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第二話『Description』

第二話『Description』


 選考戦を終えた翌日、何とか勝利していた流星達は新関東高校にて地方間学院交渉の説明をしていた。


「と言う訳で、僕等が代表に選ばれたんだけど」


「それは分かってるけどリュー、今回の交渉って基本的に何を賭けるの?」


「え、あ、うん。それはね、学院連合の主導権を賭けて戦闘を行なって決めるんだ」


 苦笑混じりの流星の言に副生徒会の副会長に就任したヒィロは小首を傾げつつ再び挙手して質問を始める。


「交渉、って基本的に言論でしょ? 何で戦って決めるの?」


 最もなヒィロの質問に答えたのは流星では無く、生徒会副会長に就任した和輝で両腕を組んだ彼は至って冷静に答えた。


「戦闘の方が優劣を決しやすいし、戦いの実力が高い方がリーダーとして戦力になるからな。

こう言う大規模で国防が関わってる交渉は戦った方が良いんだ」


 一息ついた和輝になるほど、と頷いたヒィロの隣で流星を見つめる副生徒会書記に就任したエクスシアが構ってくれ、と言いたげな視線を流星に注ぐ。


 頭を垂れた彼女を撫でた流星は嬉しそうに笑うエクスシアを微笑を浮かべて見つめると不意にのしかかってきたヒィロに驚き、もがこうとして彼女達諸共転倒した。


 背中に走った痛みに呻いた流星は目前に迫ったエクスシアの童顔に頬を引き攣らせて小首を傾げた。


 無表情のまま流星の鼻頭を唾液で生々しく濡れた舌で舐めたエクスシアはくすぐったそうにする流星の胸に頭を乗せて頭の匂いを擦り付ける様に振って擦り合わせた。


 喉を鳴らし、人狼族独特の甘え声を発するエクスシアは困り果てた表情を浮かべる流星に構わず、女性の様な柔らかさを持つ彼の身体に乗り続けていた。


 寝入りそうになる彼女の身体を持ち上げた流星は溜め息を一つ落としながら席に戻り、話を続けた。


「交渉戦闘が始まったのも、去年ニューロスで宣言された統一国家の設立の為に地方間交渉が行なわれる事になったんだ。

それに先駆けて学院連合が統一化に向けての交渉を行なう事になったんだよ」


 地球に地形の似た魔力次元の内で六つに分かれた地方内に分割配置されている学区独立自治組織、地方学院。その地方学院を取り纏める組織が学院連合であり、地方学院の行動の一切は各地方の学院省が制定した学院法に従って決められている。


 地方学院が請け負う行政は学区内の学生犯罪の検挙と学区内行政のみに絞られている。


 自国で制定された法律により、新日本地方では政府が外交的手段による武力行使を禁じている為、本土防衛軍の代わりを各県の学院が務めているので三年に一度学院連合は代表校を入れ替える。


「先日行なわれた選考は新日本地方学院連合の代表を決める戦いだったんだ。それで勝ち残った僕等は

新日本の学院の代表になった」


 つらつらと説明していく流星に挙手したのは不釣り合いな大きさのポニーテールを揺らしながら目を吊り上げて真新しい生徒会会計の腕章を制服につけた琴音が強気の口調で問いを投げる。


「それで? 私達が学院連合の代表になって何かある訳?」


「うん、それはね中間権限の地方学院では行使出来なかった開戦権を行使出来る事。残りの参戦権と防衛権は地方内自治組織の身分が保証された時点で保持してるんだよ」


「開戦権、ってそれって宣戦布告出来る訳ですよね。新日本地方は行使出来ない筈では?」


 琴音の質問に答えた流星に生徒会書記の腕章を上げ直したフェルナが更なる問いを投げる。


「国家はね。でも僕等学院は国際的な条例によってそう言う常在的な法の縛りに因われない様になっているから、理論上は武力行使を禁じている新日本にいても宣戦布告する事が可能だよ」


 なるほど、と流星に頷いたフェルナは手元の資料を開いて流し見ながら所詮は便利屋同然の扱いか、と諦め、頷きながら自分達の立場を考える。


 新日本唯一の武装許可組織として存在する各地方の高校は国防を第一の任とする事でその存在を許されている。


 その存在は各方面から見ても便利と言え、内部治安と見通しの悪さが問題になっているがそんな事を気にする様な高校の生徒達ではない。邪魔になれば叩き潰す、そう言うルールが学生達の中にはある。


 正当な力としての武力が強い者のみが存在を許される。それが行政を司る地方学院のルールだからだ。


「実質の便利屋扱いですよね、私達。基本的に政府の意向なんかお構い無しで動きますし」


「そう言うので良いんじゃない? 自由に出来ると言う意味でやばくなったら政府潰せばいいんだし」


 何て理論だ、とフェルナは笑顔で国家反逆罪の計画を口にした流星に呆れつつ肯定する周囲の人物に溜め息を一つ落とすと会議室で武器のメンテナンスをしている武闘派の連中にウンザリしていた。


 全く、と彼女はメンテナンスオイルの臭いに騒ぎ出した大輝達に相も変わらず五月蝿いな、と思いながら資料を整理する。


 この学校にまともな連中は殆どいないのか、と溜め息をつきながら彼女はオロオロと戸惑う司の隣に歩み寄って兵站整備科と連絡を取らせて術式武装の開発状況を問うた。


 術式武装、改めて説明すると特定の魔術に変換した魔力を圧縮浸透させて製造された術符と呼ばれる物を通常の武装に分解同化させて製造された本来術符を持たない人間が使用していた対魔術用の武装の事であり、その効果は同化させた魔術の出力と供給された魔力の量で決まる。


