契約不履行への期待
プロローグ
ここにある男がいる。これからお話する事は、私と彼との間に交わした私の今までの契約の中で、類のなかったケースの一つである。話の流れをスムーズに理解してもらうために、彼のプロフィールを簡単に書いておく。
彼の名前は小物 罪造と言い、昭和の中期に裏日本のとある小さな村の農家で六人兄弟の五番目として生まれた。先天性の小児麻痺で重度の障害者の彼は、その後に生まれた妹が二歳の頃に父を亡くした。五歳になるまで彼の母と上の兄弟たちに育てられたが、その後治療するという名目で単身東京のとある病院に入院させられ数度にわたる両足への手術や、苦痛を伴うマッサージ及びつまらなく辛いだけのリハビリを受けたが、結局彼は自分の足では歩くどころか立ち上がることすら叶わなかった。そんな感じで彼にとってあまり意味のない七年が過ぎ、一年程の田舎暮らしを挟み再度上京し未成年の収容施設に七年、重度障害者授産施設に五年とその時点までの人生の三分の二以上もの間彼は家族や一般的な社会生活からの隔離された生活を余儀なく送らざるを得なかった。
そのような状況のなかで学齢として三年遅れの小六から高一までの五年間という中途半端(内容的にも)な教育しか受けられなかった。高二以降のことについては、彼自身の意思によって辞めたが小五までの分については当時の法律によって通学が困難な者は義務教育を免除するという形によって奪われてきたようだ。さらにいえば当然のごとく一般常識でいうところの収入の得られる仕事にも就けなかったのは言うまでもない。そんな彼でも幸か不幸か結婚をすることができ、三人の子供を儲けた。
二七歳あたりから彼は独立し、当時としては半分ボランティアのような介護者と共に障害者運動を一見真剣にやっているようなポーズをとりながらチャランポランに好きなことをやって最近までは生きてきたらしいのだが、半年ほど前、頸椎の損傷によって手足が動かなくなりほとんど寝たきり状態になってしまった。もともと寝たきりになる前から彼は人生を諦めていて少なくとも二十歳を超えたあたりから消極的にではあるが、なるべく早く死にたいと思っていたようなことも周りの人たちに公言していた。そんなこともあって彼は宗教全般を嫌い、憎悪を感じていた。当然のことながら神や仏などの存在を全く信じていなかった。少なくともあるとき(私と会う)までは・・・。
観察と接触
しかし、世間一般から見れば彼は重度障害者のくせに結婚もし、さらに子供まで三人も儲けておきながら、何故不幸と思い死にたがっているのか理解に苦しむだろう。私には分かる気がするが、彼にとって結婚も子供ができたことも美味しいものを食べた時や面白い漫画や映画を観た時やセックスをした時や道で百円拾った時と同じような刹那的な喜び、達成感、優越感、幸福感、希望的な何かに対する期待感と思っているんだろう。とにかく、今までの人生全体から見れば、苦しみ、悔しさ、不幸感、妬み、敗北感、色んな意味での絶望感の方がはるかに勝っていると思っているはずだ。
このように心の中に恨み辛みが溢れていて、死にたがっているような人間は私はすごく興味深い。格好の獲物になるだろう。
しばらくの間彼を見てきたが夜寝る直前に痛み止めとちょっと強めの睡眠薬を飲んでいる。それでも体のあちこちの痛みや喉の渇きなどで一~二時間で目が覚めてしまい飲み物をもらって喉をうるわせてもその後二、三時間寝付けないことが日常的である。そんな時彼は喚きたいのを堪え、宗教(神)を恨み最終的には自分の人生そのものを呪っている。
ある晩私はついに我慢が出来なくなり彼と接触することにした。夜中に彼が目覚めた時、私はベッドの横に立っていた。その気になればどういう格好にもなれるが、とりあえずヨレヨレの汚れた服装の痩せこけたみすぼらしい初老にしてみた。彼は私に気付き、「ジャレジャオミャエハ(誰だお前は)、ゾリョモウカ(泥棒か)?」と叫ぼうとしたが、言語障害と緊張によりスムーズには声にならなかった。私は彼の言葉を途中で遮り、「静かに。私は怪しい者ではない。あ、いや、十分怪しいかもしれない。」「自己紹介をしておこう。すぐには信じてもらえないかもしれないが私は人間たちから悪魔と呼ばれている者だ。私の姿は君にしか見えない。声も君にしか聞こえない。私には君が声を出して喋らなくても頭の中で思うだけで伝わる。君が言葉で私に話しかけたりすると周りの家族が起きた場合、誰もいないのに幻覚でも見て喋っているのかと思われてしまう。」「ウトジャ(嘘だ)。アクミャニャンデイリュワケギャニャイ(悪魔なんている訳がない)。」
