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第三話『Prologue Battle』

用語


軽軍神又はライトマルス


重軍神より遅れて開発された小規模戦闘用機動兵器でまだ決まった形式が存在しない機体。カテゴリー上は機械化歩兵とも呼ばれている。

魔力による圧倒的な出力で歩兵能力を最大限にする為に開発され、各国のドクトリンにより人間の搭乗を前提としている部分がある。

発揮出力、耐久力共に生身の比ではなく、小口径の小銃では基本的に有効打を与える事は出来ない為、基本的に軽軍神の相手は軽軍神や戦車や装甲車が務める。

(但し、軽軍神は元々対戦車などを考慮して設計された兵器である為、戦車や装甲車で挑むのは少々リスクがあり、同様の機動ができる軽軍神が務める事が多い)

着装型、外骨格型が存在し、大企業の他に中小企業も開発を進めている開発競争の最も激しい機体。武装も専用品と人間用の二種類があり、

現在、国際規定により加盟国で使用される対軽軍神用弾薬の口径は12.7mmと14.5mmに統一されており、戦闘における高効率化を計っている。


重軍神


「HMY-Typeα セファー(セファーアーギュメント)」


紫電・零式の設計・運用データを基にマルチチューブラーフレームを導入し、堅牢さを増して設計された中島技研開発の実戦データ収集用次世代型技術試験機。

機体剛性向上目的で内部骨格に投入されたマルチチューブラーフレームが運動性能にどう影響するかを試験する為、運動性能が重要視される近接戦闘を

目的に機体が開発された。その為、機動力が高く設計されていたが譲渡時には既に旧式化していた為、機体の一部に性能向上を目的とした新型パーツを組み込む等の

改造を施し、全体の性能を引き上げると同時に全距離対応型の追加武装アーギュメントを武装として追加し試験的に搭載されていた「バーストモード」

(エネルギー変換率を高変換率に変更して機体出力を二倍にするモード)に対応できる様に構成部品の耐久力を向上させる等の近代化を施している。

それに加えて緊急の内蔵近接汎用装備として「アームフォースモード」を搭載しており、強力な徒手戦闘が可能だが機体耐久限界として40秒間のみの使用が限界。

独自の専用武器として対重軍神用高周波破断長刀・砕牙を装備、癖のある武器故スムーズな使用を可能とする専用プログラムが開発、組み込まれている。


「HMY-Typeβブリエント」


中島技研開発データ収集用試作機。同社から製造されている狙撃用装備の試作機で試験的にマルチチューブラーフレームを導入している。機体色は濃い青。

元は狙撃及び偵察観測用カメラの試験機であった為、機体に使用されている試験用パーツの殆どを戦闘用の新型パーツに交換。けん制から精密射撃までの

あらゆる射撃戦闘を行えるのが特徴。精密射撃時は自動的に狙撃用HUDが装着され、それに伴いカメラセンサーはズームモードになり操縦者の操作で

精密な射撃を行なえる。センサーを全身に装備しているので索敵範囲は広く偵察や監視任務にも対応している。代償としてスラスターの積載スペースが

減少しており、他の機体よりも機動力に劣っている(但し、足を止めての射撃戦闘がメインである為、然程気にされていなかった)。

また、設計段階から水中戦も考慮されており装甲の閉鎖性と耐水圧性能が従来の軍神に比べて非常に高く、水中からの砲撃で不意打ちなどもできる。

使用火器はスナイパーライフル、その他射撃武装多数



「HMY-Typeγラピディティ・レイダー」 実戦投入試作機


全身のブースターを使った超高速一撃離脱戦法を得意とする可変式高速型重軍神。補助動力に試作型の魔力粒子発生装置を搭載している

(当時の中島技研内で粒子ビーム発生機の実証機を製造する必要があった事、飛翔負荷軽減の為に弾薬積載量も削る程の軽量化を必要としていた事から

全ての火器が質量の軽い粒子ビーム兵器で統一されていた為)。極限までの軽量化の為、プラスチック製カウルから変更された強化CFRP製の装甲色は

高速航空戦闘試験機である事を示す、電磁塗装を四重に重ねた透明度の高いシアンカラーを施しており、静止状態ではかなり目立つ。

主兵装はマルチプルランス、ビームシールド。しかし、固定武装に関してはセファーと同じ「アームフォースモード」が緊急用として

搭載されているのも特徴の一つ。特殊兵器「ラピディティブースター(高圧圧縮した粒子を一斉解放する事で推力を得る試作型スラスター)」を搭載している。

欠点としては戦闘機動時の負担が凄まじい為、フレームの劣化が早く進行し、即応性が維持されにくい欠点を持つ。



「HMY-Typeγムーンライト・セレナーデ」


中島技研開発の高性能試験機。雷電のプロトタイプ機として量産化を想定したハイパフォーマンス機として開発され、極力既存のパーツを使用して

製造される様に設計されている。マルチチューブラーフレームの導入により堅牢さを得つつも非常に整備性も高く、簡単なパーツ交換で性能を変えられる。

前述の通り、飛躍的な整備性の向上によって機体のマルチロール化に成功。多種多様な任務に対応できる高い性能は後継機である雷電に引き継がれている。

性能、外見面では紫電・零式のデータが用いられており腕部サーベルカバーと胸部アーマー、スラスター周辺のデザインが紫電に類似している。

そして、小型魔力炉を使用していた出力系は大幅に変更されており、稼働時間に有限性が有りながらも量産性に優れる魔力倉式に供給系が変更された為、

メーンエンジンやスラスターは出力を抑え、継戦能力を維持している。結果、総合的に製造コストは抑えられたものの最新技術を惜しみなく投入された為に

紫電と遜色無い程、基本性能は高い。機体色は水色。



HMF-Type-26L 光輝みつき新日本地方量産型重軍神


NAKAJIMA製量産型重軍神。量産実現可能なコストまで落とせる様に材質も含めて初期段階から設計されており、現在最も共通量産化に近い機体と呼ばれているが

性能は低い為、まだ周辺地方の配備試験機の性能が高い現在は学生用に生産、販売している。しかし、大規模戦争に突入した事、デルタの開発によって

その価値を無くす。しかし、その耐久性能に目をつけて本土防衛用及び拠点防衛用の機体としての運用がなされている。他地方軍隊からの愛称は『キリク』

多くの技術者や研究員の職人魂級のこだわりにより装甲耐久性能は断トツで軍神内でトップクラスな上に機動力も良いと言うのだから驚きである。

(ラインメタル口径120mm後装式滑腔砲の砲撃6発をギリギリで耐えきれる。操縦者は知らん)

バリエーションカラーは全七種類あり、新関東高校配備後のカラーは紺色でマスクデザインも若干目つきを鋭くしている。


軽軍神


学院連合『激流・一型』


元は中島技研が新日本国内での販売コンペ用に開発したパワードアーマー型の軽軍神『激流』で現在は新関東高校に所属。

開発初期の物である為、近接戦のみを想定して開発されており照準機と言った光学機器の類を一切搭載していなかった。

後に『激流』系列の量産機『静流』と共に新関東高校に納品される。が、ルール上扱いが厳しい軽軍神の使用機会は少なく、

暇を持て余した軽軍神担当の整備班が無改造だった『激流』を次々に改造していき、必要最低限の光学機器のみを搭載して

近接格闘専用のカスタマイズを施し、分割使用対応に変更させた結果、『激流』はルールを越えられる化け物と化した。

名前の後ろに位置する一型と言うのは新関東高校所属のカスタム機の大掛かりな改修回数を現している。


中島技研『静流』


中島技研開発のパワードアーマー型軽軍神で激流の後継機。

『激流』で主眼となっていた近接戦に対応しており、市街地戦と建物内でのクロースクオーターコンバットを想定した仕様。

建物内での不利を防ぐ為、身長はなるべく抑えられており他の機体に比べて装着後の身長変化が少ない。

新関東高校では運用機会に恵まれない為に然程目立った事はしていない様に見えるが整備班の暇潰しのお蔭で

とんでも性能を持っている機体も存在する。


三田重工『零』


軽軍神産業に参入した電子部品の大手企業である三田重工が開発した飛行外骨格型軽軍神。

第一弾として技術が確立していない為か扱いやすい汎用型として開発されており、扱いやすさに置いて高い評価を得ている。

同時に扱いやすさに長け過ぎている為に機体強度が熟練パイロットの無茶に耐えられず、またモーターの出力もしょぼい。

その為、殆どの場合訓練用にしか使用されていない。数年後に上位機が発売された。

 新中部地方第三模擬市街地戦場。緒戦を迎える為にやって来た流星は新関東高校の本部にて乱れていた意識を集中させていた。


 左腰のハードポイントに携えた剣舞の鞘の対岸、右腰にはG18cを納めたホルスターが下げられており、流星の両手にはP90が握られている。


 その隣、M4カービンを構えた和輝が視線を向けてきた琴音に笑みを返していた。


『時間です。それでは新中部高校対新関東高校の交渉戦闘を開始します』


 フィールド内を囲む様に響いた女声のアナウンスに、遠巻きにこれから始まる戦いを見守る者も、始まる戦いに胸踊らせ、得物を握る手を強める者も一様に勝利を目指す。


『交渉は新日本の学院代表権の移譲。勝利条件は敵本部の制圧』


 やはり、と流星は呟く。あのトラップに引っかかったのがどうも気に食わなかったらしい。


 今度は本気で相手にしろ、と言う事だろう。良いだろう、と流星はほくそ笑む。


『それでは戦闘開始』


 お互いに顔を見合った和輝と大輝と共唯一の入り口から少し出ると流星は小数の生徒を背後に本部前に固まっている生徒達に指示を通す為に叫んだ。


「Aチーム、Bチームは分かれて各ポイントごとを攻撃。Cチームは本部前を防衛!!」


 了解、と大きな叫びが轟いた。じゃあ、と流星は身を翻し、和輝達と共に狭い路地へと走り出す。


「Aチーム、私とヒィロに付いてこい!!」


「Bチーム、私とエクスシアに付いてきて!!」


 叫んだ千夏と琴音に応え、走り出した生徒達がそれぞれ分かれて走り出す。


 それを見送りながら星良は屋根伝いに走ってきた敵の先方に表情を歪める。


「砲狙撃隊、構え。防衛部隊、防盾を展開しつつ余剰要員は私と共に接近してきた敵を叩くわよ」


 星良が振り上げた手を下ろした刹那、眩いまでの光と炸薬の爆ぜる乾いた音、空気が膨張し、唸り上げる断末魔が無数に跳ね散り、光を引いて走る点が壁を成す。


 二つの家屋の屋根から跳び上がった先陣隊が点に触れて跳ね散らされ、悲鳴を上げる。


 吹き飛び、落下していく人々の中に一本の瞬く槍を携えた長身の少女を笑う様に口端を吊り上げた星良は自身の術式武装『灼絶』の柄を握り締めて銃撃を止めさせた。


「降りてきなさい。私とあなた、どちらが強いか一騎討ちでハッキリさせましょう」


 長身の少女は頷き、槍を手に屋根から降りると囲む人々の中央に二人が相対する。


「生徒会副会長、松川星良。あなたも名乗りなさい」


「副生徒会会長、新田貞代」


 笑みを崩さない星良に淡々と呟いた貞代は槍を一度回して構えると刀を引き抜いた星良に突き出し、高速で突き込まれた穂先を刀の刃でいなした星良はそのスピードに意味が分からない、と笑いを込み上げさせた。


 槍を回し、風切り音を鳴らした穂先を下に向けた貞代は無表情を浮かべたまま、星良を見据える。


「理解は不能?」


「ええ、察しが良いのね、あなた。褒めてあげるわ。でも分からなくてもそれを何とかするのが

松川流星より優れた妹ってものよ」


 目を見開いた貞代に向けて纏わせた炎をぶち撒きながら長髪の先端を焼く炎を潜って抜けてきた彼女に貞代は腹を蹴り飛ばされ、怯んだのも一瞬、そのまま宙へと打ち上げられた。


 吐血しながらも空中で体勢を整えた貞代は虚空を蹴る。空中とて何も無い訳では無い。光弾が抉った塵が今、貞代の足場になっていた。


 空間を引き裂かんばかりの高速に貞代の周囲にある大気が震え、押し退けられた後方に真空が出来る。


「くっ・・・!!」


 炎を内包していた灼絶が己が刀身の代わりに質量を持たせた炎を刃として穂先と打ち合わせ、火の粉を散らしながら受け切れなかった衝撃が星良の体を弾き飛ばす。


 擦れて金属を仕込んだ靴底から火花が散り、灼熱する靴底に膝を突いた星良は立ち上がり、炎のとぐろを巻かせる灼絶を構えなおすと地面に向けて切っ先を向けた灼絶で自身の体を押し出した。


 不敵に笑う彼女の背後にいた生徒達が巻き上がった炎に驚きの声を上げながら逃げていく。


「独学流居合い、ロケットダッシュ斬りッ!!」


 渦を巻いた炎が足を浮かせた彼女を弾き飛ばし、炎の噴射を打ち切った彼女は煌く一閃を引き抜いて柄を縦に構えた貞代に叩き付けた。


 柄尻の小さな爪で錨の様に自身を固定して踏ん張り、勢いを止めると爪を地面から引き抜いて正面を向くと同時距離を詰めていた星良の一撃を受けて後方に吹き飛ぶ。


 先に比べて踏み込みの甘い一撃だったが怯ませるには十分な威力を持ったそれに仰け反った貞代は畳み掛けてくるその動きをまるで止まっている様に捉えて回避の動きで体を動かした。


 まるで止まっている障害物を避ける様に有り得ない軽やかさで避けられ、空を切った一撃に星良は目を見開く。


 畳み掛けが一切通用しない。馬鹿な、と呟いたのは星良では無く、本部のテラスで観察していた浩二だった。


「まさか、あれは神道武装か?!」


「神道武装・・・? 何の事?」


「槍や。あの女が持っとる槍、あれが神道武装なんや。その名は究極神槍『日本号』」


 浩二は戸惑う奈々美に説明する様に言葉を続けた。


「日本に三つある天下三名槍、その中の一つが日本号や。その効果は保有している者の能力の極みを引き出す。極みって言うのは能力を強くするんや無くて扱える能力のキャパシティを最大まで上げるんや。せやから動体視力を限界まで上げれば相手の動きは停止に近い程の速度で見える訳や」


 苦虫を噛み潰した様な苦悶の表情を浮かべる浩二の視線の先、飛び上がった星良と貞代の剣戟の光と共に星良が停滞を破る言葉を放つ。


「全部隊、一斉攻撃!!!」


 星良の号令に慌てた周囲がそれぞれの動きを取り始める。


 縦列で縦を構えて構成した防御陣の隙間からの射撃に怯んだ攻撃隊だが反撃の爆破物投擲に人員が吹っ飛び、彼らが構成していた防御陣が崩れるもそこを狙ってきた攻撃部隊を生徒がタックル等の体術を用いたり、術式武装を使って食い止める。


「ひぁっ」


 防御陣を形成していた一人の女子生徒が萎縮し、跳ね飛ばされた。


「早くしろ!! 防御構成が崩れたらこっちだって!!」


 小太刀で攻撃を裁き、敵攻撃部隊の生徒を後続に向けて蹴り飛ばした長身の男子生徒は倒れていた女子生徒に叫ぶとナイフを構え、正面から突撃して来ていた男子生徒の攻撃を流し、盾を構えた女子生徒の方に流すと襟首を引っ張って後方に投げ飛ばした。


 怯えながら立ち上がった女子生徒は彼女の背後に立つ友人らしいスナイパーの女子生徒に丸い尻を叩かれ、小さく悲鳴を上げてその場で跳ね上がった。


 そして小柄ながらも整った体つきの内、大きく育った胸が揺れ、彼女の正面にいた長身の男子生徒が頬を染める。


『何やってんだ!! お前、そこ代われ!!』


 その場で防御に勤しんでいた男子生徒達が声を揃えて彼に叫ぶ。


 うるせえな、と長身の男子生徒は言いながら立ち上がった彼女の手を引いた。


「良いから、此処を守ってろよ。俺が手伝うからさ」


 気恥ずかしそうに言った男子生徒を見上げ、目尻に浮かんだ涙を拭った女子生徒は満面の笑みを浮かべて頷いた。


『爆ぜろ貴様!!!』


 再び叫んだ男子生徒達に女子生徒達は一様に苦笑を浮かべていた。


「俺達だって良い所見せて女子ゲットだ!!」


 綻びた防御陣から飛び出し、気合を込めて拳を叩きつけようとした男子は背後から撃たれ、つんのめって地面に叩きつけられる。


 その一部始終を見ていた周囲から心配される彼は咳き込みながら起き上がり、背後にいた有翼族の女子生徒に食って掛かった。


「何すんだ、痛いだろ!!」


「あー、御免御免。ムカついたから引き金引いちゃった。頭じゃないから大丈夫」


「そう言う問題じゃねえよ!! 味方撃つか普通!?」


 基本的に新関東高校ってこう言うノリなんだな。と呟いた新中部高校の面々は引き気味に言うと気を取り直してそれぞれ武器を構え直し、お互いに顔を見合わせて突撃した。


 拳を握りながら有翼族の女子に詰め寄っていた男子生徒は斬り掛かって来たフル装備の男子生徒の腹部を蹴り飛ばすと口から唾液を吐き出すフル装備の男子生徒を下ろすと同時身を屈めた彼は背後で超級のキチガイ銃器『MBカノン』を構えた女子生徒が慌てる周囲を気にせずトリガーを引き絞った。


