表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

6

 その日の夜。日中はというと、エールは部屋に行ったりリビングに来たりで、ハイトはずっと部屋にこもりっぱなし。夏希は、リビングでずっとゴロゴロしてた。


 アフティのほっぺが落ちるほど美味しい夕食を食べ、エールが用意してくれた『夏希の部屋』であくびをしていると。


 コンコン


 誰かがこの部屋のドアを叩いたようだ。

 

「ん~?」


 寝転んでいた新しい匂いのするベッドからゆっくりと立ち上がり、ドアを開ける。

 そこには、どこかの学校の制服やら鞄やら書類やらを持って立つ、エールの姿があった。

 (何か、嫌な予感がする……)


「ふぅ、重いな」


 エールはドアを開けるなりドカドカ部屋に入り、四角いテーブルにそれらを置いた。このテーブルは昨日、新しく購入してもらったものだ。


 エールが座った正面に、自分も座る。目の前にある資料などを見ると、やっばり学校のことばかりかいてある。テーブルの横には、可愛い制服と鞄が置いてあった。

 夏希はハンガー付きの制服を手に持って尋ねた。

 

「エールの行ってる学校の制服?」


 じっとこちらを見ていたエールは首を振ると、驚くべき話を口にした。


 

「私は、学校に行っていないぞ」


 

「えっ……。ふ、不登校とか何か? いじめられたりしてる? 友達ちゃんといる?」


「お前は母親か! 不登校ではない!」


 ふん、と不機嫌そうな顔なるエール。

 (え、じゃあ何なんだろう)


 エールはふう、と溜息をつき、にやりと笑った。


「私はすでに、ハーバード大学を卒業している」


 ――――――――――。

 世界の時間が止まったような気がした。


「え、ハーバード大学って世界で一番頭のいい大学、じゃなかったっけ……! し……しかも、この年で、だい、大学……!?」


 思ったことをすぐ口に出してしまう。エールはこの反応に大変満足されたらしい。


「日本は飛び級ができるではないか。私は、それで……な」


 いつの間にか飛び級ができるようになっていたらしい。夏希の頭はかなりの時代遅れだ。


「すごいね……。あたし、誇りだよ! エールの友達っていうの!」


 へへっ、と満面の笑みで言うと、エールも柔らかい微笑みをこぼした。彼女が笑うと、自分までもが嬉しくなって、温かい気持ちになれる。人を喜ばすことの喜びを実感するのだ。


 さっきまでの穏やかな笑みはどこへやら。「では、話を戻すぞ」と言い、先程の話を続ける。


「あのだな、夏希は学校に行ったほうがいいと思うし、私はお前の為を思って言っているのだ。決して、自分自身のためではないぞ」


「はいはい……」


 夏希、苦笑。だが、エールはそんな態度にも気が付かないようで、ご機嫌に説明をしている。


「私としてはエスポワール学園に入りたいのだが……この資料を見て、夏希はどうだ? あと、もう大体の話は済んでいる」


 はい、と学校のパンフレットを手渡される。

 (どんだけ入る気満々なんだよー、エール)

 おかしくて、薄く微笑みながらパンフレットを眺めた。


 どうやら、頭のいい小中高大一貫校なのに校則は緩いらしい。その代わり、全てエスカレーター式なのでかなりの費用がかかる。そして――――――。


「ここってEFM通学できるんだ!」


 できるんだって……! と期待を込めた視線をエールに送る。が、すぐに自分の立場を自覚してパンフレットに目を落とす。


 EFMっていうのは“electricity float motokycle”の略称。一昨日、夏希はこの家に来るときに近未来的な風景を見た。そのときに滑るように動いていたのが、EFM。昨日エールのEFMを間近で見たのだが、びっくりしてしまった。そして、それはまたのお話。


 なんとバイクの形をしているのだけれども、タイヤがなくて何か平べったい。上の方は自転車に似ている。燃料は自然に優しい電気。充電式だ。

 操縦する際に使うボタンや、落ちないようにするシートベルトのようなものも付いている。後ろは椅子や荷物入れがあり、見た目は小さいのになかなか入るスグレモノ。

 そして、何よりの驚きポイントが、これ。滑るように動くバイクは、実は一センチほど浮いていたのだ。あまり浮かせることができないということもあるらしいが、一センチでも十分なので安全のため、ということになっているらしい。


 ……という超ハイテクなバイクなのだ。

 科学って、すごい……。そう思わずにはいられない夏希はいつの時代の人なのだろうか。

 (はっ! もしかしたら浦島太郎みたいな……!?)

 まぁ、多分、そんなことはないと思う。ただの、重症な記憶喪失だ。


 話を戻そう。

 と、その文の下に、小さな字で何やら書いてあるのを発見。

 

 『一日¥250です』


 (……金とるんかい!)

 突っ込まずにはいられない夏希だった。

 金とる学校って……。理事長さん、エールと同じような臭がする。

 

 でも、見てみるとなかなかいい学校だ。ただし、たくさんのお金がかかるというのと頭が良いというのを除けば。


 見ていたパンフレットをテーブルの上に戻し、夏希は鼻歌を歌いながらパンフレットを見つめるエールに尋ねた。


「ねぇ、お金って大丈夫なの? 二人分って結構きついんじゃない?」


「大丈夫だ。心配するな」


 薄いパンフレットを、心から嬉しそうな緩んだ顔で見つめるエールには、いつものケチは消え去ったようだ。夏希はいつまでもこのままだったらいいのになぁ、と苦笑した。

 



学校に行くことになります!?

ここから続々とエールについてが暴かれる……かも!


60pt,お気に入り6件とありがとうございます。

pv約1500、ユニーク約900です。

まだまだ終わりではありませんが、読んで下さっている皆様に感謝です!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