「だーかーらー、声を出さないでって言っているでしょう。私が悪魔である証拠を見せてやる。まず姿を変えて見せて、それから天井や壁をすり抜けて見せてあげるよ。」と言って私は一瞬のうちに十歳くらいの少年になり、そのまま空中にふわりと浮きあがり天井まで上がっていき、頭から足先まで天井の中に消えて見せた。再び天井から表れて、今度はドアをすり抜け、ベランダに出て外からノックして見せた。そのあといきなり、今度は寝たままの彼を目の前に姿を現し、
「今君は『そんなばかな、これは夢だ』と思っただろう。これで信じてもらえたかな。」
〝驚いた。どうやら本物のようだ。しかし俺に何の用があるんだよ。もうじき死ぬので迎えにでも来たのかな〟
「そうそう、その調子でいいんだよ。ありがとう、信じてくれたようだね。単純に迎えに来た訳ではないよ。それをやるのは死神くんだからね。何をしに来たかというと、君が気に入ったから契約をかわしたいと思ってきたんだけど、その前に私と気味じゃ固いから呼び方を変えようよ。私は悪魔だからあっくんでもクマちゃんでもいいけど、君の名前は確か小物罪造だよね。じゃぁザイくんがいいかな。下を取ってイカくんはないいよね。私はザイくんにしよう。私のことはあっくんでいいよね。」
〝こいつ何を言ってるんだこんな時に。まあいいか。じゃああっくんザイくんでいいよ。で、どんな契約なんだ〟
「ザイくんは今すぐにでも死にたがっているんだよね。でも殺人はおろか、自殺もできない状態なんだよね。そこで契約というのは、あっくんにザイくんの魂をくれれば、どんな願い事も四つ叶えてあげるということなんだけども。」
〝ちょっと待って。どんなことでも?今すぐ決められないけど、ひとつ聞いてもいいかな?質問に答えることも願いのひとつに質問にカウントされるのかどうか、もしもカウントされるなら答えないで。あっくんが答えた場合、カウントされないと考えていいんだよね〟
「その通り。だけど契約が成立した後での質問はカウントされる場合もあるから気を付けて。で、何が聞きたいのかな」
〝いろいろあるけど、まずあっくんが居るということは、神もいるのかな。まぁ俺が思うに神が居なくてあっくんだけだったら、この世界はもっとめちゃくちゃになってると思うから神も居るのかな。その場合、あっくんと神はどういう関係なの〟
「難しい質問だけど、いると言えばいるし、いないと言えばいないし…。えいっ!ザイくんだけに白状しちゃおうかな。実を言うとあっくんがそれなんだ。つまりあっくんでもあり神でもあり、その時々の気まぐれで悪さをしたくなったときは悪魔になり、いいことをしたくなったときには神になるんだよ。理解してもらえるかな?それもAll or nothingじゃなくて、九十%神の時もあれば、三十%神の時もあるってこと。ちなみに今のあっくんは八十五%くらいかなぁ」
〝へぇ。そうなんだ。俺もそう思ったこともあったけどね。あとふたつ聞くけどまず神の時も人間の願いって聞くこたるの?それともうひとつはこの広い全宇宙に悪魔(=神)はたった一体なの?それとも何体も何十体もいるのかな?〟
「一つ目の答えはほとんど愛書。なにしろねがいごとを言う人間が多すぎてとても応えきれないからね。もうひつとの答えは実を言うとあっくんもようわからないけど、あっくんは三十五、六体は数えたことあるけど…。」
〝じゃあもうひとつだ聞くよ?四つの願い事って言ったけど、一つの願い事で同じような事だったら幾つでもできるのかな。例えば爆弾を三つ作ってほしい、それをある三か所に置いて欲しいと言ったら、それだけで四つの願いになってしまうのかい?〟
「場合にもよるけど、ザイくんの頼みだったら、それは一つにカウントしてやるよ。」
〝ありがとう。最後にもう一つだけ大事なことを聞きたいけど、あっくんに魂をあげるっていうことは、普通に死んだ時とどこが違うの?〟
「えーと、難しいんだけど、簡単に言うと、契約してその四つの願いが全部終わった時に、ザイくんが当然死ぬんだけど、その前にあっくんがザイくんの魂を食べちゃって、あっくんの身体の一部になるんだよ。普通に死んだ場合の魂は人間で言うところの輪廻という概念で、つまり時間的にイっちゃったら何百万年先かもしれないし、空間的にも地球以外の遠くの惑星の方にあるかもしれない。とにかくいつかどこかわからないけど、なんかの形で生き物に生まれ変わる事があるという感じかな。僕が食べっちゃった場合、生まれ変わる可能性がゼロになるってところが一番大きいかな。こんな答えで理解してもらえるかい?」
〝なるほど、わかった。僕もそう思ってたことがあった。どうせ生まれ変わりたくもないし、そういう意味では今は契約してもいいかなと思ってるけど、四つのお願いの内容をもうちょっと考えてみたいこともあるし、ちょっと疲れたから明日の晩また来て
よ〟