「ちょ、ちょっと待てええええええええええええええええ!!!」


 制止する声を無視した有翼族の女子生徒が高笑いと共に放った魔力の塊が建物を抉る。


「ふー爽快爽快。やっぱチマチマ狙うスナイパーはこうでもしないとやってられないわ」


「お・ま・え、よぉおおおお・・・・」


 全身の装備をビームで剥がされた男子生徒が丸裸で立ち上がる。


「あんな攻撃するんじゃねえ!! 味方にでも当たったらどうするんだ!!」


「あ、あんた・・・・」


 男子生徒の股間を指差した有翼族の女子生徒が悲鳴を上げる所か可笑しそうに笑い始める。


「あっはははははは!! あんた、マグナムちっちゃいのね! 具体的に言ったらチン○コが」


「隠れてねえし!! つか女子がそう言う事言って良いのかよ!!」


「大丈夫よ、覗きは女子がするものだから」


「何やってんだお前は!!!」


 裸の男と涎が出ている女の滑稽なやり取りに溜め息をついた周囲は真面目に防御を始めた。


 下ネタ炸裂の会話をBGMに戦う彼らの上空、可笑しそうに笑う星良は得物を一回転させた貞代の超高速の突き込みを弾くと空中で身を回し、灼絶を手に着地すると微笑を浮かべた。


「・・・何?」


「ふふふ、どうやら貴方には私が笑っている意味分からない様ね」


「うん、分からない。どうして?」


「とっても素直な子は私大好きだけど、残念ねぇ答える前に倒しちゃうから」


「必倒?」


 胡乱気に見てくる少女に向けて微笑みつつ、灼絶を構えた星良は笑い声を一つ漏らすと言葉を続けた。


「そうね、イイ線いってるわ。そうよね? 守銭奴ドブギツネ」


『喧しゃあ!! そうやな、究極は極みにいたる事は出来ても必ず、絶対にはなれへん』


「そう言う事。分かった? でも手遅れよ。絶対は全てを焼き尽くすんだから」


 口端を吊り上げ、さも嬉しそうに笑う星良の目前。灼絶の焔の色に澄んだ翡翠色の光が混じり、

余分な物を払う様に光を散らした。


 余分を落とした光と炎が混ざりあい、押し退けられる様に放出された赤の爆炎に彩られた翡翠色の炎が

鈍色に翠緑色を混ぜた刀身にまとわりつき、柄を握る星良にその感触を伝えた。


「ふふふ、口を開けて理解出来て無さそうな顔ね。良いわこの優しい私が教えてあげる。この翡翠色の光は守銭奴が使ってる大魔術式なのよ。あらゆる対象に強化付加をもたらす物。

金銭取引で発動させる術式だから結構大変らしいのよね」


『人の術式効果バラすなアホ!! さっさと倒さんか!!』


「ふふ、その提案には乗るけど良いの守銭奴、下でラブやってる連中、モチベーション下げるけど」


『構わへん、さっさと終わらせぇや』


「了解、後で皆に謝罪ね」


 一息ついた星良は無表情のまま黙々と彼女を見つめる貞代に微笑を浮かべ、翡翠色の炎を巻く灼絶を肩から自身の正面に持ってきて上段に構えた。


 突きの体勢に槍を構える貞代はどこか嬉しそうな星良に向けて走り出すと横薙ぎに穂先を振った。


「な・・・」


「何を今更驚いてるのよ。さっき言ったでしょ? 究極は絶対を超えられない」


「今のが絶対?」


 不敵に笑みながら星良は軽いステップを踏んで貞代の方を見た。


「一つ目。絶対、当たらない」


 言われて貞代は自身の穂先を見下ろし、立ち上る翡翠色の光に目を見開いた。


「術式一回分が大体五百円、あなたには三回掛けしてるから千五百円位ね。

守銭奴、自分の金で払いなさいよ」


『何でや!! 生徒会経費や!』


「ふふ、寝言は死んでから言いなさい。それで、足りない頭の整理はついたのかしら」


 光を払う様に二回地面を突いた穂先を上げ、星良を見据えた貞代は首を縦に振る。


 笑みを浮かべる余裕を持ってきた星良に向けて走り出した貞代は高速で穂先を突き込み、弾く様に叩きつけられたそれを回して星良の頬に石突きの爪を掠めさせると彼女の懐から一気に離脱する。


 身を捻りながら後方へ飛んだ星良の頬から赤々とした血が少し流れ、滴となって飛んでいく。


 だが、それはこちらの攻撃が当たっている証拠だ。ならば行ける、と貞代は勝利を確信して槍を構えた。


 横薙ぎに槍を振った貞代は共振音と共に火花を散らす日本号を引き戻しながら反対方向への一撃を叩き込もうとした瞬間、自身の視界が吹き飛んでいるのに気付いた。


「・・・何?!」


 地面に突き立てた刀の柄を中心に頬を蹴られた、そう理解していても顎を蹴られ、揺れている脳内が行動を鈍らせ、続け様に打ち付けられた足によろけた貞代は抜けた刀の一閃を回避し、仮想家屋の屋根瓦を叩き割らんばかりのバックステップで距離を取り、柄尻の爪で地面を捉えて制動を掛けると流れる様な動きで抜き打たれた横薙ぎを弾く。


 盛り上がりを見せる足元の戦闘を他所に高所での二人の戦闘は激しい火花を散らしながらの近接戦闘。


 刀身から放出された翡翠色の火球が無数に分裂して貞代に殺到する。


「くっ・・・」


 一つ一つを捌く事は容易くても無数となったそれらを連続して払った彼女は不足し始めた手数に表情を歪め、続く星良の連続した剣戟を穂先で受け止める。


 一つ一つを高速化させるも星良が刃に付加させた能力、攻撃必中に翻弄され、体に掠めさせた刃が彼女の薄皮を抉っていく。


「必中効果は残り十回。ふふ、どうやって攻撃しようかしら」


「くっ・・・それなら!!」


 灼絶を構える星良の懐に飛び込んだ貞代は腰のバインダーから投擲用のナイフを引き抜く。


 両手で構えようとする星良の灼絶の刃の届かぬ至近距離格闘戦用の装備であるナイフを突き出す貞代は一気に極みまで引き上げた動体視力で視界の端に飛来するライフル弾を捉えていた。


 このままでは直撃コースだ。だから、と貞代は動いた。


 彼女が行なった行動はこうだ。先ず、自身の身を低くしながら捻り、槍を地面に突き立てて方向転換し、灼絶を突きの姿勢で構えていた星良を背後から蹴り飛ばした。


 つんのめり、転倒した星良は貞代に背を向けながらゆっくりと立ち上がり、肩を震わせる。


「ふふ、良い判断ね。お蔭で目が覚めたわ。やっぱり戦うなら徹底的に屈辱を味わわせないとねぇ・・・」


 ゆっくりと身を捩り、ボタンの取れた制服を翻す星良は制服の裾に手を掛け、上着を脱ぎ捨てる。


「絶対付きの私をここまで追い込んだ事、褒めてあげる。でも貴方が一つ失敗した事と言えば、新関東高校強者のこの私を本気にさせたことかしら。

あ、一つ言っておくけど今更謝っても無駄よ無駄」


 微笑む星良から立ち上る膨大な殺気にたじろき、進める為の足を鈍らせた貞代は刹那に振り薙がれた刃に気付いてその場を飛び退いた。


 鉄筋コンクリートを溶かし割る翠緑の焔が貞代の制服を焦がす。


「高出力化・・・?!」


 蒸発したコンクリートから立ち上る白煙が周囲の視界を狭め、何事かと見上げてくる生徒達が使用者に反応して高出力化した灼絶を手に微笑を浮かべる星良に気付いて新関東高校側が慌て始める。


 事情を飲み込めていない新中部高校側が上空に向けて盾を構える彼らに呆けていると爆ぜたコンクリートの雨に悲鳴を上げながら敵側の防盾の中に飛び込んだ。


「な、何だあれは!!」


「うちの副会長だ!! 良いから支えるの手伝えッ」


 戸惑う新中部高校風紀委員の腕章を着けた男子に状況を伝えた新関東高校の男子が盾を高く掲げた隣で炎を纏いながら振ってくるコンクリート片に悲鳴を上げる女子が隙間から上の様子を伺った。


 その上方、コンクリート製のビルから迸り、爆炎で屋根瓦を吹き飛ばす無数の炎が線となって貞代を襲う。


 走る貞代を追う様に屋根上一直線を這う炎線で焼け焦げた木材が繊維を炭化させ、貞代の足場になる筈の隣の家屋を崩壊させて乗る筈だった彼女の体を崩落した材木が包み込む。


「燃えてしまいなさい!!」


 笑う様に言い放った星良の灼絶から解き放たれた炎が貞代を包み込む材木を一瞬で燃やし尽くす。


 だが、次の瞬間、炭化した材木の群れから飛び出してきた火の粉が星良に降り注ぐ。


「ふふ、そうよね。そう簡単には死なないわよね、死なれちゃこっちも楽しみが足りないって物よ」


 風になびく貞代の戦闘系制服であるロングコートの裾を見ながら嬉しそうに呟いた星良は蛇の様に蠢く炎を見下ろすと残存している魔力量をチェックする。


『灼絶:残存魔力:16%』


 絶対を逆手に取られて軽い火傷や掠り傷で済まされている為、残る回数を全て使い切った絶対能力は浩二が追加しない限り使用不可能だ。


 ならば、と小さく頷いた星良は炎を渦巻かせる灼絶を上段に構え直す。


「全力で避けてみなさい!! 炎の舞をッ!!」


 炎から解かれた爆炎は残りの魔力によって宙を駆け巡る鷲となって屋根上に着地した貞代を追っていく。


 刹那、柄を掲げて防いだ彼女に激突した橙の鷲が爆発する。


 爆風に撒かれて宙を舞い、炎を纏った破片が散る中を飛び抜けた貞代は全身に仕込んだ身体強化の術符を起動させる。


『身体強化――フィジカルエンチャント――』


 躍動する魔力が唸りを上げて貞代の体内に術式効果を通していく。


 そして、極みは術式強化をも極めさせ、最大増幅された効果を全てに伝播する。


『カートリッジ再装填確認:術式武装発動可能』


 再装填の確認表示を見下ろした星良は吊り上げていた口元を僅かに下ろすと先よりも激しく螺旋を巻き始めた炎に包まれた灼絶を振り上げ、髪が焼けるのに構わず彼女は穂先を向けてくる貞代を挑発する様に手招きをした。


「・・・く」


 歯噛みしながら跳躍し、大上段に振り上げた日本号を星良に叩きつける。


 赤の刀身から放出された炎が周囲を照らす様に散り、穂先に力を込める貞代は余裕の表情の星良を正面に炎を纏った刀身を無理矢理下ろさせ、術式から外れた炎を刃から巻き起こさせながら彼女は穂先を支点に全力のドロップキックを星良の胸に叩きつける。


 肺の空気を吐き出しながら後ずさる星良はそれでも浮かべた笑みを崩さずにインナーに付いた埃を払う。


 訝しげに見てくる貞代に何とも無い様に笑い返した星良は手にした灼絶を掲げて更なる炎を立ち上らせて貞代に身の余裕を示して見せた。


 苦々しい表情を浮かべる貞代は振り薙がれた炎を突き立てた柄で何とか防ぐと引き抜いて攻め掛かる。


「止めよ。灼絶、最大駆動」


『武装:灼絶:起動:最大駆動』


 光る表示が薄ら紅色の刀身を滑るように走り、片手で保持したそれを彼女は真横に振った。


 火力を上げた炎を纏った刀からその場を囲む様に炎が走る。そして逃げ場を失った貞代を見据えた星良は背後のビルの壁に向けて切っ先を向ける。


 ゆっくりと炎が渦を巻き、徐々に火力を上げていく炎渦が最大を示すまでの間に攻め掛かった貞代は左手に灼絶を預ける星良に攻め掛かり、小太刀を灼絶の鞘の下に下がった鞘から引き抜いた彼女と切り結ぶ。


 質量的に勝っている槍の一撃を劣っていながらも受け止めた小太刀が軋みを上げ、両膝の動きも使ってショックを和らげた星良は蹴り上げられた膝を左頬に受けて仰け反り、背後にて脈打つ炎に背面を焦がす。


 だがそれでも彼女の微笑は消えない。まるで自分が不利である状況を楽しむ様に笑い、加速術式を展開させ、加速によって生まれる自身の体への負荷を消す為の身体強化の踏み込みで初速を得ると同時自身を前方へと弾き飛ばす。


 一直線に突っ込んでくる貞代は笑う。目前の勝利に歓喜する様に。彼女は喜の感情そのままに突きこんだ穂先を星良が手にした小太刀にぶつけた。


 そして彼女は得物に伝わってくる感触に表情を変えた。


「甘いわ、ふふ。私に敵わなかった事実は素直に受け止めなさい」


 彼女は悟る。小太刀は囮だったのだと。弾かれ、宙を舞うそれの向こう、微笑を浮かべる星良は小太刀を手放した右手を爆炎を渦巻かせる灼絶の柄に手を添えさせる。


 刹那、凄まじい炎が爆ぜ、渦巻くそれをビルの外壁に叩き付ける様にして星良は足を離した低空を飛翔する。


 槍を構えた貞代は周囲を囲んでいた炎が消えていく様を視界の隅に見ながら正面の星良を見る。


 秒間0コンマ以下の高速で距離を詰めた星良は一度身体強化の踏み込みを左に叩きつけて軌道を修正する。


 常時噴射に変更している灼絶の刀身から膨大な量が放射され、暴れ狂う灼絶を制御しつつ、星良は噴射の負荷が掛かる身を左に捻り、灼絶の刃を槍の柄に擦り付け、火花と炎を散らすそれを握りながら無理矢理体を貞代の左斜め後ろに持っていくと同時、貞代の体に引っ掛ける様に刀身を叩き付けた。


「噴射方向変更!!」


 星良の叫びと共に貞代の腹に食い込んだ刃が炎に後押し加速させられて貞代の体を遥か後方へと弾き飛ばす。


 全魔力を使い切ったらしい灼絶から黒煙が上がり、強制排莢されたカートリッジが焦げ臭い匂いを周囲に撒き散らす。


「ふふ、これ位かしらね。さて、向こうじゃどうなのかしら」


 黒煙を上げる灼絶の熱を冷ます為に冷却術式を仕込んだ鞘に刃を納め、一人呟いた星良は遠く響く銃声を聞きながら目下で再開された戦闘に微笑みつつ、降下していった。


 一方その頃、制圧目的の縦列隊形からの一斉射撃戦闘を行なっているAチームでは銃声と怒号が飛び交い、二人一組のスナイパーがアサルトライフルによる交互制圧射撃を行ない、物資補給担当からのバックアップも受けつつ徐々に進軍していく。


 その背後では対空射撃用にショットガンを構える対空射撃隊が周囲に銃口を巡らせ、その背後で近接戦闘隊が待機している。


「突破口を開け!! 後続部隊の道を付けろ!!」


 スナイパー隊の隊長格の生徒が叫ぶ中、対空部隊の一人が一対のビルに異変を感じ、前方のバリケード部隊に撃ちながら進軍する先行部隊を制止する。


 刹那、双のビルが崩落し、悲鳴と共にスナイパー隊が瓦礫に飲まれる。


「畜生!! 隊長、どうします!?」


「く、仕方ない。ビルの中を抜ける!! 殆どはオーバーダメージ判定で本部に強制転送されている筈だ。私達は残っている者を発見し、保護する!!

