいは問題ない。でも、どうすればいい?先に進むと距離的にここに戻ってこれなくなるだろうし…」
蓮「それならば問題はございません。」
と、睡蓮は自分の指にはめていた指輪を外し、オニキスに手渡した。
オ「これは?」
蓮「『飛び戻りの指輪』というものです。これがあればいつ、どこからでもここに戻ってくることができるのでごさいます。」
オ「魔法のアイテム、ってことか。
わかったよ。できる限り遊びにくることにする。美和ちゃんもそれでいいかな?」
美「ん!」
美和が頷く。
蓮「さぁさぁ、オニキスさま。オニキスさまも出立の準備をなさらなくては。」
オ「そうだね。それじゃあ。」
睡蓮に言われ、部屋を出るオニキス。
と、ドアの横にエメラルドがいた。
エ「どぉ?いい援軍だったでしょ?」
オ「お前だったのか。いや、助かったよ。」
エ「母は偉大なのよぉ。」
――――…
翌日、白河の畔にはオニキスたち一行と、それを見送る龍たちがいた。
龍「この度は本当に世話になった。礼を言わせてくれ。」
卯「なに、気にするな。オニキスが派手にやらかしただけだ。」
龍「オニキスさまにも、御礼を申し上げる。魔物の件、娘の件、世話になり通しであった。」
オ「気にしないで。ちょくちょく美和ちゃんにも会いに来るし。」
と、美和がオニキスの前に出てきた。
美「…ん。」
オ「これは?」
美和が差し出したのは黒い石のついた腕輪だった。
蓮「美和が作ったのでごさいます。受け取ってやってくださいませ。」
美「ん。」
オ「これを?…わかった。貰っておく。」
それを受け取り、腕にはめるオニキス。
美「…あ…」
オ「ん?」
美「ありあと、おにきす!」
そして、走っていって睡蓮の後ろに隠れた。
オ「…ぐっ!?…ど、どういたしまして。」
卯「さて、出発だ!」
こうして、白河での一件は幕を閉じたのであった。
――――…
龍たちが見えなくなって、すぐ。
オ「すいません、卯月さん。」
卯「ん?どうした?」
オ「さっきので鼻血が止まらなくなったんですけど、どうすれば…(バタッ)」
言いながら倒れたオニキス。
卯「おいおい…」
エ「締まらないわねぇ…」
――――…
白河を辿るオニキス一行。一行は近くの街を目指す!
次回、『街』
オ「輝く希望を未来に!」美「ん!」
ありがとうございました。明日は設定紹介、明後日から話を再開したいと思います。