「わかった。じゃあまた明日来るけどいつでもあっくんって呼んでくれれば来れるからね。昼間でも大丈夫だよ。他の人間には見えないんだから。あっ、そうそう、ザイくんのこと気に入ったから、サービスとして今から二時間位ぐっすり眠れるようにしとくね。じゃあおやすみ」といってあっくんは跡形もなく消えていった。俺は今のは夢だったのだろうかと半信半疑で考えていたが、ものの三十秒も経たないうちに眠りに落ちてしまったようだ。
再質問と条件の提示
次の日の晩、いつものように痛み止めと睡眠薬を飲んで俺は寝ようとしたが、四つの願い事の内容をどうしようか考え始めると全く眠気が襲ってこなかった。一時半頃まで頑張って眠ろうとしてみたが、ついに心の中で叫んだ。
〝あっくーん!〟
「そんなに強く呼ばなくても聞こえるよ。契約する気になった?四つのお願い決めたかな?」
〝こんばんは。あっくんよく来てくれたね。契約することはもう決めてるけど、もう二,三個聞きたいことがあるんだけどいいかな?〟
「二個でも三個でも聞いてくれ」
〝第一の質問、あっくんには頼まれても出来ないことはあるのかな?例えば三つ目のお願いのときにお願いの数をあと三つ増やしてくれとか、同じく三つめのお願いのときにあっくん(=神)を消滅させるとかいろいろ考えられるけど。第二、夕べも一度聞いたけど一つのお願いでどのぐらい複雑なことができるのかな?例えば中から開けて逃げられない部屋をつくってそこへ僕がいう特定の大勢の人間を集めてきて閉じ込めてもらいその部屋の中の様子をテレビ中継とネットで全世界にリアルタイムで発信するということ。これは例えで、できればもうちょっと内容に付け加えたいことがあるぐらいなんだけど。第三に難しい質問なんだけど前にあっくんみたいな奴が三十六体以上がいるっていったけど、あっくん一帯の場合も含めて一人の人間と契約を交わして四つ全部終わる前にほかの人間とも同時進行で契約する事あるのかい?その場合に例えば俺が月をなくしてくれと言ってそれをあっくんが実行して無くなった時にあっくんまたはほかのあっくんがほかの人と契約して、その人間が月を復活させてくれといった場合、その願いをかなえたら、俺の願いは全く無駄になっちゃうよね。僕の契約の四つとも全部終わってからならともかく、途中で願い事の一つが無駄になるのはおかしいとおもうんだけどどうなの?第四にこれは質問というよりも第二の答えにも関係するんだけども契約する条件俺からも出していいのかな?例えば最後のお願いを履行される前に僕の魂を前払いであっくんにあげるから、そのかわりにお願いをいくつか増やしてもらうとか。たましいを前払いだけで足りないのならば、例えば僕が選んだ特定の人間(複数でも可)の魂をくれてやると言ってもダメかな?とりあえずこの三つに答えてもらいたいなあ〟
「ザイくんも意地の悪いことを考えるもんだなあ。第一の答えとしてはザイくんが言った例えはもちろんだめだよあっくんのメリットがないのにザイくんのお願いだけが無限に要求されることになるし、魂をもらう前に自分を消滅させるなんてのは論外だよね。その他に出来ないことと言ったらこの宇宙全体を消滅させることぐらいかな。あとはほとんどのことができると思うよ。第二の答えだけどそれも難しくて一概に答えられないからザイくんに一つ目のお願いとして長くなってもいいからそれを聞いてからいくつかのお願いに分割するか決めた方が早いと思う。あ、念のために言っておくけれどまだ契約が決まってないから第一のお願いとしていくらたくさんの希望を言ったとしてもたとえ話だからその言ったことがそのまま願い事になるわけじゃないから自由に何を言っても構わないよ。三つめの答えは同時進行で契約することはあるけど、そのお願いが終わる前に矛盾するようなことはしないよ、ヤクソクスル。だけどもう一度言うけど最初の人間の契約の四つのお願いが終わった時点では別の人間のお願いがあれば最初の人間のお願いと反対の事をやることは今までも何回もあったけどね。でも最初の人間の契約が終わった時点で死んでいなくなるんだから関係ないよね。まぁ悔しいとは思うだろうけど。四つ目だけどあっくんもびっくりしたよ自殺を希望しているような人間から悪魔に対して条件をつけてきたことなんか前代未聞だし、まして魂の前払い何て考えたこともなかった。さらに言えば契約する当人以外の魂までも勝手にあっくんにくれようとするなんてザイくんはあっくん以上予備に悪い奴だね。まあ内容を聞いてから条件をのむかどうか決めようと思う。」
〝そりゃあっくんと契約するくらいだから俺も悪魔にでも神にでもなる覚悟だよ。お願いの順番は別として、簡単なものから言ってみる。これは多分ひとつのお願いとしてカウントしてもらえると思うけど、僕の合図と共に警視庁の建物全体を一瞬のうちに壊さないでそっくりそのまま消滅させて、その五分後に元通り復活させてほしいんだ。これはひとつでできるよね?〟