Aチーム、行くぞ!!」


 隊列を崩し、順々に走り出したAチームは千夏とヒィロを先頭に先の爆発で崩れたビルに突入する。


「くれぐれもビルを崩すなよ。後が面倒だからな」


 千夏達に先駆けてショットガンを手にビルに入った臨時捜索一番隊が地面に突き刺さった大きな破片の上を滑り降り、姿勢を低くしながら周囲の様子を窺う。


 足音も会話も聞こえない。見回してみても気配は無く、セミオートショットガンを手にゆっくりと歩みを進める。


 先ず彼等が行なうのは人員の発見と回収。その次に行なうのは敵との戦闘。


「先輩、大丈夫なんですか? 崩れ掛けのビルに入るなんて。俺生きた心地しないっすよ」


「黙ってろ、敵に位置がバレる」


 はいはい、と軽い返事をした着崩れた感じの一年生は気を緩めて周囲を見渡した、瞬間。


 一年生の左肩に焼ける様な痛みが走り、激痛に叫びを上げた彼はパニックを起こして銃を乱射する。


「クソ、馬鹿ッ!! 落ち着け、ビル崩す気か!!」


 刹那、銃声に震わされた中型の破片が彼の頭上目がけて落下する。


「うわぁあああああああ!!」


 絶叫が響き渡り、咄嗟に彼から投げられたオートマチックショットガンを受け取った二年生は腰溜めに構えて射撃した。


 刹那、乾いた跳音が反響する。炸裂するショットガンから放たれた散弾の弾雨を防ぎ切った鉄壁は表面に立ち上らせた黒煙を流しつつ、それを保持する鋼鉄の腕を残る二人の生徒に露見させた。


「け、軽軍神・・・!?」


 戸惑い、後退り、壁に隠れる為に走った隊長格の男子生徒は弾を切らし、それでも保持していたショットガンの一つを落とす。


 銃口から硝煙を上らせるそれを足下にショットガンの薬室に爆砕系術式榴弾の実包を込めて壁越しに様子を窺いながら素早くリロード作業を終えた男子生徒達は別動員、小隊隊列を組んでいる隊員とで警戒体勢を取っている飛行外骨格である軽軍神に視線をやり、背後に立つ味方にグレネード投擲のサインを送った。


 ピンが外れる快音を背後にセミオートマチックショットガンを構えた男子生徒は爆ぜた銃口と荒れ狂う銃身の制御に難儀しながら高速で放たれる榴弾の連射を挙動を乱した軽軍神に叩きつけていく。


「効いてねぇのかよ!!」


 爆音と爆風に髪を嬲られながら歯噛みした男子生徒は接近してきた軽軍神『零』。コールネームZ3の打撃を避けると残る弾丸を装填しつつ零の搭乗者を晒す胸部に向けて一射した。


 だが、コックピット前に展開した魔力で編まれた不可視の積載装甲、通称ポイントアーマーに阻まれた術式榴弾が炸裂し、装甲の一部が削れ、黒煙をたなびかせて操縦者を防護した軽軍神が煙を裂いて物陰に隠れる。


「やっぱり速いな・・・!! こちら、突入一番隊。軽軍神小隊と交戦。隊員一名が消滅。至急援軍を」


 昂ぶる心中を抑えた言葉はそこで切れる。先程とは別の零、Z2が彼の背後に回っていたのだ。


 残り少ない術式榴弾のリムを連射しながら後退し、うまく行かない状況に舌打ちしつつ、弾を撃ち切ったショットガンに一発の対戦車術式榴弾を込めると自爆覚悟の近接射撃をする。


 高速接近したZ3は手にしている特殊な給弾形式により奇形と化した口径28ゲージのオートマティックショットガン、FACS-28を背面ハードポイントに接続してコックピット後方、太股に当たる部位に鞘ごと接続されたナイフを器用に逆手で抜き放つ。


 走る。両者の速度と動きは違えど進む方向は同方位。そしてナイフの一閃が来るより早く術式榴弾が隊長格のショットガンから放たれ、白煙を侍らせて宙を走る。


 そして、Z3の目前でそれは炸裂する。爆音で埃が舞う大気が震え、崩落し、中空で彼等を包んでいるビルに微小な震えを与えて崩壊の秒読みを早める。


 爆風が隊長格の身体を吹き飛ばし、大振りのコンクリート片に叩きつける。


『こちらAチームリーダー。援軍に行く!!』


 何、と意識を引き戻した隊長格は無線に問い返し、鞘から抜き放ちながら身を左に捩って溜めたZ3はナイフを片手に隊長格に向けて突撃し、身を起こしてそれを避けるとショットガンに散弾のリムを一発入れ、ナイフを引いたZ3の攻撃を避ける。


 避ける。自分が追い込まれていると知りながらそれでもZ3の剣戟を避けながらリムを込めていく。


「貰った!!」


 ナイフに追い立てられる隊長格がコンクリート片に三方を囲まれた状況を見てZ3が勝利を確信し、機械に変換されてくぐもった声で叫びながら腕を突き出す。


 突き出しの動きを取る腕は突然切断され、束の間宙を舞う。


 何事か、と周囲に視線を巡らせた隊長格は緩やかなクレーター状になっている自身の足場から見て丘の様になっているそこに立つ少女にふ、と笑みを浮かべた。


「待たせたなっ!!」


 無邪気な子どもの様に歯を剥いて笑った千夏は下段に構えた絶をゆっくりと肩に預ける。


 騒ぎを聞いて隊員を倒して駆けつけたZ2と合流し、残る左手にFACS-28を構えたZ3がたじろきながら千夏を見上げる。


「こちらZ3。Z1、HRに通信。敵役員が出て来た」


『了解、通信する』


 通信を切るとZ3は左のFACS-28の銃口を向け、不味いな、と一つ呟くとストックとグリップが一体化した形状の7.62mm突撃銃、MPARを構えるZ2に視線を流した。


 Z3は思考する。近距離戦用に自身が選択したFACS-28はマガジン方式の採用によりリロードを早く出来る利点があるだが、右の片腕が無い以上太股の予備アタッチメントを使わなければならないのでリロードに手間取ってしまう。


 銃の上に平行に装着された12発装弾のマガジンを固定するアタッチメントに付けられたフロントサイトを視線の先に持ってくるとMPARを背面アタッチメントに預けつつ、側腰に取り付けられた鞘込めの刀を抜いたZ2に合わせて射撃した。


「お・・・!?」


 刀と呼ぶには長大で大振りなそれを両手構えに腕関節モーターの豊富なトルクを使って高速で振ったZ2は必中を確信していたが故にそれを避けた千夏への驚きはひとしおだった。


 追う。追って一撃を叩き込む。背面スラスターから迸る魔力の塊が大気を押し退けて前進する為の力を生み出す。


 耳をつんざく爆音が轟き、Z2が宙を舞った千夏の着地地点に向けて地を滑る。


「Z3よりZ2、こちらの射線に入っている。邪魔だ!!」


『すまん!!』


 Z3の怒声を受けたZ2は彼の射線を開ける為に千夏の着地地点に向けて回り込む様に動きながら装備選択で想定していなかった閉鎖空間戦闘、それの立ち回りで長さにおいて不利になる刀の刃を周囲の障害物を避ける様にコンパクトに振ると散弾の嵐を浴びている千夏に向けて叩きつけた。


 切れ味を重視する刀であっても軽軍神が扱う程の長さになると叩きつけだけでも充分な攻撃になる。


 Z2は突っ込む。如何に魔力を二次転用して強度を増した術式武装と言えどそれを使う者が人間であるなら軍神の主動力である魔力と魔力の一部を電気に変換して各部に出力するトランスミットドライブの出力の半分程をトルクに回している軽軍神の一撃は対人用には充分に強力だと判断したが故だった。


 軽軍神の剥き出しのコックピット、胸部に引き寄せる様に振るう剣戟の線が風を切って迸り、絶を構える千夏に向けて走る。


「振り薙いで、絶ち切れやがれッ!!」


 Z2は見た。自身の目前で落下していく中で千夏がそう叫んでいた。そして、絶の刀身から迸った翠緑の光が咄嗟に身を右に捻り、刀の柄から手を離してフリーにしたZ2の左腕に光が直撃して切断される。


「な・・・何!? まさかあいつの術式武装は・・・」


 簡易術式分析による被弾術式の詳細を表示したコンソールを見たZ2は千夏の術式武装の属性である万物切断能力に舌打ちしつつ、距離を取って地を滑る。


 術式武装に通常使用する身体強化やシンプルな火、水、風、土と言った四属性魔術では無く、それらの傘下である複雑な術式属性土と水に共通区分される割り込みから発展したのが万物切断能力である。


 なるほど、とZ2とその背後でFACS-28を構えるZ3は揃って頷いた。先程ナイフを構えていた右腕を落とされたZ3が受けたのは万物切断能力でその射程は無制限、直撃すればただでは済まない厄介な能力と言える。


 彼らが警戒しているのは万物切断能力がポイントアーマーが展開されるコックピットに突っ込んだ場合の事である。


 万物切断能力の元は先にも言った様に割り込みからの切断である。それが意味する所は重ねてある部位を割るのである。どんな方向に積み重ねられた場所でも万物切断は入り込んで割る攻撃をしてくるのである。


 二機はそれぞれの損害を見た。Z3は右腕を切断されており、右側からの攻撃は殆ど防ぐ事が出来ない。


 唯一の救いとすれば炸薬式解除のシールドが左腕に残っている事、それに対してZ2は開放空間での近接格闘戦闘を想定した装備であった為に邪魔になる大型のシールドを持っていなかった。代わりとして最低限の防御面積を確保する為に両腕に後付の籠手が装備されていた。


 左腕が切り落とされ、現在残っているのは右腕。結果として右腕一本で攻撃と防御を切り替える事をZ2は強いられている。


 彼等と同じ軽軍神乗りでもある千夏はその状況でどの様な立ち回りを行なうかによって戦闘の進行と難易度が異なるのを軍神の整備を担当する司から戦闘の参考としてよく聞いていた。


 確か、と着地し、絶を構え直した千夏は思考する。トルクフルな軽軍神程、切断による魔力循環の停滞の影響を受けやすいと司は言っていた筈だ。


 供給先を失った各関節の特殊モーターは制御OSに供給の打ち切り信号を伝え、他の部位にその分を分配して供給する。


 初めてそれを聞いた時千夏はこう言った。それなら機体の性能が上がり、有利になるのではないのかと。


 それに対して司は首を横に振った。何故なら、と言う理由もその後につけてだ。


「おおお!!」


 刀を手に滑るZ2は弱気になり掛けた自身を鼓舞する為に叫ぶ。だが、明らかに先とは感覚が異なっている事に彼らは気付いて戸惑い、躊躇して迷った右手が攻撃の威力を鈍らせる。


 何だ、とZ2はコンソールを複数呼び出し、簡易チェックでステータスを確認した。


 軽軍神が表示する限りにおいて異常は無い。だが先程と今までとの感覚の違いは一体何なのだろうかと彼は疑問して愛機にトレースさせる様に刀を構えさせた。


 片手であってもトルクは十分だ。安心して良いだろうと考えた瞬間、彼の目前で身を屈めた千夏が攻撃に動いた。


 迎撃する。何時もの通りに動かす。だが、明らかに速い速度で剣戟は明らかな距離で千夏の頭上の空を切った。


「何・・・?!」


 まただ、Z2は歯噛みする。一体この感覚のずれは何なのだろうかと苛立ちを隠し切れずにコントロールグリップを握り締める。


 万物切断能力を発動させようとする。仕方ない、とZ2は効果の進路を塞ぐ様に片腕の籠手を宙に放つ。


 やはりずれたが、何とか万物切断は防ぎ切る事は出来た。後はZ3の援護射撃を待つのみだ。


「照準が・・・ずれた!?」


 Z3が叫ぶ。跳ね上がった照準に戸惑いを隠せず、そのままトリガーを引いてしまったZ3は散弾を宙に放ち、左太股のハードポイントにFACS-28を接続してリロード作業を行なう。


 スライドレバーを前に押し出し、マガジンのロックを解除するとマガジンを弾く様に外して空いた所へ次のマガジンを滑り込ませるとレバーを元の位置に戻してマガジンを固定した。


 グリップを掴み、短く切られたFACS-28の銃口を跳ね上げる。そして、理想的な照準位置より上で射撃する。


「く、どうしたんだ!?」


 過度な動きを見せるZ3は目前で万物切断の動きを見せ始める千夏に気付いて緊急回避の動きを取るも間に合わず左腕も切断され、歯噛みしたZ3は緊急停止したトランスミットドライブに目を見開いた。


 膝をついたZ3は機体の内部に蓄積していた全ての出力を両腕から放出し、魔力蓄積による装甲融解から操縦者を防護していた。


「ちっ、此処までか・・・」


 コントロールバーを放したZ3はパイロットスーツからベルトを外して地面に足をつけた。


 振り返って愛機を見たZ3は自身の愛機の関節部、特殊モーターが融解しているのに気付いた。


「まさか」


 千夏のもたらした二次的な攻撃にZ3は驚きを隠せず、そしてZ2がその作中に嵌まっている事をその時知った。


 司が千夏に話した事、それは魔力の扱いとトランスミットドライブの出力だ。


 軍神の動力源であるトランスミットドライブは魔力倉に貯蓄した魔力の一部を電力に変換して機体内部に魔力と共に供給する。


 しかし、魔力とは超常的な汎用性と出力をもたらす反面使用時の扱いが非常に難しく、魔力倉の貯蔵方法も倉内に特殊な圧縮冷却加工を施して慎重に蓄積させなければならない。


 二足歩行型機甲兵器として開発が始まった第二世代機では未だ魔力倉の概念が生まれておらず、魔力の溜まりで採掘された魔力鉱石を用いた出力炉、俗称魔力炉と呼ばれる機構が採用されていたが量産性と整備性の悪さが問題化したそれは運用の前提として機体内部に魔力が蓄積されない事が重要視されていた。


 稼働状態の魔力は非常に強力でトランスミットドライブを用いて魔力倉から送られる一定量の供給量を如何にして使い切るかが各軍神の性能を分けていると言っても良いだろう。


 先に言った通り、軍神は腕等を切断されると戦闘出力の魔力は有害である為、切断された箇所の魔力供給を強制的に断つ様に出来ている。


 切断された箇所の魔力は残る箇所に再分配される。勿論そのまま運用して良い筈が無いがZ2、Z3の両名はこの事を知らなかった。


 そして、Z2が倒される。粉塵に顔を覆ったZ3はコンクリートの上に立つ千夏を見ながらZ2のパイロットを回収した。


「Z3よりZ1。すまない、やられた。回収を頼む」


『Z1よりZ3。回収なら了解した。HRとそちらに向かう』


 Z3はZ1との通信を切って一人ごちながら数秒も経たない内に到着したZ1ともう一機、長大な刀を持った軽軍神、コールネームHR。千夏と向き合うその機体は操縦者の顔を隠す様に降りたバイザー状の頭部が跳ね上がり、操縦者である少女の姿を惜しげも無く晒していた。


 歯を剥き、満面の笑みを浮かべた少女は薄地のボディースーツに平均的な身体のラインを浮かばせ、軍神が刀を持つのと同じ右手に刀を持って構えると軽軍神にその動きをトレースさせる。


 音も無いその動きを見入っていた千夏は攻撃を仕掛けてきた少女、宮武正代に舌打ちする。


 軽軍神が正代の動きに合わせて刀を振るう。大型のそれが千夏に迫り、彼女を弾き飛ばす。


「行動複写型か!! やり辛ぇな・・・・」


 呟いた千夏の目前に正代が駆る軽軍神、雷光の長大な刀身が地面に叩きつけられ、コンクリート片混じりの砂煙が巻き上がる。


 鋭いエッジとなったコンクリート片が刀の腹を正面に構えた千夏の頬を掠過する。


 朱の線が宙に走り、痛みに表情を歪めた千夏は追撃の刀を振るう雷光を見ながら距離を取る。


「童子切!!」


 来る。術式武装と化した2,3m前後の軽軍神、それに合わせて作られた刀の表面に光が走る。


『武装:童子切:起動』


 滑る様な軌道で千夏に接近した雷光が起動させた童子切を千夏に叩き付けた。


 軋む絶が数倍の質量の軽軍神用刀を受けて悲鳴を上げ、それを支える千夏もまた全身に走る痛みに耐えながら絶の柄を握ってうまく体重を逃がす。


 背面から電磁圧縮で噴射された魔力の恩恵を受けて加速した雷光が千夏を上から押さえつける様に機動し、千夏の体を押し潰そうとする。


「絶ち切りやがれっ!!」


 倍以上の荷重を受けながら苦し紛れに千夏は叫んで武装を起動させた。


 だが一瞬の間を作るも万物切断の能力は軽軍神用の刀を弾くのみですぐに構えを戻した千夏が手にする絶は再び太刀を受け止めて火花を散らした。


 ならば、攻撃をずらすしかない、と受けた攻撃を右にずらして軽軍神の刀を叩きつけさせると跳ね散った土砂に目を瞑りつつ、千夏は軽軍神の懐に飛び込むと一撃を叩き込んだ。


 飛び込み、万物切断で積載装甲を無視して正代に直接ダメージを与えようとして避けられた。


「ちっ・・・」


 舌打ちした千夏は一閃に先んで回避した正代を視線で追うとそちらに向けて身体を動かした。


 千夏の攻撃を雷光は構えた刀で受け、弾き返すと全身の装甲から魔力を迸らせる。


「何ッ!?」


 機動力充分な軽軍神の中で更に機動力を求めた機動力重視のカスタム機が正代の使っている雷光である。


 個人使用のカスタム機は無論、量産機ベースの個人所有品になり、生徒会が特別会計で購入するか個人で買うかの二種類になる。


 実家が日本の大企業中島技研・中島重工が構成する新日本企業連のの一端であり、実家の購入用コネクションとテスト要員として給料を貰っており個人資産が豊富な正代の場合、個人入手からの改造を施している。


 全身の装甲を通常の合金等のある程度の強度を持たせて重量を増した装甲を全て軽量なアルミニウム合金に変更し、耐久性能を無視した仕様に仕上っている。

これにより雷光の装甲強度は柔らかくなってしまった。純度の高いアルミニウム合金は軽いが故に柔らかいのだ。


 勿論そんな物は装甲に使用出来る訳が無くスピード狂のワンオフ機以外が使う事は滅多に無く、また、処理の施されていないアルミは魔力侵食に弱い。


 雷光に施された高速化の処理は未だあり、装甲の下、今千夏から距離を取る為に使用している全身推進機能の付加処理だ。


 全身推進機能とは文字通り全身に推進機能を保有させる処理の事で出力の細い小型の推進器を纏めて噴射させる方式であり、現在この機構が採用されている機体は新ヨーロッパの重軍神、タイフーンがある。何れも装甲の下にノズルを隠しており、使用時は対応する装甲が開いて装甲が電磁場を形成、それでノズルから放たれた魔力を圧縮放射して推力を得ている。


