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――――――――こうして、話の舞台はここへ戻るわけなのだが……。
「夏希! 家事なんてアフティがやってくれるんだからやらなくてもいい! 自分の家みたいにくつろいでくれればいいし……!」
エールによる、夏希のお説教タイムだ。
お金の為なのか、何なのか、エールはなぜだか感情的だ。
夏希はブーと不満げに頬を膨らませ、唇を付き出した。
「え~。だって人の家でくつろげないよー。まだ二日目だし」
お説教されているにも関わらず、いつもと同じ口調。さっきまでのしょぼんとした気持ちはどこへやら。
「とにかく、大体の事はアフティに任しておけばいいんだ! 無駄な出費が……」
ハァ、と小さく溜息を漏らし、目を閉じてソファにどんっと背中から倒れこむ。
溜息をついているのを見て、夏希はとても大きな罪悪感を感じてしまう。
出費というと、やっぱりお金第一らしい。まだ子供なのに。
突っ立っていた足を曲げ、床に正座する。
(なかなか動けない雰囲気だったから座れてラッキー)
そんな風に思ってしまった夏希を許して欲しい。
「こんかいのことはとても深~く反省してます。……ごめんなさい……」
視線を自分の太ももに向けながら言葉にすると、頭が冷静になってきた。
エールの家が家事になって全焼してしまったら、すごくやばい。しかもそれは、居候させてもらっている夏希のせいなのだから、裁判にかけたら即負けて家庭裁判所行きだろう。
お世話になっている人の家を無くしてしまうなんて、感謝の気持ちがなさすぎる。
エールは一人で困っていた夏希に手を差し伸べてくれたのだ。
だから、エールの役に立ちたいと思ってやったことなのだが、それがかえってダメになってしまった。
(それは、少し……結構、悲しかった)
大人っぽいネグリジェに身を包んだ黒髪の彼女が、恥ずかしそうにそっぽを向く。
揃えられた真っ直ぐな髪が勢いよく、左に動いた。
そして白い頬が赤く染まって、恥ずかしそうに膝の上で指をもじもじと絡める。
「もう……もう二度とするなよ! そ、それに……夏希は私と、一緒……に居てくれれば、その、いい、し……な」
恥ずかしそうに言い終わると、すぐにハッとして口を手で塞いで言う。
「い、今の言葉……聞いてたか!?」
残念ながら――――夏希は焦げ茶のショートへアを揺らして頷く。
「――――――――ッ!」
エールは言葉にならない声をあげ、赤い顔が更に真っ赤になった。まるでりんごのようだ。
見ててかなり面白い。そういう真面目っぽい人ほど、可愛い一面があるものだ。
そんなレアなエールを見て、夏希はクスッと柔らかく笑った。
「いいよ、嬉しい。両親いないし、アフティって言ってもやっぱ実質一人だし……寂しいもんね」
「一人じゃないぞ」
「え?」
思わずエールを見ると、いつの間にか口は塞がれていなく、あんなに真っ赤だった頬は薄いピンクでしかなかった。
(一人じゃ、ない? ということは、エールは誰かと住んでいるの?)
そう思った時――――――――
ガチャッ
いつか聞いた、あのロックを外す音が聞こえた。
エールが「お」と言ってソファを立ち、玄関へ向かう。
夏希の為に開けてくれたリビングのドアを抜けると、玄関に茶色いくせっ毛の少年が立っていた。
冷めた冷たい、湖の水のようなアクアマリンの瞳。エールよりも年下の雰囲気を持つが、背的に中学生くらいだと思う。
着ているのは紺のパーカーにスポーツウェア。黒い生地で、横にオレンジ色のラインがあり会社のマークがついている。
肩から下げた大きなバックは重そうだ。
「……ただいま、エール姉」
あまり感情のこもらない言葉を発し、重そうなバックを玄関に置く。
そんな少年に、エールは優しく笑いかけた。
「――――――おかえり、ハイト」
更新が遅くなった割には少なくてすいません……。
ですが、ここがキリのいいところなので。
次回も……少なくなってしまうかも。
ですがですが、エールの過去、ハイトの秘密について触れるところですので、かなり大事な部分ですよ!
楽しみにして頂ければ幸いです。
感想待ってます。