「もちろんそれだったらひとつのお願いとしてカウントオッケイだよ。」
〝次に長いけど、皇居のどこかにさっき言ったような二百人以上楽に入れる大きな部屋、椅子やテーブルカーペットなども立派なもので表からカギがかかってて中から出られないところを創って、その部屋に日本の天皇はじめアメリカのオバマ大統領・ロシアのプーチン大統領・バチカン市国のローマ法王など世界中の国の代表者を拉致してきて閉じ込める。更にアメリカとロシアと中国から核ミサイルの中の核爆弾だけを持ってきてその破壊力を広島や長崎に落とされた爆弾よりも五十倍くらい大きくしてそのひとつをビップルームの中と屋上とおれの部屋にひとつずつ設置してあっくんのボタンひとつで爆発するようにすること。最後にそのビップルームと僕の部屋にマイク付のテレビカメラをそれぞれ設置してリアルタイムで世界中にテレビ放送、ネット発信できるようにする。以上。これはひとつのお願いにカウントされるかな。〟
〝あ、まだあった。大事なこと忘れるとこだった。もうひとつは世界中における科学的水準を日本の明治時代初期に戻すこと。つまりコンピューターもマイクロチップもないし核分裂、核融合の発想などもなくすこと。つまり電気はあるけどその働きとしては熱源、光源、コイルを使った磁力を発生しての電話などの通信及び発電及びモーターとしてそれを動力源として使ったものだけになる。つまりそれ以上の技術を使ったものはすべて消滅させてもらう。もちろん研究の途中の経過や成果の記録などもすべてのメディアから消滅させること。あっそうそう、もちろんすべての人間の記憶からも消すんだよ。これはひとつでできるかな。〟
「皇居の中にその部屋を作ることも含めて世界中のビップたち拉致は一つのお願いでいいけどね。それから核爆弾の件もザイくんの合図で爆発させるようにするまで、それも一つでいいよ。あとはテレビ放送とネット発信は一つにカウントする。最後に言ったやつはちょっと大きいことだから難しいなぁ。えーい、おおまけにまけて二つでどうだ。つまり今のところ、ザイくんが言ったことは六つになるよね。」
〝わかった。最後にもう二つお願いしたいことがあるので俺の魂を前払いするという事で二つだけお願いを増やしてもらえるかなー?〟
「二つか。ちょっと前例のないことだけどあと二つの内容によっても変わってくるから、とりあえず言ってみてくれるかな?」
〝一つ目は警視庁のネゴシエーターと俺の部屋にホットラインでつながりっぱなしの電話を置くこと。
「それは短いから一つのお願いにカウントされて七つ目だよね」
〝お願いの確認の途中だけど、二つばかり質問したいことが思い浮かんだので質問してもいいかな〟
「もちろんいいよ。何でも聞いてくれ。」
〝二つあるんだけど、一つ目は前にあっくんが言ってたけど悪魔と神様が一心同体で、つまり悪魔の心が五十%以上の時は悪魔になり、その逆の時は神様になるんだよね。神の部分が例えば七十%以上の時に、つまり神の時にも誰かのお願いを聞くことってあるのかい。または過去にあったのかい。続けて二つ目として、契約した後にそれを実行する日時との間が仮に一か月あったとして、その実行する日時の時に神に変わっちゃってる時ってないのかい。もしもそんなことがあったら契約が無くなっちゃうことになると思うんだけど。〟
「一つ目の答えだけど、神の時も何かお願いに応えることもあるらしいいけど実を言うと、神になった時のことはほとんど記憶に残ってないんだ、ちょっと情けない答えだけど。二つ目の答えだけど、基本的に悪魔として契約が取り決められたら、その契約が全部終わるまで悪魔と神の割合は変わらないことになっているから、ザイくんが心配するようなことはないよ。」
〝分かった、あっくんを信じて安心して契約できるような気がする。もう一つは最後のお願いなんだけど魂を先払いして、つまり俺が居なくなった後あっくんに人間たちを監視してもらってあることをしようとしたらその時にすべての人間を消滅させて、人工的につくられた構築物つまり建物や鉄道などの全てを消滅させて、さらに言えば動植物においても人間が勝手に品種改良をして作った家畜・ペット・農作物などもすべて消去して原種だけにすること。〟
「それも大きいことだから二つにカウントするよ。合計八つか。二倍だもんなあ。ザイくんの魂の前払いだけじゃちょっとつらいな。あっくんが断ったらどうする気?」
〝やっぱ二倍は無理か。それはそうだよな。じゃあさっきも言ったようにおれの魂の前払いプラスもう一人分の魂をおれの独断であげちゃうことにしよう。それでいいだろ。〟
「もちろんいいけど、誰の魂をどの時点でくれるのかな?ザイくんの魂と一緒にその人間の魂も前払いでいいのかな。それとも八つめの願い事が終わるまではお預けなのかな。」