 難点として総じて燃費が悪く、制御が複雑。利点は細かな機動が実現出来、また、様々な用途で用いられる事である。


 高速で千夏の背後に回り込んだ雷光はそのまま刀を振るい、空中に身を投げ出していた千夏の身体を弾き飛ばす。


「ちっ・・・!!」


 舌打ちした千夏は受け身を取って立ち上がると絶を片手で構え直し、通信用の神経接続画面を呼び出す。


「奈々美、司、浩二!!」


『何?』


『ん?』


『何や』


「奈々美、ヒィロを呼んでくれ。司、お前は術式連結できる装備と激流を用意してくれ。浩二、術式効果二倍の強化術式の使用を生徒会経費で頼む」


『了解、術式経費は自腹でお願いね』


 苦笑混じりの奈々美の言葉に眉を顰めた千夏に司が割り込み通信をする。


『了解、激流と術式連結用の刀型外殻、試験運用のあれも用意しておくね。射出で出すけど大丈夫?』


「構わねえ。天井如き、崩壊しても死にはせんしな」


 そう言う問題?、と司が笑いながら浩二に回線を譲渡し、通信を移す。


『術式起動するで!!』


「応、頼む」


 千夏の全身から浅葱色の光が漏れ出し、効果二倍の術式強化が起動する。


 目前の雷光を見据え、睨み付けた千夏は上方から聞こえてくる声に表情を笑みに歪めた。


「行くよ、ソードオブスラッシュ!!」


『武装:ソードオブスラッシュ:起動』


 叫びながら降下し、ヒィロが振り薙いだソードオブスラッシュから光が放たれる。


 振り切るより早く飛び退いた雷光は目前で音を立てて切れ落ちる破片に表情を変え、ヒィロを追う様に飛び上がり、刀を振るった。


 一方のヒィロは空中展開した障壁を足場に方向転換から加速し、急上昇しながら腰のホルスターユニットのケースから十枚程のカッターの刃を取り出す。


 足下に雷光を見据えつつ、自身の真横に向けて障壁を蹴り、移動させると術式を起動し、刃を投じた。


「行っけぇーっ!!」


 空中に展開した全ての術式を表面に纏い、飛翔した刃がアルミニウム特有の銀色を発した装甲を穿ち、突き刺さった装甲が順次炸薬でパージされていく。


 それを継起に雷光の動きが穏やかではあるが変化した。スラスターの起動に装甲を開ける必要が無く、比較的高速で起動し始めた。


 空中戦と言えど天井がある以上は大規模にならない。そう思っているだろうと思考した正代は次の瞬間、ヒィロの挙動に虚を突かれた。


 上昇するヒィロは術式武装を用いていきなり天井を切り裂いた。細かな破片にまで切り裂かれたコンクリートは横に飛び退いたヒィロの後を掻き消す様にコンクリートが降り注ぐ。


 そして、機体コントロールをしながら正代は声を聞く。


「今だ司ッ!!」


 千夏の叫びに遠きから炸裂音が鳴り響いた。


 同時刻、ビルの外の方では迂回ルートを使って新中部高校陣営に強襲を仕掛けていた所、遠きから響いた突然の轟音にその場にいた全員が動きを止め、空を見上げた。


 それまで穏便を常としていた空気がそれを切り裂く轟音に一瞬で崩壊する。


「何だ・・・!?」


 誰が呟いたかは分からない。だがその呟きの答えは一瞬で返される。


 曇を割って降下してきたのは電磁レール射出用卵形中型コンテナ。そして、簡易構造のコンテナは一定高度でバターの様に融けた第一層をパージするとそのままビルの中へと吸い込まれた。


 爆音がビルを揺らす。搬入口らしき厚手の一枚板がパージされたコンテナから歩み寄ってきた軽軍神に眉を上げた正代は搬入口の縁に手を添えて歩み寄ってきたそれの姿に怯える。


 それは新関東高校が保有するパワードスーツ型軽軍神『激流・一型』。


 簡易自立駆動可能な固定器具がパワードスーツを固定し、駆動させているが走り寄った千夏に反応すると跳び上がった彼女を受け止め、彼女の手足に装甲を纏わせていく。空中に弾かれた肩の装甲が腕部装甲との間を埋める様に装甲をずらして連結させる。


 両肩の間、開いた千夏の胸部を装甲が緻密に組み立て、巨乳のサイズに合わせ、胸を膨らませて成形する。


 背面、ラジエーターと圧縮魔力倉を外部に大きく膨らませた小型トランスミットドライブが唸りを上げて千夏の頭部に自動で装着されたHMDが起動を知らせるホログラムを走らせる。


 そして、宙に投げられていた絶が空中で一回り大きい刀に組み換えられ、膨れ上がった手で柄を掴むと術式効果継続を行ない、身体に掛かっている術式も連結させると装着を終えた。


「いちいち待つ質なんだな、お前」


「興味があったからよ。パワードスーツ型なんて珍しいもの」


「なら、じっくり見ろよ? これから私達が戦うからな」


 言い様千夏が動いた。足の延長の如き脚部装甲で地面を蹴り、その瞬間にスラスターを吹かして高速で接近すると同時、手にした刀を振るって斬り結んだ。


 響き渡る共振音が土砂を巻き上げ、それぞれの積載装甲を削り取っていく。


「今だ、ヒィロッ!!」


 千夏の叫びに上を見上げた正代はピンポイントで狙ってくるカッターの刃に口端を僅かに上げる。


「恨まないでね、こう言う使い方もあるんだから!!」


 刹那、眩い光が全身から放たれる。大気を押し退け、迫る万物を跳ね退けた光は衝撃波を伴って大地を砕き割る。


 怯んだ千夏を蹴り飛ばし、主導権を奪った正代は低圧噴射のホバリングで滑る千夏に斬り掛かる。


「くっ・・・!!」


 叩きつけられた刀に地面から砂塵が巻き上がる。それらは視界を埋め、もうもうと立ち込め続けていた。


 そして、煙を切り裂いて突撃してきた雷光の一撃を千夏は刃を寝かせて受け止める。足された推力に押されて後退した千夏は対抗する為にスラスターを後方に叩きつける。


 刃を弾き、離脱した千夏は背面から光を迸らせて突撃する。


「ヒィロ!!」


 叫びと共にカッター刃が飛翔し、後退した正代は舌打ちしながら童子切を起動させて光を纏った刃を切り落とすと上空に向けて飛翔する。


 だが、それを阻む機影が彼女の目前に現れる。最新鋭の技術が施された鎧を纏った千夏だ。彼女は左に逆手で構えた小刀をアンダースローで投げ飛ばし、咄嗟に寝かせた刃が叩き付けられた小刀を弾いて振り切った正代は降下を始めたヒィロを上方に視認しながら背面の武装コンテナを起動させる。


 スライドした部位からその姿を覗かせるのは術式圧縮火薬を搭載した小型のミサイル。それを目前にしたヒィロは瞬時に展開した障壁を蹴りつけて急上昇し、殺到するミサイル群を寸での所で回避しながら宙を駆け抜けていき、迎撃用に投擲した三つのキャニスター弾を遠距離制御信管で炸裂させ、群れを成した小型ミサイルを撃破し、ビル内部をめちゃくちゃに破壊する。


 爆裂したミサイルの爆風が両機を嬲り、姿勢制御を僅かに遅らせた千夏が攻め込まれるも手にした刃ごと体を回して勢いを受け流し、雷光の背面を蹴り飛ばす。


 衝撃に顔を顰めた正代は手にした刀を納めて背面武装コンテナから一対の口径13.5mmの対軽軍神用自動拳銃を引き抜いて高速で撃ち放ち、右手にした刀と左手の小刀の腹で銃弾を防いだ千夏は回転させた左右で不釣合いな大きさの右の刀を手に取り直し、鞘に収めて太股から予備の小刀を引き抜いて構えると

斬り掛かった。


 拳銃のアンダーバレルと一体化した刃で両の小刀を受け止めた正代は押し返して左の拳銃を連射させ、その間に背面コンテナに拳銃を収めて自動リロードさせると交互に射撃を始め、流れる様にリロードと射撃を繰り返す正代を押す様に千夏は近接格闘戦に持ち込んでいく。


 正代は距離を離し、千夏は距離を詰める。そして、その上方ではミサイルの追跡を掻い潜ったヒィロが下方で繰り広げられる鎧と外骨格の戦闘を見ながら彼女は術式構築を開始し、通信回線を持っている奈々美に千夏への連絡をメッセージでする様伝えた。


 ヒィロの目前で組まれていく術式は四角のフレームに彩られて展開されていく。その効果は雷撃。当たれば機械は一撃で機能停止をする程の高電圧が警告文を読んだ千夏の上方で構築されていく。


 そして、二人は双銃から太刀の上段斬りに移行したタイミングを見計らった絶妙な息の読み合いで刀を振り上げた正代に向けて攻撃を仕掛けた。


 雷撃が被害を及ぼすのは多く見積もって直撃面から半径1m、安全距離まで離れるのは戦闘や機械作業の鉄則だ。そして、刀から迸る高電圧に耐え切れなくなった雷光の配線が全て焼き切れ、断線した雷光が事切れたかの様に膝を突き、機能停止した。


 装甲の繋ぎ目からは黒煙が噴き出し、剥き出しのコックピットから自力で脱出した正代は膝を突いて咳き込み、目前に突き立てられた一対の刃に目を見開いて汗を浮かせる顔を上げて鎧を纏った千夏と爆発で跳ね散った破片で切れた羽と服を散らすヒィロの得物に気圧された正代は悔しげに歯噛みしながら俯いた。


「敵幹部、宮竹正代。討ち取ったり」


 悪戯っぽく笑った千夏が倒れそうになるヒィロの体を支えて宙に浮く。


 脚部魔力スラスターを起動した千夏は滑らかな操作で飛翔し、進行部隊はチームごとの隊長に任せて本部へと戻っていった。


 一方その頃、琴音率いるBチームは激しい銃撃戦を繰り広げながら徐々に進軍して行く。


「く、このエリア妙に敵多くない!?」


 歯噛みする琴音が近場にいた女子生徒に思いの内を口にする。太股のホルスターから自動拳銃を引き抜いた琴音はどうしたものか、と屋根の方を見上げて思案する。


 屋根に上がる事が出来ればこちらから攻める事が出来る。だが制御の効かない空中では飛んだ瞬間、射撃の的になる、ならば。


「単独突撃するわ、援護して!!」


 拳銃を構えて振り返った琴音に了解、と頷いた全員は盾を構える新中部高校の面々に向けて射撃する。


 そして、単身走り出した琴音は前方に光学系術符を展開させてその姿を幾重にも分裂させる。


「行くわよ、新中部!!」


 分身体が叫び、跳び上がった琴音は手にした術式武装『日ノ本小絶』を構えて防御陣に向けて突撃する。


 壁を蹴り、敵陣の上空でスカートの中に仕込んでいた特製榴弾を投擲すると撹乱を始め、壁蹴り機動で多角的な空中攻撃からの爆撃に陣が乱れ始める。


「今よ、エクスシア!!」


 最後の榴弾を落とし、琴音は叫ぶ。その視線の先、高速で突撃する一人の人狼が前方に構えたランスで前方の大気を割りながら乱れた陣に突撃していく。


 声は響かない、代わりに正面から打ち合った盾とランスが金属音を響かせ、盾が吹き飛ぶ。


 何事かと陣が散開し、それぞれの武装を構えた生徒達は眉を吊り上げ、耳を動かす人狼の少女、エクスシアを中心に取り囲む様な方陣を形成する。


 その瞬間、エクスシアの正面にいた生徒達が吹き飛んだ。その場に落ちていたコンクリート片が衝撃波を生んで人を一直線に薙ぎ払い、わ、と悲鳴を上げた生徒達は敵を取るべく一斉にエクスシアに襲い掛かった。


「そうはさせないわよ!!」


 上方、急降下してきた琴音が跳び上がった少年少女達を足場に踏みつけて拳銃を連射する。


 吹き飛んだ生徒達は上空と正面を交互に見、それぞれの担当が対処に当たり始めたのを遠目に見る二人の女子達がそれぞれの得物である槍と刀を鳴らした。


「んで、まぁ隆一からの提案でこうやって二人で来たんだけどさ。状況的に見てどうなのさ加奈。

あたし等が出なきゃいけない様な状況かい?」


「ん〜どうかなぁ・・・皆頑張ってるし未だかなぁ」


「そうやって人に頼って何時も何時も先延ばしにするのがアンタの悪い癖だ加奈。でもまあそう言うんならちょっとばかり待って置こうかね」


 鞘込めの刀を担いだ長身の少女、大村康子はその傍らで身長に不釣合いな長さの槍を担ぐ少女に視線を流し、溜め息を一つ落とすと屋根に座り続けた。


 その視線の先、生徒達を蹴散らすエクスシアを援護する琴音は後続の部隊にも指示を出し、自分は奈々美への通信回線を開いて予め用意していた指示文の内一つを彼女に送信した。


 送信した指示は補給物資転送依頼だった。刹那、浩二が穿った亜空間バイパスを通じて転送された装備を琴音はそれぞれスカートの中の拡張空間に収めていく。伊達に和輝と十数年も関係を持ってはいない。自分にも彼から盗み取った戦闘技術がある。


 行ける、と走りながら琴音は手にしたM4カービンを目下に向けて照準する。走りながらの射撃など忍者の自分にとっては造作も無い。


 静止状態と変わらない安定した照準は制圧していくエクスシア達の先を狙っていた。


「そこ・・・!!」


 刹那、眩いまでの閃光と轟音が連続して銃口から放たれる。軽機関銃並みの発射レートに引き上げ改造されたM4からライフル弾サイズの術式榴弾が放たれ、爆発を生み出した榴弾が下方にいる味方生徒達へも影響を及ぼし始めるがそれを気にしていられる程悠長な状況ではなく、激しい銃撃戦が開幕し、跳躍射撃も織り交ぜ始めた琴音はアンダーバレルグレネードを前方に射撃して爆砕すると建物の中に突入し、銃器のリロードを済ませると仮想の建物の窓ガラスを破って降下する。


 弾幕の嵐に包まれながら彼女はフルオート射撃で全弾を撃ち尽くすと宙にM4を放る。


「喰らいなさい!!」


 代わりに、と言う様に収納空間を形成していたスカートから単発式の榴弾砲を取り出し、中折れ式の薬室に榴弾を装填して射撃する。


 爆裂した榴弾にガッツポーズを見せた琴音は陰った自身の足場に気付いて上方を見上げた。


「く・・・・」


 瞬間、琴音のいる場所が爆ぜ、コンクリートが破片となって周囲に散る。


「な・・・に!?」


 もうもうと立ち込める砂煙の中、刀を構えた康子に目を奪われた琴音は面倒臭そうに目尻を垂らした彼女に歯を剥いて笑い、溜め息を宙に漂わせた康子は自身の太刀を構え直して琴音を見た。


「私の相手は中学生かい? ちっちゃな子苛めるのは好きじゃないんだがねぇ」


「失礼ねっ!! 私は歴とした高校二年生よっ!!」


 やれやれ、と言った風に目を伏せ、首を振った康子は口端を軽く上げ、穏やかな笑みを作ると

刀を軽く横に薙いで上段に構えた。


 相手の剣圧に冷静になった琴音は小絶を引き抜き、柄尻を叩いて起動させると刃を形成させて構える。


「新中部高校副生徒会副会長、大村康子。クラスは侍。あんたは?」


 問われて琴音は無い胸を張って誇示する様に名乗りを上げる。


「新関東高校生徒会会計、古村琴音。クラスは忍者」


 なるほどねぇ、と頷いた康子は手にした刀を見下ろして一つ微笑を浮かべた。


「通りで素早い訳だ。だが、真っ正面からの戦闘は苦手。そうじゃないかね?