 術式武装はこの世界の暦である新暦より三十五年前、この世界を崩壊寸前に追い込む程の大戦があり、戦いを望んだ現住種族が地球に穿った通路を通して足を踏み入れた人類が第二次世界大戦の延長戦として巻き起こした魔法世界大戦中に人間の兵士が使用する対術武装として開発された武装を原型とし、劇的な効果を上げたそれは現住種族も用いる様になり現在も使用されてる。


 そんな負の遺産である術式武装、生徒会戦で未改造品を使用していた和輝、ヒィロ、エクスシア、カルマ、琴音の五人の武装を一括して兵站整備に発注し、現在の進行具合を兵站整備所属の司を通して聞いているのが現在だった。


 そのどれもが未だ預けた術符による同化改造を受けておらず、進行していないのだそうでのん気なものだとフェルナは呆れていた。


 改めてフェルナは甘えたがりなヒィロとエクスシアに押し倒される流星に視線を戻し、ハーレム系生徒会長と言うのはいかがなものか、と思いつつ、内心で羨ましがっていた。


 嬉しそうに尻尾を振るエクスシアに抱きつかれて頬擦りされる流星はキスをせがんで唇を突き出すヒィロの顔面を押し返す。


「二人共、会議させてよ!!」


 構ってほしいのは彼だけでは無く、流星の制服の裾を引っ張る奈々美に同情の視線を向けたフェルナは溜め息をついてネット通販の自作用術符用紙の一つ十枚単位を三つ、三十枚百二十六円を注文してようやく本題に入る流星の方に視線を戻した。


「そ、それで、僕らが交渉する順番について、ここで話しておくよ。先ず最初、初戦は新イギリス地方学院連合、新ヨーロッパ地方学院連合総選挙で代表を決定した所だね」


「よく選挙なんてクソメンドイ事しやがるな。さすが欧州人って言った所か」


 そうじゃねえだろ、と流星達に内心で突っ込まれた大輝は流れを断ち切った事を詫びもせずに流星に先を促した。


「話を戻すよ、それで初戦の新イギリス地方学院連合戦は向こう側が用意した戦場で戦う事になる。ただし、地の利を生かした有利さとそれを知らせる公正さを両立させる為にフィールドのマップデータは最低でも一週間前に開示する事が条件になってる。その他にはうん、向こうの状況は知っとくべきだね」


 一人頷いた流星は空中投影で企業データを開示する。新ヨーロッパ学院連合を製品テスターとする大企業E.T.Cヨーロッパテクノカンパニーの現在開示されている企業データを表示する。


「売りは保守的な作りと宗教関連の武装か。聖職系の連中にはありがたいが通常戦闘員には少々キツイかね」


「そうだな、宗教関連の武装は効果の維持を優先する為にどうしても保守的な作りになりやすい。

聖職関連には術式使用の触媒として使用できるがそれ以外は普通の武器になるからな」


「他企業なら自社で作れる武器の殆ども宗教関連の武装製造の為に中小企業の委託製造だからな、財政がキツかろうよ」


 ライセンス生産の為、地球から預けられたヨーロッパ製の銃器や大輝が使用している様な腕甲と言った武器の類は宗教関連の製造権を得る為に製造できる武器を制限してようやく得ている。


 そして、地球から預けられた銃器などの生産できない武器は傘下の中小企業に委託して生産させている。


 何故こうも宗教関連の品を重視するかというとヨーロッパではキリスト教を主とした宗教を信仰し、日々によって穢れた魔力を教会に収め、浄化させて貯蓄させる動きが日常的に行なわれている。


 浄化された魔力は教会を定住とする守護神に奉納され、魔力は神創術式となり、教会を管理する聖職者を通じて各人員に分配される。


 新ヨーロッパ、新アメリカにはキリスト教が。新日本には神道が。新ロシアと新オーストラリア、新アフリカは混合している。


 どうやら話が逸れてしまったと流星は気付いて口を開いた。


「それでね、一応学生間交渉のルールを再確認したいんだ」


「おう、良いぜ」


 空中投影にもう一つウィンドウを追加した流星は大輝達に噛んで含める様に説明を始めた。


「交渉の共通ルールは交渉側が交渉条件を提示して相容れなければ何らかの手段を用いて条件の善悪を実力で判断するんだ。大体言論で行われるけどね」


「そうだな、ただ優越を付け難い言論は新関高内じゃ殆ど使われないな。言論使うのは武装を持たない一般校とのいざこざの時ぐらいだな」


 流星の振りに驚きつつ応じたのは和輝で赤点回避の課題をしている琴音に教え込んでいた彼は答えを返すと相変わらずね、と課題そっちのけで偉そうな琴音が冷たい視線を向ける。


 はいはい、と睨み合う両者を諌めながら生徒会副会長の腕章をつけた左手を振る星良は双子の兄である流星に視線を向ける。


 一つ苦笑した流星は一息、場を整える為に落とすと自身の膝に寝入りの涎を垂らして染みを作ったエクスシアを撫でた流星は更に説明をしようとしてヒィロの隣で副生徒会会長の腕章を付けた奈々美の慎ましやかな主張に顔を向けた。


「学院間交渉の必要性って・・・?」


「うん、今それ言おうとしてたんだけど聞く気ないね・・・」


 揃って落ち込む流星と奈々美は副生徒会会長補佐の腕章を揺らす司の制服を脱がそうとしている大輝と阻止に動く和輝と副生徒会会計の腕章を付けた浩二の殴り合いを遠目に見ていた。