〝誰かと言われればまぁ誰でもいいんだけど、オウム真理教の親玉の奴でいいや。あんな悪い奴だったらいつでもいいよ。俺より先に先払いしてもいいよ。〟
「分かった、じゃあそれでいいや。ザイくんともう一人の麻原彰晃の魂を先払いということで八つのお願いで契約でいいんだね?」
〝うん、それでいいよ。後は八つのお願いの順番と魂の前払いのタイミングを決めれば契約成立だね。ちょっと疲れたから本当の契約は明日の晩でいいかな?〟
「ああ、良いとも。じゃあ今夜もサービスで今から六時頃までぐっすり眠れるようにしとくからね。じゃあ、おやすみ」と言って彼の前から消え去った。
悪魔との契約の取り決め
次の晩もまた十一時頃に罪造は薬を飲んだ後三十分程して眠りに落ちた。そして二時半頃喉の渇きで目が覚めた時もうすでに彼のベッドの横に現れていた。
「やあこんばんはザイくん目が覚めたかいさあ契約を交わそうか」
〝やああっくんもう来てたんだ。じゃあさっそく契約しちゃおうか。これから八つのお願いを順番に言ってくけど途中の何番目かまではタイムラグ無しで一瞬でやってほしいんだけど大丈夫かな?〟
「もちろん大丈夫だよ必要だったら八つのお願いを一瞬でやっちゃうことも可能だよ。」
〝分かったけどそれは困るんだ。途中で世界中のみんなに言っておきたいこともあるから。〟
〝あっ、その前に契約の内容を始める日時を決めておきたいけどいいかな?〟
「あっそうだね。それは大事なことだったね。いつにするんだい、あっくんはいつでもいいよ。」
〝今日は八月の一日だから・・・うんじゃあ二千十四年八月三日午前十時にしよう。これでいいかい。〟
「それで決定でいいね。」
〝一番目のお願いから言うね。皇居のどこかにさっき言ったような二百人以上楽に入れる大きな部屋、椅子やテーブルカーペットなども立派なもので表からカギがかかってて中から出られないところを創って、その部屋に日本の天皇はじめアメリカのオバマ大統領・ロシアのプーチン大統領・バチカン市国のローマ法王など世界中の国の代表者を拉致してきて閉じ込める。これが一つのお願いだよね。〟
「そうだね。じゃあ二つ目は?」
〝アメリカとロシアと中国から核ミサイルの中の核爆弾だけを持ってきてその破壊力を広島や長崎に落とされた爆弾よりも五十倍くらい大きくしてそのひとつをビップルームの中と屋上とおれの部屋にひとつずつ設置してあっくんのボタンひとつで爆発するようにすること。〟〝三つ目のお願いは、そのビップルームと僕の部屋にマイク付のテレビカメラをそれぞれ設置してリアルタイムで世界中にテレビ放送、ネット発信できるようにすること。続けて四つ目、五つ目だけど、世界中における科学的水準を日本の明治時代初期に戻すこと。つまりコンピューターもマイクロチップもないし核分裂、核融合の発想などもなくすこと。つまり電気はあるけどその働きとしては熱源、光源、コイルを使った磁力を発生しての電話などの通信及び発電・モーターとしてそれを動力源として使ったものだけにになる。つまりそれ以上の技術を使ったものはすべて消滅させてもらう。もちろん研究の途中の経過や成果の記録などもすべてのメディアから消滅させること。あの、言い忘れたけどその結果消滅する施設や乗り物などもあるけども、例えば世界中の原発とかあとほとんどの飛行機とか、新幹線を始めほぼすべての電車や船に至るまでマイクロチップなどを使っているのでそれらを消滅させるかまたは旧式のものに置き換える場合一旦駅とか港とか飛行場とかに止めてから乗客乗員すべて降ろしてからにしないとだめだよつまりなるべく人にけがをさせたり殺したりしないようにしてね。あそうそう、もちろんすべての人間の記憶からも消すんだよ。とは言っても医療関係においては人口心肺装置やレントゲン、エムアールアイなども消滅させるしさらに言えば化学合成によって作られたすべての新薬もだよ。人工臓器はもちろん臓器移植も、不妊治療としての人工授精(正式な夫婦間同士も含め他人の精子を使ったり、まして精子と卵子を体内から取り出して顕微鏡の下で受精させてそれを体内に戻すなんてもってのほかだ)もなくなるので医療関係においては結果的に残念だけどかなりの人数が亡くなるだろうけどまあ俺があっくんに魂を売った時点で俺も悪魔以上にワルになったから気にしないよ〝六つ目として、警視庁のネゴシエーターと俺の部屋にホットラインでつながりっぱなしの電話を置くこと。〟
「わかったあとの二つは?」
〝僕の合図と共に警視庁の建物全体を一瞬のうちに壊さないでそっくりそのまま消滅させて、その五分後に元通り復活させてほしいんだけど、その前にタイムラグを解いて僕が世界中の人間たちと挨拶したり、特に警察のネゴシエーターと会話を楽しむ時間が欲しいんだ〟
「分かった、これで七つ目だよね。てことは最低でもここでザイくんの魂をもらってもいいんだよね」