ま、この際どうでも良いんだがねぇ」


 面倒臭そうな彼女に小絶を向けた琴音は左手に拳銃を引き抜き、構えた。


 考え事が苦手な琴音は何とか思案する。こちらが主導権を握れれば何とか勝ち目はありそうだ、と考えると光学系術式を術符を介して展開し、走り出すと伏せていた康子の目が一気に見開かれる。


「斬り殺しな、鬼切」


『武装:鬼切:起動』


 袈裟で斬られた琴音の分身が掻き消えると同時、琴音の身体に袈裟の切り口と紅の線が走った。


「な・・・・!?」


 浅い傷口を抑えた琴音は傷口から溢れ出る血液に驚きながらも走り出し、康子の顔面に蹴りを叩きつけた彼女は身を縦に翻しながら拳銃を射撃した。


 鳴り爆ぜた銃声を背に飛翔した銃弾が唸りを上げて康子に猪突する。


「どう言う事かしらね」


 切断された鉛の弾丸に一息ついた琴音は面倒臭そうに目を伏せた康子に同意を求める様に笑い掛け、

そして、その隙を狙って苦内を投擲する。


 一つ間を置いて切断された苦内は康子の傍らを通り過ぎ去り、虚しい金属音と共に地面に落ちた。


「説明してやるよ。鬼切、幻影空間解放」


 康子がそう言うと同時彼女を起点に空間が黒一色に染まり、その中に入り込まされた琴音は

自分の四肢がブレているのに気付くと同時、飛び込んできた康子の一撃を弾き逸らす。


 康子から距離を取る為に高速で走る自分の身体が何重にもブレて黒塗りの空間に瞬く様な残像を散らし始め、追ってくる康子の手前にその内の一つが宙を舞った。


「ちびっ子、あんたの疑問に説明してやるさ、あんたとあたしがいる空間は武器の一部として鬼切が作り出した空間、その効果は空間内に幾らでも幻想を作り出せる」


「それが私に切傷を付けたトリック?」


 静止し、得物を持ったまま顔を合わせる二人の内、一つ息をついた康子が琴音を悟す様に言って

説明の言葉を続けた。


「そして、この鬼切の内包術式の効果は幻影切り。どんな幻影でも切断し、幻影が形作った者に直接ダメージを与えるって効果でね。つまり、この空間にいる以上あんたは剣戟から逃げられないって訳さ」


 不敗の空間にまんまと閉じ込めた、とほくそ笑んだ康子に琴音は目を細めながら猪突する。そして、空中に身を飛ばすと右の回し蹴りの後に拳銃を一射した。


 蹴り飛ばされた康子は先んじて作り出した銃弾の幻影を切断して弾丸を真っ二つに割ると追撃の飛び蹴りを彼女の腹部に叩きつけてきた琴音の身体を足を掴んで投げ飛ばし、宙に身を投じている琴音に向けて刃を振るった。


 だが、それを琴音は許さなかった。彼女はスカートから長大な狙撃銃、PSG-1を取り出すと杖の様にそれを振るい、康子に狙いを定めて構える。


 それに構う事無く突っ走った幻影切断の光は次の瞬間、その力を失った。何故だ、と康子は思い、琴音が放った銃弾から散り燐く微細な金属片、チャフに目を見開いた。


 黒塗りの空間に瞬く光がブレている琴音の幻想を掻き消し、切断の光は無数のチャフに引っ掻かれて力を失った。


「ちっ・・・散布用特殊ライフル弾かい?」


 忌々しげに呟いた康子に着地した琴音は不敵な笑みを作りながら白煙を銃口から迸らせるPSG-1を傍らに投げ捨てると続け様に短機関銃を取り出して射撃した。


 金属片を跳ね散らしながら猪突する9mmパラベラム弾が両腕で顔を庇った康子の制服の耐久値を削り取っていく。


 雷鳴の如く鳴り爆ぜる銃声が止むと同時、康子は琴音の蹴りを両腕で受け止めて無力化し、押し返すと腰のハードポイントからピンごと抜いた手榴弾を左のアンダースローで琴音の目前に投げつけ、それが炸裂するよりも早く移動した。


「どうさ、って言っても無駄かねぇ・・・」


 そう言った康子の鬼切りを持つ右手の甲がそれ目がけて飛翔してきた細身の金属に引っ掻かれ、浅く裂かれた傷口が温かな血流を表面を滑らせる様に流れ始め、目を見開いた康子は黒煙を見上げる。


 上着を脱ぎ捨て、勝負服である装束の黒の胸当てを露出させた琴音は両手に構えた小絶で右の握力を削がれた状態の康子に斬り掛かり、小絶を逆手で保持する左の刃を叩きつけた。


 共振する両者の得物から火花が散る。お互いの身体が密接した状態での近接格闘戦が始まると康子の左斜め後ろに突っ込んだ琴音は靴底に仕込まれた加速呪を発動させてすかさず右の小絶を振るう。


「ち・・・ッ!!」


 左の小絶を上に弾き、右の小絶の軌道を潜り抜ける様に通った康子は擦過し、火花を散らす鬼切の刃に

握力を減衰させそうになって添えていた左の力を強めた。


 幻影切断。小絶の幻影を切断できれば、と考えた康子はすぐにそれを行動に移した。


 康子の目前で刃を切り割られた小絶の幻影が受けた損傷はすぐさま実体の小絶に反映され、砕け散った刃が銀色の燐きを生み出して宙を飾ると同時、康子は驚きを得た。


 砕け散った筈の刃がまた出てきている。どう言う事だ、と驚いた康子の心情とは裏腹に自分の双の術式武装がもたらした有利を未だ知らない琴音は一旦距離を置いて左の小絶を納めると康子に向けてレッグバンドの拳銃のホルスターの前、ケース内に納められた先程の細身の金属、鉄針と呼ばれる暗器を三本、指の間に挟んで引き抜き、投擲した。


 咄嗟に避けた康子はチャフが減じたのを見計らって琴音の幻影の左肩を切った。


 刹那、琴音の左肩が縦一文字に斬られ、血流が宙を彩る様に吹き出しながら落ちていき、力を込めない様に左腕の力を抜いた琴音はだらりとぶら下がった左腕に更なる痛覚を感じた。


 腕の筋肉、それも筋の方向に左腕が斬られていた。痛覚と同時に鈍い断裂音も聞こえていた。恐らくあれは腱を斬られたのだろう、この後に控える新イギリス戦は厳しくなりそうだ。


 こうなったら浩二に能力付加をしてもらいたい所だが残念な事にこの黒塗りの空間が通信を遮断していて連絡が取れない。


 黒塗りの空間を如何にかして破りたい琴音だがどうすれば良いのか分からないのが現状だった。


「ふ、随分と頭を抱えてるんさね」


 言いながら康子は鬼切の腹を琴音に向ける。その瞬間、彼女は赤点回避のテキストを思い出した。


 焦点のテキストだ。像は光の焦点で結ばれる、つまりこの黒塗りの空間は。


「鬼切が覚えた像を映し出す為の空間・・・!!」


 ならば。単純な策と和輝の教えを組み合わせて考えた琴音は鈴生りに下げたグレネードの内、フラッシュと書かれたグレネードをハードポイントから引き抜くと正面に投擲した。


 宙で回転し、炸裂した閃光手榴弾は眩いまでの百万カンデラ以上の光量が発生し、偶像を消す程の瞬きが黒塗りの空間を消し飛ばした。


「よ・・し!! 浩二、浩二!! 早く出なさい!!」


『何や喧しい』


「強化術式掛けなさい三秒以内に!!」


『そんなスピードで出来るかアホ!! まあええわ、待っとき。さっさと済ますから』


 なら良し、と踏ん反り返った琴音は動かせない左腕をたなびかせて走り出すと右の小絶を振るい、左に回り込んだ康子に短いストロークの回し蹴りを叩き込むと倍以上ある体を吹き飛ばす。


 地に足を着けた琴音は今必要な身体強化が来た事を感覚で感じると同時、体の機動方法を変えて身体強化と併用して使用した加速術式で得た超高速のスピードを生かした機動戦術を取り、一つ目のステップは右足を軸に康子の突き込みを避け、二つ目のステップは左足を軸に斬り掛かりのステップで康子の左肩を浅く斬るとバックステップで後方に下がった。


 ぶっきら棒だが浩二は良い仕事をしてくれる。今掛けられている能力は琴音向きの能力だ。概要は脚部を中心とした身体強化。


 走る事を目的とした能力を使って走る琴音は康子の体を足場に飛び上がると彼女の顔面に蹴りを叩き込む。


「斬り殺せ、鬼切!!」


 康子の叫びに応じる様に鬼切の腹が瞬き、宙に身を投げた琴音を視線上に捉えて切っ先を向けた。


 ピンポイントで突き込み、重量を打ち込む算段の康子の攻撃を受けた琴音は腹部を押さえながら吹き飛び、血の混じった堰を地面に落とすと体を揺らしながら立ち上がり、苦しそうな息を漏らしながら小絶を構えるとよろめく足を立たせる。


 容赦無く袈裟で斬られた胸部に叫びを上げた琴音は呻きながら立ち上がる。まだ終わらない、終わりではないと声も出せずに呟きながら立ち上がった琴音は小絶を構えて康子を見据えた。


 そして、琴音は小絶を順手に構えて走り出すとそれに応じる様に鬼切の切っ先を琴音に向けた康子はその瞬間、血の噴き出しと同時に切れた魔力にほくそ笑み、琴音の奮闘を讃えた。同時討ち覚悟だったのだろうな、と。


 一方、その頃追加で盾を転送、装備したエクスシアはシールドとランスを使って槍を突き込んでくる加奈の攻撃を全て防ぎ、自身の倍程もあるランスをいとも容易く片手で振り回して牽制すると槍を縦に構えた加奈を盾で弾き飛ばした。


 弾かれながらも踏み止まり、槍を構えて回り込む様な軌道を描いた加奈は大振りの盾を持たず、ランスの柄を持つ右手に切っ先を突き出した、が人狼特有の怪力で動かされた盾は切っ先を防いでいた。


 怪力と頭脳の両立ゆえにカロリー消費が早く、腹が減りやすい人狼族の弱点をこの戦闘前に腹一杯に奈々美の料理を食す事で克服していたエクスシアは得意としている格闘戦に十分な力を発揮していた。


 筋肉質な人狼族に打撃は通じない。口径の小さい拳銃弾なら弾いてしまう強固な筋肉は生半可な打撃は筋肉が吸収してしまい、筋肉に包まれた骨にダメージが通らず有効打を与える事が出来ないが故に人狼との近接戦では剣や刀、槍を用いる。


 剣や刀、槍ならば筋肉の強度を無視して攻撃できる。その利点を知っていた加奈は打撃を行なわず、槍の穂先を攻撃に用いる事で利点を生かしていた。


 対するエクスシアはランスと言う武器の特製に苦しんでいた。ランスとは槍よりも更に突きに特化した武器である。形状は円錐状で先端は尖っており、曲線を描いている部位は切断能力と言った斬り割る力を持っていない。


 それに加えてエクスシアは防御が下手だ。辛うじて盾を使っている、と言う状態で形式的な防御しか出来ていない。


 本来ならエクスシアは攻めを専門としたポジションである。防御は専門外だが、こんな事になるなら防御が得意な流星に学んでおけば良かった、と遅い後悔をしながら彼女は守りに回り続ける。


 火花を散らす盾が突き込まれた面をへこませながら突撃を受けていき、弾かれたのを見計らってエクスシアがランスを突き出す。


 目前に迫るランスを足場にエクスシアの後方に飛んだ加奈は手にした槍の石突に取り付けられた爪を仮想建造物の外壁に突き付けて棒高跳びの要領で更に高度を上げると目下のエクスシアに向けて穂先を突き出した。


 盾を持ち上げ、穂先を防ぐ体制のエクスシアにほくそ笑んだ加奈は叫んだ。


『武装:蜻蛉切:起動』


「突き込め、蜻蛉切!!」


 瞬間、エクスシアから朱の色が吹き流れ、盾を踏みつけて着地した加奈は術式武装を用いても感じられなかった手応えに納得して頷くと、痛みに盾を落とし、浅く斬られた左肩を押さえるエクスシアになるほど、と笑った。


「あの状況でよく反応できたね」


「伊達に策士と訓練していませんから・・・」


 笑みを崩さない加奈は苦しそうにしながらも笑うエクスシアが言い放った策士、と言う言葉に流星を思い浮かべた。


「策士ってさ、松川流星って子の事?」


 疑問を口にした加奈は自分の疑問に応じる様に頷いたエクスシアを見ながら感嘆の声を漏らした。


 緊急回避の訓練など自分達には無い要素、それこそ普通ありえない要素だろうと加奈は思い、手にした槍、術式武装『蜻蛉切』を見下ろすと走り出して穂先を突き込むと左肩を庇いながら避けたエクスシアは腰溜めに構えたランスを突き出した。


 それを避けた加奈は何時の間にか塞がっているエクスシアの肩の傷口に気付いた。


「突き込め、蜻蛉切!!」


 起動表示を浮かび上がらせながら叫び、蜻蛉切の穂先を突き出した加奈は高速で宙を走る穂先を弾こうとするエクスシアにほくそ笑んで柄を保持し続けて叩き付けた。


 エクスシアは自身の得物の手応えに違和感を覚えた。力いっぱい叩き付けた筈なのに蜻蛉切が跳ね上がらない。


 そして、煌く穂先がエクスシアの右肩に深々と突き刺さり、人狼が小さく悲鳴を上げた。


「どうして・・・!?」


 エクスシアが漏らした疑問に加奈はフェアプレイの精神だ、と蜻蛉切のからくりを話し始める。


「蜻蛉切は発動すれば攻撃に邪魔な存在の全てを無視して攻撃できる。貴方が蜻蛉切の軌道を外そうとしても、盾で防御しようとしても、それらを全て無視して攻撃できる」


 無茶苦茶な、と呟いたエクスシアは槍の柄に浮かび上がった表示に希望を紡ぎだした。残り回数は十三回、わざわざ自分を倒す為に全て使う訳ではないだろう。


 使える回数は三回が限度だろう。既に二回自分に使用しているのでデフォルトの使用回数は十五回になる。使用限度を増やす可能性も指摘出来るがそんな考えをする事無くエクスシアは重量のあるランスを構え直し、加奈を正面に見据えた。


 突撃を仕掛けたエクスシアはそれを回避した加奈を逃がさぬ様に視線で追い、ランスの側面を蜻蛉切に叩きつけて蜻蛉切の穂先を弾くと蜻蛉切を構えた加奈に向けて腰で一回転させたランスを叩きつける。


 柄を縦に構えてランスの打撃を受け止めて横に吹っ飛んだ加奈は石突の爪を地面に食い込ませてブレーキを掛けると高飛びの容量で身体強化の蹴りで初速を得、柄をしならせて空高く飛翔した。


 空中で縦に身体を回した加奈は背を向けるエクスシアに向けて鈍色の穂先を突き込むと瞬時に反応して右足を軸に振り返ったエクスシアの左の掌に突き刺さり、歯を食い縛ったエクスシアが血濡れの穂先を握り締めて固定すると同時にランスを突き込んだ。


「ぁあああああああッ!!」


 右手に構えたランスを加奈に突き出したエクスシアは加奈の左肩に直撃させたランスの柄を捻って基部をパージし、同時に穂先を手放して加奈の身体を吹き飛ばした。


 鞘代わりのランスから露出した長巻が白煙を切り裂きながら振るったエクスシアは血流の止まらない左手を下げて右手だけで長巻を操りながら前進していく。


 左肩を押さえた加奈が持つ蜻蛉切が光を放ち、発動の予兆を周囲に誇示した。


「突き込め、蜻蛉切ぃいいいいいいいいいいっ!!!」


「ぁあああああああああああああああ!!」


 必死の形相で突き込まれた槍と長巻が対峙する相手を刺した。


「同時討ち・・・・」


「です、ね・・・・」


 同時に気を失った二人はそのまま転送されていくとそれを見た新関東側の副リーダー達がそれぞれの武器を手にBチームの生徒達を指揮して攻撃の手を緩めない様に押していく。


「おい、筒井。本部に連絡、前線は押してる、と」


「了解」


 臨時でリーダーになった男子生徒、天河星悟は筒井と呼んだ同年代の少女に通信を命じると先頭で防御に徹する隊に命令を下して縦列射撃陣を組んだ状態で進軍する。


「陣形を崩すな! 縦列一斉射撃で敵の前線を押す! 近接部隊全員準備しておけ! 敵前線と接触すると同時に近接戦を開始する!!」


『了解!』


 星悟の指示に応答を返した生徒達は敵前線の向こう側に佇む鋼の巨人に揃って驚いていた。


 身長十数メートルクラスの軍神、通称重軍神と呼ばれる二足歩行機動兵器である濃紺色の機体色も新しい量産型機、光輝は二機隊形でシンプルな隊形を組んで前進してきていた。


「く、Aチーム。こちらBチーム。敵の重軍神を確認、数は二。注意されたし」


『こちらBチーム、了解。お前等、ガンマに連絡は?』


「いや、未だ良いだろう。そう言えばお前等、千夏はどうした?」


『あ〜そりゃあな、今最前線で役職者と戦闘してる』


「了解、まー取り敢えず死ぬなよ」


 軽口を叩きながら通信を切った星悟とBチームリーダーは戦いの火花を散らす宙を見上げて呟いた。


 宙を舞う三機のパワードスーツ型軽軍神は術式連結を済ませた大型の刀と補給で受け取った武装を用いて激突し始め、千夏は増設された後付式背面アームユニットと両手に握ったES社製小型サブマシンガン『ES-SMG-7』を向けて射撃すると宙を走った火線の光が千夏を取り囲む様に機動する新中部地方高校副生徒会書記、ヤン・ジシュカと同副生徒会会計、藤原秀郷に向けて殺到し、弾切れになったそれを自動装填機構で再装填した千夏は脚部ハードポイントに接続したミサイルランチャーを一斉射して一撃離脱を図る。


 二機に殺到するミサイル群が渦を巻いて防御用マインに衝突して炸裂し、爆風を撒き散らしながら両機の視界を塞ぐとアームユニットから弾幕を張りながら斬り掛かって来た千夏の一閃を受け止めたヤンは弾き、スラスターを噴射して上昇した。


 そして、秀郷はヤンから投げ渡されていたES社製アサルトライフル『AR-15』を千夏に向けて射撃すると急上昇した千夏を追う様に銃口を上げて背面ハードポイントに接続された複合武装コンテナから小型ミサイルを射撃し、尾を引いて殺到するミサイルの群れはSMG-7に迎撃されて砕け散った。


 だが、それを囮にする様に複合武装コンテナからパージされたミサイルランチャーが開いたコンテナハッチに押し退けられ、コンテナハッチからは一対の口径110mmガンランチャーが展開された。


「堕ちろッ!!」


 刹那、ガンランチャーから対軽軍神用ミサイルが放たれ、千夏の機体に直撃すると彼女の機体を軽々と吹き飛ばす。


 それを見た秀郷は左手に持っていたAR-15を投げ捨てて右のAR-15の弾倉を落とし、次の弾倉をグリップ底に叩き込んで再装填を済ませると黒煙を裂いて突撃してきた千夏の一閃を鞘ごとハードポイントから取り外した大刀で受け止めると鞘を取り払って左手で構えた秀郷は距離を取ってヤンを前に出させながら援護射撃を放つ。


