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眩しい、煌めく光から声がする。
『ねぇ、どうして? 何でここに居るの?』
――――どうしてって、何? いちゃ、いけないの?
『――――――――うん』
肯定したその声は、ゾワッとするほど冷たかった。
***
まぶたをゆっくり開く。思っていたよりも、まぶたは軽かった。
夏希は寝起きで重い頭を支えながら体を起こす。まだ眠気が抜けていないようで、あくびが出た。
夏希が寝かされていたのは、綺麗で艶のある木製のベットだった。新品のようで、新しい木の匂いがした。夏希の体には水色のタオルケットがかけられている。後ろを振り返ると、水色のカバーがかけられた大きな枕がある。その周りに、白い絹の手拭いが二つほど散らかっていた。
驚いたのは、夏希の右下でエールがすぅすぅ寝息を立てていたことだ。詳しく言うと、ベットの空いた右下のスペースに頭と手を乗せ、寝ていた。
(あたしを、看病してくれたんだ)
心がほっこり、温かくなる。
そしてその足元には、袋に入った六本入りのチョコスティックパン、ビニール袋、水の入ったペットボトルがある。
ここで寝てるということは、もしかしてつきっきりで看病をしてくれたりしたのだろうか。
夏希は温もりのあるタオルケットに足を入れたまま、散らかった手拭いを綺麗に畳んだ。なるべく音を立てないよう、ひっそりと。だが、夏希の配慮も虚しく、エールはゆっくりと目を覚ました。
「あ、エール……うるさかった!?」
エールは首を振りながら頭を起こす。
「いや。動く気配がしてな……ふぁあ」
エールもあくびをして、ペットボトルの水を飲んだ。
動く気配がして起きるほど眠りが浅いらしい。
「看病してくれてありがと」
夏希がお礼を言うと、ペットボトルのキャップを閉めていたエールは照れたように斜め下を向いて、「ああ」と答えた。
そして、キュ、としっかり白いキャップを閉めたペットボトルを床に置く。
「体調はどうだ? あの後、熱も出たのだ! それに、階段に落ちそうになったところをアフティが助けてくれた」
「うーん、結構いいかな。熱も出たんだ。アフティにお礼言っとかなきゃな」
一気に言われ、言葉の繋がりがおかしくなったと感じながら、ふーん、と頷く。
あれだけ頭痛と吐き気、身体のだるさがあったのだから、熱が出てもおかしくはない。
「服、着替えさせてやれなくてすまない……」
本当に悪そうに言うエールに、夏希は笑いながら手を振った。
「いやいや、いいっていいって」
むしろ着替えさせなくていい。女同士でもちょっと恥ずかしいからだ。
「今日着る服は取りあえず、私のでいいか?」
「ん、いいよー」
そんな、ユルーい会話を交わす。
エールは、
「ちょっと服を取ってくる。夏希はまだここにいろ」
と言って部屋を出て行った。
そう言えば、ここはどこの部屋なのだろうか。部屋を見回すと、壁紙は清楚なイメージの、薄い白と水色の何かの模様。ふわふわ、もわもわしていて何の模様か全く分からなかった。だが、模様と言っても柄物ではない。ザ・シンプルアンド清楚だ。
家具は夏希の使っているベット以外、何も無かった。
もしかして、ここは空き部屋だったのだろうか。外から見ても、あの大きな家だ。空き部屋なんか沢山ありそうな気がする。空き部屋にしては綺麗な部屋だが、もうこの事については考えなかった。
ぐぅぅぅぅぅ
お腹が空いたからだ。昨夜は何も食べていない。お腹が空くのは当たり前だった。
そんな時に目についた、六本入りチョコスティックパン。夏希はしばらく袋をじっと見つめ、不精してベットから足を出さずに袋を取った。
チョコスティックパンは四本入っていた。きっと、エールが夏希の看病をしながら食べていたのだろう。そのうちの一本をぱくっ、と口に入れて食べる。一袋100円くらいのスティックパンだったような気がするが、なかなか美味しかった。
もう一本、と手を伸ばした時に、エールが扉を大きく開いて入ってきた。
開けた袋に手を突っ込んだ夏希を見た途端、エールはビックリするほど素早く、夏希からチョコスティックパンを奪い取った。
「ダメだっ、夏希っ! 勝手に食べるなっっ!」
どうしてこんなにも必死なのだろうか。好物なのか。でも、勝手に食べてしまった夏希も悪いと思い、素直に謝った。
「勝手に食べてごめーん……お腹減っちゃってさ」
エールはそんな夏希に仕方が無いと言った様子で、溜息をついた。
「さっき、ついでにアフティに朝食の用意を頼んで来た。――――パンでいいか?」
「うん、全然いいよ」
何でもいいから食べたいくらい、お腹が空いていた。昨日までのあの、食欲の無さはどこへやら、というくらいだ。
元気になるとこの状況が良く分かってくる。だけど、それにも関わらず夏希はお泊り感覚で今を楽しんでいた。
「今日はひとまずこれを着てもらって、後で夏希の好きな服を買うぞ」
「やった、ショッピングかー! 楽しみだな~!」
エールに渡されたのは、黒と白のボーダーのTシャツとモスグリーンのチノパン、革のベルト。そして綺麗な新品じみた白い下着、白い靴下。
恥ずかしいのでエールに退室を願い、ふふふん、と鼻歌を歌いながら手早く着替えを終わらせた。
「お腹、減ったなぁ……」
もうエネルギーが残り少ない。その残り少ないエネルギーを使い、昨日言われたエールの部屋をノックする。
「ちょっと待て」と声がした数秒後部屋のドアが開き、危うくドアに顔をぶつけそうになった。
エールは、短めの赤×緑のロングチェックシャツを開け、中の白いTシャツが冴えて見える。下にはデニムのショートパンツを履いていて、以外に結構オシャレでビックリしてしまった。
「……ど、どうだ?」
エールが不安そうに、尋ねてきた。
見せる相手を間違っているのでないか。女子に見せてどうするんだ、女子に見せて。
「エール、結構オシャレ……」
ぽつり、と呟いた夏希の言葉に、エールは唇を尖らせた。
「何だ、結構って。失礼だろう」
「ふふっ。まぁーいいや、朝ご飯食べたいよー」
「私は朝食よりも下なのだな……」
夏希とエールが出会って、まだ二十四時間も経っていない。だが、昔からの友達のように仲良く、階段を降りていった。
※最初の部分、夏希の夢です。
すいません……。
前回、『次話で疑問に思った事を夏希が質問するよ!』みたいなことを言っていたくせに、次話に持ち越しになってしまいました。
これは必ずですのでご安心を!
でももう一回破られてるので安心なんか出来ませんよね(笑)