〝うん、おれと同時に麻原彰晃の分も喰っても良いよ。あっ、そうだ。さっきの確認でころっと忘れてたけど、もう一つ大事なお願いがあった。全部で九つのお願いになっちゃうけどいいかな。〟
「二人分の魂を前払いで貰うんだから、九つのお願いでもいいけどその内容は?」
〝八つ目のお願いというのは、拉致してきた世界中の首脳たちを無傷で丁寧に元いた場所まで戻して欲しい。それとビップルームは消滅させて欲しい。これは大丈夫かな。〟
「分かった、それが八つ目で良いよ。二人の魂をもらった後でも良いんだよね。」
〝うん、それでいいよ。俺が居なくなった後あっくんに人間たちを監視してもらってコンピューターの開発や核分裂、核融合(これらにつながるニュートリノなどの微粒子物理学も含む)の研究を始めようとしたらその時にすべての人間を消滅させて、人工的につくられた構築物つまり建物や鉄道などの全てを消滅させて、さらに言えば動植物においても人間が勝手に品種改良をして作った家畜・ペット・農作物などもすべて消去して原種だけにすること。以上で九つ目だけどこれでいいかな〟
うん、それで完璧だね
〝じゃあこれで正式に契約決定だね。ちょっと疲れたから眠るけど今度会うのは二日後の午前十時でいいね〟
「わかったじゃあまた二日後に会おうね。じゃあお休み」と言って彼の前から音もなく立ち去った。
契約の実行
八月三日の朝、彼は相変わらず夜中の三時頃喉の渇きにより目が覚めて、水を飲みながら今日これから起こる事を思うと気が高ぶり朝まで眠れなかった。だが、彼にとって精神的には今日の事を思うと、期待とスリル、死んで楽になれるといった様な色んな考えが入り混じって激しく高揚している様だった。いつもの様に朝食を食べさせてもらい、薬も飲ませてもらった後、彼はベッドに寝たままの状態でテレビを見ながら家族が出かけるのを見送っていた。そう、彼の家の中も世界中においても極々普通の一日の始まりに過ぎなかった。
九時五十五分頃、俺様は彼のベッドの横に立っていた。
〝やあ、あっくんおはよう。ほぼ時間通りに来たんだね、悪魔も意外と律儀なんだね〟
「ザイくんおはよう。そりゃあ悪魔だって契約を破るようなことはしないよ。じゃあそろそろ計画通り始めるけど、いいかい。」
〝うん、いいよ。頼むよ。〟
そこで俺様はいったん時間を止めて、約束通り皇居の中に大きなビップルームを作り世界中から首脳たちを一人残らず連れてきてその中に閉じ込めた。次にアメリカ、ロシア、中国へと飛んで核爆弾を拝借し破壊力を五十倍にし、それぞれの場所に設置した。続けて、テレビカメラをビップルームの中とザイくんの部屋に取り付け、世界中にテレビ中継及びネットでも動画配信が出来るようにし、最後にザイくんの目の前のテーブル上に電話を設置した。
「ザイくんの言ったように四つ目までのお願いを時間を止めた状態で終わったよ。時間を動かして良いかい。」
〝うん、じゃあ頼む。〟と、ザイくんは心の中で応えてからおもむろに目の前のテレビカメラに向かって話かけた。
「アーイ、てかいちゅうのみんにゃちゃんごんにちは、あーちょうかごんばんはや、おあようにょ、くにみょあるがみょちれにゃいにぇ」
そこまで黙って聞いていた俺様だったが、ついに我慢しきれなくなりザイくんの言葉を遮ってカメラのマイクに向かって喋りだした。
「勝手に割り込んで悪いが、俺は彼の友だちで彼の言おうとしていることが、分かる能力を持っている者だ。さっきの彼の言ってた言葉は言語障害があって分からなかった人が多かったと思う。なのでこれからさっきの言葉を含めて俺が代わりに彼の言おうとしていることを伝えることにする。」
「はーい、世界中の皆さんこんにちは。あぁそうか、こんばんはや、おはようの国もあるかもしれないね。特に日本の警察の皆さんごきげんよう。みんなテレビやネットの画面で見てると思うけど、皇居の中に突然大きくて真っ白な物が現れてしかも、その上に爆弾らしき物を見つけて慌てているだろうね。しかもその中に世界中の国から首脳たちを連れてきて閉じ込められているのを見て多分世界中でパニックが起きていることだろうと思う。」「そう、これはある種のテロ行為である。日本の警察は優秀で調べればすぐに分かると思うから、ここで自己紹介をしておく。」「俺の名前は小物罪造といいもう一つのチャンネルの画面に映ってるとおり老人の重度の寝たきり障害者である、あ、ついでに言っとくと新宿の戸山ハイツの一室に住んでいる。そんな重度の障害者がなぜ一瞬のうちにこれだけのことが出来たか信じられない人も多いと思う。だからテレビの画面上やネットの動画を見た人の多くはこれは実況中継だと思わないで、シージーで作った画面だと思う。しかしそれは違う、これは現実に起きてることなんだ。