 二種類の弾種を任意装填できるガンランチャーにHEAT弾を装填した秀郷はHMDにターゲットサイトを呼び出して視線ロックオンを行なってから慎重に砲撃を放って左のアームユニットに直撃させると絶から手を離した千夏がスカート上のサイドアーマーから対軽軍神用ロケット砲を取り出して構えるとHMDの簡易ロックオンシステムで補足すると一射して秀郷を牽制し、右の絶でヤンの一閃を受け止める。


「剥し絶て!! 三日月宗近!!」


 優美な刃の腹に表示を走らせた刀を構えたヤンが発動の一声を叫ぶと同時、パージしたアームユニットがボルトに至るまでもが空中分解し、分解されたパーツが目下に降り注いでいく。


 何だ、と疑問を思い浮かべた千夏は続く二発目を回避するとヤンの背後に回り込んで蹴り飛ばした。


 三発目、右のサイドスカートをパージして盾代わりにするが分解されない。単純構造故か、と予想した千夏はそのまま背後からの銃撃を避けると左サイドスカートをパージして機体重量を減らして機動力と運動性能を上げると挟み込みを避ける為に上空に向けて飛翔した。


 激流・壱型と術式連結させている絶は刀型術式外殻内に取り付けられたカートリッジコネクタからの魔力供給により通常より多く使用する事が出来る状況で千夏は腰部からスライドさせてきた一対の試作型射撃兵器を構える。


「司、PW(フォトン・ウェザドリィ)兵器を使う!! データ取っとけよ!!」


『りょ、了解!! 千夏、くれぐれも気をつけてね!! まだ試作段階なんだから!!』


 頷いた千夏は司から送られてきたコンソールとPW兵器の全データを開示し、跳ね上がりながら側腰部に固定されたPW兵器の粒子ビーム砲を照準し、HMDを使用して秀郷が捕捉し、チャージの後、射撃すると亜音速の粒子ビームが秀郷に向けて直進する。


「PW兵器!? もう実用化まで至ってるのか!!」


 叫んだ秀郷は亜音速まで加速した粒子の光線を亜空間バイパスで取り出し、左腕のハードポイントに固定した対魔力加工の大型シールドで受け止めて一対のガンランチャーの砲身から反撃のHEAT弾を放って飛翔するとシールドをパージし、左手に構えた刀型術式外殻から光を迸らせて術式効果を発動させた。


「斬り割れ、大典太!!」


 幅広の刀型術式武装、大典太を発動させた秀郷は目を細めて突撃してきた千夏に向けて切断能力を振るった。


「な・・・・?」


 二重構造の装甲ごと断たれた左腕から血液を流し、痛覚に表情を歪めた千夏は側腰部に折り畳まれたPW兵器から白煙を噴き出しながら砲身を冷却し、外殻で膨らませた絶を起動させて三日月宗近を起動させたヤンに斬り掛かる。


「薙ぎ絶ちやがれ!!」


「剥し絶て!! 三日月宗近!!」


 同時に叫んだ両者の術式武装が激突し、爆裂した浅葱色の光が千夏達の目下に降り注ぐ中で千夏はガンランチャーのミサイルを高度を下げて回避する。


 接近戦の機会が伺えないせいかイライラし始めた千夏は逆さの体勢で左腕から太腿の自動装填機構から取り外したSMG-7を射撃し、痛む左腕から反動に押される様に血液が噴き出して叫びを上げた千夏がヤンに向けて滅茶苦茶に剣戟を振るう。


 術式効果などを使わず、絶を振るい続けた千夏は押し返す様な動きを見せたヤンの顔面に左の膝蹴りを叩き込み、仰け反った彼女の左肩から右腰にかけてを術式効果を使った状態での袈裟で斬り裂くと血液を中に靡かせながら落下していったヤンの腹部に追撃の飛び蹴りを叩き込む。


 積載装甲が削れ、落下していったヤンを見下ろした後、スラスターに魔力を蓄積した千夏はガンランチャーから放たれたミサイルを回避するとPW兵器を起動させて秀郷に向けて粒子ビームを撃ち込むとスラスターから魔力を放出する。


 腰部に取り付けられたPW兵器用のドライブから魔力が吹き出ると同時、ドライブに接続されたバイパスから供給された魔力が崩壊してPW粒子に変わる。


 そして、ガンランチャーから放たれたHEAT弾を回避した千夏は秀郷と斬り結び、至近距離からの砲撃を絶を盾に使って避けると高高度から強大なPW砲を拡張空間から引き抜いて構えると腰のPW兵器を跳ね上げた状態で蓄積されたPW粒子を最大まで供給してトリガーを引き絞り、高濃度のPW粒子を宙にぶちまけた。


「穿て!!」


 HMDにロックオンされた秀郷は高濃度のPW粒子を受けて吹き飛んだ。


「よし・・・上出来か・・・」


 ドライブとの直接連結用のケーブルを圧縮空気で弾き、解除したPW砲を肩に預けた千夏はビルに突き刺さっていた絶を引き抜くと絶を拡張空間に納め、敵本部に向けて冷却中のPW砲を手に飛翔していった。


 一方その頃、流星率いるγチームは小道を使って敵本部に向かっていた、が。


『A1よりHQへ敵部隊を確認。これより攻撃する!!』


 建物の間を縫う様に移動するγチームを本部周辺に展開していた重軍神、光輝が発見し、戦闘に入るも狭い小道に入られて攻撃出来ず、本部から送られる迎撃部隊に任せると新関東高校側から響いてきた低音に空を見上げた。


『おい、A1。今の・・・』


『落ち着けA2、先程算出した重軍神の落下速度だ。そんなに早くこちらには――――』


 A2の目前、吹き飛んだA1の頭部に上空を見上げたA2は手にしたMAG16A1を構えて対空射撃を行ない、銃弾が裂いた曇から姿を表した機体にフォアグリップから放し、空いた左手を払う様に動かしたA2は目を見開いて腰からオーガテックコンバットナイフを引き抜いて構えた。


『戦闘機・・・いや、可変型重軍神か!!』


 落下する機体は打ち上げ後に使用していたらしい補強パーツ兼用のドロップタンクブースターを切り放し、戦闘機に近しい姿を人型に崩すと滑る様な機動で軟着陸して一対のカメラセンサーをA2の方を向けた。


『ち、畜しょ―――――』


 降下してきた重軍神を罵倒しながらナイフで斬り掛かったA2は高高度から放たれた120mmAP弾の狙撃に頭部を吹き飛ばされ、脇にあったビルに突っ込んでビルの一部を瓦解させながらA2は機能を停止させた。


 A2を流し見た可変型重軍神『ラピディティレイダー』はセンサーを集積した光学部品から発する視線を周囲に巡らせながら手にしたマルチプルランスの砲口を巡らせ、後続する味方の重軍神二機に視線をやると、姿を現したB・C軍神部隊に後続の二機と共に散開した。


 ラピディティレイダーのパイロットでアーマードガールと呼ばれる機械種族の少女、ラジエルは自身の体と同化させたラピディティレイダーを滑らせ、前面スラスターで制動を掛けると屈めた体を伸ばして飛翔し、空中で変形した。


 大型の主翼を脛から伸ばす前足を機体側面に向け、ランスを抱える様に構え、頭部を収めてスラスターを駆動させて飛翔する。


『な、何だあの機動性能は・・・!?』


 高速で飛翔するラピディティレイダーに向けて口径30mmの重軍神用アサルトライフルMAG16A1を構えたB1は空中で旋回してきたラピディティレイダーに向けて射撃するとマルチプルランスから放たれた粒子ビームに左腕を滅多打ちにされて砕かれる。


 滅多打ちにされた左腕に流れる魔力が反応して誘爆するのを咄嗟に炸薬で吹き飛ばす事で防いだB1はMAG16A1からライフル弾を放ち、傍らに投げ捨てると余剰魔力を圧縮して宙に放つ事でスラスターとして使用し、加速すると腰からコンバットナイフを引き抜いて突きの動きに構えた。


『ぉおおおおっ!!』


 マルチプルランスとコンバットナイフが打ち合い、火花を散らす中、ラピディティレイダーの背後からMAG16A1を構えたB2がトリガーを引こうとした瞬間、MAG16A1を保持していた手が右腕ごと切断され、太股の鞘からコンバットナイフを引き抜き、視線を左に流したB2は24式対重軍神刀『砕牙』を振り下ろした黒塗りの機体にたじろいた。


 近接格闘特化型重軍神『セファー』、光輝に使用されているマルチチューブラーフレームの試験採用機として開発された試作機で限界性能の見極めの為に敢えてフレーム負荷の大きい格闘能力を重要視した機体の瞬発力と機動力は他の機体の追従を許さず、また操縦者であるプルトーネの持つ高い格闘性能を合わさって性能を遺憾なく発揮していた。


 距離を置き、セファーに向けてコンバットナイフを投擲したB2は腰から裸の特殊な形状の刀を引き抜くと上段に砕牙を構えたセファーに向けて突撃していき、右腕に流れていた魔力を使って背面スラスターへの供給量を増やす様に設定し、突撃した。


 そして、大規模な加速の擦れ違い様にB2の刀を弾いたセファーは彼の背後で格闘戦装備を備えたC3の剣戟を受け止めずに弾き、脚部スラスターで左に回り込む様に高速移動しようとするがつんのめる様な機動で拳銃を構えたB2の一撃に動きを一瞬止めてしまう。


『く、援護を!! サダルスート!!』


『了解』


 焦りを帯びたプルトーネの言葉に喜の感情を帯びさせた返答を放ったのは先程A2の頭部を濃紺の射撃戦特化型重軍神、ブリエントの狙撃能力を用いて吹き飛ばした少女、サダルスートで彼女は自身の感覚と同化させたブリエントの手足で腰溜めに添えていた狙撃銃を持ち上げると同化した感覚に狙撃モード起動を呼び掛けると変化した視界にB2を捉える。


 浮遊しながらの視界の中でズームアップして映し出された無防備にも拳銃による射撃を繰り返すB2に向けてサダルスートは正確な一射を撃ち込み、一撃で頭部を弾き飛ばすと次弾で左腕を撃ち飛ばす。


 崩れ落ちたB2にほくそ笑んだサダルスートは露出したガンカメラと連動している狙撃銃を動かしてC1、B3二機と銃撃戦を繰り広げる義妹の方に銃口を向けた。


『苦戦してるかなぁ・・・』


 呟いたサダルスートの視線の先、MAG16A1を連射する彼女の義妹、アストレアが用いている水色の重軍神の名は『ムーンライトセレナーデ』。


 量産化を視野に入れた万能機で光輝や雷電の祖とも言えるが試作機らしく開発初期ながら新関東高校整備班の改造である程度の高性能さは確保されており、今、量産型二機を相手に立ち回れているのもその性能の恩恵だった。


『お手伝い、しようかな。私だって一応お義姉ちゃんだし』


 言いながら狙撃銃を構えさせたサダルスートはムーンライトセレナーデに向けて防盾を構えながら突撃したC1に向けて一射した。


 奇しくも120mmAP弾は防盾に弾かれて逸れたものの遠距離狙撃に気付かせる事で相手にプレッシャーを与える事が出来るので効果はあり、事実両手に構えたMAG16A1を用いて後方射撃に徹していたB3は周囲を警戒して動けず、盾を構えたC1もムーンライトセレナーデに攻められずに停滞していた。


 弾切れになった狙撃銃のマガジンを捨て、薬室内に次弾として装填させた牽制用の焼夷弾を射撃し、狙い通り怯んだC1に向けてMAG16A1を連射したアストレアは太股の鞘からコンバットナイフを引き抜き、チェーンソー機構を用いている刃の横一閃で盾を切るとアストレアとC1はナイフ同士で切り結び、感覚を一体化させた鋼鉄の腕で力一杯刃を弾かせたアストレアは目前に突き出された銃口に戦慄する、が。


『させるものか!!』


 射撃を阻止しようとマルチプルランスから高速連射されたPW粒子を転用した粒子ビームによって滅多打ちにされたC1は膝をついて風穴から黒煙を噴き出しながら沈黙する。行く手を塞ぐC1を飛び越えたアストレアは背後で惑ったB3に向けてMAG16A1を放ち、風穴を生んでいく。


『ち、畜生ぉおおおおおおおおあああああああ!!』


 怒号と共にB3はMAG16A1を背面マウントラッチに収めて腰のマウントラッチから取り出して両手に構えた口径30mm多身機関砲MAG144A1を射撃し、全身にライフル弾を浴びながらムーンライトセレナーデに向けて弾幕を張る。


 唸りを上げる機関部が凄まじい熱が生まれ、B3のステータスコンソールに連結しているMAG144A1のヒートゲージが上昇していく。


 そして、一杯になったヒートゲージに強制停止したMAG144A1に戸惑い、縋る様にトリガースイッチを押したB3は腰部ドラムマガジン諸共パージして背面から取り出した二丁のMAG16A1を構えて射撃するがそれまでにB3の懐に飛び込んだムーンライトセレナーデが牽制ついでの蹴りを叩き込む。


 後方に大きく仰け反ったB3は体勢を立て直そうとした瞬間、背後からの剣戟に腰から胴を真っ二つにされてそのまま崩れ落ちた。


『アストレア、相変わらず無謀なんですね。私が来なかったらどうしていたのです』


『その時はその時、だよっプルトーネ!』


 斬り落としで付いた機械油を血払いする様に振らせたプルトーネは鈍色に瞬く砕牙を鞘に収め、視線を周囲に巡らせると一息つく様に黒塗りの機体を微小に前後動させると不意に轟いた接近警報に急ぎ背面を向き、同時砕牙の柄に手を掛ける。


 コンバットナイフを手に突撃してくるA3に向けて抜刀しようにも周囲をビルに囲まれて抜き打ちには向かず、恐らくサダルスートの狙撃も気の抜けているあの性格からしてすぐに対応出来る様な体制をとっている訳が無いから狙撃も期待できない。


 ならばどうなるのか。恐らく良くて刺し違い、最悪単機撃破。そんな状況でプルトーネは自身の左側のビルから放たれた三条の光線に頭部を吹き飛ばされるA3を見て何が起きたのかが分からずに唖然としていた。


『ったく、油断し過ぎだぜ。アーマードガールの連中よ』


『千夏さん・・・』


 白煙を上げるPW砲をパージして屋上に座り込む千夏に視線を向けたプルトーネが驚きを含めた口調でほ、と一息ついた彼女を呼びかけ、黒塗りの機体の横、水色の重軍神に視線を流しながら立ち上がった千夏に手を差し伸べる。


『お?』


『どうぞ。恐らく貴方の身体疲労は限界だと思うので』


『それは有り難いが、まだ二機残ってる。それを殲滅してからにしてもらうぜ』


 笑みの形に口を歪ませ、T字路の向こう側を指差した千夏は三機の機動の邪魔にならない様、低空飛行で離脱するとそれを流し見ていたプルトーネは柄に手を添えながら跳躍体勢に移行する。


 建造物の密集する地上よりも空中の方が抜刀しやすく、なおかつ落下の勢いで切り掛かりの一撃を重くする事が出来る。


『行きます。アストレア、そこにある機関砲で援護を。姉さん、合わせて突撃してください。そしてサダルスート、仕留め損ないをお願いします』


 突撃担当として一連の指示を出したプルトーネは砕牙の柄に手を掛けたまま空高く跳躍し、柄を握り締めて抜刀し、降下して同じく抜刀したC2と打ち合い、C2に掛ける荷重を倍化させる為に背面スラスターを稼動させて押し込む。


 悲鳴を上げるアスファルトの道路が表面を捲れ上がらせ、C2は足裏を路面に食い込ませて踏ん張る。


 寝かせて構えたC2の刀が火花を散らし、推力の差から徐々に後退しながら耐えるC2の背後、C3がセファーを仕留めようとMAG16A1のアンダーマウントレールに備えたグレネードランチャー、MAG400を構えて照準し、そのチャンスを逃さぬ様に迷わずトリガーを引き絞る。


 その直前、C2から飛び退いたセファーは静止した空中で身を回し、そのまま入れ替わる様にして変形したラピディティ・レイダーが突撃していく。


 マルチプルランスの鋭い一撃を回避したC2は離脱したラピディティレイダーと入れ替わりに放たれた30mm弾に得物を砕かれ、仰け反る様に射線から一度後退するとC3からのデータ供給からムーンライトセレナーデを認識し、両腰から補助用の小太刀を両手に引き抜いて突撃した。


 だが、C2はふと足を止め、半ばまで行った所で急制動を掛け、120mmAP弾の狙撃を回避するとC3に狙撃手の位置データを送信し、自身はムーンライトセレナーデの元へと加速の一撃を背面の大気に叩きつけて加速し、切り掛かった。


 機関砲を捨て、ナイフを引き抜いたアストレアは突き出された左の小太刀を弾き、身を右に回すとC2の背後に回って背面からMAG16A1を取り出すと照準する。


 だが、彼女の背後、射撃を阻害する様に抱き付いて来た機体がある。


『やらせるかよ!!』


 狙撃によって頭部を吹き飛ばされた機体、A1だ。ノイズ混じりの予備カメラ映像で動くA1の拘束を振り解いたアストレアは目前で振り返っていたC2に戦慄し、覚悟を決めかけていたが上空からの声に救いを得た。