「寿の服を脱がすなや大輝!! こいつ泣いとるで!?」


「ええい、貴様等、寿司に寿司を乗せる計画を邪魔する気か!?」


「意味が分からんわ!! 取り敢えず大輝!! 女体盛りは諦めろ!!」


 構図だけ見れば青春ドラマの様に男達が拳を交わしているのだが会話文は女子ドン引きの下ネタの応酬で恥ずかしがる司は既に脱がされた上着を見ながら抱き寄せてきた和輝達を見上げて安堵の息をつく。


 歯軋りする大輝がみせる滑らかな指の動きに身を竦ませた司は庇う様に引き寄せてきた千夏に更に不安を加速させる。


「ふ、ふふ、はははは、千夏! 俺とやるってか?!」


「ああ、決まってんだろ。司を剥いだテメーを私は絶対許さねぇっ!!」


 悪役の様な大輝にフォローする気の無さそうな言葉を放った千夏は涙目になる司を背に大輝に殴りかった。


 大輝と組み合いになった千夏は一度決まれば外れない筈の寝技を抜かれ、全裸になった大輝の姿に悲鳴を上げた。


「貰ったぜ、千夏!!」


 すがすがしい笑みと共に右拳を振り被った大輝は揺れる自身の金的に走った痛みに悶絶した。


「いい加減にしろ、馬鹿大輝。 千夏、こいつに服渡してやってくれ」


「畜生・・・」


 溜め息をついた和輝は全裸で呻く大輝を足で小突くとそのまま琴音の隣に座り直した。


 戸惑い、視線を泳がせる流星に先を促した和輝は先の奈々美の質問に答える流星の方を見た。


「学生間交渉の必要性、か。確かに武力行使さえしなければ生活を円滑に進める事は出来るけど

うちの学校は殆ど戦闘で解決してるから風紀委員の出番が多くてね・・・」


「それで、必要性についてはどうなんだよ、それらを含めて」


「必要性は十分にあるよ、ただ手段が乱暴になるだけで。武力を持たない一般校の交渉で

どうしても行使しないといけないし」


 流星の説明にだよなぁ、と天井を仰ぎながら呟いた和輝は椅子を軋ませながら伸びを一つし、壁掛けの時計をちらと見て昼である事に気付くと身を起こした。


 音を立てて跳ねた椅子に全員が身を竦め、立ち上がった和輝は流星を食堂に誘った。


「さてと食べに行きますか」


 ぞろぞろと生徒会室から出てきた流星達は偶然会った生徒会担当教員、玉森柚葉に皆して嫌そうな顔をする。


 流星達が生徒会業務を引き継いでから何かと面倒を見てくれる柚葉だがピカピカの新米教員であり、鬼畜成分も無く柔らかいとても良い先生なのだが兎に角恋愛相談を吹っかけてくる。


 大人の恋など分かる訳ねーだろと生徒総出で突っ込んだ所、彼女の目前にいた眼鏡を掛けた図書委員の塚田俊彦が出席簿で殴り飛ばされ、騒動の責任で関係ない流星達が被害を被った。


 そんな手合いの面倒臭い教師なのだ。


「玉森先生、何か用ですか?」


 威圧的な大輝の物言いに冷や汗を掻いた和輝と流星は涙目になる柚葉を見て無理矢理取り繕う。


「いや、先生。別に大輝は先生の事を嫌ってる訳じゃなくてただ単にさっき割り箸占いで凶が出たっつーか兎に角機嫌が悪いだけなんで!! はい!!」


 慌てる二人などお構い無しに女子達はのん気そうに口々に文句を言い始める。


「先生ってモテないの〜?」


「まぁこんな性格じゃあ当然ね」


 オブラートに包む気すら起きないらしいヒィロと星良に拳を握った和輝は泣きそうになって書類を持った手を振るわせる柚葉にどうしたものかと頭を抱え、援護を求めようと流星に視線を向けると流星の腕を引っ張るエクスシアが子供の様に駄々をこねて苦笑を浮かべて困り果てている彼の腕を甘噛みしていた。


 全く、と額を抑えた和輝に良い所を見せようとした琴音が柚葉を擁護する様に声を掛けた。


「大丈夫よ先生、こいつらの言ってる事なんて参考になるレベルだし先生は今のままが一番よ、独り身として」


「先生擁護する気ゼロじゃねえか!!」


 五月蝿いわね、と口を尖らせた琴音は今にも泣きそうな柚葉の方を向いて貧相な胸を張る。


 揺れる事も無い胸に下敷きを当てたフェルナは怒った琴音に追われて廊下を走る。


「廊下を走るなぁ―――――――!!!」


「何よ、五月蝿いわね!!」


 叫んだ風紀委員の男子生徒に突っかかった琴音は虫の居所が悪いらしく男子生徒に喧嘩を仕掛けていた。


 やれやれと呟いた和輝は柚葉から涙を堪える為に握られてしわが出来た書類を受け取り、一息つくと大暴れしている琴音に注意の叫びを上げると好き勝手している大輝達に食堂に行く様に言った。