その証拠に多分表からのテレビ中継などで皇居の中に得体のしれない大きな建物が出来て、さらにその屋上に大きな爆弾らしき物も別のチャンネルで確認できてるはずだ」「ではなぜこんなことが出来たかというとエスエフ小説のように決して科学的に時間をいったん止めるとかタイムマシンを作ってそれを使用したわけではなくって、皆さんには信じられないかもしれないが悪魔がいて俺はその悪魔と取引をした。因みに一番最初に言ったみんなに聞き取れないような言葉が言語障害のある俺の肉声だ。そのあとのまともな言葉は悪魔が俺の心を読んで俺の代わりに喋ってくれているんだ。それでも信じられない人たちのために証拠としてあるものを見せてあげよう。これから俺の合図と共に警視庁の建物をそっくりそのまま音もなく消滅させて、さらにその五分後に元通りに出現させて見せるから。その場合建物の二階以上にいた人は真下に落下するから骨折とか下手したら死ぬ可能性もあるので俺がよういスタートと言ったらそのあと十分間の間に建物の中から全員避難して念のため五メートル以上離れて見ててくれ。これはマジックのイリュージョンと違って種も仕掛けもないので四方八方どこから見てても同じだよ。テレビ中継でも呼んでそれもしてもいいよ。あそうそう言い忘れたけど地下室にいる人も(留置所の中にいる人も含め)念のため避難してね。建物の中にあるパソコンをはじめとするすべての機材や家具及び膨大な量の書類などもいったん消滅するが五分後にすべて元通りになるから避難する時はそれらを持ち出そうとせずに体だけで逃げた方がいいよ。十分ぐらいあれば全員建物から楽勝に避難出来るでしょ?」
「じゃあ行くよー、よういスタート。」と俺様は言って十分間ちょっといらいらしながら待つことにした。その間警視庁の中では熊にでも襲われた蜂の巣のように警官たちが半分パニックになりながらエレベーターや階段に殺到し我先に建物の外に逃げようとしていて見ていて面白かった。この様子を是非ザイくんにも見せてあげたかったが九つのお願いになかったのでやめた。しかしさすがは警察官だ、訓練もよく行き届いてるようで全員建物の外に避難するのに五分とかからなかった。一応念のため建物の中を透視して残ってる人間どもはいないか見てみると案の定留置所の辺りに二人ほど閉じ込められたままの者がいた。余計なお節介だと思ったがザイくんに無断で警官どもに「おいお前らさっきも言ったけど留置所の中に人が二人残ってるぞ。あと四分ちょっとで建物がなくなりあの二人が一階まで落ちて大けがをするか死ぬかもしれないぞ。その場合警視総監の責任になるぞ。それが嫌だったら急いで助けに行け。もう四分切ったぞ、一秒たりとも待たないで建物が消えるから急げ」と言ってしまった。それを聞いて警官の一人が慌てて建物に駆け込み留置所に向かって行き鍵を開けて二人を連れだして屋外まで避難してきたのは残り三十秒を切ってる頃だった。その後、時間ピッタリに警視庁を微塵の埃すら立てずに一瞬で消してやった。その瞬間、日本中の人間が一瞬息をのみ、次に悲鳴と驚嘆の声が混じってとどろいていった。それからきっちり五分後に警視庁は何事もなかったようにそこに立っていた。
「日本中のみんな、特に警視庁のお偉いさん方、今の見てたよね、これで俺が悪魔と契約したっていうのを信じてもらえただろう。それで、警察のネゴシエイターさんと話がしたいので早急にXXXX―XXXXにかけてくれ。待ってるよー。」
と言ってから約3分後にザイくんの目の前の電話が鳴った。俺様はその電話をスピーカーモードにしてやった。
「やあ待ってたよ。俺の名前はさっきも言ったけど、小物罪造ですよ。あんたはネゴシエイターさんだよね、名前は何ていうの?」
「私はネゴシエイターの山田太郎といいます。いかにも偽名っぽい名前だと言われるけど本名です。小物君が悪魔と契約を結んだという事は信じがたいことだけど信じるしかないようですね。こんな大それたことをして要求は何ですか?このままでは世界中の国を押さえておくことは難しいと思っています。」
「分かってます。俺からの要求は二つの事で、一つは一刻も早く外務省の職員及び内閣の閣僚たちも総動員させて世界中の国に連絡を取って、あと一、二時間は余計なことをさせずに落ち着いて見守るように説得すること。二つ目は、警視庁のサットやシットに余計なことをさせないこと。それともう一つ、右翼の団体にも何にもしないように警察の方で押さえておくこと。それさえ守ってくれれば世界中のビップ達を無傷で丁寧に元いた場所に戻してあげる事を約束するよ。俺からの要求は以上、これを破ったらテレビ中継で見えている三つの核爆弾がボカーンだよ。念のために教えておくけど、この核爆弾は三つとも広島と長崎に落とされたものよりも五十倍以上の破壊力にしてあるからね。もしもこれが三つとも爆発したら、二十三区以内は一瞬で蒸発し、その爆風と高温で関東地方は全ての建物が破壊され、焼き尽くされると思うよ。更に巨大なキノコ雲が多くの死の灰の混じった雨を振りまきながら、太平洋を渡りアメリカ大陸まで届きそれだけに留まらず、なおも拡散しながら大西洋も渡りヨーロッパ、アジアまでへと達するだろう。つまり世界中が放射能に汚染されてしまう。そんなことになったら、世界中の国が日本の敵となり一斉に報復攻撃を浴びせられるに違いない。事の重大さはこれで分かるよね。」