 上空に飛翔していたラジエルだ。急降下してきた彼女は足を伸ばし、両手の小太刀を突きの体勢に構えるC2を蹴り飛ばすと空中で制動をかけ、離脱する為に空中に飛翔するとマルチプルランスを構え直して射撃した。


 雨の様に目前に降り注ぐ粒子ビームを後退して回避したC2はラピディティレイダーの後方から砕牙を構えて入れ替わったセファーと打ち合うと同時に己の敗北を悟った。


 縦に振り下ろされる一閃が右に身を動かしていたC2の左腕を切り落とし、ラピディティレイダーが投擲したマルチプルランスがC2の頭部を抉って吹き飛ばす。


 砲撃装備のC3のシグナルが失せ、C2は己が重軍神部隊の最後なのだと知った。だから。


『未だだ・・・未だ終わってない!!』


 左腕を突き出し、叫びを上げたC2はスラスターを始動させて高速で突撃する。


『せめて貴様等を道連れにっ!!』


 叫んだC2は身を揺らしたセファーの横一閃とすれ違う様に突撃し、束の間の静止の後に砕牙の刃を鞘に収めたセファーが大きく合致音を鳴らすと胴から二つに切断されたC2は軋みを上げながら倒れていった。


 そして、役目を終えた三機は千夏を回収するとそのままサダルスートと合流して本部へと帰還していった。


 一方重軍神部隊からの連絡を受けて流星達γ部隊の進行阻止に動いた本部防衛隊は縦列防衛隊形でγ部隊を待ちながら前面に役職者達を配置していた。


「来た・・・か」


 新中部地方生徒会長、瀬河隆一が呟くと同時小道から光が爆ぜた。


「くっ・・・いきなり銃撃か!?」


 飛び退いた隆一が射線の先、走りながらP90を構える流星に視線を注ぎ、P90を下ろした流星の両側で走る大輝と和輝は弾幕を避ける為に跳び上がった隆一の背後、得物を手に飛び出してきた男と着地した隆一に突撃し、戦闘を開始する。


「流星、こいつ等は俺達に任せて本部の制圧に移れ!!」


「了解!! 総員、散開!!」


 和輝と大輝を見送った流星の指示に了解、と返答した全員は散開し、それぞれ攻撃を始めるが本部テラスから放たれた弾丸に左翼に展開していた部隊員が吹き飛ばされながら悲鳴を上げる。


 何事だ、と流星は射線の先を見上げ、見覚えのある腕甲を突き出して構える少女を見上げながらP90を捨て、剣舞を引き抜いた。


「さて・・僕の相手はあの子か」


 剣の腹を盾に使って構えた流星は直後に放たれた射撃を腹を使って弾き、降りてきた少女に微笑みながら剣部を構えた。


 一方、新中部高校生徒会副会長、立本政近と相対した大輝は俯きながら軽く手首を鳴らし、微笑を浮かべると政近の方へ視線を流した。


 先程から一言も話さず、ただただ何かを持っているらしい政近は準備運動を終えた大輝を見ると同時、手にした得物で突き込んだ。


「!?」


 痛覚に目を見開いた大輝の左腕から朱色の液体が宙に飛散する。そして、大輝はその瞬間に何が起きているのかを理解できていなかった。


 彼には何も見えなかったのではなく、何で攻撃されたのかが全く理解できなかった。そう、政近が持っている得物が何なのかが理解できないのである。


「何の仕掛けだ・・・こりゃあ」


 武器の種類を考えようにもそれを考える時だけ頭が重く、ぼんやりとした思考だけが頭の中を巡っていた。


 対する政近から返答は来ない。沈黙が戦場を支配し、左手を押さえた大輝は一つ笑みを落とし、塞がっていく傷口から手を離すと両拳を握り締めて政近に向けて走り出すと拳を叩きつけた。


 拳と激突したらしい何かが共振音と火花を散らし、耐え難い衝撃に吹き飛ばされた政近は表情を強張らせ、手にしている何かを振り回して構えなおすと連続で畳み掛ける様な攻撃を仕掛けながら大輝の射程距離から自身を離す。


 大輝の拳の一撃を警戒し始めた政近は高速で振り回す得物で牽制し、大輝は不可能視の得物を自身の肌に掠過させながら距離を詰めようと体の荷重を次々に移動させて飛び込みのタイミングを計る。


「完全にタイミングの勝負だな・・・」


 苦言を放ちながら拳を構え、政近の懐に飛び込んで一撃を叩き込んだ大輝は拳に弾かれて吹き飛び、引き摺られる様に後退した政近を追う様に接近するがその前に得物を振られて牽制された。


 それが掠めるより早く回避した大輝は不可視の得物のトリックを見破れずに歯噛みしながらも何かを隠す様な政近の挙動に若干の違和感を覚え、ぼやけた頭の中でそれらを組み立てていった。


 先ず、政近が自分を警戒するに足りる理由が一つ。それは拳の威力だ。大輝が撃ち出す拳の威力は強烈で警戒するには十分だと言えるが自身の拳の威力を知っている大輝には警戒にしては行き過ぎた政近の挙動に違和感を覚えていた。


「ッ!?」


 考えを遮る様に突き込まれた得物を見えないなりに大輝は受け止めようと手を動かし、その瞬間。大輝は手の内に収まった一本の長槍の姿を捉えた。


 他の槍に比べて長い穂先を受け止めた左手から血が流れ、左腕を伝って地面に落ちていく、だが大輝にはそれをも気にならない。


「捉えたぜ、お前の武器をよッ!!」


 言い放つと同時に息を吸い、拳を放つと同時に息を吐き出すと政近の胸部に拳を打ち込んだ。


 拳を受け、意識を飛ばしかけた政近は一撃を堪えると大輝に向けて蹴りを叩き込み、槍から大輝を引き剥がすと再び認識出来なくなった槍の柄で大輝を殴り飛ばす。


 そして、ふらつく身体を柄で支え、呼吸を整えると構えを直した。


 再び槍を認識出来なくなった大輝だがそのメカニズムを若干ではあるが理解していた。あの槍は自分が触る事で現出し、槍として自分の視界に映る。


 更に詳しく言えば槍の銘は『御手杵』。そしてその術式効果は携行時の認識の一切を遮断する事だ。


 つまり、槍に触れれば姿は分かる。だがこの槍の真価はそこでは無く、携行時にこの槍に関する一切を忘れ去る事にあり、即ち、刺された事実すらも忘れ去る魔槍と化している。


 突き込みの瞬間に姿を現す槍の穂先を抜群の反射神経で弾き、捌いていく大輝は穂先を掴み取り、

身を退け逸らせて引き寄せる様に動かすと拳を構えた。


 だが、政近はそれに対して先程とは異なる動きを見せた。彼は槍の石突に取り付けられた爪を地面に突き立てて食い込ませ、自身の重量を柄に掛けてしならせ、バネの様に弾性エネルギーを用いて高く跳躍すると大輝を見下ろし、得物を振り下ろすと畳み掛ける様に両腕の手甲で刃を受け止めた大輝の腹部に踏みつける様な蹴りを叩き込む。


 腹の中を吐き出す様な悲鳴と共に短距離を吹っ飛んだ大輝はよろめき、呻く様な声と共に立ち上がると見せ付ける様に拳を握り、真正面から突撃し、叫びを上げながら拳を突き出した。


 大輝に気圧されながらも政近は右腰で支え、右手一本で御手杵を突き出す。


 一瞬交錯した攻撃がそれぞれの武器を掠過し、そして、振りぬき前の大輝の拳が政近の鳩尾に直撃し、くの字に体を折った政近ごと一気に前方へ突き出した拳から楔形の突風が吹き荒れ、圧縮されていた大気が白い霧を生み出して周囲の大気を跳ね飛ばす。


 荒れていた呼吸を整え、屈めていた体を上げた大輝は転送されていく政近を見ながら身を翻して本部の方へゆっくりと歩いていった。


「く・・・」


 一方の流星は自分と相性の悪いスピードを武器とする少女、近藤綾女の畳み掛ける様な体術に苦戦を強いられていた。


 腹に食い込む様な蹴りを食らい、吹っ飛び掛けた意識を繋ぎ止めて反撃の一閃を振るもそれを軽々と後方宙返りで避けられ、そして、距離が離れ、腰のホルスターから自動拳銃を引き抜き掛けた流星は隙を埋める様な銭撃の射撃を剣舞の腹で捌き、綾女は彼の足元に滑り込む様にして足を払い、宙に浮いた彼を蹴り飛ばした。


 声も出せず、地面に叩き付けられた流星は叩き付けられた勢いを使って起き上がり、ホルスターから自動拳銃を引き抜いて撃発させながら右手の剣舞を起動させた。


 空中に投影された四本の剣が一斉に剣舞の延長の様に動き、鎖の様に連なった剣が鞭の様にしなりながら綾女の足場を薙ぎ払う。


「何やこのけったいな仕掛けは!!」


 笑いながら言った綾女は拳銃の射線から体を外しながら飛び退き、上部装甲をスライドさせた銭撃に百枚単位に丸めた百円玉を装填し、高張力鋼で出来た上部装甲を閉じると側面のレバーをスライドさせて発射動作を終える。


 綾女自身これを勿体無いと思いつつも必要十分な投資と考える事にして前向きに考えた。


 術式強化された百円玉がその価値に見合った強化速度で剣の鞭を振るう流星に迫るがそれを薙ぎ払う様に振るった彼は空中で連結を解き、疎らな角度をつけて百円玉を弾いていくと砕け散った剣はその数を増やすと同時、高速で三連射された百円玉の全てを弾いて軌道を逸らす。


 そして、鞘に込めると同時に排出された魔力カートリッジの代わりを柄尻に叩き込み、装填を終えた流星は全速力で走りながら拳銃の弾倉を交換して照準を合わせた。


「しゃあないな、あんま使いたないんやけどな・・・勿体無いから」


『発射方式変更:銭撃:バックショットモード』


 皮肉る様に笑った綾女の左腕に走った表示をそう読み取った流星は右手添えに構えられた銭撃を警戒して通常の物より長めの魔力カートリッジ容量を全て用いて防御の為の剣を無数に生み出すとそれらを宙に走らせた。


 刹那、銭撃の銃口から圧縮された九十七発もの百円玉がそれぞれの価値を累乗した威力と速度で真正面の流星を包み込む様に炸裂、拡散し、弾道を追う様に動いた剣を叩き折りながら流星に殺到した。


 避けられない。自身の身体能力の限界を一番知っている流星は目前で光を放つ九十七個もの光弾を見ながら歯噛みした。


「流石、九千七百円もの価値があるなあ」


 感嘆する様に呟いた綾女はやれやれと溜め息をつき、自身のミニスカートに付いた埃を払って本部に引き返し始めた瞬間。


 蔓延した黒煙を裂き、爆音を背後に飛翔してきた拳銃弾の群れに反応した綾女は防弾加工の制服で拳銃弾の貫通をガードすると九十七発もの超高速硬貨弾を食らい、血だらけになった流星を視界に捉えながら腰のホルスターユニットから引き抜いた五百円玉を銭撃に装填する。


 既に流星が受けているダメージは彼にとって限界その物の筈だ。だから綾女は銭撃の発射方式を単発、精密射撃用に変更すると射撃した。


 だが、微笑を浮かべた流星の目前に描かれた曲線から炎の壁が形成され、五百円玉は高出力の炎に溶かし消された。


「何や・・・?」


 視界を塞いでいた炎が突然消え失せ、払う様に散った火の粉が周囲に振り注がれる中で綾女は流星を庇う様に立ちはだかる長髪の少女にたじろきを見せながらも十円玉百枚の束を左手の銭撃に装填する。


「早かったね、星良」


 火の粉に焼かれる長髪を揺らした少女、星良に微笑みかけた流星はふらつく足を立たせて手を差し伸べてきた彼女の手を取って息を整えなおす。


「私を誰だと思ってるの。あなたの妹よ? 万能を誇る貴方の妹に不可能はないわ」


「そう言ってくれると嬉しいよ」


 支える様に手を回しながら微笑む星良にまた笑い返した流星は銭撃を構えた綾女を見ると星良を突き放す様に押そうとしたがそれを星良に遮られて意図を読みかねた流星は綾女の胸部に直撃した二つの火線に唖然とした。


 吹き飛び、仰向けに倒れた綾女を射た二条の火線の先、いきなり開いた通信回線の声と手を大きく振る動きに誰かを認識した。


「ご苦労様。フェルナ、カルマ」


『いえいえ』


『良いって事よぉー』


 灼絶を地面に付きたて、流星を支える両手の内左腕を離し、通信機に添えて通話をした星良は回線を開けたまま、受けたダメージで動けない流星の代行として現場の指示を始め、戻ってきた大輝と合流して和輝の状況を彼の闘いの場の近くにいる生徒から聞いていた。


 その和輝は新中部高校生徒会長である瀬河隆一と激闘と呼ぶには程遠い戦いを繰り広げていた。


「く・・・!?」


 武器任せの隆一は無手の和輝に剣戟を軽々と避けられては的確な軽めのカウンターを打ち込まれて怯む。


 隆一は歯噛みしながら和輝の一撃を避け、それが牽制と知るがその時には和輝の左フックが顔面に突き刺さっていた。


「く、舐めるな!!」


 苛立ち混じりの突き込みを腰から引き抜いた短刀で弾いた和輝はがら空きの腹部に膝蹴りを叩き込み、

怯ませた隙に左足のソバットを打ち込む。


 吹き飛んだ隆一だがそれでも倒れない。彼の持つ術式武装の効果なのだが攻め続けられている状況下では何の役にも立っていなかった。


「く・・・そ・・・」


 腹を押さえながら呻き、ゆっくりと立ち上がった隆一は目を座らせながら身構える和輝を睨み付けると刀を振るった。


 だが、突撃した隆一の顎を飛び越え様に蹴り飛ばした和輝は身を回しながら着地するとふらつく身体を戻した隆一が放った銃撃を背面に喰らい、つんのめると着地で先に地につけた右足を軸に身体を回し、腰から両腕に引き抜いた日ノ本小絶を構えて隆一が手にした刀型術式武装『数珠丸』と打ち合せた。


 高速で振るう隆一と打ち合せながら目まぐるしく小絶の柄の順手、逆手を切り替える和輝は連なった剣戟の轟音を鳴らしながら隆一の隙を窺った。


 一方の隆一は弾かれる数珠丸の振りをコンパクトに纏めて弾かれた際の隙を埋めながら小絶を振るう和輝を正面に捉えつつ、彼は大きく刀の刃を叩きつけて右の小絶を弾き飛ばすと至近距離でマグナム弾使用の自動拳銃、デザートイーグルを引き抜いて撃ち放った。


 爆音と共に放たれたマグナム弾を迎え撃つ為に左の小絶を投擲した和輝は半実体の刃に弾かれたマグナム弾の向こう、続けざまに放たれたマグナム弾をのけぞってそれを避けると空いた左手のハンドスプリングで身体を跳ね上がらせて後方で一回転させて着地した。


 そして、高速連射されたマグナム弾を連続で避けながら左手にマグナムプラスを回転させながら引き抜いた和輝はリボルバーの撃鉄を寝かせた小絶の柄で弾く様に下ろし、リロードを終えた隆一のデザートイーグルに銃口を向けて一射した。


 同時に飛んだマグナム弾が打ち合って火花を散らし、真鍮の澄んだ響きがフラッシュと共に鳴り響く。


 そして、激突した両者の弾丸が弾かれて地面に落ち、次弾を既に放っていた両者はその結果を知るより早く突撃し、それぞれの得物で打ち合うと同時に高速攻撃の応酬が始まった。


 腰のユニットからライフル弾用のカートリッジを引き抜き、それらを宙に放った和輝は隆一の一閃を小絶で受け止めて弾くと右手に刀を引き抜いた隆一が手にしているデザートイーグルを彼はホルスターにマグナムプラスを納めたその流れで払い落とすと空いた左脇腹に引き戻しの左フックを打ち込んだ。


 湿った音と共に弾かれた隆一の身体が浮き上がり、涎と血を混じらせた胃液を口腔から吐瀉した隆一は浮き上がりながらも和輝の頬に回し蹴りを打ち込み、よろけた和輝に向けて着地と同時に刀による突きを行なうが左手に持ち直した直後に抜き放った単発拳銃の薬室にカートリッジを装填して撃鉄を下ろすと今度は単発拳銃を放った和輝は右手に自動拳銃を引き抜いて連射した。


 マズルフラッシュが連続して瞬き、弾を切らし、一旦宙に投げた自動拳銃と入れ替わる様に和輝の手に納まった単発拳銃は素早い照準と共に咆哮を上げ、内包していたライフル弾を宙に弾き飛ばすと自動拳銃を腰後ろのホルスターに納め、左のホルスターに納まっていたマグナムプラスと交換する様に左の短刀で突き込まれる切先や風を切る一閃を弾く。