 新関東高校は少々広大な敷地に様々な施設を納めた高校であり、食堂といった一般校の様な施設の他に銃器や各種武装の整備工場を置いている。


 その他、新関東県全域の生徒が通う為、遠方在住の生徒の為に学生寮もある。


 今日は学校は休日で学校に出入りしているのは学生寮に住んでいる生徒か、休日部活にわざわざやって来た生徒だけだ。


 和輝達全員は学生寮組で全員が諸事情を抱えているがそれを問わず、言わない約束だった。


 そんなこんなで一年生の頃からの友人である和輝達と一緒に食堂までの道のりを歩いていく流星は遠くで鳴り響いた鐘の音にふと窓の外を見た。


 この高校から少々歩いた所に神道契約をしている神社がある。こちらに流れてきている術符の殆どが地元民の魔力と供物による奉納によって作られた術符だ。


 術符の提供は支持と信頼が自分達の力になっている目に見える証とは言うまでも無い。


「おい、流星?」


 目を細めた和輝に呼ばれて驚いた流星は身を竦める。


 ふぅ、と息をつき、腕を組んだ和輝に苦笑を浮かべながら謝った流星は頭の中で戦術を組み立てていた。


 新関東高校に神道関連の巫女は数名いる。内、流星と同年の巫女は二人、一人は隣のクラス、もう一人は流星のクラスメイトだ。

神道術符の交渉をする為によく仲介してもらっている。仲介料金は取られるが。


 魔術が使えない人間にとって術符は重要だ。不信任決議の際、千夏がしていた様に体内に蓄積した魔力を変換する為に人間は術符を媒介にしなければならない。小規模戦だった不信任決議と異なって新イギリスとの交渉戦闘は総力戦だ。


 かつて起きた魔法世界大戦において現住種族の数が少々減り、復旧と新天地を求めた人間がその数を増やしていた為にこう言った組織においては人間の方が若干数が多いので術符の数も増やさざるを得なくなる。


 そして在校巫女の殆どは現住種族だ。手っ取り早く発注出来るクラスメイトは天然系のん気少女の有翼族。

話すのが面倒だが仕事はキチンとやってくれる。仲介料も安い。

 もう一人は高飛車なツンデレ系半狐。半狐は独自創作した術式も神として登録するので種類が多いが

彼女と円滑に交渉するには付き合いのある浩二を介して行なわなければならない。それに仲介料が無駄に高い。


 どうするかは食事をしながらでも良いだろう、と流星は日替わり定食の豚カツ定食を持って和輝達に合流する。


『戴きます』


 全員で揃って合掌するとバラバラのペースで食べ始める。ゆっくりと食事を取る流星はさも嬉しそうに尻尾を振るエクスシアに微笑を浮かべながら一切れを頬張った。


 食事を取る流星は編成を考える為に現住種族について思い出す。現住種族とはその名の通りに第二の地球に住まう種族の事だ。彼等は総じて人間とは異なる体格と性質を持つ。


 古来より地球との交流を秘密裏に持っていた彼等は外見と性質別に分けられている。



有翼族:新日本地方を主領地としている種族。背面に翼を持ち、短時間の滞空と滑空を用いての空中戦を行なう。目が良い。


エルフ族:新ヨーロッパ地方を主領地としている種族。長い耳を持ち、魔力変換と速度に優れる。純血は他種族に比べて身体機能が未熟になりやすい。


鬼人族:新アメリカ地方を主領地とする種族。人型の外見に角を持つ後述の人狼族と同様のパワーファイター。思考は至って単純である。


人狼族:新ロシア地方を主領地とする種族。狼の耳と尻尾を持つ頭脳の良いパワーファイター。常に腹を空かせている。


半狐族:新オーストラリア地方を主領地とする種族。創作術式を数多く持ち、尾の数で一度に使える魔力量が異なる。プライド高い。


半猫族:新アフリカ地方を主領地とする種族。総じて一度に使える魔力量が高くかつて迫害されていた。



 これらの種族が存在するが内、新関東高校生徒会連合に所属しているのは有翼族、人狼族、半狐族だ。


 有翼族の内、直接戦闘に加わるのはヒィロただ一人のみであり、人狼族はエクスシア一人、半狐は浩二で彼は今の所戦闘に加わる気は無いらしく、自分が持つ術式の改良に勤しんでいる。


 そんな風に考えながら食事を摂る流星は聞き覚えのあるのんびりした声にそちらに視線を向けた。


「あ〜松川君〜和輝君達もぉ一緒だぁ〜」


「やぁ斐川さん。藤東さんも一緒?」


「うん〜そうなのぉ〜一緒に御飯食べよぉ〜ってさっきね〜」


 ふわふわと浮いた口調で話す流星のクラスメイトの有翼族の巫女、斐川美佐は友人で半狐族の巫女、藤東沙也加に笑い掛ける。


 カツを頬張る流星に満面の笑みを浮かべた美佐は食事を摂り始めると、流星が話を切り出した。話題は勿論術符の入荷交渉についてだ。


「術符かぁ〜うん〜そ〜だねぇ〜こうしょ〜取り付けて〜みる〜」


「一週間以内にお願い。交渉戦闘で使うから」


「はぁ〜い、了解〜了解〜」


 のんびりとした動きで入荷交渉の取り付け文を打ち込んで送信する。


 相変わらずだな、と流星は思いながら美佐の手つきを見る。入力用のキーボードを叩く細い指を凝視した流星は背後から軽く頭を叩かれる。


 背後を振り返った流星は気に入らないらしく低く唸るエクスシアに気付いて謝罪の苦笑を浮かべる。


「御免ね、エクスシア」


 取り繕う流星にそっぽを向いたエクスシアは合掌して頭を下げた流星の方をチラと見つつ、尻尾を揺らしてゆっくりと視線を向けた。


「反省の態度は後で見せてください」


 突き放す様な口調の中にも安堵の色が見えるエクスシアの無表情に近い笑みに一息ついた流星は既に食事を食べ終えている和輝達に視線を向ける。


 雑談に華を咲かせる和輝達の中で作戦案と今月の行政内容を処理する為にキーボードを打つ奈々美はその殆どは大輝達武闘派が起こした問題の処理で喧嘩による器物と施設の破壊と近隣の一般校のヤンキーと暴走族の鎮圧で起こした過剰攻撃の言い訳に終止していた。