「君の要求はわかった、取り急ぎ世界中の国を説得するように手配する。だけどこんなことまでして何をしようとしているのか教えてくれないか?」
「まあ教えてもいいけど先に言っておくと俺がこれからやろうとしていることが全部終わった時には世界中の人間の記憶から今日起こったこと及び日本における明治初期以降の科学的発想・発明・発見などすべて消えてしまうんだけどね。まあむしろだからこそ教えても構わないんだろうな、これから悪魔に頼んでやってもらうのは、一言で言えば地球の病気をかるくすること、それでもあんまり効かなかった場合はその原因(病原体または癌細胞のような物)をすべて取り除き地球を健康に戻してあげることだよ。つまり、三つあって一つ目はさっきも言ったように世界中の科学的水準を日本における明治の初期の頃まで戻してもらう事、簡単に言えば核分裂、核融合を使った世界中の核兵器・原発や原子力エンジンを使った乗り物(空母や潜水艦、大型客船など)がすべて無くなる。その結果俺にとって切り札の一つである三つの核爆弾も消滅しちゃうんだけどね(だからと言って俺をサットなどが射殺したりしたら悪魔が自分がもらう俺の魂を横取りされたと感じて怒って何するかわからないよ。それこそ日本そのものを消滅させるかもしれないからね。余計なことはしない方がいいよ)コンピューター及びマイクロチップなどが無くなるのでそれらを組み込まれている物は消滅するか手動または機械的な仕組みに変わった物になってしまう、さらに医学的にも同様にレントゲン、エムアールアイや人工心肺装置などはもちろん、科学的合成によって作られた多くの新薬もなくなるよ。あ、そうそう念のために言っとくけど人工授精などの不妊治療もだよ。さっき世界中の人間の記憶から消えると言ったけどあらゆるメディアからも消えるからね。」「ここまでやったら俺と麻原彰晃は悪魔に魂を取られて死ぬことになっていて同時に世界中の首脳たちも無事に元居た場所に送り届けられ皇居内にあったビップルームも消滅する、これが二つ目だよ。」
「それで終わるのか?」
「いや実は魂を悪魔に前払いして俺が居なくなった後にもう一つのお願いとして悪魔に世界中の人間どもを見張っててもらって誰かがいつでも核分裂、核融合やコンピューターに関する発想をして研究開発する兆候が見えた時には情け容赦なく地球上の全人類及び人工的な構築物すべて(動植物においても家畜、農作物においても人工的に品種改良されたものはかわいそうだけど)すべてを消滅させてもらう約束になっている。つまり俺が死んだ後どのぐらいの期間で誰かが愚かな行き過ぎる科学文明を研究開発を始めるまでは俺と悪魔との契約の一部は不履行のまま継続される、以上の事が俺がやろうとしていることだ。最もこのことも含めて記憶から消されるから全人類が居なくなるのは明日かもしれないし、何百年・何千年もあとになるかもしれない。じゃあこれで山田さんとも連絡終わりにするよ、じゃあバイバイ。」「じゃあ、あっくん残りの三つのお願いのうち二つやって、そのあと俺と麻原彰晃の魂を取ってもいいから最後のお願いも忘れないでね。」
「分かった、じゃあ、そうさせてもらうよ。ザイくん、さよなら。」と俺様は答えた後、ただちに二つのことをやってのけた。
エピローグ
二千十四年八月三日、午前十一時には悪魔との契約の最後のお願いを残してすべて終わっていた。世界中のどこの国を見ても、ごく日常的な一日であった。しかしよく見ると、ほとんどの高層ビルはなくなり自動車も一台も見当たらず、わずかな国に鉄道はあるもののそこを走るのはほとんど馬車か蒸気機関車だった。そのような世界を見て悪魔はつぶやいた。
「殺風景な景色になったなあ。まあ空気もだいぶきれいになったようだし良しとするか。しかし、俺様もなんて馬鹿な契約をしてしまったんだろう。このまま人間どもが愚かな行き過ぎた科学文明に繋がるような発想・研究を始めるまで黙って見てるしかない。それまで、何百年、何千年かかったとしても最後のお願いを履行するまでは別の人間と契約をすることも出来ない。いったい小物罪造は最後のお願いが履行されるのを希望してるのかしてないのか、どっちなんだろう。今となってはそれを聞くことも出来ない。俺様は何て馬鹿なんだろう。」と一人で愚痴りながらちょっと落ち込んでいた。