 切先の突き込みを上に弾くと左脇に潜らせたマグナムプラスの銃口を隆一に向けて一射した。


「く・・・」


 隆一の頬を掠め過ぎる呪化マグナム弾は接触面の血流を一瞬止め、急速に鬱血した後、急速化した血流が疼きを生んで隆一の表情を歪ませた。


 だが、それでも火花でしか捉えられない両者の勢いは一切止まらず、逆に攻撃の速度は急激に上昇していきながら散る火花と宙を彩る紅を増やしていく。


 突き、斬り上げ、横薙ぎ、蹴り、踵落とし、肘撃。数秒の内に流れる攻撃はその全てが一撃の意図を持つが故に両者の精神力と体力を奪っていき、マグナムプラスと小絶を用いた機動戦を仕掛ける和輝は刀一本の隆一の右斜め後ろに回り、刀の振りを自身の右腕に掠めさせる様に動くと左の小絶の柄と共に握らせた身体強化と加速の術式を内包した二枚の術符に右腕から滲む血を付けて制動を掛けた左足に張り付けた。


 屈ませた左足に力を込め、自身の身体を弾き飛ばした和輝は迎撃に動いた隆一の一閃を宙に投じた鉄針で制すると躊躇いで鈍った振り下ろしを反復横飛びの容量で右に身体を弾き飛ばすと隆一の右肩に加速の勢いそのままに突き刺し、呻きを上げた彼の背後に向けて背後のホルスターから空いた左腕にマガジンと共に抜いた自動拳銃を握ると膝と挟み込む様に装填し、先に連射して弾を切らしたマグナムプラスを宙に投じ、自動拳銃のスライドを引いて止めの連射を叩き込んだ和輝は落ちてきたマグナムプラスのリボルバーを解放して空薬莢を全て排出した。


 スライドオープンしている自動拳銃のグリップ底部にマガジンを装填してロックを外すとスライドを戻して薬室に一発を込めると背面ホルスターに納めるとリボルバーに六発装填すると呻きながら立ち上がろうとする隆一にリロードした単発拳銃を一射した。


 息をつきながら単発拳銃の薬室を開き、術式信管弾のカートリッジを滑らせた和輝はそれを閉じると撃鉄を起こし、左のホルスターに納めて身を翻した。


「さって・・・」


 右手の血を付け、右足に左足と同じ術符を取り付けて走り出した和輝は通信表示で奈々美に術式大剣の転送を依頼すると待ち伏せていたらしい十五名の敵遊撃隊と激突した。


 走る勢いを止めない和輝は両手の指の間に挟む様に鉄針を引き抜いて構えると走り始め、先ず第一に横薙ぎに振って攻めてきた男子生徒の肩に足を着け、高く跳び上がると空中で身を捻って右足を踏ん張らせながら着地し、退いた周囲を見回すと正面にいた少年の槍の横薙ぎをダッキングして回避すると少年のボディアーマーに鉄針を突き刺して退場にし、身を屈めた状態での回し蹴りで背後に迫った少女の足下を払うと宙を舞った少女を掴んで自身の正面にいた男子に投げつける。


 立ち上がろうとして和輝は背後から迫る鬼人族の少年と少女が突き込んだ大剣を飛び越えて鉄針を投擲し、和輝の目下で鬼人族の二人は浅く突き刺さった鉄針を振り落とすとその傍にいたエルフ族の男女に和輝の迎撃を任せ、大剣を振るえるタイミングを計った。


 一方、背後からの銃撃を警戒しながらエルフ特有の高速攻撃を捌く和輝は左右からの挟み撃ちを飛んで避けるも背後からの一斉射撃に吹き飛ばされ、唇を噛み締めながら受け身で立ち上がった和輝はそのまま走り出しながら単発拳銃を撃発させた。


 轟音を背後に飛翔してきたライフル弾が銃口から数メートル進行した瞬間、弾丸から炸裂した光が散らばって三人のスナイパーに降り注ぐ。


「くそ・・・流石に数が足りん・・・!!」


 それでもなお残る九名の遊撃部隊を前に苦笑した和輝は上空から降り注いだ無数の火球に目を見開き、顔を覆っていた両腕を解いた彼は目前に立つ容姿の似通った少女と少年の名を呼んだ。


「星良、流星! 来てくれたのか!!」


「来なかったらどうしてたって言うのよ。それとも何? 一人で俺強いでもする気だった?」


「そんな判断も出来ない程馬鹿じゃないぞ、俺は」


 むきになる和輝に穏やかな笑みを浮かべた星良は戸惑い気味の苦笑を浮かべる流星の方を振り返り、炎を纏った刀を振るってある程度いる生徒達を振り返り、伏せていた目を開いて構えた。


 腰から剣を引き抜いた流星はクラウチングスタートの姿勢を取る為に身を屈める星良を横目に見つつ、剣舞を起動させた。


 流星の上空で生み出された剣達は束の間回りながら自由落下し、だが刃を横に振った流星の制御下に置かれると流星を取り囲む様に刃を回してそれぞれの位置を移ろわせる様に回転しながら副次的に突風を生み出しながら陣を作り出した刹那、流星に向けて放たれた銃弾が全て刃に弾かれ、流星の命令の下四方に散らばった剣は走り出した星良を追う様に空に飛翔し、煌く刃の切っ先を下に向けると一斉にそれを落として周囲にいる生徒達を牽制すると其処に向けて走り出した星良は剣の腹を足場に方向転換をする。


 身体強化の初速を得る為に足裏に強く蹴られて砕け散った剣の腹は原形を失い、虚空に溶ける様に銀の光を散らした。


 それを目で追いながら投影操作をしていく流星の隣に立った和輝はマグナムプラスで射撃しながら星良を援護する為に走り出す。


「待って和輝君!! これ!!」


 和輝を呼び止めた流星は和輝に武装転送表の空中表示を投げつける様に渡すとサムズアップで彼を送った。


 一方、流星との抜群のコンビネーションで不定軌道を描きながら駆け抜ける星良は背面、速度に合わせてきたらしいエルフ族の少年少女の方を振り返ると彼女の背面に三本の剣が壁になる様に突き立てられ、それによる停止を更なる加速に転じさせた星良は灼絶から炎を迸らせ、エルフ族の少年を吹き飛ばし、少年と入れ替わりに高く跳躍してきたエルフ族の少女を蹴り飛ばす。


 星良の背後から迫り来る鬼人族の少年少女の攻撃に対し、和輝は流星から預かった全武装の転送許可権限を用いて転送されてきた一対のチェーンソーを大剣と激突させた。


 火花を散らしながら大剣を弾いたそれは和輝の手によってそれぞれの柄尻を合致させ、振り回す度に耳障りな甲高い音を響かせる両刃剣と化したチェーンソーは柄を支点に頭上で振り回すと和輝は右手でそれを保持して走り出し、流れる様な連撃を始めた。


 鬼人族の少年が振るった大剣を弾き、回転方向を反転させた両刃のチェーンソーは和輝によってアッパーカット気味に飛び退いた鬼人族の少年を斬り付けるとそのまま縦に一回転し、少年の足元を向いたもう一方の刃を少年の足元に高速で突き込んだ和輝は掻き出す様に土砂を散らすチェーンソーの回転を利用して少年の背後へと飛び上がる。


 チェーンソーソードを二分にしながら着地した和輝は双剣形態のそれを大剣にぶつけ、火花を散らさせながら右に逸れさせるとそれを中心に身を回し、鬼人族の少年の頬に向けて蹴りを打ち込む。


 仰け反った少年の背後から今度はサーベルとマインゴーシュの二刀流で攻めてきた鬼人族の少女の一閃を次に亜空間から取り出した手裏剣を連投すると脇差を取り出して二刀に応じた。


 和輝が投じた手裏剣は鬼人族の少女に避けられるもその背後で展開していたエルフ族の少年少女達の戦いに大きな影響を及ぼし、手裏剣を肩に食らったエルフ族の少年は片手に携えた閃光手榴弾を星良に投げて少年の背後から続くエルフ族の少女の攻撃を支援する。


 目を眩まされて少女の姿を見失った星良は少年の銃撃を弾き、彼を斬り討つと少女を探す様に辺りを見回し、背後を走った気配に振り向き、接近している故に手にした灼絶を叩き付けた星良は激しく火花を散らす小絶とそれを手にしている少女に微笑むとそれを弾き、灼絶から炎を迸らせるとそれを推進器代わりに加速すると勢いそのままを叩き付けた。


 刀の一閃を受け、大きく弾き飛ばされた少女は宙を飛び、身を縦に回すと踏み止まりながら接近してくる星良の一閃をローリングで回避すると拳銃を放り、開けた左手に破片手榴弾を引き抜いて投擲する。


 灼絶の刀身から噴射される炎で無理矢理方向転換した星良は宙を舞う破片手榴弾に向けて炎を叩き込み、押し出す様に吹き飛ばすと小絶を構えた少女と打ち合い、エルフ特有の高速戦闘と高い魔術操作能力(別名魔術因数)を駆使する少女は空中に投影した魔方陣を介して術式を用いる。


 機関銃の如き速度で宙に放たれた風圧弾と水圧弾が高速で駆ける星良を追う様に宙を駆け、道路を砕くそれらにほくそ笑んだ千夏は灼絶の炎を収め、走り出すとそれに応じて流星が方向転換用の足場を作り出す。


 足場を蹴り飛ばし、横っ飛びに方向を変えた星良は少女に切先を向けると同時足を踏ん張らせ、大きく息を吸った。


「はっ!!」


 突きの動きで放たれ、渦を巻いた炎に向けて水圧弾と風圧弾を放った少女は勢いの止まらない炎に吹っ飛ばされて退場になった。


 一方の和輝はマインゴーシュの一突きを左に弾くと右の小絶を突き出し、突き出しをサーベルで往なした鬼人族の少女は和輝に膝蹴りを打ち込むと吹き飛んだ和輝を追う様に鬼人族の少年は大剣の横薙ぎを叩きつけて砕け散った小絶にほくそ笑む。


 だが、両手の小絶から伸びた新たな刃が少年の胸を捉えると浅く斬った皮膚が内から漏れ出した血液が宙に朱の色を描く。


 少年は胸を押さえながら片手で大剣を振るうと咄嗟に飛び退いた和輝は刃を収めた左の小絶の柄を腰後ろに挟み込み、空いた手に拳銃サイズの小振りな短機関銃を取ると高速連射した。


 連射された拳銃弾は鬼人族特有の皮膚の硬さによって弾かれるも彼らの筋肉に打撃のダメージを与え、和輝は右の小絶も収めると空いた手に腰の単発拳銃を引き抜いて跳び上がり、撃鉄を下ろしたそれを正面に向けて撃ち放った。


 爆音と轟音が轟き、少年に直撃したライフル弾から術式効果、筋肉弛緩効果が発動し、鬼人族の少年の筋力が低下する。


「おおおっ!!」


 和輝が繰り出した連続攻撃にボディアーマーを削られて退場した少年と入れ替わりに突撃してきた少女は交差させる様にサーベルとマインゴーシュを振るうと後方に転じながら着地した和輝は短機関銃を撃ち切るとそのままそれを投げ捨て、単発拳銃を収めて開いた両手に榴弾砲を改造した魔力砲を引き抜いた。


 冷却や魔力使用量から一発限りのそれを両手で保持し、構えた和輝は身の自由の効かない空中から接近し、後悔していた鬼人族の少女に向けてトリガーを引いた。


 刹那、膨大な熱量と亜音速の速度に引き裂かれた宙が悲鳴を上げ、周囲を震撼させながら飛翔した光線が周囲に広がっていた空気を吸収して鬼人族の少女に膨大な魔力の塊を容赦無く叩き付けた。


 重厚な音を立てて和輝の手から落ちた魔力砲は白煙を立ち上らせて地面に落ちると両手を振った和輝は赤くなった手を振って冷却していた。


「ふふ、馬鹿ね和輝。それ強化装甲か強化グローブか付けてないと火傷するわよ」


「何の罠だそれは!!」


「はいはい、地味に流星が蹴散らしてるけど本部攻めの方が不味いみたいだから援護に行くわよ」


 星良に付いて行く和輝と苦笑しながら二人に先行して走る流星はいったん二人の方を振り返ってペースを合わせると走り出した。


 意外と走るのが遅い流星は二人に尻を掴まれたまま押され、敵本部の方へ戻ってくると息を切らした二人の背を擦ると鉄壁と化していた本部前の防御に驚いていた。


「よぉ流星!! 戻ってきたか!!」


「うん・・・」


「・・・何でそんなにテンション低いんだ?」


 小首を傾げながら後退した大輝は上空、射撃を浴びせるカルマとフェルナを見上げつつ、膝を突いて呼吸を整えている和輝と星良を見下ろすと苦笑を浮かべる流星に状況を説明した。


 防衛部隊の大体の数は削ったらしいが術式大盾を手にした腰抜け女子の防御が抜けずに突入も突破も出来ない状況らしかった。


「流星、行けるな?」


「うん、任せて」


『武装起動:剣舞:最大駆動』


 大輝に頷きながら剣舞を引き抜いた流星は剣の腹を防盾の効果を発している地点に向け、術式効果を写し取ると一気に走り出し、切り付けて術式効果を中和する。


 剣舞に搭載されている上級術式によってもたらされた効果、刃に移した術式を自分の物として一時的に発揮できる能力。剣舞を術式に同化させる事が出来る為、防御系術式には強力な効果を発揮する。


 刷り込みによって破られた防御に涙目になりながら怯んだ女子、新中部高校生徒会書記、三田彩加は目前に迫った流星に大きな悲鳴を上げると飛び越えていった彼を視線で追い、後続する生徒達に逃げ出し、敵本部のフラッグを抜き取った流星は轟いたブザーに試合終了を悟った。


『戦闘終了。新関東高校の勝利により交渉は否定され、新日本代表は新関東高校のままです』


 わ、と湧いた新関東高校の面々に安堵の息をついた流星は上空からゆっくりと降下して来た青の重軍神に微笑みかけた。


「流星さん!! やりましたね!!」


 コックピットから降りてきた長い青髪の少女、サダルスートがブリエントの左腕を伝って降りてくると剣舞を収めた流星に抱きついた。


 微笑を浮かべる流星は彼女の体を受け止めると優しく撫でているとふと鳴ったゆっくりとした拍手に気付いて背後を振り返ると微笑を浮かべた有翼族の少女にサダルスートを押し退けた流星は顔をしかめた。


「楠?」


 流星が呼んだ名に頷いた少女は背後に連れていた少女達を傍らに寄らせると警戒している流星に笑い掛けた。


「久し振りだね、リュー君」


「そうだね、でも用事は違うんだろ?」


「うん、そう。私達は新ヨーロッパの学院代表、新イギリス学院生徒会。私はその長なんだよリュー君。

宣戦布告に来たついでに」


 言いながら楠は流星に抱き付き、目一杯息を吸い込み、埃塗れの流星の制服に何かを染みさせる。


 慌てて楠の頭を放した流星はだらしなく笑う楠に諦め半分の溜め息を落とし、鼻孔を動かす楠の鼻を摘むと思い切り引っ張って痛みに暴れる彼女の鼻を放した。


「楠、何してるの?」


「リュー君分補充してるの」


「相変わらずだね・・・ん?」


 殺気に振り返った流星は腰の剣舞が鞘ごと消えているのに気付くとそれぞれの武器を手に暗い目をした奈々美達に冷や汗をかいた流星は腕を抱いている楠と奈々美達を交互に見た。


「流星君・・・」


「あ、えっと、ちょっと・・・皆」


 奈々美と楠の睨み合いを諌めようとする流星はいきなり両腕を強く引かれて脱臼しそうになった。


 痛みに表情を歪めていく流星に気付いた双方が楠と奈々美を羽交い締めにして流星から引き離すと落ち着せようとしたのも束の間、頬を膨らませた楠が流星では無く、奈々美の方を指さしながら堂々と宣言した。


「リュー君は渡さない!! リュー君の所属を掛けて勝負よ!!」


 楠の宣言に周囲が騒ぎ始め、通信等で状況を理解して唖然とした新関東高校生徒会連合と新イギリス高校生徒会の面々は揃って驚愕の声を上げた。


「お、おい楠!! 馬鹿かお前!!」


「何よ健太郎!! 私に口答えする気!?」


 健太郎、と呼ばれた少年の方を振り返った楠は背後で突き出した指を震わせる和輝に不思議そうな表情を浮かべて睨み付ける。


 そう言えば、と不信任決議の戦闘でいた事を思い出した新関東高校の面々は健太郎に詰め寄った。


「南井、お前が転校したのは知ってるがイギリス国籍持ってないお前が何で新イギリスの代表になってるんだ?」


「あ、ああ・・・そのだな。不信任での戦いの事知ってたらしい楠が俺の勧誘に来て強制的にイギリス国籍取得させられた」


「そうか、分かった。とっとと死ねこの裏切り者。余計に負けられないじゃねえか」


 ああ、聞いてた通りのテンションだな、と新イギリスの面々は溜め息をつき、和輝の言葉に傷ついたらしい健太郎は苦笑する流星の方に視線を向けた。


 両者の会話を強制的に切ったのはアナウンス役の怒声で、蹴散らす様なその言葉に慌てて本部に戻っていった。


「新イギリス、か。負けられないな」


 呟いた流星はブリエントの手に乗って新中部高校の本部を後にした。

お待ちかね、バトル回でーす。一話の戦闘よりも登場する武器や兵器が多い今回ですが目玉はなんと言っても重軍神(ロボット)軽軍神(パワードスーツ)ですよ!

これらの種類も今後増えていく予定です。お楽しみに!


さてさて次回ですが交渉戦闘初戦、新イギリス戦です! どんな事になるのでしょうお楽しみに。それでは

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