 喧嘩の件は何時もの事なので慣れてはいるがその内容が凄まじいの一言だった。


 校内で起きた喧嘩の大半は他所では死亡級の攻撃力を以って起きる。その内の二つ、一つは軽機関銃やらロケットランチャーを持ち出して旧校舎を半壊に追い込み、もう一つは術式武装を持ち出して完全に旧校舎を崩壊させた。


 相変わらず破壊が大好きな連中だな、と思いながら奈々美は業者に頼んだ取り壊しの事案の取り消し申請を提出し、代わりに跡地周辺に散乱した瓦礫撤去を依頼した。


 もう一つ、ヤンキーと暴走族に対する過剰攻撃に関する謝罪文を書き始めた奈々美は別ウィンドウで開いた報告書に目を通して肩を落とす。


 使用武器の一覧には警棒と言った鎮圧用の類では無く、対物狙撃銃と重機関銃、刀や両手剣と言った殺し用の武器を持ち出していた。

幾ら何でもやり過ぎだ、と奈々美は思い、適当な文章を書く。


 状況の報告によればブリッジを封鎖しての挟み撃ちで命乞いをする構成員諸共ブチのめしたらしい。


 当然だよね、と奈々美は頷きながらエクスシアに絡まれている流星の方を見る。積極的なエクスシアやヒィロと違って消極的な嫌いがある自分を奈々美はよく分かっていた。


 これから流星はどうするのだろう。奈々美はぼんやりと考えながら文章を打っていく。彼女は別段行動理由が知りたい訳では無く、ただ彼が進む先を知りたいと思っていた。


「奈々美、どうしたの? 大丈夫?」


「あ、琴音。大丈夫・・・考え事だから」


「あっそう。それで、さ・・・奈々美、あんた何考えてたのか教えてくれない?」


 ポニーテールを揺らして身を揺らす琴音に可笑しくて苦笑した奈々美はそうだね、と眉を顰める琴音に頷いて先の内容を話すと琴音は大輝に殴り掛かる和輝を見ながら呟いた。


「流星の行く先ねぇ・・・それって和輝達の行く道の交点でもあるのかしら」


「え・・・?」


「人が行く道なんて結局終わりを見せ付けられるまで分かんないわよ」


「何でそう言えるの?」


「終焉を見せられてんのよ、私と和輝は一度ね。でも今聞きたいのはそれじゃないでしょ?

まあ、兎に角学院交渉って言うのは交点を作る切っ掛けになるかもしれないわ」


 俯く琴音に交点か、と一つ呟いた奈々美は流星の方を改めて見る。


 何の交錯もしていない彼等が流星を中心に何かを成し始める、何とも不思議と言えば不思議だと奈々美は思う。行く道の交点、これから起こる全てがそれへの道標だとして全てを終えると流星には何が残るのだろうと彼女は考えた。


 それは分からないから奈々美は流星について見守っていく事にした。


「流星、そろそろ戻るぞ」


 和輝の呼び掛けに頷いた流星は右ホルスターユニットに納めた拳銃のプラスティックパーツを鳴らし、来た道を引き返し始める。


 携行性を重視した通常のダブルカラムマガジンをグリップ底面の装填口に装填し、セーフティを掛けた拳銃が流星の太股に当たる度に乾いた音を鳴らす。


 生徒会室に到着した流星達は生徒会室に入室して今度は編成と武装の確認を行なった。


「新イギリスとの戦闘での編成、これで良い?」



 役職編成表


1(エーアスト):万能兵(オールラウンダー):新関東高校生徒会長:松川流星


2(ツヴァイト):万能兵(オールラウンダー):新関東高校生徒会副会長:安芸田和輝


3(ドリット):強襲兵(ストライカー):新関東高校副生徒会副会長:元春大輝


4(フィーアト):(サムライ):新関東高校生徒会副会長:松川星良


5(フュンフト):魔法剣士(マギセイバー):新関東高校副生徒会会長補佐:ヒィロ・ユーグナント


6(ゼクスト):槍兵(ランサー):新関東高校副生徒会書記:エクスシア・フェルツシュタット


7(ズィープト):忍者(ニンジャ):新関東高校生徒会会計:古村琴音


8(アハト):(サムライ):新関東高校生徒会副会長:中島千夏


9(ノイント):魔法砲術士(マギ):新関東高校生徒会書記:フェルナ・クライ


10(ツェーント):狙撃手(スナイパー):新関東高校副生徒会書記:カルマ・グレナ



 投影表示を通して編成を表示した流星はそれを見てほう、と頷いた和輝に笑い掛ける。


「編成は不信任決議の頃と変わらないんだな」


「うん、まぁ・・・浩二君ぐらいしか変える人いないし・・・」


 そうなるよな、と頷いた和輝に頷き返した流星は術符の仕入れ交渉をしている浩二の方を見る。


 一年生の頃、戦力的に人数がまだ少なかった流星達の中でマギセイバーだった浩二は自作の術式武装の効果から当時最強を誇っていた。だが戦力的な余裕を持ててきた現在は別のクラスにチェンジしている。


 マギセイバーのみでありながら商業にも通じる浩二の負担を減らしたいと言う事もあってのチェンジだった。


「ねえねえリュー、この侍とかって何?」


「そうだね・・・クラスとか説明しておこうか・・・」


 ヒィロの質問に呟きながらウィンドウを開いた流星は入学パンフレットのクラス別説明を引っ張り出し、各クラスが用いる武器を表示して口を開く。


「地方学院は戦闘時の編成を楽にする為にクラスって言う兵科に分けられるんだ。RPGで言う職業。RPGよりは曖昧だけど大体で分けられているんだ」


 先ず、と言った風に流星が表示したのは細長い刀と肉厚な長剣。


「侍・ファイター。これは近接格闘戦の要で刀を扱うなら侍、それ以外の近接格闘武器を扱うならファイター。能力全体のバランスは他のクラスより良いよ。

僕らでは星良と千夏が所属してるね」


 ほうほう、と頷いたヒィロを他所に流星は続いて浅葱色の光に包まれたサーベルが表示される。表情を変えた彼女に微笑みかける。


「マギセイバー。これは近接格闘と魔法を用いて戦う兵科で攻守のバランスが良くて安定しているんだ。ただ、頻繁に魔法を使うから所属できるのは現住種族だけ。

一度に使う魔力の消費量も多いからスタミナ切れしやすいのがたまに傷かな」


 続いて、と槍を表示した流星は反応を見せたエクスシアの方を見ながら説明する。


「ランサー。槍に限らず、竿状武器を扱う兵科で使ってる武器の質量も合わせて攻撃力が高い兵科だよ。ただ、武器の柄の長さによっては取り回しが悪くなるかな」


 次なる兵科、乱雑さた銃火器とナイフにその場にいた全員がハッとなる。


「ラウンダー。何でも扱える全距離対応の兵科で万能さに優れていて複数の武器を扱えるのが特徴。でもそれが災いして特徴的な面が無いから各クラスに勝てない、

所属人数が少ないのが弱点」


 その次、忍者刀が画像で写り、琴音が嬉しそうに笑う。


「忍者・アサシン。隠密行動と高速戦闘の専門で偵察とかを勤める事が多い兵科だね。高速行動特化だから重い装備は持てないから

攻撃力が著しく低いのが弱点だね」


 続いてムキムキマッチョマンの画像が映り、大輝が歯を剥いて笑みを浮かべる。


「ストライカー。拳を使った格闘戦を得意とする兵科だよ。近接攻撃力はトップクラス。物理破壊力は一級で破壊を目的とした武器も多いね。

攻撃範囲は極端に狭いけど」


 ふむ、と頷いた全員は続いて貼られた弓の画像を見た。


「マギ。魔法を遠距離から直接発射して攻撃する遠距離型の兵科で唯一の魔法特化のクラスでもある。威力や効果、応用性は非常に高いけど消費する魔力量の多さと

近接戦での不利が弱点かな」


 最後、空中投影のディスプレイにスタンダードなボルトアクション式狙撃銃の画像が映り込んだ。


「スナイパー。魔法を一切使わない銃器を用いた遠距離射撃戦闘を得意とする兵科で銃器をよく扱う科だよ。狙撃の他に通常の突撃銃等も使って

中距離戦を行なう事もあるけど魔力系の防御に滅法弱いんだ」


 全ての兵科の説明を終え、一息ついた流星は先の説明を纏めた簡易表を表示させる。



クラス


侍・ファイター:バランス重視。リーチと攻撃のバランスが良い。


マギセイバー:バランス重視。剣と魔法とを併用して攻守に優れる。


ランサー:攻撃力重視。長いリーチと質量増で攻撃力高め。小回りが効き難い。


ラウンダー:何でも出来る。器用貧乏なのがたまに傷。


忍者・アサシン:スピード重視。非力で手数重視。


ストライカー:パワー重視。破壊重視の拳士。


マギ:攻撃重視。高出力の砲撃術士。燃料切れ早い。


スナイパー:一撃必殺重視。銃撃のプロ。



「と、こんな感じかな」


 だよな、と流星に頷いた和輝は生徒会室に入ってきた生徒に視線を向けた。


 左腕に巻いた科章代わりの鉢巻を揺らして流星達に一礼した少女は両手に下げた三つのケースを空いた長机の上に置くと重厚感のあるアタッシュケースを開ける。


 整備科一年の少女が右手に持っていたケースの中に和輝が使用する予定のリボルバー拳銃、M686が対応する三十六発のマグナム弾と共に内包されていた。


 左のケースの中には短刀の柄と自動拳銃の弾倉の様な柄に納まるサイズの長方形の通常カートリッジが三つ入っている。


「安芸田先輩、古村先輩。お待たせしました、取り敢えず遅れてた分のお二人の術式武装をお届けに来ました」


 笑みを浮かべた少女に頷いた和輝と琴音はケースの中にあるそれぞれの武器を取り出して構えた。


「安芸田先輩の術式武装はM686c、マグナムプラススペシャル。予備でノーマルを一丁用意しましたが両方とも新日本地方の加護魔術、物流切断能力を呪いとして付着させています。

一撃の威力は変わりませんが強力なストッピングパワーが得られます」


「そうか、分かった」


「スピードローダーもおまけしておきますね」


 嬉しそうに笑う少女に仏頂面の和輝は六発を装弾したそれぞれを腰のホルスターに納めて残りの弾をスピードローダーに込めていく。


 その隣、使い方が分からず、柄を振る琴音に可笑しそうに苦笑した少女は唸る琴音から柄を受け取ると柄の底に開いた穴に軽く入れ、カートリッジの底部を叩いて起動させた。


『武装:日ノ本小絶:起動』


 先端を示す小さな三角形が彫られた柄の先端から伸びた半実体の刃に周囲から感嘆の声が上がった。


「安芸田先輩と古村先輩に用意した術式武装は日ノ本小絶。それぞれ二つ用意してますが一つは予備です。起動方法はカートリッジの底面を叩いて魔力を供給させて刃を実体化する方式です。

切断能力は一級ですが分解属性に弱いです」


 小絶のスイッチを切断し、琴音に渡した少女はケースはそのままにドアノブを捻った。

垂らした目を伏せて彼女はドアを開けると一礼した。


 先の少女を目で追っていた和輝はドアが閉まると同時、視線を手元に下ろすと一息ついた。


 厄介な武器を。和輝はそう呟いてホルスターに納めたマグナムプラススペシャルを思い出す。


「さて、俺と琴音の武器が早くに来たが他の武器の納期はどうなってる?」


 思考を遮る様に言った和輝は慌てるフェルナの方を見た。


 全員の中央に予定表を投影したフェルナは一番上に記載されている和輝と琴音の名前に線を入れ、次の項に書かれているヒィロの武器を指した。


「次の納品予定は十九時。ヒィロ、ちゃんと受け取りに行くのよ?」


「え、面倒臭い」


 こいつは・・・と青筋を浮かべたフェルナに対して物凄く面倒臭そうにするヒィロは苦笑した流星の腕を抱いて彼の腕に自分の頭を擦りつけた。


「フェルナ、僕が代理で受け取るよ。出来るでしょ?」


「ええ、まぁ先払いですし。受け取りだけなら出来ますよ」


「分かった了解。それで、他の武装とかの説明、してくれる?」


 了解、と流星に返したフェルナは予定表を最小表示に変えて他の武器の3D画像を表示した。


 一番始めの武装はサーベル型の武装で英名表記でSword Of Slashと表記されたその武装を見た星良とエクスシアが声を上げる。


 そう、ヒィロが用いる武器はレオンが用いていた術式武装『ソードオブスラッシュ』。


 此方の方が若干出力が弱く設定されているのはマギセイバーとして使用するのを想定してなのかそれはこの場では分からなかった。


「なるほど、ならば説明は不要か」


「何お前はかっこ良く説明省いてんだ、ふざけんな」


「ちっ・・・そ、そんな和輝君。私がそんな事する訳無いですよ」


「完全に事後な上に舌打ちしてるじゃねえか」


「し、舌打ちじゃなくて歯にくっついた焼きそばの青海苔取った音ですよ」


 お前焼きそば喰ってねぇだろ、とフェルナに突っ込みを入れた和輝は次の武装の表示を呼び出した。


 勢い良く手を上げ、自己申告したエクスシアが表示された大型のランスを見つめる。


「アサルトランス。身体強化術式を使用し、改造したランス。隠しギミックの撃ち出しで内包した長巻を使用する事が可能。

なお、この武器は複合武器ですのでメンテナンスの際は整備科にお渡し下さい。取扱説明書かよ」


 落ち着いた口調の和輝に皆が溜め息を漏らし、彼は次の武器を表示させた。


 次の武器は日本刀型の術式武装『絶』、効果はソードオブスラッシュと同様だがこちらは出力が高めに設定されている。


「で、最後はカルマの狙撃銃か」


 カルマがメインで使用するブルパップ方式のボルトアクション狙撃銃DSR-1だが和輝の拳銃とは異なり、武装の合成を削り、銃の精度を落とす呪いを

付加しておらず、魔弾を使用する事に特化させた魔術防護処理を施している。


 なので派手な一面を持っていないが代わりにカルマが保有している魔弾がかなり派手だった。


「えーっと、今持ってるのは爆砕術式弾と音速弾だな」


 そんなもん何処で使うんだ、と突っ込みそうになった一同は口を塞ぎ、気にせず鞘込めの刀を手にした流星に視線を戻した。


「それは・・・形骸武装『雷牙』か。思ったより早く届いたな」


 和輝の視線の先、雷牙と呼ばれた武装の刀型の外殻を手にした流星が金属質の音を鳴らす中、流星は若草色の光を放つ魔力炉に手をかざす。


 刹那、鞘の上を滑る様にびっしりと葉脈の様な光が走り、使用認証を受けている流星の腕に疼きが走り、疼きを吸い取っていく雷牙が流星を認識し、魔力炉の上に一つの表示を浮かべる。


『使用者認証:松川流星:武装凍結解除』


 表示が消えると同時鞘と刀を留めていた留め具が外れると刀が射出され、鞘の上を滑る様に流星は手に納まった柄を反射的に握り締めてゆっくりと引き抜く。


 上段に構えた雷牙から若草色の光が放出され、束の間巻き起こった突風にその場にいた全員が顔を背ける。


 術式武装の上位武器、形骸武装は各地方に一つずつある武器、神器武装の魔術をダウンサイジングさせて武器型の外殻を施して武器としての能力を持たせた武装の事を指す。


 術式武装に比べて魔術の優先度は形骸武装が優先され、どんな術式武装でも潰す事は出来ない。


「さってと、これで大体終わりか?」


「そうだね。あとは重軍神の手配位かな」


「重軍神か、らしくなってくるじゃねえか」


 歯を剥いて笑った大輝に頷いた流星は鞘に雷牙を収めてスタンドに立て掛けた流星の専用術式武装『剣舞』の隣のスタンドに立て掛けた。


 大輝に促されて慌てる司は全員の中央に投影したリストを表示した。


「重軍神て言うと五年前開発され始めた人型の新型兵器だっけか」


「うん、そうだよ。最近の兵器だけど今もう共通量産化を視野に入れた第五世代のM-Xが各国で開発されているの。日本の重軍神は一世代前の雷電、新開発の光輝が今の現役機。

光輝は今は学生向けに販売してデータを収集してるの。でも光輝を購入しているのは新中部と新中四国位だから・・・そんなにデータは集まってないかな。

うちも買おうとは思ってるらしいけど」


「なるほどな。それで、今必要なヨーロッパの方の状況を教えてくれ」


 了解、と大輝に返した司は生徒会室のパソコンの自身のフォルダからヨーロッパの軍神の3D画像を出す。


「M-30E・タイフーン。新ヨーロッパ地方の重軍神だよ。第四世代と光輝より世代は古いけど性能は高いよ。全身の装甲の下に姿勢補助用の小型スラスターが仕込まれていてね、小回りは利くし機動力は高いんだけどそんな無茶な機構を作ったから耐久性が落ちちゃってるの」


「なるほどな、機動力重視で耐久性能は必要最小限の重軍神、か。まあそんなゲームみたいな機体、普通ありえねえけどな。それで流星、これだけあれば十分か?」


 情報を開示して画面の方を向いている司の頭を撫でた大輝は流星の方を見ながら鼻を鳴らした。


 どこか得意げな彼に苦笑しつつ頷いた流星は大輝に撫でられて嬉しそうにする司に新関東高校が保有している重軍神のリストを表示する様に言った。


 頷いた司は同じフォルダから新関東高校所属の重軍神のリストを引っ張り出してくるとその隣に張り出した。


「うちの機体は雷電十数機、払い下げのカスタムチューンされた試作機だな。当然、対艦戦もするんだろ?」


「うん、そうだね。うちには中島重工製第三世代型試作重軍神が四機、払い下げられてるよね。量産機を使うよりもそれらのデータ収集が最優先だから試作機優先でいくよ。遠距離狙撃用重軍神のブリエント、全距離対応型重軍神のムーンライト・セレナーデ、

近接戦闘型重軍神のセファー、高速機動用重軍神のラピディティ・レイダーの四機の内、対艦攻撃に使用するのはブリエント、

ラピディティ・レイダーの二機。陸戦、及び歩兵隊突撃援護をムーンライト・セレナーデ、セファーで担当して二機の武装オプションを艦に用意しておく事」


「了解、ところで艦隊編成はどうする」


「対艦狙撃装備のブリエントを乗せると考慮して二艦中一艦は高速輸送艦。残る一艦は旗艦、軽量艦で務めさせよう」


 ふむ、と納得して頷いた和輝はそれでも浮かんだ疑問に流星に放ち、反論する。


「高速輸送艦には武装は無い。ブリエントだけで何とか出来るもんなのか?」


「ブリエントだけで対処できるとは思ってないさ。高速輸送艦にはマギとスナイパーの対艦砲撃に慣れてる人達に乗ってもらう。

フェルナ、カルマ。君達は対艦砲撃に慣れてる?」


 和輝と流星の視線に呼応する様に首を横に振ったカルマとフェルナはその理由を口にした。


「駄目だな、対艦狙撃は慣れてないんだ。出来なくは無いが成功率は低いぞ?」


「私もです。ライジングの出力じゃ細くて無理に使えばカートリッジが破損してしまいます」


 なるほどね、とカルマとフェルナに頷いた司はカルマに向けて術式使用の対艦用高速狙撃銃を表示させて見せた。


「この手の電磁使用型対艦狙撃銃の試作型一号が今うちの倉庫に三十以上程あるんだけどどうかな」


「対艦狙撃銃なら私にも心当たりがあるがまだ大型で単発式か・・・装填の隙は交互使用による連射で対応できないのか?」


「出来るだろうけど・・・どうやって対応させるかが問題よね。大体三人一組で運用させるんだけど」


 狙撃銃の運用法について熱く語り始める二人の会話を遮ろうと動いた大輝の隣、フェルナが見ている個人携行用の対艦装備を見る和輝はその性能に驚きつつも話題を戻した。


「それで、結局重軍神の装備は何になるんだ」


「対艦部隊のブリエントは対艦射撃装備、ラピディティレイダーは空間戦闘装備。陸戦部隊のムーンライト・セレナーデは援護用の爆撃装備と通常の陸戦装備、セファーは制圧用近接装備と専用の全距離剣戟用装備『アーギュメント』を用意する事にして僕らの方はどうするか、考えなきゃいけないんだけどね」


「各人で用意するとか申請するとかだろうけどな、確かに俺達の携行時の武器は考えなきゃいけないんだが・・・」


 和輝と流星の視線の先、仲睦まじく戯れているヒィロ達に和輝は握り締めた拳を振るわせる。


「お前等!!」


 そう和輝が叫んだ瞬間、校舎に激震が走った。


「何だ?!」


 和輝達が窓から体を乗り出し、砂煙が立ち込める校庭を見回すと晴れてきた煙の中から姿を現した十人程の人影に眉を顰めた。


 制服の形状と色からして新日本所属、だが和輝にはそれが引っかかっていた。


「何で代表が決まっている筈の新日本内の学院が俺達のとこに攻撃しに来るんだよ!」


「取り敢えず行こう」


 それぞれの武装を携えて校庭に走り出した流星達は校門に立っている人影を睨みつけながらそれぞれの術式武装を構えた。


 人影の中央、金色の飾り紐を柄に巻き付けた太刀を下段に持つ男は自身の正面に流星の姿を認めると太刀の刃をゆっくりと上げていった。


「新中部か、然し何だお前等。遊びに来た訳じゃねぇだろ?」


 挑発的な和輝の言葉に新中部高校生徒会長瀬川隆一は青筋を浮かべながら頷いた。


「無論だッ!! 我々、新中部高校は新関東高校、貴様等に宣戦布告する。日程は一週間後、新日本新明石標準時午前九時丁度。布告理由については当日公表する。

良いな? 新関東の生徒会長」


「了解。皆、良いね?」


 正面の隆一を睨みながら了解、と頷いた新関東高校の面々は武器を下ろした。


 彼等に緒戦はまさにここから始まる。

どうも、Senceです。今回は説明中心のお話と言う事で敢えて前書きに用語を載せず、キャラクター達の説明で作品を理解していただこうと思いました。

それでも分からないって所はぜひコメント等で質問していただければ幸いです。


さてさて、次回ですが。遂に戦いのお話に突入です。流星君達が一体どんな戦い方をするのかは読んでからのお楽しみと言う事で。それではまた次回。


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